【特別企画】
植松伸夫が明かす「FF6」の深層。「銀河系一の作品」「神が降りた1年」名曲に隠された秘密――「ff vol.5・6」イベントレポート
植松氏「あれは、ショパンが僕をパクったのだと思う(笑)」
2026年3月2日 18:00
- 【「ff〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)〜」vol.5/6】
- 開催日時:vol.5 1月27日
- vol.6 1月31日
- 価格:
- YouTube(Peatix経由)1,500円
- 見逃しアーカイブ配信チケット 2,200円
自由が丘hyphenにて、スクウェア(現スクウェア・エニックス)より1994年4月2日に発売されたスーパーファミコン(以下、「SFC」)用RPG「ファイナルファンタジーVI」(以下「FF6」)の音楽について、作曲家の植松伸夫氏が語るイベント「ff(フォルテッシモ) 〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけどよろしかったでしょうか?(仮) vol.5」及び「vol.6」が1月27日と1月31日に開催されたので、その模様をお届けしよう。
司会進行にはこれまで同様、声優の戸塚利絵さんを迎え、ファンにとって大変に貴重なトークを聞くことができた。
あまりの語りたいことの多さに、今回は初の「前後編」構成となった本イベント。「vol.5」は平日の夜開催にもかかわらず、チケットはわずか15秒で完売という争奪戦が繰り広げられた。会場には仕事帰りと思われるスーツ姿のファンも多く詰めかけていたようで、32年の時を経てもなお色褪せない「FF6」への熱量の高さを物語っていた。
本稿では、「vol.5」及び「vol.6」の内容を併せてお届けする。
□「ff vol.5」見逃しアーカイブ配信チケット販売ページ
□「ff vol.6」見逃しアーカイブ配信チケット販売ページ
※GAME Watch限定! 200円引きクーポンコード「GameWatch200」
「vol.5」で語られた開発スタッフとの絆と「銀河系一」の称号
1月27日の話題はまず、当時の開発チームの熱量の高さから始まった。
「箱根の高級旅館に一泊で打ち上げに行った」と植松氏は懐かしそうに語り始めた。数十人のスタッフが並ぶ宴会場で、当時のプロデューサーである坂口博信氏が乾杯の音頭を取った際、こう語ったという。
「皆さんのおかげで『銀河系一』すごいソフトができました」
その言葉に植松氏も感動を覚えたという。そして打ち上げでは大暴れし、その高級旅館(名前は伏せられた)からは「出禁」を食らったというエピソードも。20代を中心とした若いチームが、寝食を忘れ、ただひたすらに「面白いもの」を追求していた時代の空気が、植松氏の言葉の端々から蘇るようだった。
また、マスターアップの日のエピソードも印象的だ。
当時、開発終了の夜は缶ビールを片手に持ち、開けずにそのままラスボス戦へ突入するのが恒例行事だったという。全員でエンディングを見届けた瞬間に祝杯をあげるのだ。
泥酔して雑魚寝し、翌朝目を覚ました植松氏が一人で外に出ると、東京では珍しい大雪が積もっていた。その雪の朝の記憶は、どこか「FF6」の冒頭、雪原を進む魔導アーマーのシーンと重なるような美しさで、でもその感動を分かち合える人が周囲にいなかったこともあって植松氏は雪の上にひとり倒れ込んだそうだ。
悔しい思いもあった……植松氏が語る30年前のゲーム音楽
ここからは、実際にゲーム中の楽曲を流しながら、植松氏自身による解説が行われた。SFCの限られたスペックの中で、いかにしてあの重厚なサウンドが生み出されたのか。その技術的な工夫には、会場から何度も感嘆の声が上がった。
まずはオープニングを飾る「予兆」。不穏かつ美しいピアノの旋律が印象的だが、植松氏はここで衝撃的な事実を明かした。SFCの同時発音数はわずか8音だが、そのうちの5トラックをピアノのためだけに使用しているというのだ。
ひとつのトラックで演奏すると前の音が途切れてしまい、ピアノ特有の残響が消えてしまう。そこで、1音ごとに別のトラックを割り振ることで、音が重なり合い、美しい余韻を残すようにプログラムされていたのだ。「贅沢な使い方」と戸塚さんが驚くのも無理はない。あの美しさは、力技と執念の結晶だったのだ。
そして本作のメインテーマとも言える「ティナのテーマ」へと話は及んだ。哀愁漂うメロディだが、ここには「チャランゴ」という南米アンデス地方の民族楽器の音色が使われているという。そこにパンフルートのようなメロディを加えると、アンデスのフォルクローレになるそうだ。
当時、民族楽器の導入を模索していた植松氏。「フォルクローレの持つ哀愁は、日本人の持つ湿り気のある感性と合う」と語る通り、異国情緒がありながらもどこか懐かしい、「FF6」独特の世界観を決定づける一曲となった。
