【特別企画】
「バテンカイトス」20周年! ゲームキューブ完全新作タイトル歴代売上3位の超名作JRPG。ぜひプレイしてほしい一作
2023年12月5日 00:00
- 【バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海】
- 2003年12月5日 発売
ナムコが2003年12月5日に発売した、ゲームキューブ用RPG「バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海」(以下、「バテンカイトス」)が、本日で発売20周年を迎えた。
「バテンカイトス」は、「ゼノブレイド」シリーズなどで知られるモノリスソフトと、「トラスティベル ~ショパンの夢~」などで知られるトライクレッシェンドが開発を手掛けたRPG作品だ。シナリオは「クロノ・トリガー」、「ゼノギアス」などで知られる加藤正人氏、音楽は桜庭統氏、キャラクターデザインは日暮央氏が担当。2023年9月には「バテンカイトスII」とセットにしたHDリマスター版「バテン・カイトス I&II HD Remaster」が発売された。
本作は、独特の世界観と「マグナス」と呼ばれるカードを活かしたバトルが特徴で、ゲームキューブ完全新作タイトルとしては歴代3位の売り上げを誇っている、名作RPGの1本だ。本稿では、そんな本作の魅力を振り返っていこう。
なお、つい先日リマスター版が発売されたばかりということもあり、極力ネタバレに触れないようにしている。これからプレイしたい人にも参考にしてもらえれば幸いだ。
プレーヤーは精霊となって主人公と共に旅をする
まずは本作のプロローグを紹介しよう。
はるか昔、人々と邪神との間で大きな戦争があり、激しい戦いの末に邪神は「エンド・マグナス」と呼ばれるカードに封印されたが、大地は邪神の血により荒れ果てた。そこで人々は大地を捨て、空で生きることとなった。
そんな話は”おとぎ話”となってしまうくらいの年月が過ぎた頃、空で生きていくべく人々の背中には「こころの翼」と呼ばれる羽が生まれ、5つの浮遊大陸の中で人々は平和に暮らしていた。しかし、科学技術を発達させて圧倒的な軍事力を得た帝国アルファルドの皇帝が、太古の邪神を封じたエンド・マグナスを我が物にしようとしていた。その企みを知ったヒロインのシェラは、皇帝を阻止するための旅に出る。
一方、主人公のカラスは、育ての親と弟を殺した仇を討つために旅をしていたが、モンスターに襲われる。やがて目覚めると、カラスに憑いている精霊――”プレーヤー”は、記憶を失っていたのだった。
このように、本作の特徴のひとつは、プレーヤーは主人公ではなく主人公に憑りついた精霊という立場なところだ。
RPGは「主人公=自分」というものが多く、主人公に感情移入しながら進めていく作品が大半だが、本作では主人公はカラスであり、プレーヤーは精霊の立場からカラスに関わっていくという、一風変わったシナリオになっている。
この「プレーヤーは精霊である」という点はシナリオで非常に重要な要素となっており、主人公がプレーヤーではないからこその、驚きで満ちたストーリーになっている。「バテンカイトス」は、RPGではほぼ見ることのできない一種の叙述トリックのような作品なのだ(※叙述トリック:読者の先入観を利用し、巧みな仕掛けを用いてミスリードへと導いていく小説技法のこと)。
「バテンカイトス」のすごいところは、文章だけではなく「ゲーム」という視覚も用いて、その叙述トリックを描き切っているところだ。視覚があるからこそ、プレーヤーはその意表を突いた展開に、なお一層驚くことになる。
ちなみに叙述トリックとは言っているが、もちろん「バテンカイトス」はミステリ作品ではない。むしろ王道RPGとも言えるだろう。しかし、本作をプレイしたことがある人ならば、筆者が本作を叙述トリック作品と位置付けるのも納得してもらえると思っている。特に中盤以降の展開は、ミステリ小説も真っ青な、驚愕の連続だ。
そんな本作のシナリオを担当しているのは、前述の通り、加藤正人氏である。加藤氏は、「クロノ・トリガー」、「クロノ・クロス」、「ゼノギアス」、「ファイナルファンタジーXI」などのシナリオを担当しているクリエイター。これらの作品を遊んだことがない人でも、タイトルの名前くらいは知っている、という人も多いのではないだろうか。
加藤氏のシナリオは非常に完成度が高いことで有名なのだが、「バテンカイトス」もシナリオが特に素晴らしく、物語を最後まで遊んだ時には深い感動に包まれることになるはずだ。
