【特別企画】

植松伸夫氏が「FF4」のBGMを語った「ff ~植松が音楽のことを語りたがってるんですけどよろしかったでしょうか?(仮) vol.3」イベントレポート

今聞き直すと反省点ばかりのBGM!?

【「ff〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)〜」vol.3】
日時:10月25日19時
料金:YouTube(Peatix経由)1,500円

 スクウェア(現スクウェア・エニックス)より1991年7月19日にスーパーファミコン(以下、「SFC」)にて発売されたRPG「ファイナルファンタジーIV」(以下「FF4」)の音楽について、作曲家の植松伸夫氏が語るイベント「ff(フォルテッシモ) ~植松が音楽のことを語りたがってるんですけどよろしかったでしょうか?(仮) vol.3」が、10月25日に自由が丘hyphenで開催された。

 現地のチケットは発売開始から1分と経たずに完売。今回はPeatix配信チケットで配信が行われたので、その模様をお届けしよう。なお、アーカイブ配信チケットは1,500円でPeatixにて購入可能だ。100円引きとなるクーポンコードもご用意いただいたので、ぜひ視聴してみてほしい。

□アーカイブ配信チケットの購入ページ
※クーポンコード:GameWatch100

 司会進行にはこれまで同様、声優の戸塚利絵さんを迎え、ファンにとって大変に貴重なトークを聞くことができた。

 今回は3音しか鳴らせなかったファミリーコンピュータから、一気に8音に増えた「FF4」の話題へ。8音に増えたことでやれることが多くなったこともあってか、植松氏は「色々と反省点ばかり」を繰り返した。そんな「FF4」の音楽について振り返っていこう。

植松伸夫氏と戸塚利絵さん

「FF4」の音楽に多大な影響を与えた「アクトレイザー」

 まず植松氏は当時のことを「8音あったら普通に音楽が作れると思ったけれど、そこまで自由はきかなかった」と振り返った。

 社の一員として「どうやら『ファイナルファンタジー』シリーズが売れ始めているようだ」という自覚が出てきたのはこのあたりからだそうで、自信もついてきたころだったという。

 一生懸命音楽も作っていた最中、1990年12月16日にエニックスから発売されたSFC用ソフト「アクトレイザー」(作曲:古代祐三氏)の音楽を聴いて植松氏は大きなショックを受けて「FF4」の音楽を作り直した、というのは有名な話だが、ここでその詳細についても語られた。

 「アクトレイザー」の音楽を聴いて曲を作り直したというのは、正確にはサンプリングをやり直したそうで、メロディそのものを作り直したわけではないそうだ。

 植松氏は古代氏について「ロック側からきた僕とは違って、きちんと音楽を学んだ人」と評し、「だからこそ作りがしっかりしている」と述べた。

 とにかく「世の中にはすごい人がいるんだ」と思ったものの曲自体を作り直す時間はなかったため、サウンドプログラマの赤尾実氏と共に早速翌日から早朝出勤をして全部サンプリングをし直して、1週間ほどで全てのサンプリングを終え、「結果的にマシになったと思うんだけど、やっぱり今聴くと恥ずかしいね」と植松氏は照れ臭そうに笑った。

 特にファミコンのころは電子音だったのもあって比べようがなかったものの、SFCになって中途半端にリアルになった分、余計に恥ずかしいのだという。

 例えばピアノの「ド」ひとつでも、10秒サンプリングすればピアノらしい音が表現できるものの、実際には容量が足りないので0.01秒レベルでしか切り取ることができず、ではピアノでドの音を鳴らした時にどこを切り取ればピアノらしさを表現できるかなど、複雑な悩みがあったそうだ。

 また、純粋にやれることが増えた分、今度はファミコン時代の3音制限とは別の悩みが増え、制作時間もこれまで以上にかかるようになったそうだ。

 前回謎の4音目のキックドラムの話があったが、SFCからは当然ながら普通にドラムセットが使えるようになったものの、ドラムセットだけでひとつずつチャンネルを使ってしまうとそれだけで7音が埋まってしまうので、実際にはキック、スネアなどいくつかのドラムをまとめてひとつのチャンネルに、ハイハットなどをまとめてひとつのチャンネルに、とドラムセットで2音、残りの6音で和音を作るといった作り方をしていたという。

