インタビュー

描画60フレーム化、新要素の追加、そして新しくなった自車のデザインの秘密とは? 「3D アウトラン」インタビュー Part1

「回せるところはすべて60フレームで回す!」 オリジナルを超える「アウトラン」の移植

「回せるところはすべて60フレームで回す!」 オリジナルを超える「アウトラン」の移植

――今回、移植の上での技術的なご苦労はどうだったんでしょうか?

奥成氏:これまでのインタビューをすべて読んでくださった方々なら、第2期のインタビューでは、開発の内容に関して移植再現に関する苦労話が少なくなってきていることにお気づきかもしれません。

堀井氏:そうかもしれませんね。

奥成氏:第1期の頃のインタビューの話の半分は、そもそも「動かない」とエムツーさんに言われたものを、エムツーさんの技術力=プログラムの効率化やデータの配置などを工夫することで、3DSの能力を限界近くまで使って、オリジナル版どおりのものを動かす、という部分が話の半分ぐらいを占めていたわけでしたよね。

 第1期で堀井さんが「スペースハリアー」が動かない、と言ったところから始まって、「ギャラクシーフォースII」は絶対動かないと言ったところから、最終的にそれが動くところまで持っていくことができたので、第2期の「アフターバーナーII」や「ファンタジーゾーン」については、比較的スムーズにスタートできたという実績から来る余裕ができたわけです。

堀井氏:これまで苦労した甲斐がありました。

奥成氏:ですが、「アウトラン」に関しては、再びこの移植の苦労が戻ってきたんです。……最初に「アウトラン」が動いたのを見せていただいたのはいつでしたっけ?

堀井氏:かなり前だと思います。2013年の春にはお見せしたんじゃなかったでしたっけ?

奥成氏:2作目だった「スーパーハングオン」は、「アウトラン」と同じ基板(俗に言う「アウトランボード」で、同システムの第2弾)なんですよね。なので、「スーパーハングオン」の移植を終えた時点で、「アウトラン」はがんばれば動く、という目処はエムツーさんの中で立っていたんですね。

堀井氏:スーパーハングオンはアウトランボード版もあったので、おおよそ移植の難易度については、想像がついていました。

奥成氏:それで、とりあえず動かした、というものを見せていただいたんです。だけど、それを見て僕は「これじゃダメだ」って突っ返したんです。なぜかというと、その移植した「アウトラン」は描画が30フレームで動作していたからなんです。

堀井氏:でも、アーケード版は30フレーム描画だったんですよね。

――オリジナルのアーケード版が30フレームなんですよね。

奥成氏:あの時代のセガの体感ゲームの中で、「アウトラン」だけが30フレームだったんですよね。他は60フレームだったのに。「アウトラン」は「スペースハリアー」の通称「ハリアーボード」からパワーアップした新型基板を使っていたんですが、開発スタッフがビジュアル部分に非常に力を入れた結果だと思うんですが、30フレームでゲームをリリースしたんですね。その当時誰もそれについて文句はなかったのではないかと思いましたし、僕もそれについて問題だと思ったことは、セガサターン版が発売されるまで1度もありませんでした。

――セガサターン版! 素晴らしい移植でしたよね。

奥成氏:セガサターン版は普通に遊ぶとアーケード通りの30フレームなんですが、裏技で60フレームモードが実装されていたんですね。そこはさすが開発した「ゲームのるつぼ」の技術力ということで、当時、セガサターンでこのモードをプレイした方はかなり目からうろこ、だったと思うんです。僕も当時このゲームの宣伝を担当していたんですけど、初めて見たときに「これはすごい」と思いました。さすがるつぼだなと。

 だからエムツーさんが「『アウトラン』が動きました!」って初めて見せてくれたときにもそのことを思い出して「やっぱり60フレームで動かないとダメでしょ」って言ったんです。

堀井氏:30フレーム描画はオリジナルに忠実だとはいえ、60フレーム描画は前例があることですからね。

奥成氏:「サターン版が60フレームで動いていたんだから、お客さんは絶対あの60フレーム描画を見たがるだろう」、それに「エムツーさんは60フレームにこだわっている会社なので、それはやっぱり60フレームじゃないとだめでしょう」と。

