インタビュー

描画60フレーム化、新要素の追加、そして新しくなった自車のデザインの秘密とは? 「3D アウトラン」インタビュー Part1

オリジナルを超えるスピードや「常にギアガチャ」で走れるニューマシン!

オリジナルを超えるスピードや「常にギアガチャ」で走れるニューマシン!

奥成氏:さて、今回の「グラントノフ」、追加要素はまず新曲、そして新車です。新曲については、後で並木さんが参加してきたときにお話しするとして、新車の方ですが、ちょっとアメ車風の車が1つ加わりました。それだけでなくて、「アウトラン」といえば「真っ赤なスポーツカー」なので、それを逆手にとって「真っ赤じゃないスポーツカー」に乗れます。

 ゲーム開始前のアドバタイズデモの時に、下のタッチスクリーンで車が選べるようになっています。車の種類は性能に合わせていて、オリジナルのプレーヤーカーに対して、4つの部分の性能を向上させられるようにしています。1つはハンドリング性能で、テールがオリジナルより流れないようになります。次はバンパー。アザーカーにぶつかったときに吹き飛ばないようになります。さらにエンジン。エンジンを強化すると最高速が上がります。最後にタイヤ。これを強化すると、路肩に出たときに減速しなくなります。

「3D アウトラン」での追加要素はパーツによるパワーアップ

堀井氏:ざっとあっさり語っていますが、それぞれのパワーアップをさせるにあたり、影で色々なことが起きました。例えばエンジンの最高速の話ですが、オリジナルの「アウトラン」のフレームレートで走らせた場合、293km/hを超える速度で走らせると、車の移動量とオブジェクトの衝突判定があわなくなって、突き抜けちゃうんですよ。早すぎて(オブジェクトの衝突判定が間に合わなくなる)。

 なので、このエンジン強化に対応させるために、内部処理をずいぶんいじりました。速度が上がったときだけ、オブジェクトの当たり判定を前方向に拡大することで対処するという形で対応できました。

――「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」にスピンダッシュを追加したことで起こった不具合に似た話ですか?

堀井氏:そうですね。これも今回「3D アウトラン」を作ってみなかったらわからなかったことですね。

奥成氏:エンジンを強化すると352km/hまで最高速が上がります。

――結構パワーアップしましたね。

堀井氏:上げましたよ~。

奥成氏:車がスピードアップするとゲームの展開も速くなります。結果的にハンドル操作の難易度も上がります。

――なるほど。

奥成氏:パーツを強化するとそれによって車のカラーかデザインが変わります。これについては、まず僕が今回、最初に「車を増やしたい」という話をしたんです。エムツーさんからは「スケジュール的に絶対無理」って返ってきまして……。

――(笑)。

奥成氏:「アウトラン2」とか、車がいっぱい選べたので……。とはいえ、新しくデザインする時間などもあまりなくて、エミュレーションベースなので、新しいデザインもいっぱい入れたりすることもできない(編注:1つ新しいデザインを入れようとすると、左右の角度にあわせてずらしたすべてのアニメーションや、クラッシュ用のパターンなどを追加しなければならない)。容量とパレットと、という制限の中で、「1つでいいから追加してよ」という話をしたところ、エムツーさんとしては「1車種というのは寂しいので、性能を変えていこう」と。

堀井氏:企画のスタッフは若い世代なので、追加要素に取り掛かった最初の頃は、「ドリフトとかできなくていいんですか?」というような感じでしたからね。

――「アウトラン」と「2」はそこが決定的な違いですからね。時代の違いということもありますが。

奥成氏:ただ、今回はあくまで初代「アウトラン」の遊びを変えるつもりはなかったので、その中での違いを味わっていただきたいということで、こういう形になりました。

――ボディタイプが2つで、カラーがさらに異なると。

奥成氏:強化すると、アザーカーを避けるタイミングなども変わってきますので……。フルパワーアップするとかなり楽になると思うんですが、あえて全部のパーツは付けないで、エンジンだけパワーアップするとどんどんテールが流れたりするので、それも面白いんですよ。それぞれのパーツをパワーアップすることで違いが出てきますので、それを楽しんでいただきたいですね。

――これはこれで楽しめますね。車の挙動が変わるだけでなくて、難易度も変えられると。

奥成氏:セーブデータも「ノーマル」と「チューン」で別々に記録しています。パーツはゴールするごとに増えていきます。クリアすればするほど楽になっていくという(笑)。なので最初にゴールするのが1番大変かもしれませんね。難しい、という方は設定で難易度を下げていただくとアザーカーも出なくなりますので。あとは途中でセーブしたりとか。とにかくまずゴールして、パーツを全部そろえていただいてからも、いろいろ試していただくことで楽しめるかなと。

 最後に手に入るタイヤは、簡単に言えば「常にギアガチャ」状態で走れるんです。昔、サイトロンさんから出ていた攻略ビデオ「セガ・体感ゲームスペシャル」に「アウトラン」も収録されていたんですが、それがギアガチャをフルに活用したプレイで、まともに道路を走ってなかったんですよね。それをギアガチャのテクニックなしで自分でもプレイできるようになってます。オートギアガチャマシンですから。もちろんコースには岩や障害物もあるので、今度はコースの外側を含めて把握していないといけなくなりますので、やり込むと別のゲームになってしまいますが(笑)。

