インタビュー

「風燕伝:Where Winds Meet」開発者インタビュー

体育館のある社屋の様子や、トマトやセロリを使うSEの収録風景などNetEase訪問レポートもお届け

【風燕伝:Where Winds Meet】
2025年 発売予定
利用料金:基本プレイ無料

 NetEase Gamesの内部スタジオEverstone Studioが開発しているプレイステーション 5/PC用武侠スタイルのオープンワールド・アクションアドベンチャー「風燕伝(ふうえんでん):Where Winds Meet」。2025年に発売を予定し、これに先駆けて7月25日よりファイナルβテストを実施している。

 本作は中国の五代十国時代を舞台に、若き剣客の主人公が自分の出生の謎と向き合っていくアクションゲーム。中国ではすでにサービスが展開中で、日本では2025年内の発売に向けて制作が進められている。

【「風燕伝:Where Winds Meet」 - ファイナルβテストPV】

 ファイナルβテスト前日の7月24日には、中国、杭州市にあるNetEase Games本社で世界各国のメディアを招いて試遊やインタビューを行なうメディアツアーが開催された。このレポートでは、総勢7名の開発スタッフが参加した合同インタビューをお届けしたい。また、会社の施設や、サウンドルームでの野菜などを使ったゲームSE作成の現場を見学させてもらったので、あわせて紹介する。

 インタビューは前半と後半にわけて行なわれた。前半は主にゲームデザインや企画について、後半はサウンドやグラフィックスなどについての話となる。どちらも面白い話を聞くことができたので、少々長いがぜひ読んでほしい。また、実際のプレイについてはこちらの試遊レポートを参照してほしい。

杭州市のNetEaseキャンパスを訪問

 NetEaseは電子メールサービスやWebニュースなど様々なオンラインサービスを提供しているIT企業。ゲーム事業部門であるNetEase Gamesは「荒野行動」や「第五人格」などのスマホゲームや「Once Human」や「マーベル・ライバルズ」など多くのプラットフォーム向けにゲームを開発している。

【NetEase社屋】

 杭州市にはNetEaseがキャンパスと呼ぶ2,000人規模の社屋が2棟、隣接して立っている。IT企業が多い地域に位置しており、道路を挟んだ向かいには通販大手のAlibabaがある。敷地内には通勤用の車を洗車できるコーナーや、バレー、バドミントン、卓球ができる体育館、カフェなど社員が利用できる様々な施設がある。社員が無料で参加できる生成AIセミナーの大きな看板も掲げられていた。

【体育館】

 背中の形状をスキャンして、ロボットが指圧してくれるマッサージルームもあった。こちらは指圧の専門家と共同開発した健康器具で、商品として販売されている。社員は有料で約30分のマッサージを受けることができるのだそうだ。

【ロボットつぼマッサージ】

 若い社員が多く、自由な服装をしているため、まるで大学キャンパスにいるような雰囲気だった。「風燕伝」も30代のスタッフが指揮を執る若いチームで、だからこその熱量を感じた。

トマトや白菜やキャベツがかっこいいSEに!

 サウンドスタジオはキャンパス1階の、他の施設とは少し離れた場所にあった。中はミキサー室と防音の録音室に分かれており、今回はミキサー室からSEを収録する様子を見学させてもらった。

 今回収録していたのは、木に吊るされた主人公に女性が話しかけているカットシーン。カットシーンの映像を見ながら、タイミングを合わせて足音や衣擦れの音を手にした布を振ったり、リュックを叩いたりして作り出していく。

【ミキサー室】

 作り出された音は、すぐにミキサー側で保存される。紙が風に舞い散るシーンでは、実際に紙を振るわせてまるで風に舞っているかのような音を作る。何枚もの紙が舞う雰囲気を出すために、何度も収録を繰り返して音を重ねていく。

 打撃音の収録では、木刀や竹竿を使って剣や槍を空振りする際の空気音を収録していた。興味深かったのは打撃音。白菜とキャベツを重ねたものを思いっきり拳で殴ることでドンという打撃音を作る。

