インタビュー
「少女兵器」、「鋼鉄少女」作者 皇宇(ZECO)氏特別インタビュー
日本に衝撃を与えた“美少女戦艦”はどのような経緯から生まれたのか!?
(2013/2/4 14:18)
2010年に台湾の中央研究院の機関誌「Creative Comic Collection」から日本をテーマにした「Creative Comic Collection2 日本時代的那些事」が刊行され、その中で皇宇(ZECO)氏が描いたイラスト「陽炎少女 丹陽」が日本を含むアジア各地で大いに話題になった。
大日本帝国海軍の駆逐艦として、第二次世界大戦の主要な海戦にほぼすべて参加しながら奇跡的に大戦を生き残り、中華民国に賠償艦として接収された後も、丹陽と名前を変えて中国海軍を相手に活躍した武勲艦「雪風」がテーマで、別にそれ自体は、台湾と日本との歴史の1ページとして取り上げられることがあってもおかしくないが、話題になったのは中央研究院の機関誌というお堅い書籍でありながら、登場する艦艇をすべて“美少女化”していたことだ。
雪風は小型軽量の駆逐艦ということでセーラー服姿の少女風の萌えキャラ、対する米国の巡洋艦は負けん気の強そうな金髪美女、そして戦艦大和は菊花紋章の付いた兜をかぶり、両肩に46センチ主砲の3連装砲塔を載せた、巫女姿の神秘的な美女として描かれている。
時代が進み、丹陽と名前を変えた後は、士官風の服装となり、経験を積んだ凛々しいお姉さんに成長している。題材のおもしろさ、画力の高さうんぬん以前に、その発想力に脱帽である。
このイラストで話題になったことがきっかけで、このイラストを元にした漫画「Battleship Girls 鋼鉄少女(以下、鋼鉄少女)」の企画がスタートし、2011年1月より日本の月刊誌「コミックガム」で連載されている。現在4巻まで単行本がリリースされ、ミッドウェー海戦まで終了している。
今回はFriendly Landに取材した後、王氏の紹介で、Friendly Land所属の作家のひとりである皇宇(ZECO)氏(以下、ZECO氏)を取材することができた。せっかくなので、ゲーム化に関する話題のみならず、ZECO氏のデビュー作である「少女兵器」の誕生秘話、そしてZECO氏を一躍有名にした「鋼鉄少女」の今後の展開、そしてそれらのゲーム化を含む、メディアミックス展開の計画などについて話を伺った。
ZECO氏の作業場を訪問。作画はすべてペンタブレット
ZECO氏のスタジオは、台北市の北側、基隆河を渡ってすぐの士林区にあった。近くには有名な士林夜市があり、昔ながらの住宅街が並ぶ。オフィスエリアではなく、住宅街にあるアパートの一室を使っており、入り口だけでは絵師の作業場があるとは想像できない。
取材に訪れた時は、ちょうどアシスタント1名と共に、次号の連載に向けて作業を進めていたところで、手を休めて出迎えてくれた。ZECO氏は、50平米ほどのスペースの手前側を作業スペースとして使用し、奥を自身の居住スペースとして使っていた。作業場は10畳ほどのスペースで、ZECO氏の席と、アシスタント用が2席分、来客用の長いす、作業場と居住区を分けるように本棚が天井までそびえている。
そのほか、資料用の本やゲーム、趣味らしいフィギュアやプラモデルの類いが所狭しと並べられていた。まさに趣味の空間といった感じだ。取材に同行してくれたFriendly Land総経理の王士豪氏によれば、今回は取材が来るということでこれでもかなり片付けた方だという。
ZECO氏の机には、手前側にワコムの21インチの液晶タブレットが鎮座し、そのすぐ上に89キーボードを置いて作業している。正面の21インチモニターは、ビューアーとして利用している。ペンタブレットは、モニターに直接ペンで描けるもので、日本価格で20万円以上する高級品だ。右手にペン、左手は常にキーボードに添えられ、マウスは一切使わず、キーボードショートカットだけで各種ソフトウェアの機能を使い、絵の角度を適宜変えながら描いていく。