次はストレンジなリズムとメロディが癖になる「からくり屋敷」。実はこの曲は初代「ファイナルファンタジー」の時に作られ、ボツになっていた曲だという。「面白い曲だからどこかで使いたいと虎視眈々と狙っていた」と植松氏。約7年の時を経て、アウザーの屋敷という奇妙な空間で見事に復活を遂げたことになる。
休憩をはさんだ後半では「スラム・シャッフル」が取り上げられた。ゾゾの町で流れるこの曲は、背景で鳴り続ける雨音が印象的だ。
植松氏が「雨の音」のパラデータを再生すると、ザーッというノイズ音が響く。なおこれらの音は音階の組み合わせで作るのが当たり前だったそうだ。例えば「ブン」というような攻撃音ですら音符で表現していたという職人芸が、このリアルな雨の表現にも活かされているそうだ。
「テクノdeチョコボ」は遊び心が満載だ。冒頭の「チョコボ!」というボイスはボコーダーに通したもの。YMOの「TOKIO」へのオマージュだという。
さらに、曲の後半(50小節付近)には、プッシュホンの音が隠されていることが判明。
「これ、曲の中でチョコボに電話かけてるの知ってた?」という、植松氏。会場に集まるほどの「FF6」BGMマニアの中には知っている人も少なからずいたようだが、配信でぜひ聴いてみてほしい。
他にも「魔大陸」や「魔導研究所」などの曲も紹介し、「FF6」では「魔」=「機械」っぽさがあるという戸塚さんの感想に植松氏が頷く場面もあった。
終盤は、事前に寄せられた質問や会場からの質問に答えるQ&Aコーナーが設けられた。
人気曲の「仲間を求めて」の手応えを聞かれた植松氏だが、「人気は高いけれど、自分の手癖みたいな曲で、あんまり触れられたくない恥ずかしさはある」という自己評価のようだ。
しかし、「ゲームでこの曲がかかる場面と音楽が素晴らしく融合している」というファンの感想に対しては、「それが最高の褒め言葉」と感謝を述べた。
ケフカの笑い声はどうやって作ったのかという問いには、あれもサンプリングではなく「ドレミファソラシドの音階で作っている」と回答。効果音一つとっても、当時の開発スタッフらの手作業による積み重ねがあったことが改めて浮き彫りになった。
イベントの最後、植松氏は現代のゲーム音楽と当時の違いについて、坂口氏が「ファンタジアン」でジオラマを使って原点回帰をしたように、音楽でもまた「この頃のような実験的なことをやりたい」と語り、ファンからは期待の拍手が送られた。
「FF6」という作品が単なる技術の向上だけでなくクリエイターたちの「銀河系一」を目指した情熱と制約の中で工夫を凝らした職人芸によって生まれた作品であることを、改めて感じる2時間だった。
「vol.6」では様々なスタッフの秘話が明かされた!?
日付は変わって、1月31日。植松氏は「FF6」は2Dのドット絵としては「ファイナルファンタジー」最後の作品であることを切り出した。次作「FF7」からは3Dポリゴンとなり、表現はリアルな方向へと進化していく。しかし、植松氏はFC〜SFC時代の不自由さこそが魔法だったと語った。
例えばロックは今どんな顔をしているのか? セリスの涙はどんな色なのか? 聴こえてくる電子音はプレイヤーの頭の中で壮大なオーケストラやロックバンドに変換されていたのではないか。この「想像力の余白」が、当時のゲーム体験を強烈なものにしていた要因なのだ。
最近では「UNDERTALE」のトビー・フォックス氏とも交流があるという植松氏。インディーゲームの可能性についても熱く語っていた。
そしてイベントは進み、「魔列車」について、この曲には長年囁かれていたある噂があった。それは「ショパンの『葬送行進曲』に似ているのではないか?」という説だ。これに対し植松氏は冗談めかして「あれは、ショパンが僕をパクったのだと思う」と笑った。
もちろんこれには会場も大爆笑だ。当然ながら実際は植松氏が参考にしたそうだが、ここで興味深い音楽的な解説が入る。ショパンの楽曲が整然としたコード進行であるのに対し、「魔列車」ではあえて複雑な和音展開を取り入れているとのことだ。配信では実演解説もされているので、気になる方はぜひみてほしい。
やがて話題はゲーム史に残る名イベント、オペラ座へと移る。SFCの音源で「歌」を表現するという、当時としては画期的な試みであった。
ここで植松氏から、現在発売中の「ピクセルリマスター版」についての裏話が語られた。なんとピクリマ版では、本物の歌手による歌唱が収録されており、日本語、英語、フランス語など7ヶ国語に対応しているのだ。つまりさまざまな国の言葉でオペラが聴けるので、ファンはぜひ聴き比べてほしい。
□「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター」の公式サイト
□「ファイナルファンタジー ピクセルリマスター Original Soundtrack」の公式サイト
