【特別企画】
「ビッグブリッヂ」の意外な評価から「封印の書」の恐怖ギミックまで ――植松伸夫氏が「FF5」のBGMを語ったトークイベント「ff vol.4」レポート
2026年1月15日 18:00
- 【「ff〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)〜」vol.4】
- 日時:2025年12月28日
- 料金:YouTube(Peatix経由)1,500円
スクウェア(現:スクウェア・エニックス)より1992年12月6日にスーパーファミコン(以下、「SFC」)にて発売されたRPG「ファイナルファンタジーV」(以下「FF5」)の音楽について、作曲家の植松伸夫氏が語るイベント「ff(フォルテッシモ) ~植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮) vol.4」が、2025年12月28日、自由が丘hyphenで開催されたので、その模様をお届けしよう。
司会進行はこれまで同様、声優の戸塚利絵さんが務め、ファンにとって大変に貴重なトークを聞くことができた。
今回はシリーズ屈指の人気作「FF5」のサウンドの裏側に、若き日の植松伸夫氏の苦悩と実験、そして当時のスクウェアを取り巻く熱狂的な時代背景があった「FF5」の音楽について振り返っていく。
SFC音源への「実験」と、ある日の「挫折」
イベント冒頭では、まず当時の宮本社長の破天荒なエピソードが語られて会場は爆笑の渦となった。どんな内容かはぜひ配信を見て確認してほしい。
次の話題は「FF5」のサウンドそのものへと移る。
前作「FF4」で初めてスーパーファミコンの音源に触れた植松氏だが、「FF5」ではその機能を使いこなすため、さらなる「実験」を繰り返していたという。キーワードは「サンプリング音源」だ。
ファミコン時代の電子音(PSG)とは異なり、本物の楽器の音を録音して鳴らすことができるSFC。植松氏は当初、より映画的で、オーケストラに近い音楽を目指そうとしていた。しかし、そこで大きな壁にぶつかる。
「当時、すぎやまこういち先生に言われて、自分でオーケストラの譜面を書いてコンサートで演奏してもらったことがあったんです。でも、本番で聴いてみたら……もう、消えてなくなりたいくらい酷い出来だった」
コンピュータ上では完璧に聞こえたはずの曲が、生のオーケストラではバランスが崩壊していた。フルートの音が聞こえない、メロディが埋もれる。その時、すぎやま先生は「これが君にとってのレベル1だよ」と励ましてくれたそうだが、植松氏が出した結論は意外なものだった。
「今からクラシックの勉強を一からやり直すのは、僕の人生じゃない。僕はロックを聴いて育ち、シンセサイザーをいじってきた人間。だから、『オケとロックとシンセをミックスした音楽』こそが、僕のやるべきことなんだと開き直ったんです」
この「開き直り」こそが、後に世界中を熱狂させる「植松節」の確立に繋がったのだ。あの日の失敗がなければ、「FF5」の、ひいてはFFシリーズの音楽は全く違ったものになっていたかもしれない。
パラデータで聴く「職人芸」の深淵
ここからイベントは、当時の開発データ(パラデータ)をトラックごとに分解して聴くという、ファンにとってたまらないコーナーへ突入する。筆者が特に唸らされたのは、一見シンプルに聞こえる楽曲の中に隠された、狂気じみたこだわりの数々だ。
「レナのテーマ」に隠された「2本のベース」
しっとりと美しい「レナのテーマ」。植松氏が「一番聴いてほしい」と語ったのは、メロディではなくベースラインだった。SFCは同時に8音しか鳴らせないが、その貴重なリソースのうち、なんと2音(2トラック)をベースだけに使っているというのだ。
「片方の音を、もう片方より微妙にタイミングを遅らせて、さらに周波数もごくわずかにズレさせているんです」
実際に会場で、ベースのトラックだけが再生される。1本だけだと、平坦な「ブー」という音。しかし、2本目を重ねた瞬間、音が立体的になり、空間に広がりが生まれた。フレットレスベース特有の「音の揺らぎ」を再現するための、あまりに贅沢でマニアックな職人芸。「まあ、誰も気づいてくれないんですけどね(笑)」と植松氏は笑うが、この「気づかれないこだわり」こそが、無意識下でプレイヤーの心を揺さぶっていたに違いない。
「マンボ de チョコボ」の「うっ!」は手作り?
