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RADEON RX最新GPUで占う次世代コンソール機
RyzenでPC市場シェアを挽回したAMDはGPU市場でも巻き返しなるか
2019年6月12日 21:14
AMDは、6月10日(現地時間)、米ロサンゼルスにて開催中のE3にあわせて、ゲーマー向けに新製品を披露するイベント「Next Horizon Gaming」を開催した。
イベントには、例によって同社CEO、Lisa Su氏が登壇して、ゲストを次々とステージに招き入れる形式で進行した。本イベントで発表された製品は、既報の通り、GPUファミリ製品の「RADEON RX 5700/XT」で、AMD創立50周年モデル「RADEON RX 5700XT 50TH ANNIVERSARY EDITION」を加えた3製品が7月7日に発売される。
さらにCPU「Ryzen」ファミリ製品では、世界初の16コアCPUとなる「Ryzen9 3950X」を本年9月に投入することが明かされた。なお、5月にComputex2019で発表された第3世代「Ryzen」CPUファミリ製品についても、改めてそれぞれの価格と7月7日の発売について触れていた。
本稿では、これらのAMDの最新CPU、GPUの特徴を紹介するとともに、ゲーマーのゲーム体験に対して、どのように寄与するかをまとめていきたい。さらには、未だ詳細が明らかになっていないソニーの次世代プレイステーションと、E3 2019でキーフィーチャーが明らかになったマイクロソフトの次世代機「Project Scarlett」のスペックについても、本発表を踏まえた考察を加えてみたい。
Naviアーキテクチャでゲーミングに回帰した新GPU製品
イベント冒頭でAMDの現況をダイジェストした後、Su氏がまず先にアピールしたのは、第3世代CPU「Ryzen」新製品の方だ。半年前のCES2019の段階ではプレビューとして発表されていたものが、順当に製品化され、5月のComputexで発表されていたものを、米国のユーザー向けに改めて披露した格好だ。
今般の訴求ポイントはシンプルで、IntelのCPUに対し半分の価格で同等の性能が得られるというものだ。低価格を実現している要因は、比較的製造コストが低廉であることによると考えられる。Intelが10nmプロセスルールでの製造に苦戦し、デスクトップ製品が14nm++に留まっている一方、AMDは順調な歩留まりを実現しているとしている。たとえ、14nmプロセスと比較して半分の歩留まりだったとしても、高密度化と、同一パッケージに複数のダイをまとめるスケーラブルなZen2アーキテクチャによるコストダウンが優っていれば、十分価格勝負に持ち込める。
事実、実際のゲームを用いてのベンチマークでは、「Core i9 9900K」と「Ryzen9 3900X」や、「Core i7 9700K」と「Ryzen7 3800X」との勝負において、ほぼ同等のフレームレートを実現している。さらに、ゲームストリーミングについては、AMD側が圧倒的に優位で、Youtube Viewerを通じてのゲームストリーミングの場合、その差は比較にならないほどだ。
個々のゲームソフトウェア側におけるそれぞれのCPUに向けた最適化の度合いによって、多少の変動があるとしても、価格差を考慮すれば、現世代のAMD「Ryzen」CPUは大いに魅力的だ。
ふたつ目の訴求は、本イベントの目玉、NaviアーキテクチャのGPU製品「RADEON RX 5700/XT」とXTの50周年エディションだ。プロセッサの製造アーキテクチャを示すNAVIとは別に、RDNAというGPU内部ユニットを構成するマイクロアーキテクチャを指し示すキーワードが登場している。
ゲーミングに特化したというRDNAによって、従来のGCNマイクロアーキテクチャと比較して、クロックあたりのパフォーマンスが1.25倍、消費電力量あたりのパフォーマンスが1.5倍としており、これはゲーム用途に向けた最適化の成果と言えるだろう。
ところが、約2年前に同一価格帯でリリースされたVegaアーキテクチャの製品「Radeon RX Vega 56/64」とカタログスペックを比較すると、演算性能の指標であるFLOPSを比較すると30%程度低下している。また、マイクロアーキテクチャの変更により各演算ユニットの数量は単純に比較できないものの、US(ユニファイドシェーダ)もCU(コンピュートユニット)も搭載数量は減少している。
にもかかわらず、パフォーマンスが向上した、としているのは、RDNAのウリであるストリームドグラフィックスパイプラインによってもたらされている。加えて、コンピュートユニットの再設計によって実行効率のよい動作モードが搭載されたこと、GPUキャッシュの多段化によるキャッシュヒット率の向上もあり、ゲームによってはさらにパフォーマンスの向上が見込める。
ゲームの場合、GPGPU的な使い方は限定的で、GPUの本分は、まさに画面に3Dグラフィックスを描画することにあるから、Vega(CGN)と異なり、Navi(RDNA)の方向性は、完全にゲームの方向を向いたものだ。本イベントでは、いくつかの代表的なゲームにおいて、競合するNVIDIAのGPU「Geforce RTX2060/2070」との比較で、優位性があることを示すベンチマーク結果が公表されていた。
ゲーマーに朗報!!入力遅延を低減する新技術
ゲーマーにとって関心の深い発表内容が、ソフトウェア技術の方にもある。ひとつは、「RADEON ANTI-LAG」テクノロジで、GCN以降の単体ビデオカード、つまり「RADEON HD7000」シリーズ以降なら恩恵を受けることになる。
シューター等の即応性がゲームの勝敗に大きな影響を及ぼすゲームでは、インプットデバイスからの入力内容が画面に反映されるまでの遅延はナーバスな問題だ。この遅延を低減するのが「RADEON ANTI-LAG」で従来比で30%低減できる。手元の概要資料によると、CPU側での入力の検知からゲームロジックの処理を経てGPU側にコマンドを送り、GPU側が描画を開始するまでの間隔を最小化するイメージ図が記載されている。