なおこのオペラ座でのシーン、ゲーム本編ではオルトロスの乱入によってハチャメチャになって終了してしまう。しかし植松氏の中には「1幕ぐらいは完璧な形でお客さんに聴かせたかった」という心残りがあったそうだ。
その夢を叶えたのが、植松氏が関戸剛氏、福井健一郎氏、岡宮道生氏、河盛慶次氏、羽入田新氏らと結成したロックバンド「THE BLACK MAGES」であった。今回のイベントでは特別にその当時のTBMのライブ映像も公開された。ドラクゥとラルスの決闘、マリアの悲痛な叫び、そして劇的な結末までが、プログレッシブ・ロックとオペラの融合によって完全再現されていた。
なお筆者も当時このライブを見に行ったのだが、とても素晴らしいものだった。2008年8月9日横浜BLITZで一夜限り行われ、2,000人のファンを熱狂の渦に巻き込んだ「THE BLACK MAGES III Darkness and Starlight LIVE」のDVDは今でもAmazonなどで購入可能なので、興味のある人はぜひそちらも見てほしい。
ラスボス「妖星乱舞」 〜4楽章構成の真実〜
いよいよ話題は、「FF6」を象徴するラストバトル曲「妖星乱舞」へ。パイプオルガンとロックが融合した17分にも及ぶ大曲。なぜこの曲は第1形態から第4形態まで変化する組曲形式になったのかというと、その理由は当時モンスターデザインやバトルの演出を担当していた野村哲也氏の「絵」にあったという。
野村氏が描いたのは、神々の像が積み上がっていく縦長の塔のようなラスボスのデザイン画であった。「彼の画力と発想はすごい」と植松氏は改めて当時のことを振り返った。
第1楽章で鳴り響く、不穏なパイプオルガンの音色。植松氏はここで、その「不気味さ」の秘密を鍵盤を使って解説してくれた。
通常の和音に対し、あえて半音上の音をぶつけるテンションコード。これは本来なら避ける音だという。でも生理的な気持ち悪さこそが、ケフカという存在の怪しさを彩っていたのだ。
しかし多くの人に愛される名曲「妖星乱舞」にも、植松氏には一つだけ「納得がいっていない」部分があるそうだ。それは第4楽章(最終形態)のベースだという。変拍子が入り乱れる混沌としたパートだが、実は「ベースとドラムのアタック音がズレている」とのこと。ここで実際にパラデータでベースとドラムの音だけが流され、作曲自体には詳しくない筆者にしてみればそこだけ聴くと「確かに……?」という程度だったのだが、植松氏は「なんでOKにしちゃったのかわからない」というほど後悔しているそうだ。
神曲と呼ばれる楽曲に残された、人間味あふれるミス。しかし、そのズレが生む混沌こそが、ケフカという崩壊した神に相応しいようにも思える。
エンディングテーマ「蘇る緑」 〜14人の絆〜
イベントの最後を飾ったのは、20分以上にも及ぶエンディングテーマ「蘇る緑」だ。「FF6」は14人のメインキャラクター全員にテーマ曲があり、それをメドレー形式で繋いでいくという、前代未聞の構成である。それを当初は「1人15秒くらいでまとめて」と言われたそうだが、それはさすがに無理だったと植松氏。
ここで植松氏から、ロックとセリスの関係について、ファンなら思わずニヤリとしてしまう解説があった。ゲーム中ではそこまでハッキリ描かれていない二人の関係だが、曲に込めた植松さん自身の解釈が配信で語られているので、ぜひ確認してほしい。
なお、他にも「ドラゴンクエスト」の音楽で有名なすぎやまこういち先生との様々な秘話なども語られているので、興味のある人はぜひ配信を見ていただきたい。レポートには載せきれなかった秘話や、貴重な解説がてんこ盛りである。
以上、「ff 〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)」vol.5とvol.6のレポートをお届けしたが、次回はいよいよプレステ世代の大人気作「ファイナルファンタジーVII」特集とのことだ。ただ、これほどの作品になるとパラデータの抽出が大変なため、「開催は恐らく7月頃」とのこと。
次回の開催まで随分間が空いてしまうが、その間に「FF」楽曲の吹奏楽コンサートである「BRA★BRA FINAL FANTASY」全国ツアー開催直前のイベントが、3月頃に行われる予定とのこと。さらにファンクラブ限定にはなるかもしれないが、植松氏の誕生日(3月21日)のバースデーイベントも開催予定とのことなので、そちらの開催を楽しみにしていてほしい。
詳細は追って公開されるので、情報を見逃さないようにしよう。
「ff 〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)」vol.5、6」開催概要
開催日:vol.5 1月27日 vol.6 1月31日
開場:19:00
開演/配信開始:20:00
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