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「FFXV」のノクトやプロンプトに魂を吹き込んだキャラクターエクスペリエンス(CX)完全ガイド

仲間意識、連帯感、そして信頼関係をAIでどのように生み出していったのか!?

3月19日~23日開催

会場:Moscone Center

昨年話題になったセッション「Prompto's Facebook: How a Buddy-AI Auto-Snapshots Your Adventure in FFXV」(参考記事
今年はAIバディ全体にフォーカスを当てたセッション「Walk Tall, My Friends: Giving Life to AI-Buddies in `Final Fantasy XV`」
スクウェア・エニックス 第2ビジネスディビジョンのゲームデザイナー パサートウィットヤーカーン・パサート氏

 昨年のGDCで大旋風を巻き起こした「ファイナルファンタジーXV」。ディレクター田畑端氏(参考記事)を皮切りに、サウンド(参考記事)、そしてAIと、様々な方面からポストモーテムが語られた。中でもゲームファンにもっとも注目されたのがキャラクターAI、とりわけプロンプトの撮影技法に着目したユニークなセッション「Prompto's Facebook: How a Buddy-AI Auto-Snapshots Your Adventure in FFXV」(参考記事)だ。

 GDC2018では、この「Prompto's Facebook」のセッションを行なったスクウェア・エニックス 第2ビジネスディビジョンのゲームデザイナー パサートウィットヤーカーン・パサート氏(本人の希望によりサン氏と呼ぶ)が2年連続で登壇し、ユーザーエクスペリエンス(UX)ならぬキャラクターエクスペリエンス(CX)という耳慣れない言葉をメインテーマにしたセッション「Walk Tall, My Friends: Giving Life to AI-Buddies in `Final Fantasy XV`」を行なった。その内容は、昨年リリースされた、ダウンロードコンテンツの内容や、今後のプロジェクトを語ったものではなく、昨年のセッションのベースとなっているAIバディシステムの全容を明らかにするものだ。講演後、サン氏に、今後のバディAIについての方向性についても取材してきたのでまとめてご紹介したい。

 さて、ゲームのキャラクターは、非常に多彩かつ多様な行動を取り、多くの人の手を介して生み出される。1人のアクターが演じればそれで済む映画とは対照的に、ゲームはカットシーン、バトル、フィールド、フォト、メインメニューと様々なシーンで違った顔を覗かせ、それぞれ異なるパートのクリエイターの手によって生み出されている。「我々がデザインしているのはキャラクターデザインではなく、キャラクターエクスペリエンスデザインだ」、とサン氏は語る。そしてスクウェア・エニックスでは、このゲームを通じて様々なアプローチからキャラクター体験を提供することをCXと呼ぶ。

【キャラクターエクスペリエンス】

 プレイした方なら誰しも知っているように、「FFXV」はこのCXに徹底的にこだわったゲームであり、プレーヤーはノクトの視点から、グラディオ、イグニス、プロンプトという3人の仲間と、冒険の過程において濃密な仲間意識を味わうという、ゲームとしては貴重な体験をすることができた。

 「ファイナルファンタジー」シリーズといえば、常に行動を共にする仲間がいる。すれ違いや、仲違いしたりしつつも旅を通じて親交を深めつつ、ラスボスと戦うときには仲間として一丸となって戦う。だが、最新作である「ファイナルファンタジーXV」は、その風景がやや異なる。登場人物4人は、物語が語られる前から知り合っており、主従関係を超えた連帯意識が存在する。サン氏は、過去の「FF」シリーズの仲間を“フェローシップ”と表現するなら、「FFXV」のそれは“ブラザーフッド”であると定義し、過去の「FF」シリーズを上回る、より深い仲間意識を表現することが必要不可欠だと考えた。

【新たなCXデザインのチャンス!】

 こうしたメンバー同士の交流は、過去の「FF」シリーズでは主にカットシーンで表現されていたが、「FFXV」はオープンワールドのRPGであり、カットシーンを多用できない。しかも、男仲間4人による車旅がゲームコンセプトとなっている。AIチームは、開発の初期段階からリアルタイムイベントで、このブラザーフッドをリアルタイムイベントで表現することを検討しはじめた。

 サン氏は、ここで初期のプロトタイプ映像を見せてくれた。何もないCG空間に4人のキャラクターを置き、ノクトの動きに合わせて、3人の仲間が後ろを付いてくるというものだ。動きはぎこちなく、衝突判定もあり、少し動きを変化させただけで渋滞が起こってしまう未熟なものだが、これはまさに「FFXV」の開発初期段階から4人を並べて歩かせることを考えていた証拠といえる。

