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【ネタバレ注意!!】「FFXV」サウンドのコアテクノロジー「MAGI」の全貌が公開
チョコボからイフリートまで! 素晴らしきインタラクティブミュージックの世界
2017年3月4日 21:08
現代のゲームでは、もはやデファクトスタンダートになりつつあるインタラクティブミュージック(能動的に変化するミュージック)の世界。古くは1985年の「スーパーマリオブラザーズ」のタイムアップを警告するためのテンポアップサウンドをはじめ、ゲームの分野ではかなり古くから取り入れられてきた手法だ。
スクウェア・エニックスが2016年11月に満を持して発売した「ファイナルファンタジー」シリーズ最新作「ファイナルファンタジーXV」にもインタラクティブミュージックが全面的に取り入れられている。ガソリンスタンドで屋外から屋内へ移動した際、動的に音楽が切り替わる。あるいはチョコボで歩きから走りで曲調が変わることに気づいただろうか? これらがまさにインタラクティブミュージックであり、「FFXV」では、こうしたインタラクティブミュージックを「MAGI(Music API for Gaming Interaction)」と呼ばれる単一の内製ツールによって実現している。
GDC2017では、MAGIを手がけたスクウェア・エニックスのサウンドプログラマー岩本翔氏より、MAGIの全貌が明らかにされた。本記事は、実装技術の解説というセッションの性質上、通常のゲームメディアの記事では考えられないようなネタバレを含んでいる。これから「FFXV」をプレイしようと考えている方、「FFXV」をプレイ中の方、それからネタバレを嫌う方は、その点を理解した上で読み進めていただきたい。
岩本氏は、2年前にスクウェア・エニックスに入社してMAGIを開発し、自ら「FFXV」への実装を担当した。セッションでは通訳を付けず、すべて英語でスピーチしたが、ほとんど客席を向かず、MAGIが表示されたモニターを一心不乱に見つめながら、機関銃のような早口で喋り続け、デモの間はサウンドに合わせて見えないタクトをふるなど、その振る舞いはまさにミュージシャンだった。
スクウェア・エニックスのサウンド部は、“ラスボス”の植松伸夫氏を筆頭に、伊藤賢治氏や祖堅正慶氏、そして「FFXV]の作曲を手がけた下村陽子氏など、個性的なパーソナリティを持つ人材の宝庫だが、岩本氏もまた同系の匂いを感じさせるキャラクターだった。しかも、岩本氏は作曲は行なわず、あくまでサウンドプログラマーであり、インタラクティブミュージックの担い手というところも時代を感じさせておもしろい。
さて、まずMAGIとは何か。ゲームミュージックをインタラクティブ処理するためのツールだ。下村陽子氏をはじめ複数のコンポーザーが手がけた壮大なエピックサウンドを、MAGIに載せ、動的に変化するインタラクティブミュージックへと進化させる。そのMAGIのツール開発から実装までを一手に手がけたのが岩本氏だ。
岩本氏は、「FF」シリーズは、エピックスケールで、記憶に残る、強いメロディラインを持つサウンド自体がセールスポイントになっているフランチャイズと規定。その上で、エピックサウンドをいかにスケールを損なわずに、シームレスにインタラクティブ化するかが自身のゴールだったと語った。
たとえば、「スーパーマリオ」のインタラクティブミュージックは、タイムが100を切ると、警告音と共にBGMがテンポアップするという極めてシンプルな実装が行なわれていたが、「FFXV」におけるインタラクティブミュージックは、チョコボのウォーク/ランやアウトポストの屋内/屋外のように一定の条件で一気に切り替わるものもあれば、召喚シーンやボスバトルのように一定のタイミングで徐々に遷移していくものの2種類に大別される。共通点としてはいずれもシームレスであり、あまりに自然にBGMが切り替わるため、“切り替わったこと”すら自覚していないゲームファンも多いはずだ。
「FFXV」のインタラクティブミュージックの実装でとりわけ素晴らしいのは、ボスバトルだ。「FFXV」のボスバトル曲は、メインループ(メインテーマ)をベースに、後半ボスが本気を出してくるハイライトシーン(プリエンドテーマ)があり、そしてまるで劇のような締めくくり(エンドテーマ)がある。姉妹作の「ファイナルファンタジーXIV」のボスバトル(蛮神戦)もフェーズによってBGMが変化するインタラクティブミュージックの手法が取り入れられているが、締めくくりはない。締めくくりを挿入することによって、辛く、苦しい戦いが終わりを迎えたことをサウンドでも明確に伝えてくれる。これは「FFXV」のインタラクティブミュージックの決定的に新しい部分だ。
気になるのは、どういう戦い方、つまりスーパープレイでノーダメージで倒そうが、QTE(Quick Time Event)にも失敗しまくりでギリギリなんとか倒そうが、綺麗に締めくくりに繋がることだ。しかも無理矢理繋げているのではなく、自然にシームレスに繋がっている。これはどのような実装になっているのだろうか?