なお、筆者の「人生で遊んだRPGの中で、ナンバーワン」作品は、この「バテンカイトス」である。その理由はシナリオだけではなく、様々な要素が合わさってナンバーワンの座に就いている。だがナンバーワンの座に就いた理由の70%くらいはシナリオにあると言っても過言ではない。ただ、本作のシナリオのどこが良いのかを語ろうとすると、ミステリで犯人の名前を言われてしまうのと同じくらい興覚めしてしまうのも事実であり、とにもかくにも「遊んでほしい」としか言えないのがもどかしい。
ただ、覚えておいてほしい。「バテンカイトス」は、人生の中で数百本のゲームを遊んできた人間のナンバーワンになれる、そんなポテンシャルを秘めた作品なのだということを。20年、このゲームを抜くゲームは現れなかったことを。
カードを活かしたバトルが面白い
さて、次は本作のバトルシステムについて紹介しよう。
本作の世界では、全てが「マグナス」というカードとして存在しており、必要に応じて元の形に戻して使う、というシステムになっている。どのようなものがマグナスになっているかというと、装備品や消費アイテム、魔法など。基本的に世界に存在する全てのものが、マグナスと化しているのだ。
バトルは、そのマグナスを利用した、カードバトル「マグナスバトル」となる。
いわゆるターン制のバトルで、キャラクターごとにマグナス(デッキ)を編集しておき、デッキからランダムに引かれたカードを選択していくことによって、敵に攻撃をしていく。
カードには「精霊数」という1から9までの数字が付いていて、ポーカーと同じようにカードの番号をそろえていくことで「プライズ」と呼ばれるボーナスが発生する。
例えば、2と2でそろえれば「2 cards」のプライズが発動する、1、1、2、2、なら「2 cards 2 pairs」のプライズが発動、2、3、4、なら「3 straight」のプライズ……と言った具合だ。
序盤のうちは出せるカードの枚数が少ないので、「2 cards」や「2 straight」あたりが出せれば良い、程度になるが、ゲームが進んで最大9枚までのカードを出せるようになると、1から9までの数を順番に並べる「Final straight sunrise」(攻撃306%アップ)など、凄まじい効果を叩き出すプライズも発生するようになる。
最終的にはこのプライズの発生も考えてデッキを組んでいかなければならないのだが、このデッキ編集が実に楽しい。キャラクターごとに何十枚ものデッキを組んでいかなければならないので、最近のゲームの風潮からすると面倒ではあるのだが、じっくりと時間をかけてゲームに取り組みたい人ほどハマれるはずだ。
ちなみに「どうしてもデッキとか組むのは面倒でいや!」という人のために、リマスター版には敵を一撃でKOできる「インスタントKO」機能が搭載されている。少々邪道ではあるのだが、筆者の心のナンバーワンタイトルである「バテンカイトス」を、バトルを理由にプレイしないでいるくらいならば、ぜひ活用してでも本作を楽しんでほしい。
ゲームキューブ版では「テンポが悪い」と言われていたバトルは、リマスター版ではバトルスピードを300%まで上げられるようになった。なお筆者は本作のバトルのテンポは言われるほど悪いとは思わないので、プレイする人によって感じ方も異なるだろう。実際、リマスター版でバトルスピードを300%にしてみたのだが、早すぎて自分には全く合わず、結局100%に戻した。確かに100%だとひとつの戦闘に時間はかかるのだが、300%では制限時間内にカードを選ぶことも難しかった。ただそれは筆者が鈍臭いからなだけというのもあるので、ここは自分にあわせたスピード感で楽しんでほしい。
バトルはちょっと評判の悪い作品ではあるものの、本作の通常バトルBGM「The true mirror」は桜庭氏の楽曲の中でも評価が非常に高い一曲。この楽曲をじっくり楽しむために、まずは本作のマグナスバトルをプレイしてみてほしい(ボスバトル曲も名曲揃いである。インスタントKOはいざという時の最終手段くらいの心づもりで、バトルを楽しんでもらえれば幸いだ)。
なお、マグナスは様々な要素によって、変化するものがある。そのひとつが、「SPコンボ」と呼ばれるもので、戦闘中に特定の順番でマグナスを出すと、戦闘終了後に新しいマグナスを入手できる。