【収録風景】

 セロリを両手で思い切りねじることで、バキバキという骨を砕く音になる。さらに出血の音はトマトを潰すことで内臓にダメージが届いたグジュッという生々しい水音になる。

 普段ゲームをしていると当たり前のように聞いているSEだが、現場では発想力と工夫で“らしい”音を作り出していた。部屋の中には双剣からホースまでいろいろなものが置かれていた。ここで日々、音のアイデアと向き合うのは大変だが、楽しそうな仕事だと感じた。

自由度の高さを重視。従来の武侠ものにはない選択肢を追加

 前半のインタビューに答えてくれたのは、リードデザイナーのChris Lyu氏、グローバルバージョンのリードデザイナーSoul氏、コンバットデザイナーのZen氏の3名。主にゲームデザインなど、ゲーム全体の話やシステム面の話を聞いている。

――五代十国という時代を舞台に選んだ理由を教えてください。

Chris Lyu氏:五代十国は唐と宋という大きな王朝に挟まれた戦乱の時代です。乱世だからこそ描けるドラマチックな物語があるため、この時代を選びました。

舞台は中国の五代十国時代

 唐や宋について詳しい人はいますが、五代十国はメジャーな時代ではないので、そのため、新鮮に感じてもらえ、好奇心を抱いていただけると思います。メジャーな時代ではないので創作もしやすかったです。物語は実在した人物や史実ともリンクしており、歴史上にはこういう人物もいたんだと発見する機会になると考えています。

 メインストーリーには光と影の部分があります。先ほど触っていただいた序盤は光の部分ですが、史実に基づいた影の部分もあります。最初のチャプターでは田英という実在の人物が登場します。

怪しげな雰囲気の場所も

 チャプター2では、メインストーリーで宋の朝廷が唐時代の貨幣の使用を禁止した政策にまつわる物語が進んでいきます。歴史上の事件から、唐の勢力や宋の勢力、主人公に敵対する勢力などが入り混じって1つの物語になっていきます。

 中国ではすでに昨年ローンチしていますが、貨幣にまつわる事件など、中国のプレーヤーもあまり知りませんでした。本作を通じて、歴史に興味を持ってもらえれば我々も嬉しいです。本作が重要視しているのは、いかに歴史を再現するかではなく、いかに歴史に興味を持ってもらえるかで、そこに注力して制作しています。

――史実を扱うにあたって、専門家の監修などは受けているのですか?

Chris Lyu氏:歴史の専門家を招いて監修してもらっています。博物館など施設とも連携して、なるべく史実として正しい表現をできるようがんばっています。時代背景についても、専門家に考証してもらっています。

建物や都市を再現する際の考証にはかなり力を入れている

――中国版のタイトルは「燕云十六声」で“風”の文字が入っていませんが、英語版や日本語版には入っています。それぞれのタイトルに込めた思いを教えてください。

Chris Lyu氏:中国語のタイトルには、中国語話者にしかわからないコンセプトが込められています。それをグローバルで伝えるのは難しいということと、武侠のポイントとして人と人との関係、縁、風が出会う場所という想いを込めています。

――戦闘に関して、武侠というテーマは戦闘のデザインに影響を与えていますか?

Zen氏:実在する武術や、ドラマなど有名な武侠関連のコンテンツからヒントをもらっています。武侠映画の監督やプロの武術師に参加してもらい、モーションキャプチャーで本物の武器の動きを再現することに力を入れています。

――アクションゲームは難しすぎても人が離れるし、簡単すぎると面白みにかけるかと思います。難易度設計について、どういう思想があるのかを教えてください。

Zen氏:オープンワールドのゲームなので、探索やストーリーが好きな人もいます。そういうプレイをするとき、戦闘の難易度がゲームの障害になってほしくはないです。

 難易度は4段階あって、その時の気分で変更して遊ぶことができます。例えば土曜の夜は一番難しい難易度でボスにノーダメージバトルを挑んだり、平日は一番簡単なモードでストーリーを進めたりといった使い分けができます。

Chris Lyu氏:メインストーリーの敵は誰でも倒せる程度の強さに調整していますが、フィールドのボスや隠しボスは難しくしています。ソウルライクのようなプレイが好きなプレーヤーのためには、一番難しいボスをノーダメージで何秒以内に倒せ、といったトロフィーが用意されています。

