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「PUBG」におけるファンを雪だるま式に広げるためのコミュニティ戦略

ストリーマーをフル活用! プレアルファの段階からコミュニティを捕まえろ

3月19日~24日開催

会場:Moscone Center

 2017年に話題を集めたタイトルといえば、真っ先に「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUND(PUBG)」が挙げられるだろう。現在のバトルロイヤルゲームブームの火付け役であり、eスポーツタイトルとしても高い人気を誇る。

PUBG Corp Lead Community ManagerのSammie Kang氏
PUBG Corpは、韓国Bluehole Ginno Gamesが前身となっている
ディレクターのPLAYERUNKNOWN氏は2016年3月に加入している
明快な雪だるま戦略

 筆者がその爆発的な人気を知ったのはβテスト開始前後だが、当時を振り返ってまず驚かされたのは、その人気もさることながらコミュニティ戦略だ。メディアが気づいた時にはすでに日本にもコミュニティができていて、活発に活動していたことだ。「日本にもアーリーアダプターが多いなあ」と感心していたが、それにしても規模が大きすぎた。

 その謎が明かされるセッション「Community Snowballing in 'PlayerUnknown's Battlegrounds': From Pre-Alpha to 20 Million and Counting in Early Access」がGDC 2018で行なわれた。セッションスピーカーを務めたのは、PUBG Corpでコミュニティ周りを担当するLead Community ManagerのSammie Kang氏。PUBG Corpの前身であるBluehole Ginno Games時代、タイトルは「PUBG」の前身である「Project BRO」から語りはじめ、10年以上の開発経験を持ち、オンラインコミュニティのマネジメントに長けた韓国ならでは取り組みの一端であることが明らかにされた。

 Kang氏は雪だるま式にコミュニティを膨れあがらせるコツは、早い段階からコミュニティと繋がり、独占的な情報や、特権を与えてその繋がりを太くし、1人1人とWin-Winの関係を構築していくことだという。それ自体は「なるほど」という感じだが、開発の初期段階、プロトタイプに毛が生えたようなプレアルファテストの段階から積極的に取り組んでいることが凄い。

 ターゲットはトップティアのストリーマー≒コミュニティリーダーではなく、中間ぐらいの層を狙う。理由はトップティアのストリーマーだと協力関係を作ることが容易ではないだけでなく、中間層なら共に成長していけるから。この共に成長していくところが重要だという。

 「PUBG」では、プレアルファテストを皮切りに、アルファ1、アルファ2、クローズドβ、アーリーアクセスという5段階ものテストを踏んでいる。このテストの多さも韓国らしいところだが、それぞれに個別の目的を持たせ、コミュニティの成長が感じられるように工夫している。

 たとえば、わずか600人が参加したプレアルファは、全テスターと事前にNDAを交わし、一切の情報を外に出さないようにした。出さないようにした理由は、開発からわずか4カ月のゲームのようなものであり、AAAデベロッパーでもないため、ゲームとしてまだ完成していないだけでなく、無数のバグや不具合が存在することが最初からわかっていたためだ。これをNDAにすることで、批判が外に出ることを防ぎつつ、独占プレイという特権を与えることで支援者に変えてしまう。

【プレアルファ】
わずか4カ月の開発でテストをしてしまうことに驚かされる
レアなプレアルファ時代のスクリーンショット

 アルファ1では、今度はNDAを解禁し、Twitchでの配信を可能にする。自分だけがプレイして配信できる優越感を与えつつ、視聴者に対しても飢餓感を植え付ける。このあたりから徐々に“雪だるま”が回り始める。

 アルファ2では、より多くのストリーマーを招待し、800名以上のストリーマーが参加した結果、アルファテストの段階であるにも関わらず、Twitchでの視聴者数が5位となる。ここで完全にコミュニティが食いついたわけだ。

【アルファ1/2】

 そしてストリーマーに対する考え方もおもしろい。ストリーマーに対して、便宜を図っているメーカーという上から目線で対応するのではなく、あくまでひとりひとりをビジネスパートナーとして捉え、リレーションは取りつつも、何か具体的な要請はせず、「PUBG」を好きになり、サポーターになって貰えるように仕向ける。数が増えたからといって代理人を建てることもせず、あくまでひとりひとりと向き合っていく。北風と太陽で言えば、太陽の考え方だ。

 そしてクローズドβからは、トップティアのストリーマーやカジュアルゲーマーにも声を掛け、これまでの取り組みが奏功し、一気にブレイクする。Twitchの最大視聴者数は8万人に達し、2位を記録する。これまで協力してくれたストリーマーには、βテストのアクセスコードを与えるなどロイヤリティを提供し、Win-Winの形を維持する。

【クローズドβ】

 大成功への確信が持てたところで、いよいよアーリーアクセスに移る。「PUBG」のアーリーアクセスは、Steam史上最短で100万本を達成したタイトルに認定され、文字通り大ヒットを記録したが、PUBG Corpでは、単に売上を立てるだけでなく
同時にパートナープログラムもスタートさせていた。

 これは日本ではしょぼすけ氏のようなアンバサダーに対して、カスタムゲームを設置できる権利を与えるなど文字通りの特権を与えるというもので、その効果もさることながら、その内容そのものも過去に前例のない取り組みとして話題を集めた。これにより、コミュニティ側が自発的にゲームを活用してコミュニティを活性化できることになり、この小さなサークルが世界中に広がり、ご存じの通り2,000万セールスを突破する「Grand Theft Auto」クラスの超特大ヒットを記録する。

【アーリーアクセス】

 「PUBG」が世界中でヒットしたのはゲームがおもしろかったからだが、その裏にはコミュニティを雪だるま式に拡大する確かなビジョンに基づくコミュニティ戦略が存在していた。現在「PUBG」はチート対策やアップデートの遅れにより、ライバルである「FORTNITE」に一歩後れを取る状況となっているが、コミュニティ活動は依然として活発であり、強固なコミュニティが構築されていると感じる。

【そのほかのコミュニティ活動】
あまり多くはないようだが、Twitchとのコラボレーションや、ストリーマーを集めたオフラインイベントなども開催しているようだ