例を挙げると、「パワーメット」+「米」+「ミネラルウォーター」+「ファイアバースト」、の順番で出すと、「ごはん」を入手できる。パワーメットはお釜で、お釜に米を入れて水を注ぎ、火で炊けばごはんが炊ける、というわけだ。できあがったごはんに、「お酢」、「うちわ」を組み合わせてやれば、「寿司飯」ができる。他にも、「プリン」と「醤油」で「ウニ」になる、「離婚届」+「実印」で「手切れ金」になる、なんていう面白い組み合わせもある。
また、マグナスは時間経過で変化するものもある(何時間で変化するかはマグナスによって違う)。
例えば、食べ物系は大体が回復系のマグナスなのだが、時間経過で腐ってしまい、腐ると攻撃系のアイテムへと変化したりする。なのでゲームを遊んでいると、「さっきまで腐っていなかったのに、腐ってしまった」ということが多々ある。また、回復アイテムの「たけのこ」が時間経過によって攻撃アイテムの「青竹」に変化したことに全然気づかず、回復をしたくてたけのこを引き当てるまで探しまくるというのは、「バテンカイトス」プレーヤーの「あるある」現象だ。
筆者は本作でアイテムが腐ってしまうのが半ばトラウマになってしまい、他のゲームをプレイしていても食べ物系のアイテムを見ると「早く食べないと腐る」と思い込みがちになってしまった。これがまた、ゲーム内でも程よく忘れかけたころになって、腐るのである。
トラウマ、とは書いたが、悪い意味ではなく、「それだけ深く心に刻まれるほど印象的なシステム」だと思ってもらえれば、幸いだ。
キャラクターも独特で、ちょっと奇抜。そこが良い
「バテンカイトス」は、キャラクターのデザインや個性付けも非常に良くできている。キャラクターデザインは日暮央氏だ。
主人公のカラスのちょっと斜に構えた表情なども、主人公らしくなくてそこが非常に良い。実際カラスはちょっとひねくれた性格で、ヒロインのシェラにも渋々協力しているようなところがある。ましてやカラスは復讐に憑りつかれている上に、こころの翼が片方しかないことによっていじめられていた過去もあり、「ちょっと影のある男性」を通り越しているのだが、暗いというわけではなく、徹底的なリアリスト。
特にシェラが、「帝国の危険な野望を食い止める」という王道RPGのヒロインらしい目的意識を持っていることに対して、カラスは「何言っているんだコイツ」的なスタンスで、妙に親近感が湧くキャラクターなのだ。
そんなシェラも、別に「夢見がちで、実現不可能なことをやり遂げようとしているお嬢さん」というわけではない。むしろカラスが18歳という年相応な雰囲気があるのに対して、シェラは17歳という年齢には見合わないほどしっかりした性格。だが、シェラが何故帝国を止めようとしているのかなど、その多くは物語が進むまで明かされない。もちろん、それも物語に大きく関係しているので、シェラの正体は実際にプレイして知ってほしい。
個性あふれる性格だけではなく、筆者が特に注目してほしいのはキャラクターデザイン。独創性の高いデザインは、本作の世界観に劣ることなく、しっかりと溶け込んでいる。ちょっと主張が激しめにも思えるかもしれないが、遊んでいるうちに自然と、「この世界はこれで調和がとれているのだ」と感じられるようになるはずだ。
今からでも遅くない! ぜひプレイしてみてほしい作品
前述の通り、筆者の人生ナンバーワンに君臨し続ける「バテンカイトス」。シナリオ、バトル、キャラクター、音楽と、名作ゲームに必要などの点も、非常に高い水準のゲームだと感じている。筆者は万人が絶賛するゲームよりも、少々癖の強いゲームを好むほうではあるが、「バテンカイトス」は「最後まで遊んでもらえれば絶対に満足する」と思える内容のゲームだ。
特にリマスター版では多くの人が不満点として挙げていたバトルスピードが変更できるようになっているのもあり、より多くの人に受け入れてもらえるゲームになったのではないだろうか。ちなみに筆者もリマスター版で改めてプレイしているのだが、やはり今プレイしても非常に面白く、ついつい夢中になって遊んでしまう。ストーリー、バトル、BGMと、20年前のゲームとは思えない完成度だ。
今からでも遅くはない、「バテンカイトス」をプレイしてみてほしい。ゲームキューブ完全新作タイトル歴代3位の売り上げだった記録は、伊達ではない。20年前のゲームとは思えないくらいシステムも斬新なので、これを機に楽しんでみてもらえれば幸いだ。
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