ボス戦

――武器種は7つでそれぞれに系統があるということですが、もう少し詳細に教えてください。

Zen氏:武器は7種類で、それぞれに1から3種類の系統があります。同じ武器でも系統によってアタッカー的な立ち回りになったり、ヒーラー的な立ち回りが可能になったりします。「奇術」という特殊な技も数十種類あります。

 武侠には多彩な武器を自在に扱うというコンセプトがあり、そういう人物になりたいプレーヤーのためにあらゆる武器を使えるキャラクターを目指すことができるようにしています。

――武侠という独自の文化的要素を打ち出したゲームだと思いますが、日本語や英語圏でローンチするにあたり、苦労しているところや工夫しているところはありますか?

Soul氏:特に苦戦したのは、中国らしいシンボルや文化的なもののローカライズです。もとの意味を残しつつ、理解できるように工夫しています。後は、24時間を2時間ごとに1つの刻としているのを、英語圏の人に伝えるために、補助するための情報を付けています。

 武侠の核心となるのは、修行をして強くなって運命をどう選択するのかということです。この考え方は世界共通だと思います。主人公が英雄となって世界を守るのか、それとも世界を壊す側に回るのかの選択は、武侠の文化に関わりなく理解してもらえると思います。太極拳のようなわかりやすいシンボルも入れつつ、本作で武侠についての理解が進むといいなと思っています。

――中国の歴史や武侠など、中国の歴史や文化を広めていくことがプロジェクトのテーマになっているのですか?

Chris Lyu氏:そこまでは考えていません。チームメンバーがみんな武侠が好きなので、武侠×オープンワールドって今までにないジャンルだよねという話になりました。

Soul氏:ボイスの音声については、ローンチ時には英語と中国語に対応します。ほかの言語については開発中です。

――武侠というテーマに関して深堀りさせてください。中国では人気のあるジャンルですが、日本では知らない人が多くいます。そういう人に向けて、武侠の魅力とはどういったところなのかを教えてください。

Chris Lyu氏:武侠というテーマのどこに魅力を感じるかは人それぞれだと思いますが、個人の努力でゴールを達成するところにロマンを感じます。もう1つの魅力は人と人の関係です。たくさんの武侠作品で、戦闘だけではなく恩義や憎しみ、愛情が描写されています。そういった人と人との関係性を楽しんでいただければと思います。シングルモードではNPCとの関係性が変わったり、マルチモードでは他のプレーヤーとの関係性を楽しんでほしいです。

NPCと腕試しの戦闘が始まることも

――特定の門派に属さなくてもすべての武術を学べると聞きましたが、逆に門派に属することにメリットはあるのでしょうか?

Chris Lyu氏:武侠作品では、固定の門派に加入して、その門派と絆を結んでいくという作品が多くあります。我々は自由度の高いプレイ体験を提供したいと考えていますので、1つの門派に所属しながら、別の門派でも学べるという風に設計しています。

 門派に所属してその門派のルールに従うことで、奨励ポイントのようなものがもらえて、それで交換するアイテムもあります。1つの門派だけに所属する遊び方もできますし、そうでない遊び方もできます。1つの例を挙げますと、天泉という門派があります。日本でいう体育会系の門派で、毎日ログインするとマラソンしなければなりません。

時々天泉門派がマラソンしているところに遭遇する

――詐欺師など、悪になれる要素もあると聞きました。悪人プレイはストーリーに影響を与えますか?

Chris Lyu氏:オープンワールドでは自由度を高めにしてあり、ほぼ全員のNPCを投げることができます。いろいろな悪さもできます。NPCを攻撃することもできますが、目撃されると警備兵が出てきて捕まると牢屋に入れられます。この牢屋からは一定時間出ることができません。脱獄もできますが、脱獄することでデメリットもあります。悪人プレイは大きなストーリーには影響しませんが、NPCの好感度には影響を与えるので、一部のNPCの態度が変化します。

――熊が太極拳をしていたり、ぼったくり価格の売店があったりと、コミカルな要素もありますね。シリアスさとのバランスはどのくらいですか?