アシスタントは、旧来からある、液晶モニターを見ながらマウスパッド小のサイズのペンタブレットを用い、ネームの入れられた原稿に、キッチリコマ割りを入れたり、セリフの枠を入れ込んだり、補助的な作業を行なっていた。ZECO氏は、打ち合わせやネーム入れも含め、紙は一切使っていないという。
ZECO氏は、Friendly Land専属の作家として2005年前後から活動を開始し、兵器を美少女化した「少女兵器」と、そこから第二次世界大戦で活躍した軍艦だけを抜き出し、独自の解釈で第二次世界大戦を描いた「鋼鉄少女」の2本柱で活動している。
「少女兵器」は同人誌を皮切りに、これまでに設定資料集を数冊、図鑑、紙のカードゲームなどがリリースされ、現在、ゲーム化のプロジェクトが3本決まっている。ゲーム化に際しては、Friendly Landが全体を監修するだけでなく、ZECO氏本人が新キャラクターのデザインやイラストの描き下ろしなどを予定しており、春節休みが取れないほどの忙しさだという。
「鋼鉄少女」は、先述したように、台湾の中央研究院の機関誌「Creative Comic Collection」に掲載されたZECO氏の“軍艦美少女”が話題になったことで誕生した現在進行形の連載漫画。今回取材するにあたって1巻から4巻まで通読してみたところ、1巻の前半こそ、軍艦の名前を冠した美少女達が軍隊ライフ(!?)を謳歌する学園モノのドタバタコメディという感じだが、それ以降は、太平洋戦争の有名な海戦を、美少女部隊の激突として描いていて、着想のおもしろさについつい引き込まれて一気に読んでしまった。
主人公はあくまで雪風なので、雪風が当時所属していた戦隊や艦隊の旗艦が、“彼女”の上司、先輩として登場するのだが、大和姉様、飛龍先生、高雄隊長、神通親分という具合で、一艦ずつキャラ設定や性格が異なり、「あの艦はどういう設定で登場するのか?」とページをたぐるのが楽しみになる。文字通りの“姉妹艦”同士のやりとりも見所のひとつで、軍艦好きなら新しい世界が覗けること請け合いである。
現在は「鋼鉄少女」本編は、ミッドウェー海戦で4人の姉様(赤城、加賀、蒼龍、飛龍)を失い、その責任を取って大和が旗艦を下り、“妹”の武蔵と交代したところで一段落し、外伝として英独の海戦を描いた「北海のワルキューレ」が連載されている。「Creative Comic Collection」のイラストでは、いわゆる大和特攻や、戦後の中国との紛争まで描かれているが、漫画ではどのように表現されるのか注目されるところだ。
ZECO氏インタビュー。大和は「死なせたくない」。今後は少年や格闘漫画も描いていきたい
続いてはZECO氏へのインタビューをお届けしたい。2月9日前後から始まる春節休みに向けて現在年末進行のまっただ中ということで、取材中もペンを入れ続け、インタビュー中も、会話が止まるとすぐ手が動き出すという慌ただしさだったが、終始笑みを浮かべながら1つ1つ丁寧に答えてくれた。
――「少女兵器」制作のきっかけは?
ZECO氏:高校時代から美少女とミリタリーモノを描くのが好きでした。そのコンセプトをくっつけて、兵器を美少女にしたらおもしろいんじゃないかと思ったのがきっかけです。あと実家が空軍基地の近くにあるので、小さい頃、家の上空を飛行機が飛んでいるのを見て、いろいろ想像していました。その影響もあると思います。
――影響を受けた漫画、アニメは?
ZECO氏:好きな作家さんは多いです。日本でも有名なイラストレーターのChocoさん。それからペンタッチは村田蓮爾さん。メカは明貴美加さん、それから「ファイブスターストーリー」の永野護さんも大先輩です。美少女&兵器を得意とする大先輩から大きな影響を受けています。
――好きなゲームは?
ZECO氏:「メタルギアソリッド」シリーズです。メカが出るゲームが大好きなんです。
――自分の作品がゲーム化された感想は?