堀井氏:それはねー。そうなんですけれども、60フレーム描画を実現するということは、アーケード版をほぼ倍の速度で動作させないといけない、ということなんですよね。

――「3D ギャラクシーフォースII」の「ネオクラシック」バージョン(『スペシャル』モード)のエピソードが思い出される話ですね。

奥成氏:ああ、まったく同じですね(笑)。

堀井氏:耳元でささやいていればどうにかなる説をね。

――(笑)。

奥成氏:あのときはメモリがキツキツなのに、倍の解像度のグラフィックデータを入れよう、という話だったんですけれども……。

――「3D GFII」のときはメモリ管理に対してムチャを言ってて、「3D アウトラン」ではマシンパワーの効率化に対してムチャを言った、ということですよね(笑)。

奥成氏:まだその頃は「3D GFII」も開発中だったこともあり、そのときエムツーさんからは「無理です」って(笑)。

――同じようにやっぱり(笑)、バッチリ「無理だ」と言われちゃってたんですね。

奥成氏:……って言われたんですけれども、後になっていよいよ第2期をやるにあたって「今度こそ『アウトラン』、やるよね? その代わり、条件は60フレームで動かすための努力を続けること」っていう話をして、「うやむやでGO」をかけました。

――またですか(笑)! それはなー。(結果的に実現した)前例があるからなー。

堀井氏:で、飲んじゃったんですよねー。

奥成氏:開発がスタートして、エムツーさんから最初に上がってきたバージョンには、描画60フレームで動作しているところはどこにもありませんでした。でも正確に言うと「スムーズ」と書かれたスイッチだけあって(笑)。

――(笑)。「スムーズモード」ってセガサターン版の裏技の名称でしたよね。

奥成氏:ディレクターの松岡さんに「このスイッチがあるってことは、60フレーム化をやってくれるんですよね?」って確認したら、「努力はしますが、『実現できる』とはこの場では言えません」って言われたんです。

堀井氏:松岡のいいところはそこですよ。「努力はします」と。僕は「ないとだめですよねー!」って言って、みんなが苦労するという。

――(笑)。

奥成氏:それからまたかなり期間が経ってαバージョンが上がってきた時、このスムーズスイッチをONにしたら描画速度が上がっていたんです。「あれ? 60フレームで動いてる! 松岡さんやったね! やればできるじゃん!」って喜んでたら、松岡さんが「よく見てください」って言うんですよ。で、改めてじっくりよく見てみたら、道路の描き換えだけが60フレーム動作していたんですね。残りの看板やアザーカーなどのオブジェクトなどは全部30フレームだったんですね。

堀井氏:今回60フレーム化を実現できたのは、本当に1カ所づつ実現していった結果なんです。

――なるほど。

奥成氏:それからまたしばらくして、最初にアザーカーが、次に看板が……とオブジェクトが60フレーム化できてきたんです。とにかく、松岡ディレクターは「1つ1つ、できるところは少しずつ60フレームにしていきます」って言っていて。

堀井氏:背景とオブジェクト、という区分けではなくて、もっと細かいカテゴリがあるんですが、1つ60フレーム化するたびに、「何が変わったかわかりますか?」と社内にROMを回して、社内の違いのわかる男が「あ!」という、「60フレーム審議会」のようなことをやってました。

 それを繰り返してきた結果、今回、エンディングや出発シーンも60フレーム化することができたんです。サターン版はそのあたりが30フレームのままなんですよ。エンディングや出発シーンを60フレーム描画にしてどんな効果があるのかわかりませんが!