実はこの実装こそがMAGIの真骨頂となっている。自然にシームレスに、別の曲に繋げるために、フェードイン、フェードアウトを取り入れているのは当然のこととして、大事なエピックサウンドの世界観を壊さないように、ループ内で自然に挿入できるタイミングを事前にいくつか設定しておき、与えたダメージやフェーズ等の一定の条件を満たした後、最短で繋ぐようになっている。このため、実はタイミングによっては切り替わりまでが長くなったり、逆に短くなったりしているという。
遷移にあたっての基本方針は、メインループからプリエンドまでは、ミュージックの雰囲気を守ることを重視した挿入を行なう一方、プリエンドからエンドでは、シーンとのシンクロを重視する。メインループからプリエンドでは、まだバトルが継続されるため、バトルを盛り上げるミュージックの雰囲気をできるだけ損なわない実装が望まれるのに対し、プリエンドからエンドでは、ボスが倒れた後も遷移のタイミングを待つような実装は単純に不自然なため、シーンとの整合性が最優先されるためだ。
唸らされたのは、リヴァイアサンのようにボス戦限定のトドメを刺すアクションに、ロングバージョンとショートバージョンがある場合でも、それぞれでプリエンドからエンドへの遷移のタイミングを変え、どのパターンでも自然な締めくくりになっていることだ。
また、炎神イフリートも特別な実装が行なわれている。炎神イフリートは、フェーズ変更でプリエンドへと移行し、さらにイフリートの体力を削りきり、氷神シヴァを召喚することが、エンドのトリガーとなっている。そこからボス戦としては比較的長いカットシーンと、エンド専用のミュージックが挿入される。
このイフリート戦は、メイン、プリエンド、エンドで曲調もそれぞれまったく異なり、まさに「FFXV」自体のハイライトにふさわしい凝りに凝った演出が行なわれている。これらはMAGIのツール上ですべて岩本氏が手付けで設定しており、ここまでくるとまさに“インタラクティブミュージックアーティスト”といっていいような仕事内容だ。
締めくくりに岩本氏は、異なる曲同士を自然にシンクロするための工夫として、“間”の重要性を語った。それは遷移の間やループの間、カットシーンやゲームプレイの間のみならず、“遊び手の感情の間”まで配慮する必要があるという。
その上で、「FF」シリーズのような強いメロディラインを持つエピックサウンドをインタラクティブミュージックとしてフル活用するためには、MAGIのような使い勝手と汎用性に優れたサウンドツールの存在と、曲の特性を理解した上で遷移させるポイントを設定できる岩本氏自身のようなサウンドプログラマーの存在が必要不可欠だとした。
個人的な印象では、岩本氏が語るように、日本のゲームミュージックは良い意味でも悪い意味でも、作家性及びメロディラインが強すぎて、インタラクティブミュージックの適用が難しく、この分野では日本は欧米と比較して一歩後れを取っていると感じていたが、まったくの誤解だった。下村氏ら「FFXV」のコンポーザーのサウンドトラックは、岩本氏のMAGIによって、確実に魅力を増している。
セッション終了後の質疑応答では、MAGIのライセンス化や、他のオーディオツールとの機能互換について尋ねる質問も出ていたほどで、GDCに参加するようなゲームサウンドのプロ達が、スクウェア・エニックスが誇るMAGIに高い注目を示していたのが印象的だった。「FFXV」に限らず、スクウェア・エニックスタイトルのゲームサウンドが、MAGIによってどのような進化を見せていくのか今後も見守っていきたいところだ。