ZECO氏:ゲームになることは凄く嬉しいです。いま企画しているのはブラウザ向けのシミュレーションゲームやカードゲーム、パズルゲームなどですが、「真・三國無双」や「ガンダム無双」のようにアクションゲームになるといいと思っています。海外のファンが、あるFPSで、「少女兵器」のキャラクターMODを作っていたのを見たことがありますが、ああなるともっと嬉しいです。もちろん、いま制作中のゲームも楽しみです。アニメ化やフィギュア化もしたいです。それから以前出したカードゲームが気に入っているので、今後、また色んな新しいキャラクターでカードゲームも出したいと思っています。
――現在コミックガムで連載されている「鋼鉄少女」の制作経緯を教えて下さい。
ZECO氏:政府関係の書籍にイラストを寄せたのがきっかけ。それで大反響となり、漫画化の依頼があったという感じです。
――漫画を読ませていただきましたが、日本の戦史に非常に詳しいことに驚きました。
ZECO氏:もともとミリタリーファンでしたので(笑)。もともとある程度知識はありましたし、ミリタリーの友達もいます。今はネットから情報を得られるのでそういう部分は前よりずいぶん楽になったと思います。
――物語はミッドウェー海戦を終えたところですが、今後物語はどのように展開していくのでしょうか?
ZECO氏:今は外伝の5話目ですが、当面はこの「北海のワルキューレ」のような、外伝みたいな形を続けます。3月15日に、北海編の単行本を出す予定です。北海編が終わったら外伝をやるか、本編に戻るか、そこはまだ決めていません。
――物語は史実通りに推移してますが、大和は死んでしまう?
ZECO氏:悩むところです。大人気キャラなのでできれば死なせたくないです(笑)。編集部からは、歴史だから壮烈に死なせるべきだと言われてますが、僕は、「宇宙戦艦大和」みたいにぜんぜん違う展開をするのもありなんじゃないかと思っています(笑)
――物語は太平洋戦争後の、雪風が丹陽になった中華民国対中国の戦いまで描くつもりですか?
ZECO氏:そこも未定です。ミリタリーオタク的には歴史に忠実なほうが好まれると思うのですが、僕は歴史にないような展開をしてもいいかもしれないと思っています。ストーリー展開はいつも悩むところです。戦争だから死人が出るのは仕方がないことですが、どこまで書くべきか悩んでいます。戦いのないエピソードのほうが人気が高かったりすることもあるので(笑)
――こちらはしっかりしたストーリーがあるだけにメディアミックスもしやすいと思いますが、何か具体的な計画はありますか?
ZECO氏:今進めているところです。第二次世界大戦の物語なので、中国には展開できそうにありませんが、台湾や日本向けに、アニメやフィギュアなどをやっていきたいと思っています。
――こちらのゲーム化の予定はありますか?
ZECO氏:はい。予定しています。現在、テスト開発をしているところです。パブリッシャーはUnalisさんで、近々発表があるかもしれません。シミュレーション+育成のゲームを予定しています。Unalisさんと一緒に台湾と日本でやっていきたい。
――今後、チャレンジしてみたいことがあれば教えて下さい。
ZECO氏:「少女兵器」と「鋼鉄少女」をしっかり育てて、兵器+少女以外の、少年や格闘をモチーフにした漫画にもチャレンジしたいと考えています。僕は小学生から美術専門のクラスに通っていて漫画を書くのが好きなので、今後も色んな漫画を描いていきたいです。
――すべての工程をペンタブレットを使って描いていますが、やりにくさはないのですか?
ZECO氏: 紙からデジタルへの移行は辛いところもありました。かつては紙で書いてペン入れして、それからスキャンして色塗りしていたが、それだと時間が掛かりますし、書き直すこともあるので、何度も練習して慣れていきました。ペンタブレットは目と手が離れているので使いにくいのですが、ワコムの21インチペンタプレットモニターだと、モニターにそのまま描けるのでとても使いやすいですね。
――日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
ZECO氏:応援していただいてありがとうございます。今後も引き続き応援していただければ嬉しいです。今後ももっとおもしろい「鋼鉄少女」をお届けしていきたいです。「鋼鉄少女」も大事ですが、「少女兵器」も大事です。メディアミックス展開していけるように頑張っていきますので応援よろしくお願いいたします。
――ありがとうございました。
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