――(笑)。

堀井氏:「回せるところはすべて60フレームで回す!」と。ただ、その後で処理が足りなくなって、結局サターン版と同じくエンディングは30フレームに戻しました。やはりるつぼさんのしていることは理にかなってる(笑)。

奥成氏:とにかく、「完成するまでにできたところまでが精一杯なのだから、それでいこう」という話をしていました。オブジェクトまで60フレーム描画になった時点で、「3D GFII」と同じく、「スペシャル」(60フレーム描画)を標準に設定することにしました。我々が作る「アウトラン」として1番ベストなのものを、お客さんに最初に見せる(最初に起動したとき)のだから、それは60フレーム描画だろうと。

堀井氏:それをデフォルトにされると結構厳しいですよ。

奥成氏:デフォルトを「スペシャル」にしたのはβ版直前ぐらいの話ですね。

堀井氏:割と最近じゃないですか。

――(笑)。

奥成氏:任天堂さんに「こういうゲームを作っています」と最初にデータを提出したときは、まだ30と60フレームが半々で混在しているような状態のものでしたね。その後、ほぼ60フレームというものができてきたんですが、まだ「クラッシュシーンが30フレームです」とか、とにかくいろんなところにまだ30フレーム描画が潜んでいて……。

 そのぐらいになってくると、「もう、いいんじゃない?」と言えるところまできたんですが、βバージョンの後、ファイナルバージョンまでのラストスパートの部分で、みるみる60フレームの部分が増えてきたんですよ。……気がついたら全部60フレームになっていたんですよ。最後の何回かの更新は、もう僕にはわからないレベルでしたね。

――描画負荷という点から見ると、「3D GFII」では、最初からBGM周りをストリーミングで処理することにしてマシンパワーを稼いだりしていたじゃないですか? 「3D アウトラン」ではBGMも含めてすべてエミュレーションで実現されていますよね? 今回は最初からすべてエミュレーションでやる、という方針は変わらなかったんですか?

堀井氏:そうですね。「Yボードが動いたのに、アウトランボードで(オリジナルの)倍の描画を実現するために、音源をストリーミングで対処するというのはどうなの?」という話もありましたし。

奥成氏:BGMをストリーミングで実現するとなると、データ量が増えてしまうんですよね。普通のお客さんは、3DSなら2GB、3DS LLなら4GBという標準添付のSDカードを使われてやりくりされていると思いますので、シリーズをたくさんリリースする中で、できればたくさん並べてほしいじゃないですか? だから1本の容量はできるだけ小さくしたい、ということをエムツーさんが特に考えていて。「「アウトラン』は(BGMを)ストリーミングにしなくていいの?」と聞いたら、「エミュレーションでやる!」という点に関しては、かたくなでしたね。

堀井氏:「60フレームは実現できるかわからないけれども、エミュレーションでやる」というところは変わらなかったですね。

「3D アウトラン」の画面設定。もはやお約束といえる4タイプが用意されている

奥成氏:最初からエミュレーションでいこう、という方針があったのに、僕が60フレーム描画にこだわっていたため、ハードルを上げているという(笑)。今回、当たり前のようにワイド画面にも対応していますが、ワイド化するということは、オリジナルにない部分も描画することになるので、これも描画負荷がかかることなんですね。「3D GFII」のときは、オリジナル版が元々広めに描画されていたので「ワイド化できる」ということで対応したんですけれども、「アフターバーナーII」も「アウトラン」も、ただワイドにすると、そこにはスプライトが表示されていない空間が生まれてしまうので、そこを埋めなければいけないんです。ここは苦労のしどころでしたよね。

オリジナルのアーケード版は4:3の比率になっているため、ワイド化すれば当然これまで表示されていなかったところにもビジュアルデータを用意しなければならないうえ、描画領域が増えるということは、描画負荷が増えるということにもつながる

堀井氏:そうですねー。見えちゃいけないものも見えますし。

奥成氏:「アフターバーナーII」の場合、空母の離着陸のシーンだと、4:3では空母がいっぱいいっぱいに表示されていますが、これを16:9に対応させるとなると「横に海が見えてなきゃいけないよね」ということになりますし、着艦時はF-14が着艦したら水の流れが止まらなければならないのに、4:3の範囲外の海はオリジナルでは流れっぱなしになっていて、これを止めたりと、オリジナル版では気にならないところや処理がそのままになっているところを直す作業が必要になってくるわけです。

――オリジナルの画面枠の外は見えてないからそのままになっていたものもきちんとやっていく、という追加作業ですね。

奥成氏:映画などで言えば、セットの外が見えると興ざめするじゃないですか。

――カメラの外にある書き割りが見えないようにする、という。

堀井氏:特撮はピアノ線が見えちゃいけないんですよ!

