【特別企画】

AMD最新CPU/GPUから見えてくる次世代ゲームコンソール性能

“2020年はゲーマーの年”。新製品に込められたゲーマーへの熱いメッセージ

 Ryzenの成功で勢いに乗るAMDは今年も強気だ。CES2020では、新たにノートPC向けAPUのRyzen 4000シリーズの投入を発表すると共に、GPU製品のRadeon RX5000シリーズにデスクトップ向けの5600と5700、ノートPC向けの5600Mと5700Mを投入すると発表した。加えて、ハイエンドCPUには、世界初の64コア128スレッドプロセッサであるRyzen Threadripper 3990Xをも投入する。

 “2020年はゲーマーの年”とシンプルでキャッチーなキーワードで訴求するAMDは、CPUとGPU双方のハードウェア製品、そして標準規格の策定やソフトウェアに到るまで総合的にゲーマーに提供する唯一のメーカーだと主張する。

 本稿では、CESでの発表を踏まえて、AMD製品を導入すればPCゲーマーはどれだけ幸せになれるのか、そしてAMDのAPUを採用する次世代ゲームコンソールのプロセッサ性能を予測して今年一年のゲーミングライフに備えることにしたい。

今年はNVIDIAのJensen Huang氏の登壇がなかったせいかAMDのCEOのLisa Su氏も革ジャンで対抗することなく落ち着いたスーツ姿

PCゲーマー朗報!! 選択肢が出揃ったAMDプロセッサ

 まずはプロセッサから見ていこう。かねてからの同社のロードマップ通り、AMDはCPU/APU/GPU製品を発表した。どれも重要度は甲乙つけがたいが、強いていうならノートPC向けAPU「Ryzen 4000」の存在が光る。

 これまでZen2世代には、ノートPC向けプロセッサのラインが存在せず、Zen+のRyzen 7 3780UがハイエンドとIntelに対して分が悪かった。それを今回7つの異なるプロセッサを発表して一気にラインナップを拡充した。発表会でAMDがベンチマーク結果と共に紹介してイチ推しにしていたのはRyzen 7 4800Uと4800Hだが、筆者はゲーム向きにはRyzen 5 4600Hを推したい。

 すべてのプロセッサのベンチマーク結果を見たわけでも、価格が未定であることからコストパフォーマンスを計算したわけでもないが、4コア2.1GHzのRyzen 5 3550Hから6コア3.0Hzの4600Hへのアップグレードの場合、コア(スレッド)数もクロック数も1.5倍となり、十分にパフォーマンスの向上が体感できるとにらんでいる。また、3550Hを搭載しGPUにGTX1650を搭載するゲーミングノートPCが10万円を大きく下回る価格帯でリリースされていたことから、同じミドルハイの4600Hなら同様の価格帯か、多少値段が上がったとしても10万円前後の価格に着地しそうだ。

Ryzen 7 4000UのCPUダイと同CPUを掲げるLisa氏

 デスクトップでも好調を持続するZen2世代のRyzenのモバイル版がついに登場したということで、Zen+世代以上に採用するノートPCメーカーが増えるだろう。そこで、ここぞとばかりにRyzen同様の方法論で、GPU製品のRadeon RXに対してもモバイル版の5600M/5700Mを投入してきた。今般、デスクトップ向けに5500シリーズと5700シリーズの隙間を埋める売れ筋の製品として、5600シリーズにRX 5600 XTを299ドルとNVIDIAのRTX 2060 Superと比較して120ドルも安い価格で1月21日に早くも投入するが、そんな話が霞んでしまうくらいZen2世代のCPUとNavi世代のGPUのモバイル版が揃い踏み、というのは大きなインパクトがある。

【Radeon RX 5000シリーズ】

 新しいノートPCの購入に際して、外部GPUなしのエントリーモデルはゲーマーなら考慮しなくていいとして、AMDのGPU Radeon RX 5600M/5700Mを搭載するモデルとNVIDIAのGPU RTX 2060のモバイル低クロック版を搭載するゲーミングモデルが検討対象となる。従来型のスキャンラインでも十分高美しいと感じ、RTXのもたらすレイトレーシングに大きな魅力を感じないなら、RTコアがなく回路がシンプルな分RTX2060より価格が抑えらているであろうRX 5600M/5700Mで何の問題もない。

 OEM組み込み用の販売はもともとAMDの得意とするところで、大口のPCメーカー向けにRyzen CPUとRX 5600M/5700M GPUのセットならさらに価格を下げるという販売手法が採られることだろう。こういったカードを切れるのはAMDだけで、GPUを持たないIntelやCPUを持たないNVIDIAには真似ができない。レイトレーシング以外で少なくともNVIDIAのGPUに対してスペック的に目立って劣るところがなければ、PCメーカーもAMDの提案を拒む理由はない。

