インタビュー

ウメハラ選手インタビュー。誰もが知る格闘ゲーム界のレジェンドプロゲーマー

「Beast Cup ~Tokyo~」や配信活動、伝説の試合「背水の逆転劇」の裏側についても聞いた!

4月26日 収録

会場:Red Bull Gaming Sphere Tokyo

 日本人のプロゲーマーの中で真っ先に名前が上がるであろう、"ビースト"の異名を持つ格闘ゲームのレジェンドプレーヤー・梅原大吾選手(以下、ウメハラ選手)。「ストリートファイター」シリーズや「ヴァンパイア」シリーズでその実力を世に知らしめ、今なお第一線で活躍をしている。

 近年はプレーヤーとしてだけではなく、ウメハラ選手個人で主催するeスポーツ大会「Beast Cup」や、オーディション企画「俺を獲れ」などの企画運営側として活動の場を広げている。

 そんなさまざまな活動を精力的に行っているウメハラ選手に、「EVO Japan 2024」の前日という多忙極まるタイミングながらいろいろなお話を聞くことができた。「ストリートファイターIII 3rd STRIKE(以下、3rd)」で生まれた伝説の試合、「背水の逆転劇」についても伺うことができたので、ぜひ最後まで読んでもらいたい。

日本初の格闘ゲームプロゲーマー・梅原大吾選手

運営として動く原動力は、1万人大会という目標のため

――はじめに「Beast Cup ~Tokyo~」についてお話を伺いたいのですが、大会が終わって約1カ月が経ちますが振り返ってみていかがでしょうか?

ウメハラ選手:初めてオフ(オフライン)で大会をやって、最初の1回目としては、たくさん人も来てくれたので成功かなと思いましたね。しかも「スト6」になって初めてのコミュニティオフ大会だったので、そういう意味でもきちんと開催に漕ぎ着けて、みんなに楽しかったと言ってもらえたのは大きかったですね。

――こういった大会で使用されるのは基本的にPS版だと思うんですが、今回PC版を採用していたのには何かこだわりがあったのでしょうか?

ウメハラ選手:プロが普段プレイしているのがPCなんで、普段と同じような環境で大会をやりたいっていうのはありました。ただやっぱり(全台ゲーミングPCを用意するのは)お金が掛かるという問題もあって、大会を運営する側としてはPCじゃない方がいいんですけど、自分が現役でプロでやっているので普段の環境で大会に出たいっていう気持ちはわかるんですよ。なので多少無理してでもPCの環境を揃えたというのはありましたね。

3月16日に開催された初のオンライン大会「Beast Cup ~Tokyo~」
オフライン大会では異例の全台ゲーミングPCを完備。PSと比べ遅延なども少なく、まさに最高の対戦環境が整っていた

――プレーヤー目線に立てるからこそですね。運営側はプレーヤーとはまた違った大変さがあると思いますが、そういった中で大会を開催をするというのは、ウメハラさんの中で何が原動力になっているのでしょうか?

ウメハラ選手:ゴールというか、1万人大会と謳っている大会までの道のりが、これまでオンラインやオフラインで開催している大会で、最終的に1万人――実際に1万人集まるかは置いておいて、大きなオフラインの大会をやるという目標があるんですよ。

――なるほど。1万人大会が原動力ということですね。

ウメハラ選手:ただ、それだけの人数を集めるとなると普段大会に参加しない人たちも来てくれないと実現できないので、そういった人たちが大会に参加するきっかけを作れればと。最初はオンから初めて次はオフで、ちょっとずつ(大会に)慣れていってもらうかなと。

――「ストリートファイター6(以下、スト6)」から新規ユーザーも増えていて、明日の「EVO Japan 2024」は今年から有料になったにもかかわらずエントリー数は過去最多のようです。こういった状況についてどう思われますか?

ウメハラ選手:ありがたいと思いますね。ゲームの人気もそうなんですけど、人気のストリーマーの方たちがプレイしてるとかいろいろな力を借りて今の状況があると思うので、格闘ゲームを仕事にしている自分としては安心はできないですけど、ありがたいですね。

――格闘ゲームをプレイしている身からすると、普段は格闘ゲームをやらないようなストリーマーの方が一生懸命プレイしてくれているのは嬉しいですよね。

ウメハラ選手:それは本当にありますね。

「スト6」発売当初から、人気ストリーマーとのチーム対抗戦イベントに参加してきたウメハラ選手

――「Beast Cup ~Tokyo~」に話を戻させてもらいまして、大会で気になるプレーヤーなどはいましたか?

