インタビュー
「風来のシレン6 とぐろ島探検録」PC版先行プレビュー&開発者インタビュー
2024年12月11日 12:00
開発者インタビュー。原点回帰を意識しシステムを整理
以下では、PC版リリースに先駆けて行なわれた開発者インタビューをお届けする。冒頭で述べた通り、本作のディレクター・アートディレクターの櫻井啓介氏、プロジェクトマネージャーの篠崎秀行氏両名が、「シレン6」の開発エピソードやリリース後の心境等について語ってくれた。
――今回発売されるPC版で「シレン6」のリリースに一区切りがつくと伺っていますが、Switch版本編、DLC配信後の反響はいかがだったでしょうか?
櫻井氏:本編発売後はかなり好評で、「これぞシレン」という言葉も頂きました。DLC配信後も「DLCがきたから(本作に)復帰する」という声を見かけたので、いい感じに配信が成功したと思います。
篠崎氏:本編に関しては、思った以上にご購入いただけたというのが正直なところです。本編の成功を受けて無料アップデートの機能追加や、DLCの制作がスタートできました。そう考えると、ユーザーの皆さまのおかげで「シレン6」という作品がより良くなったと感じています。
――確かにリリース当初は数字だけでなく、SNSの声からも好評ぶりが感じられましたよね。本作の成功の要因はなんだと思われますか
櫻井氏:正直なところ、なぜ成功できたかはハッキリと分析できている訳ではありません。ですが、1つの要因として14年ぶりの新作を期待してくれるファンの方が多かったことだと思います。SNS投稿を見ても、実際に購入されている方が多くいました。
篠崎氏:私たちが考えていた「14年ぶりのシレン」のイメージが、ファンの方々が期待してくれていたものとそこまでズレていなかった、ある部分では上回っていたからこそ、「面白い」という声があがり、それが動画配信やSNSで広がることで売上に繋がったのだと思います。
――歴史の長いシリーズの新作を制作するにあたって、どういった方向を目指して本編とDLCを開発したんでしょうか?
櫻井氏:本編は原点回帰ということで、ゲームの複雑な部分を上手く理解してもらえるように、攻略の仕方を段階的に発見できるように綺麗にすることを目指しました。一方、DLCではあまり活躍しなかった要素やユーザーによって好みが分かれるもの、本当に難しいダンジョンといったものにフィーチャーしました。
――本作をリリースするにあたり、ファン(=経験者)だけでなく新規ユーザー向けのアプローチを考えて制作された部分はあるのでしょうか?
櫻井氏:前作がわかりにくくややこしい道具やシステムが多かったので、それを整理することで、新規の方でもわかりやすいゲームにしようという考えは開発初期からありました。例えば、ゲーム内で手帳を確認すれば、モンスターの情報や道具の効果、値段もわかるので、スマホやPCで調べながらプレイしなくてもいい。そういった道筋をかなり丁寧にすれば、より新規の方が入ってきやすくなると思い、意識的に制作していました。
篠崎氏:私はどちらかというと、新規の方よりも「風来のシレン」を楽しみに待っていてくれた方々や、10年、20年前に楽しんでくれた人が久しぶりにシレンをプレイして面白いと思ってくれるような作品にしたい。そういった意識で制作が進んだんじゃないかなと思っています。
――原点回帰といえば、本作はいきなり難しめのダンジョン「とぐろ島」から始まりますが、これは初代「不思議のダンジョン 風来のシレン」の「テーブルマウンテン」を意識したのですか?
櫻井氏:そうですね。「テーブルマウンテン」を意識をしつつ、このゲームの一番教えなくてはならない部分は操作法等ではなく「倒されながら覚えていく」ことだと考えていたので、ゲームを始めたらいきなりボス戦で、一発倒されて貰おうと思ったんです。「難所で倒されながらも、ちょっとずつでも前に進む」みたいなことを楽しんで貰いたい。それを前面に押したからこそ、あの形になりました。
――だからこそ「とぐろ島」クリア後にいろいろダンジョンが解禁されて、神髄に挑む前の知識付けを行なっていくような形になっているんですね
篠崎氏:そうですね。「とぐろ島」は壮大なチュートリアルといっても過言ではないと思います。ですので、「とぐろ島」を中々クリアできない人に向けては、倒されたらシナリオが進んで、色々なものが解放されていく。それを繰り返すことでだんだんと簡単にクリアできるようになっていく、というバランスを考えて制作しました。上手い人はシナリオをさっとクリアして、次のダンジョンへと進んでいただき、神髄に挑んでもらえるようにもなっています。
――仲間を連れて歩けるシステムも、何度も挑戦することで徐々に楽になっていくシステムの一環ということでしょうか
櫻井氏:その通りです。前作では「仲間が邪魔」という声もあったので、少し強めなキャラクターが仲間になるようにしています。
――前作と異なり、今作では夜ダンジョンや装備の成長が廃止されています。夜ダンジョンが「デッ怪」に、装備の成長が「神器」に、わかりやすく変更されたということでしょうか?
