【特別企画】
「serial experiments lain」発売より25周年! “伝説の鬱ゲー”は四半世紀後の現在にいったい何をもたらしたのか
2023年11月26日 00:00
岩倉玲音にいったい何が起きたのか? データを閲覧し真相に迫るゲーム版
さて、前置きが長くなってしまったがゲーム版「lain」について話を進めていこう。本作は前述の「NOeL NOT DiGITAL」同様、公称として“アタッチメントソフトウェア”というジャンルが付けられている。共通するのはゲームそのものをある種のインターフェースと見なし、プレーヤー自身がそれにアクセスして進行していく、という体裁を取っている点だ。本作「lain」もまた、ゲームを起動すると架空のオペレーションシステムが立ち上がり、最初に名前を入力(とある理由により、プレーヤー自身の本名を入力することを強く推奨する)、という流れになっている。通常のゲームのように、タイトル画面やゲームスタートなどのメニューは本作において存在していない。
名前の入力が終わるとゲーム本編が開始される。中央に“ペルソナ”と呼ばれる少女のアバターと、それを円筒状に取り巻くデータブロックで構成されたある種のデータベース領域が、電脳空間的なビジュアルで表されている。プレーヤーはこの空間に存在する各種データブロックを選択し、内容を閲覧していくことでゲームが進行する。
本作のヒロインは、内向的な少女である岩倉玲音。データブロックを閲覧し、彼女の11歳から14歳までの記録をたどっていく、というのが本作の主な進行の流れだ。データブロックにはいくつかの種類があり、玲音の日記である音声データや彼女の日常を映した映像データなどがある。
そしてもう1人の主人公とも言える女性、米良柊子。12歳の時に幻聴・幻覚を訴え始めた玲音を担当することになったカウンセラーであり、データブロックには彼女の日記や玲音とのカウンセリングの様子、そして玲音の経過観察を記したカルテなども含まれている。
データブロックは多数の階層に分かれて保管されており、基本的に一番低いレベル1が時系列的に最も古いデータで、上層に移動するほど未来(つまり現在)へ近づくデータが閲覧出来るようになっている。ただしその法則に当てはまらないデータブロックも存在するうえ、中には他のブロックを閲覧していないと現れないものや、最初から存在していても一定の条件を満たさないと閲覧出来ないものもある。
ゲームの趣旨はこれらのデータブロックを再生し、玲音に何が起こったのかを追体験していく、というものだ。しかし各データブロックに記録されている音声や映像は断片的なものがほとんどで、実際に何が起きたのかはプレーヤー自身が推理・推察しなければいけない。
陰惨で悲痛なストーリーが容赦なく展開! 中にはかなり過激なグロテスク描写も……?
本作はネット上で伝説級と言われるほどの暗い展開が繰り広げられる作品であり、また死体や殺害シーン、そして自殺など、耐性がない人にとってはかなりきついグロ描写が存在する。アニメ版も暗く重いストーリーが展開していたが、ゲーム版「lain」はそれの比ではない惨劇の連続となっているのだ。そんなゲーム版「lain」のストーリーは、いったいどのようなものなのだろうか? 以下でそれを解説してみよう。
登場人物
大人しく、内向的な少女。12歳の時に幻聴・幻覚を覚え、柊子の研究室へ通院することになる。しかし親友だった今日子と仲が悪化し、それを機にいじめを受けるようになり不登校になってしまう。そして通信学習のため父親から与えられたNAVIを使いこなすうち、やがて卓越したネットワーク技術やプログラミング知識を身につけ、柊子のNAVIをクラッキングしデータを改ざんするようにまでなっていく。
玲音を担当するカウンセラー。まだまだ新人で、上司の高島教授からは雑用ばかり押しつけられていつまで経ってもクライアント(≒患者)を担当させてもらえないことに鬱憤がたまっていた。親身になって玲音と接していくが、職場でのストレスや大学院時代から付き合っていた恋人に振られるなどのことが原因で徐々に心を病んでいき、ついには精神が崩壊してしまう。
玲音の小学校時代の親友。明るく活発で玲音とは正反対の性格をしているが、不思議とウマは合っていたようだ。しかし彼女が好意を寄せていた男の子“トモくん”がどうやら玲音を好きらしいことを知り、険悪な仲になる。また女子グループのリーダー的存在だったこともあり、このことがきっかけで玲音へのいじめが始まってしまう。
玲音が中学へ入学してから仲良くなった女の子。物静かだが明るく、絵画やバイオリンの才能がある多才な少女。しかしコンクールに出展予定だった絵が盗作疑惑を受けて学校に来なくなり、やがて玲音に何も言わずに転校してしまう。
ストーリー
物語はヒロイン・玲音が幻聴・幻覚を訴えたために橘総合研究所を訪れ、新人カウンセラー柊子のクライアントになるところから始まる。カウンセリングは一定の功を奏し、徐々に玲音は明るさを取り戻していくが、とあることがきっかけで親友の今日子に嫌われてしまい、不登校となる。中学への入学とともに再び登校出来るようになり、たまたま隣の席だった少女・美里と仲良くなる。
しかし美里が絵画コンクールのために描いた絵がとある作品の盗作だという疑惑を受け、それきり連絡が取れないまま美里は転校してしまう。またしても独りになった玲音は再び不登校になり、自室に籠もってひたすらプログラミングと精神医学の習得に没頭するようになる。小学校時代に続いて再び玲音が不登校になったことで両親の仲は悪化し、離婚。父親は失踪し、母親は酒浸りに。そして最終的には母親も玲音を捨てて蒸発する。
同じ頃、柊子は長年付き合ってきた恋人・武志が何も告げずに自分以外の女性と結婚することを知り、絶望感に苛まれる。なんとか立ち直るが、新しく出来た恋人である吉田からは怪しげな健康器具の被験者にされた挙げ句、またもや捨てられてしまう。このこともあり柊子は徐々に精神を病んでいく。
一方で玲音はプログラミングと精神医学を貪欲に学び、もはや柊子と同レベルの医学知識までも身に付けていた。その結果、まるで玲音がカウンセラー、精神的に弱った柊子がそのクライアントであるかのような立場へと逆転する。そして玲音は、記憶とは記録であり意識とは思考ルーティンの連続であると見做し、それさえあれば人は生きていると言えるとの思想のもと、ワイヤード上に自己のデータを移しもう1人の“lain”を構築してしまう。最終的に柊子は玲音の精神支配のもと自殺し、玲音もまたワイヤード上の存在と一体となるため、自ら命を絶ってしまう。
そして物語は、ワイヤード上の存在となった“lain”がこのデータベースにアクセスしている人物、本作のプレーヤーである“貴方”に語りかけてエンディングを迎える。
……以上がゲーム版「serial experiments lain」のストーリーのあらましである。ヒロインである玲音が自殺するという、多くのプレーヤーにとって最も望まないであろう痛ましい結末を迎える。だがしかし、この悲惨な結末だけをもって本作が“伝説の鬱ゲー”である所以とはならない。物語はここで終わりではない。むしろ、ここからが本作の真実に迫る展開への始まりとなっている。