【特別企画】
「serial experiments lain」発売より25周年! “伝説の鬱ゲー”は四半世紀後の現在にいったい何をもたらしたのか
2023年11月26日 00:00
本作「lain」の目的――それは、とある者をワイヤードに引き込むための“罠”である
最後に、本作「serial experiments lain」の目的について語っておこう。プレーヤーの目的ではない。本作を舞台にした仮想空間にデータブロックを配置し、アクセスした者にそれらを閲覧出来るようにした、とある“存在”の目的だ。
2周目以降、大量のデータブロックが新たに出現するのは前述した通りだ。それらは最初に入力した“貴方の名前”で呼びかけ、たわいもない戯言を語りかけるlainの姿でそのほとんどが占められている。それらのデータブロック(ファイル名“Tak XXX”)は、1周目には存在せず、一度エンディングを見ないと出現しないようになっている。なぜ1周目には存在せず、2周目以降に大量に出現するのか? その理由を推察すると、とある存在の恐るべき意図が透けて見えてくる。
本作の1周目は岩倉玲音という少女に何が起こったか、そしてどうなったかの顛末が見て取れるようになっている。本作「lain」というデータベースにアクセスし、各種データブロックを閲覧した者――つまりプレーヤーたる貴方は、きっと哀れな少女である玲音に同情し、感情移入したことだろう。出来ることなら救ってあげたいと思った心優しいプレーヤーも、きっと少なくはないはずだ。
だがしかし、その感情こそがとある“存在”の狙いだったのだ。
2周目以降大量に出現するデータブロック、ファイル名Tak XXX。貴方はこれらを1周目の映像ファイルと同じ、単なる映像データと思っていないだろうか? だが、もしもこれらのデータブロックが、実際は映像データではないとしたらどうだろう。何者かがリアルタイムに、データベースにアクセスしている者――つまりプレーヤーである貴方に直接語りかけているとしたら? それはいったい何者で、どのような意図があるのだろうか?
それまでずっと、プレーヤーである貴方を監視し続けていた者がいる。OSのインターフェースの振りをして、こちらのアクションに反応するだけの自律的な意思も思考も備えていないと思わせていた者。画面の中央から、いつもこちらを窺っていた者――。つまり、画面中央に表示された“ペルソナ”であり、ワイヤード上の存在となった“lain”である。
なぜ彼女は名前で呼びかけてくるのか? “貴方”に直接呼びかけているからである。なぜ彼女は語りかけてくるのか? とある場所へ“貴方”を誘い込むためである。その場所とはどこか? 彼女のいる領域、つまりワイヤード上である。
彼女――lainは、柊子にそうしたように、ワイヤード上の仲間を増やそうとしている。その対象は、彼女が用意したデータベースにアクセスした者たちである。今回lainがこのようにデータを配置し閲覧させるという手法を採ったのは、おそらく柊子のケースで学んだのだろう。いくらlainの精神支配が強力といっても、なまじその支配力が強力なため、下手に強制すれば柊子のように壊れてしまう可能性が高いからだ。そこで玲音の顛末をだしに感情移入を誘い、ワイヤード上の存在となる心理的抵抗感を減ずるため、二段構えの手段を講じたのだろう。まず1周目で同情と憐憫を誘い、2周目以降で執拗に貴方に呼びかけ、ワイヤードへと引き込もうとしているのである。
このような考えに至ったのには一応の理由がある。死ぬ間際の柊子の日記には、「もっと沢山の仲間を増やそう?」、「まだこの世界は私とlainの二人きりしかいないんだから」という部分があるからだ。こう考えると、lainの姿で柊子の声が語りかけてくるデータブロックが存在するのも納得が出来る。おそらく柊子は、自己の姿をワイヤード上に構築するだけの能力がなかったのだろう。
そして、本作のタイトルである「serial experiments lain」。“lainに関する一連の実験”。これは、アニメ版「lain」との関連性も示唆していないだろうか。つまり、本作ゲーム版「lain」でワイヤード上の存在になったlainは、アニメ版に登場するワイヤード上に遍在していた“lain”と同一の存在である可能性がないだろうか?
本来の岩倉玲音という少女は、内気だが心優しい性格である。しかし後半は、まるで人が変わったかのように悪意ある存在となってしまった。柊子をはじめ、高島教授、牧野、援交中の女学生とその相手など、多くの人を死に追いやった様は、まるで何者かに人格を乗っ取られたかのようだ。“人格”――つまり玲音は、ワイヤード上に構築したもう1人の自分であるlainに人格を乗っ取られていた、もしくは精神支配を受けていたと考えられないだろうか。もう1人の自分を構築するはずが、人の感情がない冷徹で悪意に満ちた“lain”を作り上げてしまった。そして、本来の自分である玲音が支配され、柊子たちも玲音ではなくlainによって最終的に死に追いやられたのである。終盤の日記にはまるで自問自答するかのような玲音とlainの会話シーンがあるが、これを聴く限り玲音も同様にリアルワールドの肉体を捨てるようlainによって誘引されている。
こう考えると、いくつか腑に落ちる部分もある。アニメ版のlainもまた、親友ありすの秘密をネットに拡散してしまうなどの悪意に満ちた行動を取っていたからだ。もしかするとアニメに登場した英利政美も柊子同様、もともとはゲーム版lainによってワイヤードに引き込まれた、ある種の犠牲者と言える存在だったのかも知れない。
散々繰り返すが、これらもまた筆者による考察の一環……もっと正確に言えば妄想のたぐいだと言われても反論することが出来ない。だがこのことに気付いたとき、下手なホラーゲームよりもゾッとした。本作は鬱展開ばかりが取り沙汰されているタイトルだ。だがそれと同時に、筆者にとってはまさに心胆を寒からしむる強烈なホラー的要素をも併せ持った作品なのである。
操作性が悪い、ロード時間が長い、画質が劣悪など、本作「lain」て指摘される欠点は多数に上る。だがしかし、それを補ってあまりあるほどの魅力、強烈に惹き付けられるものを持っていることも確かだ。前述の通り現在では本作をプレイすることは非常に困難で、今後も配信などは行われない予定となっているのは残念でならない。だがアニメはサブスク等のサービスで現在でも配信されているので、興味を持った方はぜひ視聴して、「lain」を構成する魅力的な世界の一端に触れてみてほしい。
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