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インディーゲームショートレビュー「INSIDE」
少年が進む闇の先に人はどのような物語を見るのか
2017年3月10日 19:29
「INSIDE」は、独得な世界観を持ったアクション「LIMBO」を制作し大きく話題を集めたPlaydeadのアクションアドベンチャーだ。Steamでは2016年7月から発売されており、PSNやMicrosoft Storeでもすでに発売しているタイトルで、筆者も気にはなっていたのだが、これまで触ってこなかった。
そして、「17th Annual Game Developers Choice Awards」で本作を再認識したのだ。「INSIDE」は、BEST AUDIO、BEST DESIGN、INNOVATION AWARD、BEST NARRATIVE、BEST VISUAL ARTそしてGAME OF THE YEARと、10部門中6部門にノミネート、BEST AUDIOと、BEST VISUAL ARTの2部門を受賞するという極めて高い評価を受けた。
会場でノミネートのムービーや、受賞風景を見ながら、「プレイしてみたい」と強く思った。そして帰国後早速インストールしてプレイし、大いに楽しんだ。そこで本稿では、「INSIDE」の魅力を紹介していきたい。
明確に提示されないからこそ、自分自身の解釈、想像が楽しいストーリー
「追われに追われて一人きり、少年はいつのまにか闇のプロジェクトの中枢に引きずり込まれていた」
これが、「INSIDE」でプレイ前に提示される情報のすべてだ。プレーヤーは“少年”を操作し、暗い森から農場を抜け、やがて“研究所”へ潜入していく。本作は明確な“ストーリー”は語られない。少年を捜索し追いかける謎の人々、豚の死骸が累々と転がっている農場、ゾンビのように自意識を持たず移動する人々と、それを見守る“市民たち”……と、こういった想像力を喚起させられる様々なシーンが次々と展開するが、文字情報など、明確なストーリーは語られない。プレーヤーがいかようにも想像できるし、実際、日本でもいくつも考察サイトがある。考えたくなる、語りたくなるゲームなのだ。
ゲーム開発者達にBEST AUDIOと、BEST VISUAL ART作品として認められた「INSIDE」はグラフィックスと、雰囲気が最大の魅力だ。影絵のようなシンプルなグラフィックスだが、その奇妙な世界観と、深淵でダークなストーリーテリング、全編にみなぎる緊張感は「すごいゲームをプレイしているぞ」という感じにさせられ、グググっとゲーム世界に引き込まれる。
本作の基本は横スクロールのアクションゲームだ。使用するのは移動キー(スティック)と、「ジャンプ」、「つかむ」の2つのボタンのみ。タイミングなどはシビアな部分もあるが、バランスとしてはガチガチのアクションというよりもコツをつかんで進んでいくタイプだ。その場面のギミックを把握し、自分なりの解法を考え、前へ前へと進んでいく、「トライ&エラー」を繰り返していくゲームである。
本作は「死にゲー」である。少年はほんのちょっとのきっかけで殺されてしまう。捜索する研究員に見つかる、犬に追いかけられる、高いところから落ちる、機械に巻き込まれる、監視するライトを浴びる……いわゆる“残機”という概念はなく、プレーヤーは少年の無限の死を乗り越え、ストーリーを進めていく。シンプルなグラフィックスであるが少年の死はかなり残酷で、グロテスクな描写もあり、ホラー色も強いので、人を選ぶ部分もある。結構アクの強いゲームだ。
本作の魅力として、世界観やグロテスクさだけでなく、「ゲーム性」の高さもきちんと触れておきたいところだ。「向かってくる犬をどうよけるか」、「目の前の仕掛けに何の意味があるのか」、「今あるモノをどう組み合わせればうまくいくのか?」。難関を突破するためにプレーヤーは頭をひねる。時には前に戻ってみる、タイミングを工夫してみる、仕掛けを違う形で動かしてみる……試みがうまくいったときの爽快感は大きい。冷静に見れば難易度はそれほど高くはないが、うまくいったときは「俺ってひょっとしたら天才じゃないの?」と“いい気持ち”になれる瞬間がある。その快感がゲームにいっそうのめり込ませていくのである。
面白い仕掛けとしては、「ゾンビのような人々を動かす」というものがある。少年がヘルメットのような機械をかぶるとたったまま動きを止めているゾンビのような人を操れるようになるのだ。中盤では彼らを“集団”で操れるようになる。また、潜水球のような乗り物で海底を進んだり、様々な展開が盛り込まれている。
本作はボリュームとしてはそれほど大きくない。攻略で詰まることもあるだろうが、数時間でエンディングまで到達するだろう。ゲームの展開は非常に衝撃的で、誰かに語りたくなる、プレイさせたくなること間違いなしだ。実質的な“前作”である「LIMBO」との関係性も考えるのも面白い。
そして、「INSIDE」は感触はカジュアルでありながら、“ゲームの本質”に鋭く切り込むゲームである。少年を取り巻く奇妙で恐ろしいストーリーとして楽しむことも、「INSIDE(中、内面)」というタイトル通り、少年の旅を何らかの“暗喩”ととらえ、テーマの奥深さを感じるの良いのだが、やはり“ゲーム”として楽しいと言うところは改めて強調しておきたい。
ジャンプして崖を飛び越す、ゾンビ人間を使ってパズルを解く、異なる場所にある機械の因果関係を把握してドアを開ける、などなど、様々なひらめきと試行錯誤で難関をくぐり抜けていく。「ゲームとしてのシンプルな楽しさ」をきちんと再現しているからこそ、「INSIDE」はゲーム開発者達の賞賛を受けたんだと思う。
自分の“内”の「ゲームへの衝動」を見つめ直すゲームとしても、「INSIDE」はオススメである。コントローラをしっかり握り、様々なシチュエーションで解法を導き出す、「やっぱりゲームって楽しいな」と、しみじみと自分の中から想いがわき出してくる。「INSIDE」は“とても楽しいゲーム”である。ぜひプレイしてほしい。
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