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【CEDEC 2018】「FFXIV」はなぜ500個単位のクエストを実装できるのか?

“力の入れどころ”にフォーカスするクエスト量産術を大公開

8月22日~24日 開催

場所:パシフィコ横浜

 スクウェア・エニックスが運営するプレイステーション 4/Windows/Mac用MMORPG「ファイナルファンタジーXIV」は、数多くのクエストが用意されている。クエストから展開するストーリーが中心となり、ゲームが進行していく。その数は本当にたくさんで、2017年6月20日に発売となった拡張パッケージ第2弾「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」では、実に500以上のクエストが実装されていた。

 CEDEC 2018では「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」にてメインシナリオライター/世界設計を務めた織田万里氏と、リードクエストデザイナーを務めた工藤貴志氏が登壇し、「FFXIV」におけるクエスト制作術の秘密を明かしていった。

「ファイナルファンタジーXIV」メインシナリオライター/世界設計担当の織田万里氏
「ファイナルファンタジーXIV」リードクエストデザイナーの工藤貴志氏
【「FFXIV」のクエスト制作の流れ】
ラフプロット、詳細プロット、クエストデザイン設計などから始まり、最後にディレクターチェックを受けて完成。作り方そのものはオーソドックスと言える

クエスト開発の“力の入れどころ”を見極めて、質も効率もアップ!

 まず現「FFXIV」チームが実装してきたクエストの数だが、「新生エオルゼア」のパッチ2.0では驚異の922個を実装し、パッチ2.5までの2.Xシリーズでは合計1,461個に及んだという。1度失敗した「FFXIV」が、「新生エオルゼア」で再起をかけるという「絶対に失敗できない事情」があったとはいえ、このクエスト数の多さには改めて驚かされる。

 その後「FFXIV」は多くの方がご存知のように軌道に乗ることになる。やや落ち着くのかなと思いきや、「蒼天のイシュガルド」のパッチ3.0で実装されたクエストは533個。3.Xシリーズでは、合計812個ものクエストが実装されることとなる。

「新生エオルゼア」、「蒼天のイシュガルド」でのクエスト実装数。「新生エオルゼア」の実装数がとにかくすごい

 そして「紅蓮のリベレーター」パッチ4.0での実装クエスト数は、パッチ3.0をやや上回る538個。手を緩めるどころかさらに攻めを感じさせるような、開発チームの気迫が伝わってくる数字だ。開発の着手は2015年秋頃だが、同時期にパッチ3.Xシリーズの制作も走っているために、開発の全リソースを投入できたのは発売まで半年を切った2017年1月から。またスタッフ規模としては、シナリオの執筆やクエストデザインを担当するシナリオプランナーが約10名、クエストの設計と実装を担当するイベントプランナーが約15名でこの数を開発しきったそうだ。

 この気迫の実装数には、プロデューサー兼ディレクターを務める吉田直樹氏の一声がとても大きかったという。織田氏としては「紅蓮のリベレーター」で少しはクエスト数が減るかとも思ったそうだが、吉田氏が「『蒼天のイシュガルド』と同等のボリューム感があり、さらにプレイ体験を向上させよ!」という揺るぎなき方針を固めたために、その甘い考えは見事に打ち砕かれた。

吉田氏の方針を受けて、「紅蓮のリベレーター」でも500個超えを達成
開発期間とおおよそのスタッフ規模。決して潤沢とは言えないリソースだ

 そこで織田氏は制作過程をスリム化し、さらに質を向上させるために、実装するべきクエストの種類を確認することから始めた。主なクエストの種類は「メインクエスト」、「サブクエスト」、「クラス・ジョブ」の3つに分類される。プレーヤーにとっての意味が異なるこの3種類のクエストは、開発の力の入れどころもそれぞれ違うだろうと織田氏は考えたわけだ。

クエストを3つに分類。サブクエストが圧倒的に多い

 まず「メインクエスト」は、全プレーヤーを対象としたゲームとストーリーの主軸。新しいフィールド、新しいダンジョン、新しいボスバトルへの導線となるため、プレイ時間は数十時間と長めになる。もしここでシナリオ満足度が高くなければ、「途中で辞める」ということも出てきてしまう。だからこそ「シナリオ満足度」を最も大事にすることにした。シナリオ満足度が高い、つまり面白いシナリオであれば、プレイ時間が多少短くても、全体的な満足感は高く維持できるのではという考えだ。

 このシナリオ満足度を高めるために、「FFXIV」ではメインシナリオを担当するライターと吉田氏が貸し会議室に3日間籠もって、シナリオを考える「合宿」をしているという。常に忙しい吉田氏を最初に缶詰にするという意味もあるが、このメインクエストが全コンテンツの最上流にあたるため、まずここを決めないとその他のコンテンツが制作できないから、という意味もある。