ウメハラ選手:うーん、やっぱり上位に上がって来るのってプロだったり、そうでなくても有名なプレーヤーだったりするんで「今まで知らなかった」みたいなプレーヤーはいなかったですね。ただ、普段のTwitch配信のコメントとかで名前は知ってるけど実際に会うのは初めてみたいな人たちが結構話しかけてくれましたね。こういう人なんだっていう、そういう刺激はありました。

お馴染みのプレーヤーが勝ち上がり、決勝はプロゲーマーのもけ選手とひぐち選手がぶつかり、ひぐち選手が見事優勝を掴んだ

――それはまさにオフラインならではですね。今後の「Beast Cup」はオンラインとオフラインの両方を開催していくのですか?

ウメハラ選手:そうですね。オフラインを頻繁にやるのはスケジュール的にも、経済的にも難しいので、できる限りはやりたいですが、そうじゃないときは時間が許す限りオンラインでやっていこうと思っています。

――ウメハラ選手の中で「スト6」はプレイ以外も頑張っていくというのは前から決めていたのでしょうか?

ウメハラ選手:「Beast Cup」は「ストリートファイターⅤ(以下、ストⅤ)」の頃からやっていたんで「スト6」でもやるっていうのは当然ありました。発売直後はどう盛り上げていこうかとは考えてはいたのですが、結果としてはストリーマーイベントとかでめちゃくちゃ盛り上がって良い1年目だったと思います。

人生相談は、相談者の切実さに自分も応える

――配信活動についてですがウメハラさんはゲームプレイの他に、視聴者からの人生相談などをやられておりますが、これはどういったきっかけから始まったのでしょうか?

ウメハラ選手:半年近く前に、mondで視聴者から質問を受けて配信で答えるというのを始めたんですね。そこにカジュアルな質問も多いんですけど、人生相談みたいなのに答えていたらわんさか送られてくるようになっちゃって(笑)。

――安牌を取るならこの話題は触れない方が――というような相談にも結構答えられていますよね

ウメハラ選手:(答えている)理由としては、1つは右から左へすぐに答えられる内容ばっかりだとまず自分が飽きちゃうというか、何も頭を使わない「好きな食べ物はなんですか?」みたいなのばっかりだと飽きるし続かないですよね。ある程度考えて答えなければいけないことの方がこっちもやり甲斐をもって続けられるんですよ。あともう1つは、送ってきた人が“重い話だからスルーされた”って感じるのは嫌だなって。

――それですと、どんな内容にも答えるような形になってしまいますね。

ウメハラ選手:一応選んでるんですよ文面を見て。深刻さとか、この相談をどうしても伝えたいっていう気持ちは文章に出ますね。そういう相談に正解は無いんですが、答えるのが大変な内容であっても自分のできる範囲で考えて答えたよっていうのは伝えたいと気持ちでやっています。

――配信を拝見していますと、重い内容の相談であっても説得力のあるアンサーを出していますが、相談事には普段から乗ることも多かったのですか?

ウメハラ選手:ないですね。ただ、(昔の)ゲームセンターという場所が“ワケありな人”ばっかりだったので、ひと癖もふた癖もある人たちのデータはあるんですよ(笑)。

 あと、ゲームをあまり理解されていない時代に自分はゲームをたくさんやってきた人間なんで、そういう経験もあってか人を経歴とか仕事とかそういうので判断しない習慣というか、フラットに見れたり接することができるというのがあるので、それがもしかして聞いている側からすると良い感じに答えられてるのかもしれませんね。

 “普通と違うもの”って構えちゃうとどうしても腫れもの扱いしちゃったり、逆に上から目線になっちゃったりというのがあると思うんですけど、“環境違えば俺もこうなってた”みたいなのもあるので。とはいえ、俺がこの立場だったらどうかなーって想像するのは結構時間が掛かりますね。

――こういった相談に対して答えを出すまでにどのくらい考えられているんですか?