人気曲「マンボ de チョコボ」の解説では、会場が笑いに包まれた。植松氏によれば、SFCの容量制限のため、どうしても「マンボ!」という掛け声のボイスデータが入らなかったという。そこで彼がとった手段は、シンセサイザーのノイズを加工して、無理やり「うっ!」という音を作り出すことだった。
「誰かの声をサンプリングしたわけじゃないんです。試したけどダメで。だから、これ(シンセ音)で説得力を持たせるしかなかった」
制限があるからこそ、工夫が生まれるという当時のゲーム音楽制作現場の熱量と苦労が垣間見えるエピソードだ。
会場が凍りついた「封印の書」の真実
そして、この日のハイライトとも言える瞬間が訪れる。ダンジョンなどで流れる不気味な楽曲「封印の書」。植松氏がニヤリと笑いながら、「この曲、変だと思った人います?」と問いかけるが会場の反応は薄い。誰もが「ただの不気味なBGM」だと思っていた曲だ。
「じゃあ、この4トラック目だけを単独で聴いてみましょうか」
スピーカーから流れてきたのは、もはや音楽ではなかった。低く、押し殺したような、「……ォ……ォォ……ェ……」というようなおじさんのうめき声のような音。
「これ、実は中年男性の声をサンプリングして、ピッチを極端に下げて加工して混ぜてあるんです。人が会話しているような、何かが蠢いているような不気味さを出したくて」
なんと30年間、我々は気づかずに「おじさんのうめき声」を聴かされ続けていたということになる。「夜中にヘッドホンで一人でプレイしていて、ふとこれに気づいたら怖いだろうなって。まあ、今まで誰も気づいてなかったみたいですけど(笑)」と楽しそうに語る植松氏。この日一番の衝撃的な「スクープ」に、筆者の背筋も思わず寒くなった。
吉祥寺「羅針盤」に通い詰めた日々 ――民族楽器への憧憬
会場が「封印の書」の隠し音声に戦慄した後、空気は一変して穏やかなものになった。スピーカーから流れてきたのは、多くのプレイヤーが「実家のような安心感」を覚える名曲、「はるかなる故郷」だ。
アコースティックギターのようでいて、どこか異国情緒を感じさせるその音色。パラデータを分解してみると、そこにはハンマーダルシマーやブズーキといった、当時のゲーム音楽としては極めて珍しい民族楽器の音色が重ねられていた。
「この頃、吉祥寺にあった『羅針盤』という店に入り浸っていたんですよ」
植松氏は懐かしそうに語り始めた。当時、吉祥寺にあったその店は、民族楽器の販売だけでなく、ライブや教室も開催していたという。若き日の植松氏は、そこでトルコの弦楽器「バグラマ・サズ」を習い、未知の音階やリズムに没頭していた。SFCというハードウェアの制約の中で、いかにして「世界中の音」を表現するか。その実験精神の源流は、吉祥寺にあったのだ。
ここで、植松氏らしいやんちゃなエピソードが飛び出した。話題が楽曲「親愛なる友へ」に使われている楽器「ブズーキ」に及んだ時のことだ。
「ブズーキには、アイルランドの『アイリッシュ・ブズーキ』と、ギリシャの『ブズーキ』があるんです。僕が持っていたのは、背中が洋梨のように丸く膨らんだギリシャの方」
一般的にポピュラー音楽で使われるのは背中が平らなアイリッシュ・ブズーキだが、植松氏はあえてギリシャ製を愛用していたという。しかし、その貴重な楽器は悲劇的な最期を遂げていた。
「ある日、酔っ払って家にあるブズーキを会社に持っていこうとしたんです。で、玄関先で派手に転んで……その時にネックをへし折っちゃって」
会場は爆笑と「勿体ない!」という悲鳴に包まれた。折れたネックを接着剤でくっつけてみたものの、二度と元の音は鳴らなかったという。
「ビッグブリッヂ」VS「決戦」論争に終止符?