 2020年のCESでNVIDIAは最新GPU製品の発表を行なわなかったから、NVIDIAのノートPC向けGPU製品は1年前のCES2019で発表したRTX2060ということになる。デスクトップ向けではRTX2070/RTX2080の販売がSuperの登場とともにすでに昨年7月に販売終了しているほどで、ノートPC向けRTX2070/RTX2080にも何らかのテコ入れを行なわない限り、最新GPUとしてうたえるような新規性はまったくない。もっとも技術的な新規性に乏しいのはAMDも同様で、ことデスクチップ向けGPU製品に関しては今年はリリースサイクルの谷間の不作の年ということになりそうだ。

【Radeon RX 5000シリーズ紹介とパフォーマンス比較】

 かたやハイエンドデスクトップ向けのCPU、Ryzen Threadripper 3990Xは世界初64コア128スレッドCPUと、初物としてのインパクトは上々だ。Ryzen9 3950Xの投入が昨年11月にずれ込んで、Ryzen Threadripper 3960X、同3970Xと同時発売となった結果、世界初の16コア、24コア、32コアが揃い踏みという、もう何だか良くわからない、これでもかというコア数の引き上げを経験してまだその興奮が冷めやらぬうちに、今度は3970Xの2倍の64コアだというのだから素直に驚くしかない。

 ただしその実現の方法は、チップレットを2倍に増やしました、とシンプルなものだから、3990Xの開発負荷は軽く登場時期が早いのも当然だ。AMDにはこの方法論で、まだまだひとつのCPUユニットあたりの性能向上をやる余地がある。

Threadripper 3990XのCPUダイと同CPUを掲げるLisa氏。そのパッケージサイズの大きさに圧倒される

 少し気になるのは最大パフォーマンスに影響するクロック数がベース2.9GHz、ブースト時4.3GHzと24コア、32コアのThreadripperと比較して20%程度抑えられていることだ。リーク電流とそれに伴う発熱を抑制するため、という意味合いもあるだろうが、280Wに達してしまっているTDPがネックになっているのも要因だろう。

 NVIDIAのGeForce RTX 2080のTDPが215、Titan RTXのTDPがThreadripper 3990Xと同じ280だから、これらの組み合わせだとピーク時に電源が700Wあっても足りないことになる。ハードコアゲーマーなら1000Wクラスの電源を搭載するマシンというのもアリだろうが、日本のご家庭でひとつのブレーカー系統は1.5KVAつまり1500Wまで、電源タップによっては安全マージンをとって1.2KVAとしているものもあるため、いよいよピーク時は限界点に達しようという勢いだ。ハイエンドなモンスターマシンを計画しているハードコアゲーマー諸氏にはくれぐれもタコ足配線には留意していただきたい。

AMD製品とそれぞれの現況まとめ

 話を元に戻すと、このクロック抑制が仇となって、Threadripper 3990Xのパフォーマンスは3970Xの2倍には至らない。会場のスクリーンに表示されたゲージは、イメージ的な演出としては興味を引いて面白いが、冷静にみてみると本来あるべき姿の2倍から20%ほど短い低いことが分かる。これはクロック数の抑制量とおおむね一致するから、この方向でリニアに性能を伸ばすのには早くも無理が生じ始めている。冷却の強化でTDPの引き上げを許容して96コア、そして128コアと進むことが予想されるが、コア数増加による性能向上は次第に頭打ちになる。

 その一方で、Threadripperのラインナップが出揃ったところで縦覧してみると、24コアの3960Xがコア対性能比で良好なことが分かる。参考価格もUSで1,399ドル、日本で164,800円とかなり高価ではあるがハードコアゲーマーなら検討できないほどでもないだろう。価格のこなれる半年後を視野に貯金するのもいいかもしれない。

 もう少し手頃なCPUとしてはRyzen 9 3950Xがある。こちらの参考価格も89,800円と高価には違いないが、こちらの方がコストパフォーマンスは良い。今回発表されたThreadripper製品ではないが、お値打ちデスクトップPCを求めるマイルドコアゲーマーなら12コアのRyzen 9 3900Xか16コアの3950Xの方が賢い選択と言えそうだ。

Zen2世代ハイエンド製品のパフォーマンス比較。最上段がThreadripper 3990Xのパフォーマンスを示すゲージで会場スクリーン3枚を横断させて凄さを表現