ウメハラ選手:内容にもよるんですけど、これは骨が折れるなっていうのになると――1日1時間考えるというのを2週間とかやってますね、1つの相談で。なので結構ヤバいですね労力が。

――しっかりとした答えが出ている理由はそこにあったんですね。

ウメハラ選手:道中を知ったら結構ビックリするくらい考えているんですよ。でもそれができるのはさっきの話に戻りますけど、丁寧に来た文章に限るんですよ。やっぱり自分の状況とか心境を正しく伝えたいいうのがわかると、こっちも「よし!」ってなるんですね。これは文章力とか頭の良し悪しじゃないんですよね。本人の切実さとかが出るんで、それに応じて自分も時間を使うという感じです。

――もはや(人生相談が)仕事の域ですね。

ウメハラ選手:そうですね。もっと軽く聞かれたら用意されている答えをパッと出して終わりだと思うんですよ。深刻な相談ってオーダーメイドというか、胸周り何センチ、胴周り何センチみたいな、この人の体系に合った服みたいな感じにやらなきゃいけないので時間は掛かりますよね。この時間をキャラ対策に使ったらだいぶ対策進むのになって(笑)。

――視聴者の相談の1つ1つに本気に向き合っているウメハラさんですが、配信の際にもっとも心掛けていることは何ですか?

ウメハラ選手:そうですね。Twitchで配信を始めたのが2016年。そこから一貫しているのは無理しないというか、基本的には自分を変えないというところですね。何事もそれをやっちゃうと続けられないかなと思うんですよ。

――配信を盛り上げてやるぞ! みたいに気負ってはやらないと。

ウメハラ選手:そうですね。自分はそうはやらないですね。

重い相談にも避ける事なく乗っていたのは、相談者の切実さが伝わったからということだった

目前に迫った「EVO Japan 2024」について

――(インタビュー時点で)「EVO Japan 2024」が明日に迫っていますが、手応えなどはいかがでしょうか?

ウメハラ選手:悪くないと思います。ただ、エドとか新しいキャラが出てきたり、ちょっとですけどキャラの調整も入ったりしてるので、得意な組み合わせが続けばいいなとは思います。まだエドは対策が不十分なんで、そこと当たると怖いなっていう不安はありますね。

――ウメハラさんにもコイツは苦手というようなキャラはいたりするんですか?

ウメハラ選手:個人的に苦手というよりは、キャラというかケンだとキツいという相手は結構いますね。

――キャラ対策が不十分というのもあると思うんですが、ウメハラさん的にエドの強さなどはどう感じますか?

ウメハラ選手:エド自体はめちゃくちゃ強いかって言うとそんなことはないと思うんですけど、だいぶ特殊なキャラで弱くもなさそうなんで完璧に対応するには時間が掛かりそうだなと。

――そうこうしている間に豪鬼が迫ってきたり対策が追いつかないですね。

ウメハラ選手:でも豪鬼は楽しみにしていますね。使いたいなと思っています。

――感触次第ではもしかしてケンから豪鬼に変えることもありえると?

ウメハラ選手:そうですね。

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あの瞬間、日本の技術が海を越えて伝わった「背水の逆転劇」

――「EVO Japan 2024」ではまさかの「3rd」がメインタイトルに選ばれていますが、昔のタイトルがメインに選ばれることについて思うことはありますか?

ウメハラ選手:良い事だとは思いますね。「ストIII」に限らず、まだプレイし続けている人たちが一定数いるのであれば「EVO」っていう大きな大会で取り上げるのは良いなと思いますね。

――400人以上がエントリーしているようで、根強い人気ですね。

ウメハラ選手:わっ、そうなんですね。まぁ「クーペレーションカップ」とかで定期的に大会があるから、大きな大会だと人が来ますよね。「EVO Japan」のメインってなったら気持ちが入るでしょうね。

――「3rd」でウメハラさんといえば、やはり「EVO 2004」での「背水の逆転劇」が有名ですが、20年経った今でも伝説の試合として語り継がれていることについて改めてどう思われますか?

ウメハラ選手:いやー、そんな気なかったんですけどね(笑)。何が残っていくのかのは本当に自分じゃわからないもんだと思いますね。あのときはその「EVO」に出て格ゲー辞めようって感じでいた大会でしたし。ジャスティンとの戦いもケンと春麗っていう組み合わせがまともにやっても厳しいから、奇をてらうじゃないですがそういう中で起きた逆転だったんで、自分からするとそういうこともあるかなーという感じでしたね。

――鳳翼扇をブロッキングするというのは事前に狙っていたのですか?