奥成氏:「アウトラン」は、開発期間全体を通して、デザイナーの「いかにオリジナルとの違和感を無くせるか」という作業と、プログラマーの「いかにスピードを上げていくか」という作業の追求でしたね。60フレームにすることの不具合というものも出てくるので、それを潰しつつ。そういう意味では、第2期で移植に1番苦労したプロジェクトですね。

堀井氏:1つ1つ60フレームに直していくというところが1番手がかかってますね。全体の定数をいじると「あ、60フレームになった」ということができれば楽なんですけれど、そういうものではなかったので。

――もう1点、気になっていたので質問させてください。もともと30フレーム描画していた「アウトラン」を60フレーム描画に対応させるということは、描画枚数が倍になるということなので、オリジナルで1枚絵を描画している間に2コマ絵が描画されることになりますが、これはどういった形で追加した絵が生成されているのでしょうか? 同じ絵を表示するわけにはいかないし……。

奥成氏:サターン版のソースは手元になかったので、るつぼさんがどう対処されたのかを詳しく検証したわけではないですが、サターン版の60フレームモードにあった「ぬるっと動くけれど反面スピード感がなくなったかも?」という感じは「3D アウトラン」では感じないですね。

堀井氏:今回、ゲームスピードはオリジナルと同じように動作させているわけですが、1フレーム分の描画が終わった段階で、次の絵、つまり30フレーム後の絵の描画は終わっているんですね。60フレーム描画では、前の絵と次の絵の中間の背景とオブジェクトの位置を予測して再配置したものを描画することで補完しています。

――TVなどで使われている補完機能と同じ仕掛けなんですね。

堀井氏:これまでお話してきた、1つ1つ60フレーム描画に対応させてきたのは、その作業ですね。おそらくサターン版もそうだと思うんですけれどね。移動速度などはわかるわけですから、それを計算して間の絵を描画しているわけです。

――なるほどー。それに加えて、スクロールさせるという点では、自車の動きにシンクロさせてあるので、例えば自車の動きが遅くなったりすると、立体視が破綻しそうになったりしなかったんですか? 例えば分岐中にゲームオーバーになったりすると、画面がピタリと止まったりしますよね……?

奥成氏:このインタビューを読んでいない方には僕と同じで、普通に立体に感じて通り過ぎるだけだと思うんですが、その部分に関しての努力の成果は、このインタビューを読んでくださる一部の方は、分岐するときに普通に立体に見えたとしたら、「ここでエムツーが大変な努力をしたんだな」ということを思い描きながらカーブを曲がっていただけると、みんなが喜びます(笑)。

堀井氏:奥成さんがおっしゃった通り、立体視に見える、ということがあたりまえなので……。この記事を読まれる方にしか「これすごいことなんだな」って思っていただけない気もするのは、ちょっとむなしい(一同笑)。あたりまえのことなんですけれどね。

――ゲームの画面を静止画で撮影したりしなければ、私も気がつかない部分だとは思います。インターレースで描画していた時代のゲームを画面撮影したりしなければ、気がつかない話なんですよね……。ラインバッファのゲームをフレームバッファのゲーム機に持っていく、という苦労は、たいていの方には関係ない話ではあるんですけれども。

奥成氏:わかる方にはニヤッとしていただければと思います(笑)。「ファンタジーゾーン」のスクロールの左右が切り替わるところで片目閉じてみる方とか。

 「スペースハリアー」があって、「スーパーハングオン」があって、「ギャラクシーフォース」があって、「アフターバーナー」があっての「アウトラン」という。ここまでの技術の蓄積が、次の1本を実現させているところは間違いありませんので。

――僕も含めてほとんどの方が、「3D GFII」が実現した段階で、ざっくり言うと「それまでの体感ゲームシリーズはさくっと3DSで動くんじゃね?」と思っていたと思うんですよ。

堀井氏:それは間違いじゃないですね。立体視をつけることを考えなければ、とか、いろんな前提はつきますけれども。

――「システム24」とかちょっと変わったアーキテクチャーのものは別として。

(佐伯憲司)