【特別企画】

バリアフリーeスポーツを体験! JリーグのスタジアムでePARAの選手たちと「スト6」で対戦する「川崎フロンターレ×ePARA共創イベント」レポート

【川崎フロンターレ×ePARA共創イベント バリアフリーeスポーツの世界】

6月2日 開催

 バリアフリーeスポーツを提唱するePARAは、6月2日に川崎フロンターレが主催する「かわさきSDGsランドpowered by FDK」に参加し、「川崎フロンターレ×ePARA共創イベント バリアフリーeスポーツの世界」と題したイベントを実施した。

 本イベントは、ePARA所属の選手と対戦できる「『ストリートファイター6』で体験!「バリアフリーeスポーツの世界」コーナーをメイン企画として実施し、車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」のメンバーが運営スタッフとして来場者のアテンドなどを担当したほか、全盲のトラベラーがAI(chatGPT-4o)を利用して、通称「等々力迷宮」とも呼ばれる迷いやすい会場内を無事に踏破できるのかをチャレンジする企画も行われた。

 当日はJリーグの川崎フロンターレVS名古屋グランパスの試合開催日でもあり、多くの人がスタジアム周辺に足を運んでいたが、あいにくの大雨に見舞われてしまった。そこで、当初は屋外で開催予定だった「スト6」の体験コーナーは、スタジアム内のイベントスペースに移動したうえで実施された。

 以下、本稿では、ちょうど発売1周年を迎えた「スト6」を使用して行われたメイン企画の模様をお伝えしよう。

川崎フロンターレのホームスタジアム「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu」
降雨のため「ストリートファイター6」体験コーナーは急きょ、メインスタジアム内に移動したうえで実施された
「ストリートファイター6」の体験台は全3セット
ePARA所属の選手たちと対戦を楽しむフロンターレサポの皆さん

選手たちの実力と、バリアフリー対戦の楽しさを大いに実感

 「スト6」体験コーナーに登場したのはNAOYA、実里、ささだんご、真しろ(ましろ)、Jeniの5選手。会場には、ひいきのチームのユニフォームに身を包んだ、下は5歳の園児から、上は推定60代まで、老若男女を問わず多くのプレイヤーが駆け付けた。

 実は筆者、ePARAが企画した体験イベントの取材は今回で2回目となるが、前回と同様に視覚に障害がありながらも、本作の「サウンドアクセシビリティ」機能を利用して、音声情報だけを頼りに華麗に立ち回るNAOYA、実里、ささだんご、真しろの各選手たちには驚かされるばかり。筆者もリュウとガイルを使ってNAOYA選手と対戦させていただいたが、どちらもあっけなくKOされてしまった。

 Jeni選手は筋ジストロフィーのため、スティックやレバーの代わりにアゴで操作する特殊デバイスを使用してプレイする。筆者がJeni選手のプレイを見たのは今回が初めてだったが、アゴを駆使して細かく間合いを調整するテクニックに加え、機材トラブルで一部のボタンが使用できなかったにもかかわらず、勝利を重ねていく姿にも衝撃を受けた。

【イベントに参加した選手の皆さん】
NAOYA選手
真しろ(ましろ)選手
実里選手
sasadan5(ささだんご)選手
Jeni選手

 本イベントの参加者の大半は「スト6」初心者で、「サウンドアクセシビリティ」の存在を知る人が皆無だったこともあり、障害を持つ選手たちと同じ土俵で対戦ができることに誰もが驚いていた。また、筆者が何人かの参加者に遊んだ感想を聞いたところ、ほとんどの人が「面白かった。バリアフリーで楽しめることを、もっと知ってもらえたらいいと思う」と答えていた。

 ゲーム終了後は、選手やスタッフが参加者たちに積極的に声を掛け、記念撮影にも応じていた。会場には、若干ながらアウェーの名古屋サポもいたがトラブルは何も起きず、終始和やかな雰囲気に包まれていた。これもある意味、バリアフリー掲げる本イベントならではの成果だと言えるかもしれない。