 昨年のE3の段階でゲーマーに向けて披露したとおり、2019年に7nmプロセスルールのZen2アーキテクチャに進んでからは、対Intelプロセッサに対してリードを広げている。ソフトウェアの処理内容や最適化の度合いによってはIntelに分があるものもあるが、AMDプロセッサのコストパフォーマンスの高さは秀逸で概ね良好な結果をもたらしてくれる。Zen1世代からZen+を経てZen2世代へと改良の歴史を積み重ねながら、次第にAMDプロセッサを搭載するPC製品が拡大した結果、Ryzenブランドは低価格高性能の代名詞として幅広い層のゲーマーに認知されるようになった。Intelブランドの熱狂的なファンでもない限り、デスクトップ向け製品でAMD Ryzenを選択しない理由はないと言っていいだろう。

世界最薄最軽量のLenovo YOGA SLIM7を掲げるLisa氏

発表間近!?カウントダウンに入った次世代ゲームコンソール

 さて、今回のAMDの発表がノートPC向けAPUの発表であったことから、次世代ゲームコンソールのAPUの予測はかなりやりやすくなった。昨年のE3に合わせて行なわれたAMDの発表会の模様をお伝えした際に、筆者はRyzen5 3600Xの4コア版もしくはRyzen 3 3200GのGPU Navi版と予測したが、Ryzen 3 4300UのCPU部分がそれに近い。

 というわけで、次世代コンソールゲーム機APUのCPUチップレット部分はRyzen 3 4300Uを下限、Ryzen 5 4600Hを上限としたコア数4~6(スレッド数8~12)、クロック数2.7~3.0GHz(ブースト時3.7~4.0GHz)の範囲に納まると予想する。キャッシュ構成は、L1が32KiB/コア、L2が512KiB/コア、L3が8MiBと4コアだった場合L3がやや贅沢な仕様になるだろう。もっともデスクトップ版にはL3キャッシュがもっと潤沢に搭載されているため、8MiBだったとしてもそう不釣合いではない。

ゲーミングを取り巻く現況を紹介するとともにAMDが支持されていることをアピール

 対してGPU側のチップレットには、E3 2019時点の予想ではRadeon RX 5700としていたが、今般の発表を踏まえズバリRX 5700Mのスペックと予想する。ポイントはVRAM側で、上位機種と同じ256ビットDDR6を8GB搭載というRX 5700Mの仕様を堅持してほしい。GPUをデスクトップ製品のRX 5700ではなく、モバイル製品のRX 5700Mだとする理由はひとえにTDPだ。ノートPCより筐体にゆとりがありクーリングにさほどシビアではないとしても、伝統的に電子機器というより玩具として認識されがちなゲームコンソールの方が設置環境的に厳しい場面も多い。冷却ファンのの故障や、それに引き続く熱によるGPUのダメージを考慮すると、少しでも発熱量が少ない方がいい。この辺りは、パフォーマンスを犠牲にしてでも発熱を抑えるようにチューニングされたノートPC用GPUの方がコンソールゲーム機のニーズに近い。

 RX 5700のひとつ下のグレードにはRX 5600 XTが控えている。RX 5700とRX 5600 XTはGPUコアは同一でクロック数とVRAMの量、転送帯域幅が異なるだけだ。RX 5600 XTは歩留まりを上げるための選別と、商品差別化のためのユニット無効化の産物だろうから、製造工程は同一で本来ならGPUコアの製造コストは変わらないと思われる。VRAMに費用を割いた分、同時にコストダウンが必要だというなら、GPUコアはRX 5600 XT相当としてコストを抑える手もある。高価なVRAMを採用してでもピクセルフィルレートを稼ぐ方がゲームには向いている。

GPUとCPUの接続を改良してスループットを向上させるAMDの新しいSmartShiftテクノロジ。PS5やXbox series XのAPU内インターコネクトやメモリとの接続にも同様のテクニックが活用されると推測される

 RX 5700Mの性能はモバイル版のRTX 2070からRTX 2080に相当する性能とされていることから、次世代コンソールゲーム機にふさわしい十分に高性能なGPUであることが分かる。RDNA2のRTコア性能はまったくわからないが、これらのNVIDIA製品に真っ向から対抗すべく開発されていることは想像に難くない。とするとRTコアの性能は、6Bレイ/秒、42OPS/秒がひとつの目安となる。RTX2070相当なら1080pはもとより1440pや4Kといった解像度でさえ、60FPSかそれに迫るフレームレートを叩き出すことができるだろう。仮にフレームレートが低下したとしても、VRRがあるため画面が大きく破綻することはなく、著しい低下がない限りゲームソフトウェア側で特段に意識する必要はない。

 AMDにとって未知の領域であるこのRTコアに関しては、NVIDIAのGPUのイメージからRTコアをGPUと同一ダイに形成するイメージを漠然と思い浮かべていたが、ことAMDのプロセッサに関してはこの考えが当てはまらない可能性もある。RTコアを単体のチップレットとしてGPU、そしてCPUとも高速なインターコネクトで接続するというアーキテクチャも十分に考えられる。