――これはこれで楽しいですね。ギアガチャの操作が忙しいので、それをやらなくていいのはハードウェアにもやさしいですし。

奥成氏:自分でギアガチャしたい方には、操作の設定でギアタイプを「ホールド」にしていただければ、ボタンを押している間は「Lo」で、離せば「Hi」になりますし、「スイッチ」に設定すれば、連打するだけで「Lo」と「Hi」が切り替わりますので、お試しください。なお、入手できるのは4つのパーツなので、最後の5つ目のエンディングまでクリアすると、もうひとつ要素が加わります。それが「アーケード」モードへの切り替えです。先ほどお話した、30フレームの、アーケード版に忠実な描画で遊ぶモードです。

堀井氏:実はそれだけじゃなくて、今回移植の際に修正したアーケード版のバグがほとんどすべて元に戻ります。

――先祖返りする、という感じですね。

奥成氏:たとえば、実はオリジナルのアーケード版とこれまでの移植版にはバグがあって、タイムが実数と違うんですよ。今回区間タイムを記録するにあたり、「アーケード」モードではオリジナル同様ですが、「スペシャル」ではそのバグを修正したので、アーケードと同じように走ってもタイムが少し異なると思います。

堀井氏:詳しく言うと、タイムカウントとラップタイムカウントの計算式が違うんですよ。画面上の1カウントは1秒が60フレームで計算されていて、ラップタイムのカウントは1秒64フレームで計算されているので、1秒で4フレームの差が出るんですよ。

奥成氏:「アウトラン」は繰り返しコースを走っていただくのが楽しいゲームですので、日本版と海外版のコースの違いを楽しんでいただく楽しみと、「ノーマル」と「チューン」でのマシンスペックの違い、そして「スペシャル」と「アーケード」での中身の違いを楽しんでいただくというというさまざまな遊びを用意しています。チェックポイントごとにタイムも記録していますので、タイムアタックを楽しんでいただきたいですね。

奥成氏:ちなみに、今回の「グラントノフ」に関して、アイデアの中には、「スーパーハングオン」の「ワールドモード」のような15コース連続モードというプランもあったんですが、これは、実際に作ってみたんですが、ボツになりました。

 入れてみたら、とてもつまらなかったんですよ。「アウトラン」は分岐の時間がすごくゲームのリズムを作っているということに気づかされたんですね。

堀井氏:「アウトラン」は、あの分岐があることで締まるんですよ。

奥成氏:「でもせっかく作ったんだから、入れようよ」という話もしたんですが、ディレクターの松岡さんが強硬に反対して。

堀井氏:相当時間をかけて作ったから入れたかったんですけれど、分岐を残した形にしても、「結局どっち選んでも同じところを通ることになるのはどうよ?」といった話も出て、削りましたね。

奥成氏:このモードが通常のゲームより面白い、というところが出せなくて。いろんな分岐を通って何度も最初から遊んでもらうのが、「アウトラン」の面白さなんだなということで、やむなくカットすることになりました。

堀井氏:コースエディットできればよかった、という話もあったんですが、そうすると「ゴールをどうする?」という話も出ましたね。

――エディットすれば、本来つながりのないコースをつなげて遊ぶ、ということも可能になるわけなので……。

奥成氏:「それが作業量に見合う改良か?」という話ですね。そして「アウトラン」の面白さを貶めるものではまずいわけで。「3D スパハン」で「ワールドツアー」を体験した方は「今回も……」って予想されていたかもしれませんが、今回はあえて外しました。期待して下さった方、ごめんなさい。

――「15コースすべて遊べるモードがあるんじゃないか?」と予想されている方はいらっしゃいましたね。あとはマシングラフィックをいじれるエディター的なものとか。

奥成氏:私たちも少しだけ検証はしてみたんですけど、昔のゲームとはいえあのゲームのパターンはそんなに少ないものじゃないですよ。

堀井氏:しかもパレットの概念を理解しないと作れませんしね。

奥成氏:「ポリゴンで書かれたクルマにテクスチャーをエディットしてもらって張り込んだものを、ドット絵のパターンに落とし込んで使うというのはどうだ?」という話までしましたね(笑)。

堀井氏:タイヤの走行アニメーションはパレットでやっているので、結構大変ですよ(笑)。

――そういうことまで考えてくれていたんですね。

奥成氏:新規要素としての面白さ、という点ですよね。ゲームの面白さをどう伸ばすのか? という。「アウトラン」の場合は、いろんなクルマで走ることができる、というところに落ち着いたということですね。

堀井氏:遊んでもらえれば、ちゃんと気持ちいいものになっていると思いますので。

奥成氏:当時遊んでいた方は昔のドライブゲームの面白さを味わっていただければと思います。

堀井氏:ポリゴンで作られたゲームの面白さとはまた違ったものですしね。

――今のレースゲームにはない楽しさかもしれません。


 パート1はここまで。楽しいお話はまだまだ続くので、後編をお楽しみに!

(佐伯憲司)