【初期段階のテスト】
最初から仲間を歩かせている

 「FF」シリーズに限らず、RPGにおけるフィールドマップの表現は、主人公あるいは先頭の1人のみが描かれることが当たり前になっている。この理由はメーカーやクリエイターによってまちまちだと思われるが、おそらく最大の理由は、「ドラゴンクエストIII」のように4人が並んで、現在のリアルな3Dグラフィックスで歩いていたら不自然であり、気になって没入できないからだ。敵との戦闘をランダムエンカウントにするゲームが多いのも同様の理由からで、その不自然さを丸ごとカットして、本来のゲームに集中して貰うために1人のみ描く、という方便が、現在に至るまで使われているわけだ。

 ところが「FFXV」は、4人の並べて歩かせるというRPGの常識を覆すことにチャレンジしている。理由はただひとつ“CXとして仲間意識を深めるため”だ。CXのために、あえて無茶に挑む。これはカッコイイ。

 もちろん、「FFXV」は、オープンワールドのリアルタイムアクションを実現したRPGのために、キャラクターを並べて歩かせるだけでは済まない。移動しながら会話し、写真を取ったり、敵と戦ったりする。これをすべてプレーヤーが自然に感じられるようにするために「FFXV」では、まずキャラクターのチャームデザイン(キャラクターの魅力)を徹底的に洗い出していった。

 このチャームデザインについては、「ステレオタイプ+2」というキーワードで説明していった。ステレオタイプというのは、キャラクター紹介に書かれているようなキャラクターの“表書き”の部分だ。たとえばプロンプトであれば、「ムードメーカー」であり、キュート、友達思い、パピー、社交的、写真好きといった要素で構成される。

 +2の1つ目が、ギャップの部分だ。プロンプトは実はギーク(オタク)であり、機械、ゲーム、アニメ、そして写真と様々なことに精通し、手先も器用。2つ目が深層心理の部分で、ノクトにすら言えない秘密を抱え、心配性であり、現実逃避癖がある。この3つの側面をキチッと設定した上で、その内容を個々のリアルタイムイベントに落とし込んでいく。

 これがまた恐ろしいほど細かく設定されており、驚かされる。極々一例だけ挙げると、プロンプトなら、ムードメーカーを表現するために、バトルでは常にジャンプしたり走り回ったりし、バトルを終える毎にファンファーレを口ずさむ。ギークを表現するために機械や銃を得意とし、常にカメラをいじり、屋外生活でも身なりを気にしない。最後の深層心理の面では、太るのを嫌って遅めの食事をしたがらない、ときどきひとりで空を見上げる、彼の出生や過去を秘密にしたがるなど。

 さらにその内容を、実際のシステムに落とし込んでいく。バトル、キャンプ、移動中、フォトなど、それぞれ最適なシーンに振り分けていき、重要なものはシネマティックで処理する。こうした表現により、CXの質を高め、ブラザーフッドを実現していくわけだ。

【チャームデザイン】

 そしてこの先がサン氏らAIチームの出番だ。CXデザインを4つのヒエラルキーにわけ、順番に実装していった。

 1つ目はファンクショナル(機能)。キャラクターにどういう機能を持たせるのか。2つ目はビリーバブル(信じられる存在)。どのようにしてモノではなく人だと信じさせるのか。3つ目はコンフォタブル。その上でどう快適だと感じさせるのか。4つ目はエモーショナル。最終的にどのようにキャラクターの感情を表現し、プレーヤーの情感に響かせるのかだ。

【4つのヒエラルキーでAIを実装していく】

 1つ目のわかりやすい例はバトルだ。主人公のノクトが、ピンチになったとき、スッと駆けよって助けてくれる。このAIが実現しているのは感情や快適さではなく、仲間を助けるという純粋な機能だ。

 2つ目のビリーバブルは、ベースから発展系まで様々なものを見せてくれた。基本は、ノクトがそのキャラクターに近づくと、避けたり、嫌がる仕草をする。あるいは車で移動中に、退屈凌ぎに本を取り出して読み出す。移動中は、ときおり顔を振り向いてノクトのことを見たりする。細かいところではバトルだ。仲間のバトルAIは、行動の連続性に重きを置いたAIが搭載されており、20秒ほどの連続攻撃をたたき込むことができる。その感も状況に合わせて、退避や仲間の救援などの行動もインタラプトでき、実はノクトは見ているだけでもバトルをこなしてくれるほど優秀なAIが搭載されている。

【1、ファンクショナル】

【2、ビリーバブル】

 そして3つ目。ここからが「FFXV」AIチームの真骨頂だ。まず快適さとは何かというと、現実世界の人間と同じ考え方だ。つまり、くっつきすぎず離れすぎず快適な距離感を保つことや、移動中にお互いの存在を確認する、お互いに合えば声を掛ける、退屈凌ぎに話をする、など。いずれも現実世界では当たり前のことだが、これができているゲームは「FFXV」ぐらいのものだろう。さらにバディAIは、経験の共有を口にしたり、得た情報を共有しようとしてくれる。快適なだけでなく、役にも立つAIになっているわけだ。