 ちなみにこれは植松氏が考案したわけではなく、多分ではあるがおおよその作曲家が同じような作り方をしていたのではないかということだ。

 また、ここから植松氏が好んで使用している分数和音について、植松氏が実際にピアノを弾きながら説明された。このあたりは興味がある人は実際に配信を見てほしいのだが、音楽理論で語れないことを植松氏は好んでやっていて、そこについては「若気の至りもあった」と植松氏は笑った。

分数和音の説明が続いた

 その分数和音の具体例として挙げられたのが、「プレリュード」と「赤い翼」。ちなみに、配信ではここでトラブルがあり数分配信が停止してしまったが、停止中は11月に開催予定のオカルトトークショーの話をしており、本筋には触れていないとのことだ。

 「赤い翼」などはオーケストラでもよく演奏されるが、オーケストレーションの段階で「ここ間違っている」と思って直されてしまっているというのだが、植松氏曰く「実は間違っているのではなく、汚い和音が正しい」とした。ただ、曲に無理がある自覚もあるようで、戸塚さんが「指揮者の栗田(博文)さんにちょっとお酒いっぱい飲ませれば(本来の譜面で)やってもらえるんじゃないですか?」と突っ込むと、会場からは大きな笑い声が上がった。

【【Video Soundtrack】赤い翼(ファイナルファンタジーIV)】

 「ボムの指輪」についても言及。「どの音を出せば気持ち悪いかを(当時)頑張って探し出した」そうだ。

 なおこのあたりの曲はきちんと作曲を学んできた人に「ここのこの音には何か意味があるんですか?」と問われるそうで、植松氏としては「ただ置きたかっただけなんですけど」としか返しようがないらしい。

 クラシックの論法でいくと決して正しくはないものの、「クラシックの考えでは正しくないのは知っていたけど、でもそんな音があってもいいじゃない」と植松氏は語った。

 他に「バロン王国」などのBGMも、コード進行の話の例に挙げられた。

 今回は音楽一曲一曲の秘話を語るというよりも、四部重ねという植松氏の音楽の作り方についてを語る内容になっており、戸塚さんも「今回、すごくタメになる授業ですね!」と興味津々の表情を浮かべていた。それは植松氏の聴いてきた音楽によるものも大きいとあって、「いずれは自分が聞いてきた音楽をみんなで語り合う会をやりたい」と植松氏は頷いた。

 今回、前半戦で4曲しか紹介していないが、それだけコード進行について植松氏が語りたいことが多かったということなのだろう。

後半戦は怒涛の勢い。植松氏は「反省点ばかり」を連発

 「オープニング」は少々不安を感じさせつつ、そこから希望のある音へとつなげている。

 そして人気曲で音楽の教科書にも載った「愛のテーマ」。これは実は「サビに行く前のハープ、間違えているんだよね」と植松氏。最後のほうがスケールから外れているのだという。「ハープだって間違えることあるよね、ということにしてしまったんです」ということだ。この32年間、誰にも指摘されたことがないと残念がる植松氏だった。「でもスケールから外れていても何も言われないんだから、音楽ってそういうもんだよね」と植松節について語った。ちなみにこの話はこれまで誰にもしたことがなく、本当にこのイベントが初出の秘話だそうだ。ちなみに「FF10」の「シーモアバトル」のオルガンソロでも同じことをしているのだという。この詳細は「FF10」がテーマの時にまた詳しく聞くことができるだろう。

【【Video Soundtrack】愛のテーマ(ファイナルファンタジーIV)】

 なお、この「愛のテーマ」について植松氏は「当時、坂口(博信)さんが突然今作は愛がテーマとか言い出したんですよ。これまでの3作にテーマとかあったっけ? みたいな感じで、聞いてないぞってなりましたね」と笑い混じりで語った。何はともあれ、それがきっかけで「愛がテーマなら音楽でもテーマを作ろう」ということになって出来上がったのが、「愛のテーマ」ということだったようだ。

 ただ残念だったのは、フルートの音程がずれているのだという。サンプリングした時にちょっとズレた音の瞬間をサンプリングしてしまったようで、植松氏も赤尾氏も当時は気づかなかったとのこと。

 ちなみに「愛のテーマ」はシナリオの時田貴司氏と流すタイミングにも非常にこだわったのだそうだ。この頃からいわゆるカットシーンと音が流れるタイミング、いわゆる「演出」部分にもこだわっていくことになったという。