Chris Lyu氏:動乱の時代なので基本的に悲劇がメインとなります。重くなりすぎないように、史実に関連しないところにコミカルな要素を入れることでプレーヤーの心のバランスが取れるようにしています。悲しいストーリーだからこそ、笑えるところでは笑ってほしいですから。太極拳は武侠らしさのシンボルとして導入したかったので、わざとコミカルなシーンに入れています。

熊から太極拳を習得

――オープンワールドを採用しているかと思いますが、物語の分岐はありますか?

Chris Lyu氏:チャプター1は、基本一本道のストーリーになっています。今中国で実装した新しいチャプターでは、4人の登場人物それぞれの視点で、同じ事件を体験していくことができます。ストーリー自体の楽しみ方を増やしていければと思っています。

 実は今開発中のバージョンでは、今はまだ詳しくはお話できませんが、1つのエンディングを作る可能性があります。

――やりこみ要素が多くて、いくらでも時間をかけられそうだなと思いました。やりこみ型のゲームは買い切りが多いと思いますが、基本無料にした理由と、どういった課金要素があるのかを教えてください。

Chris Lyu氏:基本無料にしたのは、たくさんの人に遊んでもらいたいからです。チーム全体でながく議論して、基本無料でいくという決断をしました。課金が発生するのは基本的には外見や視覚的要素など、ビジュアル的なところです。すでに中国で半年ほど運営しており、たくさんの方に遊んでいただいています。マネタイズのモデルには自信を持っており、長く運営していけると思っています。

――完成度が高く、開発費もかなりかかっていると思います。社内で反対意見はでなかったのですか?

Chris Lyu氏:反対意見はでませんでした。むしろ同じ業界の人やプレーヤーの方から本当に成功するのかという不安の声をたくさんもらいました。半年運営してきて、このビジネスモデルで成り立つということを証明できたと思っています。

――なぜ成功できたのだと思いますか?

Chris Lyu氏:プレーヤーは自分が楽しくゲームを遊ぶためにお金を使ってくれます。特に自分が購入した衣装を着た姿をカットシーンで見ることができるということに魅力を感じるようです。強さにまつわる課金がないことが長く遊んでいけるという信頼感にも繋がっていると思います。1万円払った人も、10万円はらった人もゲーム体験としては同じものを提供しつつ、違いを出していきたいです。

 成功の理由としてもう1つは、戦闘のストレスがないからかもしれません。ストーリーを追っていって完結したら、次のバージョンアップまでは休憩して戻ってくるプレーヤーがたくさんいます。そういったプレーヤー層の継続性が高いです。

――チャプター制でやっていくということですが、各チャプターに物語の区切りはあるのですか? それともずっと続いていくのでしょうか?

Soul氏:ローンチ時には、チャプター1と2が完結した状態です。今後のチャプターでも体験に違和感がないように設計していきたいです。

――チャプターはどのくらいの頻度で更新されていくのですか?

Chris Lyu氏:中国では約1.5カ月ごとに新しいマップを投入しています。今現在、来年末までの方針ができていて、6割はすでに制作中です。

Soul氏:グローバルでは年4回の大きめのアップデートを予定しています。アップデートの中で少しずつ中国版に近づいていくことになります。

――中国版と日本版では、どれくらいのコンテンツの遅れが出るのですか?

Soul氏:更新の頻度自体は中国サーバーと同じくらいにしていく予定ですが、すでに中国では半年サービスしているので、半年遅れになります。

――将来的にどのくらいのエリアを追加していきたいのですか

Chris Lyu氏:序盤で体験できるのは華北と山東省の間くらいのエリアです。新しいチャプターでは北西の砂漠のイメージが強いエリアです。中国は広いので、色々な景色や民族の特徴などを表現できればと思っています。

――ありがとうございました!

 後半ではストーリーやサウンドに関する制作陣のこだわりを紹介する。サウンドの収録の際にはリアルを追求すべく泣く泣く楽器を壊したり、道具の組み合わせによって作り出すなど制作の裏話も語られた。