次世代コンソールゲーム機を占うAPU Ryzen 4000シリーズの紹介と性能情報

 気になる詳細スペックの発表タイミングは、PS5、Xbox series XともにE3前後の6月頃になる線が濃厚だ。GDCやComputex2020で、ちょっとした追加情報が出る可能性がないわけではないが、CESでめぼしい追加情報がなかったことから、発表のXデーまでこのまま箝口令が敷かれた状態が継続するに違いない。

 いずれにしても2020年の年末商戦前にリリースとなると、製造のリードタイムを考慮すると遅くとも夏の終わりから秋口にはAPUの量産を始めていなければならない。そこから逆算していくと、テスト製造は5月か6月には実施されることだろう。

 物理的な試作品が完成するとチップや実機のお披露目が可能になるから、やはりE3前後が濃厚ということになる。ゲームコンソールの場合、AMDが単独でComputexで先行して公開するということはないはずだ。それでもXbox series Xなら、MicrosoftとAMDが共同歩調をとってComputexで発表することがありえなくもない。ただしその場合でも情報は限定的だろう。あくまで本命は6月だ。

SIEやMicrosoftの次世代コンソール情報のビデオコメントを上映する一幕もあったが新情報の公開はなし

 ところでこの世の春を謳歌する現在のRyzenの繁栄は本物だろうか。思い返せば、32ビットから64ビットCPUへの大きな移行期に、AMDの策定した仕様をIntelが採用するという互換の“逆転”が起きている。この段階から、どちらがオリジナルでどちらが互換品かを語るのはナンセンスだった。

 以降、継続的に互いに不足する命令を次の世代へと移行する際に解消する努力が繰り返されており、ごく細かい部分の互換性が一時的に低下することはあっても、ハードウェアの差異はOSやドライバやAPIのレベルで吸収されるため、ゲームなどのアプリケーションレベルで両社のCPUの違いを意識する必要など32ビット時代を含めてなかったはずだ。より高いレベルでの最適化を行う際にローレベルなコードを書く開発者はいるかもしれないが、ゲームの場合そうした最適化要求はGPUに対しての方がずっと大きかった。

 オリジナルを至上とする意識と、たとえ法的になんら他者の権利を侵すものでない互換品だとしてもつきまとう二級品のイメージから、ハンデを負うAMDはブランド力を向上させることに苦労し、過去には倒産の危機すら経験してきたが、ここにきてついに実力でIntelをキャッチアップした。

AMDでゲーミングソリューションのチーフアーキテクトを務めるFrank Azor氏。ASUSのROG ZEPHYRUS G14を紹介

Frank Azor氏はDELLのG5 SEも紹介しAMD製品だけで構成されるゲーミングPCの優位性をアピール、価格は799ドルからと手頃だ

 そんなAMDにも弱点はある。CPUとGPUの双方を有するオンリーワンというものの、好調なCPUとは裏腹にGPU製品においては次の一手が打てないでいる。NVIDIAに追従するはずのAIコアの実装についてはRDNA2というキーワード以外続報がない。RDNA2搭載APUがPS5へ搭載されることが発表されていることから待った無しの状況にも関わらず、その姿はいまだ見えてこない。

 すでにAMDはRaja氏とそのチームを失っており、Navi世代の次の一手としてRTコアの搭載するまではいいとして、その次の一手としてゲーマーに何を提示できるのか予想がつかない。長い我慢の二番手戦略がGPUでも続いていると考えればNVIDAをトレースし続けるのは予定調和かもしれないが、ATI時代から通算するとあまりにも長い間雌伏の時代が続きすぎている。たしかにコンソールゲーム機向けAPUではNVIDIAに圧勝しているが、PCでは完敗でシェアを落とし続けている。APUイコール、SoCと捉えれば、組み込み機器へのインストールベースでQualcommにも太刀打ちできない。いっそこの際原点に立ち返って独自アーキテクチャの自社製品開発をキャンセルして、NVIDIAとライセンス契約を結び同一コードが走るNVIDIA互換GPUを開発すればいいとさえ思う。これならIntelに追いつけ追い越せで走り続けてきたAMDの成功体験が活かせることもあるのではないか。

 とにもかくにも、栄枯盛衰、盛者必衰を繰り返してきたAMDには、CPUで得た利益をGPUにも投資して、今一度競争になる市場を蘇らせてほしいものだ。過去の教訓を決して忘れずに、現在の隆盛からさらに飛躍すべく、ユーザーが求める製品を投入しつづけてもらいたい。

AMDがプロセッサの総合メーカーとしてオンリーワンの地位にいることを改めて宣言した