 この「合宿」では、話のテーマや主要キャラクターの設定、物語のざっくりとした流れやオチ、プレイルート作り、ダンジョンやボスバトルの相手とコンセプトなどを決める。大枠をかっちりと決めておけば、あとは現場の裁量で制作を進めていける。

合宿で開発の大枠をまず決める。なお写真はパッチ5.0用の「合宿」の様子だそうだ

 一方で「サブクエスト」は、いわゆるその他のクエストにあたる。ストーリーとは直接関わりがないが、世界観を伝える意味合いもあれば、経験値リソースとしての意味もある。賑やかしという側面もあるため、実装数は自然と多くなる。プレイ時間はそこまで求められないので、短め。シナリオ満足度は高いものを目指したい……が、実作業的にそこまでリソースを割くことができない。

 そこで考えられたのが、「ハイローミックス戦略」。質はそこそこだが制作コストの低い「ロー」のクエストと、質は高いが制作コストも高い「ハイ」のクエストを割り切って織り交ぜることで、全体に厚みを出していこうという作戦だ。

 ローコスト版クエストでは、物語の面白さよりも生活感を出すことを重視する。たとえば、「農家の人が作物を荒らされて困っている」などの地元らしいシナリオ。単調にならないよう遊びの種類を増やすため、クエストの実装担当がまず設計を考えるようにした。

 ハイコスト版クエストでは、今度はシナリオ担当が先行してプロットを作成する。プレイボリュームを持たせるために連続性のあるクエスト群をつくり、印象に残る物語にする。このハイコスト版クエストがあることで、サブクエストの味気なさを打ち消す効果が生まれる。こうして量産体制が整い、数多くのサブクエストが制作されていく。作り方としては実装担当とシナリオ担当が交互に作業する形になるため、待ち時間の軽減というメリットもあったという。

クオリティを「ロー」と「ハイ」に割り切り、合わせ技で量産を実現したサブクエスト。同時に効率化も果たしている

 最後の「クラス・ジョブ」は、プレーヤーが該当するジョブ・クラスに向けた物語を進めるもので、装備やスキルの提供する役割もある。プレイ時間そのものは短くてもいいが、何より「らしい体験」は大切にしたいとした。ジョブやクラスはキャラクター育成の根幹で、プレーヤーは数年単位で付き合ってくものになる。そのジョブ・クラスならではのストーリーを体験することで、「このジョブ・クラスを選んで良かったな」と思えるようなシナリオを作ることで、プレーヤー自身のキャラクターを好きになってほしいと考えたからだ。

 シナリオとしてのハードルはかなり高いように思うが、「紅蓮のリベレーター」では開発チームでプロットコンペを実施したという。メインシナリオライターと吉田氏で採用プロットを決めて、各シナリオライターへと振っていく。「蒼天のイシュガルド」では希望のジョブを聞いて、各シナリオライターに任せる形でシナリオを作っていったそうだが、ダークファンタジーがモチーフであったために次々と「復讐がテーマのストーリー」が上がってきて、困ったことになったそうだ。「紅蓮のリベレーター」では「蒼天のイシュガルド」を上回る評価を得たそうで、「なかなか良かった取り組みなのでは」と織田氏は話した。

「らしい体験」が大切なジョブ・クラスクエスト。ゲーム体験も大事な要素になるので、時には実装担当に設計を任せることも重要だという
あまりに並行して作っていくクエストが多いと、ある場所でトーンの異なるクエストが同時発生して「カオス」になることも。これを避けるため、マップを拡大コピーして壁に貼り付け、クエストの場所に付箋を貼っている。付箋には責任者の名前があり、問題があればすぐに責任者と話せるようになっている

 方針が固まれば、あとはクエストを量産していくだけだ。開発終盤の山場であり、多くのスタッフが必要とされ、多くの時間がかけられる。織田氏は「RPGにたとえるなら、まさにラストダンジョンですね。ですがマスターアップというタイムリミットも付いてきて、全滅するとリリースできないという、クソゲー待ったなしのバランスです」とその過酷さを表現した。

 最後に織田氏は、終わりのない苦労ばかりに思えるMMORPGの開発だが、SNSや動画配信でプレーヤーのフィードバックを直接受け止めて、即時開発につなげられるなど、ネットワークゲームならではの楽しさもあると話した。日本の中ではまだまだMMORPGはマイナーなゲームジャンルで、特に「FFXIV」は日本語をベースとした開発になるため、開発者の数が少ない状況なのだという。「この講演をきっかけに、少しでも興味を持って、MMORPGのジャンルを盛り上げてくれていったら」と来場者に呼びかけた。

織田氏曰く量産フェイズは「ラストダンジョン」。この苦難を乗り越えた先に、プレーヤーの笑顔(あるいは……)が待っている