このイメージを元に詳細を推測してみると、ゲーム側で意識しなくても良いようにゲームアプリケーション側を騙して、いつでも描画に対する命令を受け付け、描画途中のフレームを破棄してでも現在表示中の次のフレームに反映させるような仕組みではないかと思われる。
その際、次に表示すべきフレーム内容が用意できていないと画面が破綻するわけだが、Freesyncならリフレッシュをサスペンドしておけばいいし、そうでなくても、現在のフレームをもう一度描画して間に合わせることもできるだろう。このあたりの制御をドライバレベルのソフトウェアでスマートに処理するような実装ではないだろうか。
もうひとつの新ソフトウェア技術は、「AMD Fidelity FX」で、ポストエフェクトとして実装される。内容は、そう難しい話ではなく、画面のコントラストに応じたシャープネスを施すことで、画面の解像感を向上させる仕組みだ。
通常、画面をシャープにするということと、ジャギー低減のためにおおよそすべてのゲームが何らかの形で実装しているアンチエイリアスとはお互いに喧嘩をしてしまう。このあたりを絶妙なさじ加減で首尾よくやってくれるというのが「Fidelity FX」のいいところだ。AMDによると、このエフェクトの処理負荷は非常に小さく、オプションで高解像度ディスプレイ向けにアップサンプリングする機能も有している。特にGPU世代による制限はないようだが、NaviとVega世代のGPUでベストな状態が得られる。
実際のデモを見る限り、ハイコントラストでソリッドな印象のゲームには向いているように感じられた。ただ、一般的な日本人は、ソフトな絵作りを好む傾向があるため、アンチエイリアシングの結果として、やや軟調になってしまった画面の方が良いと感じるかもしれない。このあたりは、好みによって判断の分かれるところだ。
新製品から占う次世代コンソールハードの行方
5月にマーク・サーニー氏が明かしたPS5の情報とMicrosoftがE3にあわせて公開した情報、そして本イベントでAMDが認めたことから、いずれの次世代機も、APUにはAMDの製品が搭載されることが確定的になった。いずれもZen2/Navi世代のAPUが搭載されるわけで、今一度そのスペックについて考察してみたい。
現時点で1番の疑問点は、「RADEON RX5700/XT」にレイトレーシングをアクセラレートするRTコアが搭載されていないことだ。AMDの資料によると、RTコアの搭載は、次世代のRDNA2で搭載されるようだ。これで一応、コンソールハードメーカーが公表している内容と矛盾はなくなったわけだが、2019年も下半期目前の今にいたって、PC向け製品にRTコアが搭載されたものが存在しないというのは、なかなか厳しい状況に思える。
2020年が予想されている両コンソール機のリリースにギリギリでも間に合うようにやるのだろうが、搭載されるRTコアは第2世代、第3世代というわけにはいかず、第1世代のものになってしまうだろう。枯れた実装とすることができないばかりか、安定供給の問題や、高コストになってしまう可能性がある。ひいては次世代機の価格が予想より高価になってしまい、市場の立ち上がりに悪影響を及ぼす可能性がある。
メモリに関しても、GDDR6の採用となったため、性能的には一歩後退した感がある。ただし、キャッシュの多段化によるパフォーマンス向上や、GDDR6にはコストが安いというメリットもあるため、コスト重視のコンソール機には妥当な解が導き出されたということもできる。APU内のGPUダイは、RX5700相当にRTコアを加えたものになるということで、ほぼ間違いないのではないだろうか。
ダイサイズに制約があるなら、演算ユニットが削減されて、空いたスペースにRTを搭載という可能性はあるが、それでも半減ということはなく20%~30%程度の削減に留まるだろう。両ハードの味付けの違いとしては、VRAMの量や、RTコアとRDNA2コアの比率ということになるだろう。
ちなみにマイクロソフトの次世代機にはGDDR6の搭載が挙げられていることから、これをVRAMと考えると、この部分も符合する。画面出力に関する8K、120FPSのフィーチャーは同時に実現できるものとは思えない。8K解像度で最大30FPS、4K解像度で最大120FPS、いずれもVRR(可変リフレッシュレート)に対応ということなら現実的だ。HDRを有効にすれば、さらに解像度なり、フレームレートなりが犠牲になる。こういったあたりが現状のディスプレイ出力の制約から考えられる。
一方のCPUにおいては、いかにマルチスレッドが一般的になってきたとはいえ、伝統的にコア数を増やして並列化をするより、コア数は少なくても高クロックにする方が、ずっとニーズは大きいだろう。「Ryzen5 3600X」の4コア版というか「Ryzen 3 3200G」のGPUコアがNaviに変更されたバージョンというか、そのあたりに着地する可能性が高いのではないかと考えられる。
そのほか、CPUとGPU、そしてIOダイを接続するローカルバスに対する速度や帯域幅の改良要求が考えられる。特にソニーについては、PS2での成功体験もあることから、このあたりの要求が大きいのではないかと推測される。
いまだ全容が見えてこない、ソニーとマイクロソフトの次世代機だが、両社とも発売は2020年のクリスマス商戦と予想されることから、来年のE3 2020の頃には、完全に情報が出尽くしていることだろう。8月のGamescomでは、E3のおさらいといった内容になるとみられるため、続報は、CES2020かGDC2020のタイミングで夏から秋、そしてクリスマスに向けて情報戦も次第に熱を増していくことだろう。
以前は、早ければ2019年末にも次世代機の発売か、と噂されていた時期もあったため、本年のE3における発表は、若干肩透かしを食らった格好になってしまったが、今後もハイエンドゲーミングを牽引するPCハードウェアや次世代機の最新動向をタイムリーにお伝えしていきたい。