後半戦では、「FF5」を象徴する二大バトル曲「ビッグブリッヂの死闘」と「決戦」についての話題が展開された。ここでの植松氏の発言もまた、ファンの予想を裏切るものだった。
「正直、『ビッグブリッヂ』に関しては『なんでこんなに人気があるんだろう?』って思うこともあるんです」
なんと、世界中でカバーされ愛されているあの名曲を、植松氏自身は「浅はか」だと感じていたというのだ。
「ドラムのパターンも単純だし、アルペジオも手癖に近い。もっと工夫して、ひねりを加えた曲は他にあるのになぁ、と」
一方で、植松氏が「こっちの方が出来が良い」と太鼓判を押すのが、エクスデス戦BGMの「決戦」だ。イントロの重厚感、3拍子と4拍子が入り乱れる変拍子のテクニック。パラデータを聴けば、その複雑な構造は一目瞭然だ。
そのまま、「最後の闘い(ネオエクスデス戦の戦闘曲)」に話題が移る。植松氏は「久々に聴き返すと『最後の闘い(ネオエクスデス戦の戦闘曲)』よりも『決戦』がラスボスにピッタリだったと思った」と言って曲を聴かせてくれた。
作り手が「手癖」で作った曲が愛され、技巧を凝らした曲が「ラスボスっぽい」と評価される。このズレこそが、ゲーム音楽の面白さなのかもしれない。
「コーヒーの淹れ方」に見る、植松伸夫のクリエイター魂
イベント終盤のQ&Aコーナーでは、音楽の話だけでなく、植松氏のプライベートな一面を掘り下げる質問が相次いだ。中でも筆者が印象に残ったのは、「コーヒー」に関する異常なまでのこだわりだ。
質問者からの「コーヒーは上手に淹れられますか?」という問いに対し、植松氏は自信満々に答えた。
「コーヒーはすごいですよ。相当うまいですよ」
毎朝、自身で豆を挽き、ハンドドリップで淹れているという植松氏。その手順の解説は、まるで楽曲のオーケストレーションを語るかのように緻密で熱を帯びていた。
「コツはね、『焦らし』なんですよ」
お湯を注ぐ際、粉が呼吸をして膨らんでくるのをじっと待つ。膨らみきったところで、優しく、しかし大胆にお湯を注いでいく。植松氏は身振り手振りを交えてその「呼吸」を表現する。興味深かったのは、ドリップする際に「最後はお湯を脇の方にも入れたほうがいい」という独自の哲学だ。一般的にはお湯を中央にのみ注ぐことが多いが「僕はね、その方が甘みが出る気がするんです。知らんけど(笑)」と語る。
マニュアル通りではなく、自分の感覚と舌を信じて「正解」を探す。あるいは、エクスデスの不気味な笑い声「ファファファ……」を表現するために、人の声ではなく「ディストーションをかけたエレキギターの音を細かく刻む」という手法(ムジカ・マキーナ等での実験)を編み出したように、コーヒーの淹れ方ひとつにも、既存のルールに囚われず、自分が「面白い」「美味しい」と思うものを追求するクリエイター・植松伸夫の本質が垣間見えた瞬間だった。
そして伝説は、完成形「FF6」へと続く
楽しい時間はあっという間に過ぎ、イベントは終了の時刻を迎えた。「FF5」という作品を振り返り、植松氏は最後にこう総括した。
「前作(FF4)でハードの特性を手探りで学び、『FF5』で様々な実験をした。その積み重ねがあったからこそ、次の『FF6』があるんです」
ファミコン時代の『FF1』から『FF3』への進化と同様に、スーパーファミコン時代もまた、『4』『5』を経て『6』でひとつの完成形に到達する。植松氏は、次回のイベントで取り上げる「FF6」について、「自分にとっても特別な作品」だと語気を強めた。
「なぜかわからないけれど、開発チーム全員のエネルギーが奇跡的に凝縮していた。あんなに全力を注ぎ込めた作品はなかなかない」
実験と遊び心に満ちた「FF5」の夜を経て、次回はいよいよシリーズ最高傑作との呼び声も高い「FF6」の扉が開かれる。しかも、あまりに語ることが多すぎるため、次回は異例の「2部構成」になるという予告まで飛び出した。
実験室のような「FF5」の創作現場があったからこそ、我々はあの「FF6」の重厚なオペラや、「妖星乱舞」、そして魂を揺さぶるエンディングテーマに出会うことができたのだ。
次回、1月27日。伝説の裏側を目撃するために、我々はまたこの場所に集うことになるだろう。
また、今回のvol.4のアーカイブチケットが1月24日まで再販されている。弊誌読者のためのクーポンコードもご用意いただけたので、気になる方はぜひ視聴してみてほしい。
□「ff vol.4」アーカイブ再販ページ
※アーカイブ視聴は2月3日23時59分まで
クーポンコード:nobiyoCoffee
「ff ~植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)」vol.5、6」開催概要
開催日:vol.5 1月27日 vol.6 1月28日
開場:19:00
開演/配信開始:20:00
※詳細は今後自由が丘hyphenの公式Xなどで発表予定
【速報】
— 自由が丘 hyphen (@hyphen_TY07)January 4, 2026
ff〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)〜vol.5&vol.6開催決定!
次回は2回連続でⅥがテーマ👏
店内観覧チケット予約開始日は
vol.5 17日20時〜
vol.6 18日20時〜
を予定しております🙆♀️
時間やチケット購入方などの詳細は後日upします🙇♀️pic.twitter.com/wI2B1wxQ0h
(C)2026 hyphen ハイフン. All Rights Reserved.










































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