 ここでサン氏は「DI-Phone」と名付けられた会話イベントがまとめられたエクセルシートを見せてくれた。仲間とのバリエーション豊富な会話は、「FFXV」の楽しみのひとつだが、多すぎたり、少なすぎたり、同じモノが繰り返されると興ざめしてしまう。それを避けるために、シーンを問わず、ゲーム全体で会話イベントを管理するシステムを採用している。このため、状況を問わず、会話イベントがいきなり発生するようになっており、プレーヤーによって、あるいは遊び方によって、異なるCXが楽しめるようになっている。

 さらに遊びの要素として、MMORPG的な遊びも盛り込まれている。MMORPGでは移動中にエモーショナルな行動をして退屈を凌いだりする。姉妹作「FFXIV」では、チョコボで移動中に意味もなくジャンプしたりする。同行している仲間も真似したりしてちょっと楽しい、というものだが、それが「FFXV」にも導入されている。チョコボでの移動中にジャンプをすると、他の仲間もジャンプするのだ。筆者はその小ネタの存在を知らなかったが、よくここまでこだわったものだと驚かされる。

【3、コンフォタブル】

 そして4つ目のエモーショナル。ここはもっともデリケートな部分であり、名シーンのひとつであるノクトとプロンプトの夜の会話シーンに代表されるように、カットシーンによって表現されることが多いパートだ。リアルタイムシーンでは、暑さ、寒さ、雨の冷たさなどを演出し、仲間がそれを心配したり、謝ったりすることでお互いの情感を表現している。

 「FFXV」ではこの4つのヒエラルキーを明確にわけて、キャラクター個別に実装し、かつ時系列でそれを徐々に深めていくアプローチを取っている。これによってお喋りの多い遠足のような関係性から、徐々に本音を交わしあい、口論をしあい、最終的には言葉がなくても成立する真の意味でブラザーフッド、男同士の友情が完成する。

 素晴らしいのは、それを友好パラメータによる変化や、直接的な会話アクションによる掘り下げ、あるいはラーニングAIなしで実現しているところだ。言い換えれば“手付け”で実現しているところが凄いところで、スクウェア・エニックスだから、「FFXV」ならではの力技と言える。こうした部分もまた、ディレクターの田畑氏が語っていた「1人のための極上の体験」のひとつと言えそうで、「FFXV」はCXという側面からもじっくり遊び込みたいAAAタイトルと言える。

【4、エモーショナル】

 サン氏は最後に、PC版がSteamで発売されたことを紹介し、そこの評価のひとつに「このゲームで、私に友達ができたように感じた」というコメントがあったことを嬉しそうに紹介していたのが印象的だった。これこそがCXの神髄と言えるのではないだろうか。

【ゲーム内に友達ができるゲーム】

 冒頭でも紹介したように、この講演では、あえて最新情報や現在開発中の情報は伏せられていた。「FFXV」は2016年11月にリリースされたタイトルだ。講演自体は素晴らしい内容だったものの、この内容がスクウェア・エニックスのAIチームの最新情報であるはずがない。

 講演後にサン氏にこの点を指摘すると、「実はそのとおりです。もうかなり先まで研究が進んでいて、言えないことが多くて困りました」と口に手を当てて嬉しそうに語ってくれた。今取り組んでいることのヒントを尋ねると、「さすがに言えません」と断られたがなおも食い下がると「AI、AIというのをそろそろやめませんかということですね」と謎めいたコメントをくれた。

 話を変えて、一介のAIリサーチャーとして、昨今のAIトレンドについて尋ねると、「あくまで個人的な見解で、それがスクウェア・エニックスの次回作で採用されるかどうかはわからないし、別途そういう契約を交わす必要もあるので実現するかどうかもわからない」と前置きした上で、「リアルタイムのイベントシーンは、自動生成されるようになるのではないか」と語ってくれた。

 「FFXV」のCXの限界点は、声優さんのセリフが有限なところだ。つまり、収録した会話しかイベントとして使えないし、それ以上のことはどうやっても実現できない。ところが、技術的には一定量の収録データがあれば、その波形を分析し、セリフを生成することができるという。さすがにカットシーンで使われるような情感のこもった長いセリフの生成は難しいものの、リアルタイムイベントで使用しているような簡単な会話のやりとりなら十分に生成が可能だという。もちろん、これを実現するためには、声優事務所や声優と、そういう使い方をするという契約が必要で、実現するためのハードルは決して低くないが、仮に実現すれば、遊び手によってイベントの内容が異なるという、究極のCXの提供が可能になる。サン氏は、「個人的にはそうなって欲しいし、僕がやらなくても誰かがやると思う」と確実に訪れる未来であることを予言してくれた。

【CXチーム】
サン氏が所属するバディシステム&AIチーム

【講演終了後も大人気のサン氏】
やはりAIの関心は非常に高い。スクウェア・エニックスのAIチームがAIによって今後どのような情感を呼び覚ましてくれるのか期待したいところだ