ウメハラ選手:それはないですが、まぁ鳳翼扇をブロッキングすること自体に慣れてはいました。体力をすごいリードされちゃってこれは終わったかなとさえ思ったんですけど、動き的に鳳翼扇が来そうだなって思って、最初の1段は取れるかどうかは運もあるんですけど最初さえ取っちゃえば結構練習もしていたので。しかも相手は知らないなと。当時アメリカで鳳翼扇を全段ブロッキングしている人って見たことなかったんで、多分こっちだと伝わってない技術だよなみたいな。

 プレイ動画がネットで配信されるような時代じゃなかったので絶対知らないだろうと。その時代ならではの逆転ですね。今だったら絶対に警戒してやってないだろうなと思うようなことでも、知らないとやっちゃうというか。

――そういう背景があったんですね! それは会場は湧きますね!

ウメハラ選手:そうそうそう。海を越えて技術が伝わってきたみたいな感じですね(笑)。

アメリカのプロゲーマー、ジャスティン・ウォン選手との試合。あと一撃ガードしただけでも試合が終わるという窮地の中、「背水の逆転劇」が起こった。
ジャスティン選手が操る春麗のスーパーアーツ・鳳翼扇は素早い連続蹴りを繰り出す必殺技で、その蹴りの1発1発を寸分もズレることなくウメハラ選手がジャストで受け止め、その後に最大コンボを決めて見事逆転勝利を果たした

――オンラインが当たり前の時代になって、ウメハラさんから見てプレーヤーのレベルが上がったのを感じますか?

ウメハラ選手:それはそうですよね。日本は昔から強い人が多かったなと思いますけど、さらに増えてますよね。あと何より海外ですね。自分が2003年とか2004年に「EVO」に出ていたときはほとんど海外勢には負けなかったんですよ。自分だけじゃなくて他の日本のプレーヤーも。

 レベルの差がすごかったんですよ。ゲームセンターでしかプレイできない環境だったから、ゲームセンターに集まるのに時間の掛かる海外と日本とでは環境差があったんですけど、家庭用がメインになってからその差が徐々に埋まり始めて、今じゃもう“海外勢だから”みたいな油断できるような状況じゃないですね。それは本当に変わったなと思います。

――「ストリートファイター」シリーズでいうといつごろから海外勢が脅威という認識になってきましたか?

ウメハラ選手:「ストリートファイターIV」から徐々にで、層の厚さは一貫して日本が1番なのは間違いないんですけど、トップレベルで見ると「ストⅤ」くらいから“このキャラは海外の〇〇の方が強いよね”みたいになってきたんで、「ストⅤ」から本格的になってきた感じですね。

――なるほど。現在は対策など含め、海外プレーヤーのプレイを研究されたりはしていますか?

ウメハラ選手:普段はCPT(CAPCOM PRO TOUR)以外で(海外勢と)対戦する機会がないんですけど、同じキャラを使っているAngryBird選手とかの動きは勉強してというのはありますね。

――プレーヤーとして、または企画運営側で今後やってみたい、挑戦したいことなどはありますか?

ウメハラ選手:プレーヤーとしてはやれるうちは続けていきたいというのはこれからも変わることはないんですけど、やってみたいことっていうとやっぱり今は1万人大会に向けての「Beast Cup」が目標になるのかなと。「スト6」が出るまでの期間が少し空いていたので去年はいろんな配信がやれたんですが、やっぱ「スト6」が出てからはゲーム配信メインになるので時間が空くまでしばらくは企画の配信とかは難しいですね。個人的にはただゲームプレイを配信するよりは何か企画を練って配信をする方が好きなのでやりたいですが。

昨年4月には、仙台から青森までの300kmを散歩するというウメハラ選手考案の突飛な企画も行なわれた

――最後に、「スト6」からウメハラさんや格闘ゲームに興味を持った新規のファンへ、一言いただけますでしょうか

ウメハラ選手:格闘ゲームってこれまでハードルが高かったと思うんですけど「スト6」でモダンタイプもあって、僕がやっている「Beast Cup」は初心者も出れて、そういったプレーヤーを応援するような大会なので、この機会にこれまで見るだけだった人たちもプレイしてほしいなと思います。

――ありがとうございました! 1万人大会の実現応援しております!