 しかしそんな「愛のテーマ」にも反省点はあった、と植松氏。今思えばハープの音などはもっとこだわれた部分があったと、当時のことを振り返った。

 続けて、「街のテーマ」から「FF4」の「メインテーマ」へ。これもフルートが残念な音になっている、と植松氏はまた反省点をぽつりと零した。また「こんな忙しいアルペジオのハープはないよね」と笑った。他にも1トラックずつお披露目されることによって、完成曲として聴いている時には気づかなかった様々な音が鳴っていることがよくわかった。これはぜひ配信で確認してほしいところだ。ただ、これもサンプリングの限界があって反省点が多いそうだ。

 そして「チョコボのテーマ」については、植松氏はいつか色んな国の言葉で歌詞をつけて歌にしてみたいそうだ。「FF7リバース」で鈴木光人氏が「アタシとチョコボ」を作っていたが、子供用の歌詞で一番は日本語、二番は英語、三番はフランス語……というようなものを作るのが夢だという。だがこの話をスクエニの担当者にしたところ、あまりいい返事が返ってこなかったようなので、聞いてみたい人はぜひとも応援の声をスクエニ宛に送ってほしいところだ。

 まずはブラジル版(?)ということで、「サンバ・デ・チョコボ」も紹介された。

 次は「ダンジョン」、「幻獣の街」の幽玄系、「パロム・ポロムのテーマ」、「ミシディア国」のマリンバ系の曲が紹介された。いずれの曲も「ハープが鳴りっぱなしでもったいない」等、反省しきりの植松氏。ちなみに「ミシディア国」で鳴っている謎の「チチチホッホーゥ」という音はハイハットとベースをサンプリングしたものだという。

「ミシディア国」ではベースと太鼓だけでごはん三杯食べられるね、と植松氏は笑顔を覗かせた
【【Video Soundtrack】ミシディア国(ファイナルファンタジーIV)】

 続く「バトル2」では「いかにも自分が作りそうな曲」と零す植松氏が見られた。特にベースラインに自分の特徴が表れているという。前半では緊張感を持たせ、後半は希望を持たせる曲構成になっている、とこの曲では自信を見せた植松氏だった。

 「最後の戦い」ではどのパートも盛大になったが、その分忙しい曲になったとも振り返った。それについては思い当たる節があり、「本当はちゃんとできている音楽は音数が少なくても大丈夫だけど、音数をこれだけ多くしているのは自信のなさの表れ」と植松氏は語った。「質で勝負できない、恥ずかしいね」と当時を振り返った植松氏。

 一方で「この全部盛りが自分の専売特許になりつつある」とも述べ、特に「FF7」の「片翼の天使」などを始め、このあとも一層盛り盛りになっていく植松氏のラストバトル曲。ファンもそれを待っているとも言えるだろう。また、植松氏は「ラスボス曲って大抵1回しか聴かないでしょう、もったないよね」と残念そうに述べ、「だからある程度バトルを難しくしてもらっておいて、何度か聞くくらいでちょうどいいかなと思っている」と笑った。

【【Video Soundtrack】最後の闘い(ファイナルファンタジーIV)】

 ちなみに「エンディングテーマ」については「流そうかと思ったけど長いのでやめます」とのことだった。ただ、当時年中無休で働いていた植松氏は「FF4」のBGMを作る際についに叫びだしそうなくらいにまで悩み、「そうだ、京都に行こう」と京都に行ったことがあるという。鞍馬寺へと向かい、そこですごく感動し、東京に帰ってきて曲を書くことができた、という今でこそ笑い話にできるような驚愕の秘話を明かした。

 さらにマスターアップの日から1か月後にバリ島へ行く予定を立てていたのに、マスターアップがずれこみ、しかもバリ島にいく前日の夜にバグが出てしまい、「誰だよ、このバグだしたの!」と発狂しかけたそうだが、バグを出したのはなんと植松氏本人だったという笑い話も語った(ちなみにバリ島には無事行けたそうだ)。

 なお今回のイベントでは時間が足らず「ゴルベーザ四天王とのバトル」などの名曲について触れることができなかったということもあり、次回のイベントは12月28日21時からで題材は「FF5」で決定済みだが、「FF5」の回から前編、後編の2回構成になるか検討中とのことだ。

□Vol3.アーカイブ配信チケットの購入ページ
※クーポンコード:GameWatch100

『ff ~植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)』vol.4 開催概要

開催日:2025年12月28日(土)
開演/配信開始 21:00

※詳細は今後自由が丘hyphenの公式Xなどで発表

□自由が丘hyphenの公式X