ジェイミーの使い手である実里選手(左手奥)
アゴを駆使して、緻密にキャラクターを操るJeni選手(左)
キックオフが間近に迫るタイミングで、アウェーの名古屋サポも参戦していた
ゲーム終了後に記念撮影を楽しむ皆さん

絶大な効果を発揮した「ダイナミック」設定

 本イベントの参加者たちが、日々研鑽を積む選手たちとの対戦プレイを「楽しかった」と思える大きな要因になっていたのが、AIを導入した操作設定の「ダイナミック」であった。

 本作の「ダイナミック」設定は、プレイヤーが攻撃ボタンを押すだけで、AIが状況に応じて自動で判断して、最適な技を繰り出してくれる特徴を持つ。しかも単発の技だけでなく、チャンスと判断すれば強力な必殺技や連続ヒット攻撃も繰り出す、まさに初心者にはうってつけのシステムだ。

 スタッフが、参加者が初心者であることを確認すると、迷わず「ダイナミック」設定をすすめた効果は、まさにテキメン。「スト6」どころか、対戦格闘ゲーム自体が初体験でありながら、いきなり1ラウンドを取ったり、勝利を収めたりするプレイヤーもいたので、筆者はまたまた驚かされた。

 初心者でも一方的に負かされることがなく、上手な相手にも勝機を演出する「ダイナミック」は、「遊び方がよくわからないし、どうせ簡単に負けちゃうんでしょ……」などというプレイヤーの先入観を払拭し、このようなイベントに参加する際のハードルを大きく下げる効果があったのは間違いない。ここは声を大にして言いたいところだ。

スタッフが「ダイナミック」をすすめていたこともあり、いきなり選手から勝利を収める参加者もいた
「ダイナミック」の相手も苦にせず終日絶好調、連戦連勝を重ねたNAOYA選手

 ところで、今回のようなePARAの選手たちが参加する体験イベントを、なぜJリーグのホームグラウンドで開催したのだろうか?

 ePARAの細貝輝夫CMOによると、川崎フロンターレとのつながりができたのは「以前に商店街の挨拶回りをしていた川崎フロンターレの小林悠選手が、我々の仲間である脳性まひの『たけちゃん』(※)を見付けると、駆け寄って挨拶して下さり、写真撮影にも応じていただいたことがありました。その後、小林選手にぜひ再会したい、ゲームの世界で一緒に対戦したいとの思いから、川崎フロンターレさんにご相談をしたことが最初のきっかけでした」という。

※筆者注:「たけちゃん」は、足で電動車椅子やコントローラーを自在に操る「ePARAユナイテッド」に所属する選手。フロンターレの地元、川崎市在住。
(参考リンク:「川崎フロンターレ・小林悠選手からもらった”諦めない力”②【足でコントローラーを操る男・たけちゃん編】」

 「川崎フロンターレさんが『愛されて、勝つ』『地域共創』を掲げ、町の人を元気にするところに、我々も共感いたしております。『もっと多くの皆さんを笑顔にできたのではないか』と反省する点も残りましたが、今後に向けて希望の持てるイベントができたのではないかと思います」(細貝氏)

 イベント終了後、NAOYA選手は「今日は雨だっだけど、無事に開催できてよかったです。イベントに参加する皆さんの強さが、だんだん上がっていることを実感しました。今後はスーパーアーツとかラッシュコンボとか、ビッグプレイをいかに決めるのかが課題ですね。今後も、もっと多くの皆さんとコミュニケーションを取って、まず勝つことよりも『スト6』の楽しさが伝わるイベントを実施していきたいですね」と総括した。

 ちなみにJeni選手は、何と今夏アメリカで開催予定の「EVO2024」に参戦する予定とのこと。選手たちの益々の活躍にも大いに期待したいところだ。

ePARAと川崎フロンターレのスタッフの皆さん。大雨の中でのイベント開催、たいへんおつかれさまでした!