櫻井氏:夜ダンジョンは遊びとして面白い部分もありましたが、突然別のゲームが始まってしまうことがプレーヤーのストレスになっていると思っていました。そこで通常プレイの延長線上でありながら、夜ダンジョンのようにテンションが変わるものとして「デッ怪」が生まれました。
装備の成長と「神器」はコンセプトが異なっていて、装備の成長は1つの武器を使い続けることで愛着持って長く使い続けてもらおうという考えで作ったシステムです。でも、「シレン6」ではダンジョン内で強力な道具や装備を見つけたらどんどん手持ちのものと入れ替えていくといったようなゲームの流れにしたかったので、そうした考えと噛み合わない成長システムではなく、装備を持ち替えるモチベーションを高めてくれる「神器」システムを入れました。
DLCで新たな遊び方を提示
――DLCについて伺いたいと思います。DLCではあまり活躍しなかった要素にフィーチャーされたとのことですが、SNSや動画サイトでのユーザーの声を反映したのでしょうか?
篠崎氏:はい。皆さんがプレイしている動画や投稿は私たちも見させていただいています。そういった方々のプレイスタイル等は参考になっていますね。
――DLCの目玉になる「超・神髄」もユーザーの声を反映して生まれたのでしょうか?
篠崎氏:「超・神髄」は元々制作する予定はなかったのですが、本編で用意していた「裏神髄」が思ったより簡単にクリアされていたので、皆さんがより難しいものを求められてるんだなと感じました。「裏神髄」の時点で、我々としては難易度を高く設定したため「こんなのクリアできるのか」と思っていたのですが、余裕でクリアされてる方々も結構いらっしゃって驚かされましたね。
櫻井氏:ユーザーの反応も参考にさせていただきましたが、なにより本編にでてくるダンジョンよりも「オールスター」感のあるダンジョンをひとつ出したかったんです。これまでの「神髄」では出せなかった、一部のレベル4のモンスターをしっかりと登場させたり、「稼ぎ」をやり辛くして難易度をあげたり……。でもあまりに難易度を上げすぎるとストレスだらけになってしまうので、そこには気をつけながら作りましたね。
――色々なテクニックがすぐに共有されてしまうので、高難易度のダンジョンを制作するのは難しいように思えます
櫻井氏:テクニックは共有されるものなので、様々なテクニックを散りばめることや、攻略法が一つにならないことは強く意識して制作しています。テクニックはテクニックでたくさん学習して貰って、それ以上にその時々のアイテム運、つまり「今回は白紙の巻物が出なかったけど、代わりに別の道具が出た」みたいな、そういった一回の冒険での物語を楽しんでもらえるように作りました。絞りすぎるとどうしても攻略法が一辺倒になってしまうため、狙っていた道具を拾えなかったら拾えなかったなりに攻略ができ、そこは実力だよねと言えるものになっていると思っています。
篠崎氏:プレーヤーの方々がいわゆる「ニギライズ(※1)」のようなテクニックを使っているのは知っています。開発ではそういった単語は使いませんが……。
テクニックを上手く使えば攻略が楽になる、倒れ辛くなるというのは攻略法の1つとしていいとは思います。でも、開発者側としては、そういったことをしないとクリアできないバランスになっては良くないと思っています。
※1:ニギライズとは敵モンスター「にぎり変化」の能力を利用しておにぎりを大量生産し最大満腹度を上げるテクニックのこと。
――色々なテクニックを活用したり、逆に敢えて縛ったりといった攻略ができるのも「シレン」の魅力だと感じています。ところで、既に超・神髄をクリアしているプレーヤーも多いと思いますが、ユーザーの反応を見ていかがでしたか?
篠崎氏:クリアした人は凄いと思います本当に……。11月に「超・神髄」の公式パラレルプレイを実施したのですが、想像以上のクリアの報告が上がってきて驚きました。「みんなこんなにクリアできるのか」と。
面白かったのが、パラレルプレイでは皆さんが同じ構成のダンジョンをプレイするのですが、クリア画像が人によって全然違うんですよ。フロアの構成や、道具・敵の初期配置は同じなのに、フロアでの行動によって(乱数が変わって)モンスターが落とす道具が変わったり、変化の壺に道具を入れるタイミングでも全然違ったものが手に入るし、こんな風に、ユーザーによって同じダンジョンでも全く異なる冒険ができるんだなと思いました。
――同じデータなのに皆全く違う攻略をするのは凄く面白いですね
篠崎氏:特に面白かったのは、「超・神髄」だと出辛くなっている「保存の壺」を出現させる方法がSNSの動画で共有されていたりして。あるフロアで特定の動きをして、コイツを倒すと保存の壺をドロップするといったことが、SNSやショート動画でアップされていて。こういう攻略は見ていて楽しかったですね。
――乱数調整が共有されるのは面白いですね(笑)。パラレルプレイは初心者救済要素だと思っていましたが、集合知的な楽しみもでてくるんですね。
櫻井氏:ユーザーの方々が思いもよらぬ攻略を生み出すのもシレンの醍醐味だと思っています。本編でも、ボヨヨン壁の外側を使って道具を複製する方法を見つけた方がいらっしゃったりしました。開発陣は気付いていなかったので感心させられましたね。
――DLCではコッパとアスカがプレイできますが、シレン以外のキャラクターを操作できるようにした意図はなんでしょうか?
櫻井氏:最初はシレンのスキン替えくらいのレベルで考えていたのですが、開発の中盤くらいから、既存のダンジョンを違う形で楽しめる要素として実装されました。
篠崎氏:コッパは何となく「こんな感じかな」と作っていたのですが、アスカはかなり後々になってから、ユーザーの「アスカの見た目でプレイしたい」という声に応える形で考えました。検討した結果、ただのスキンではあまり面白くないと思ったので、攻撃力を高くしたり会心の一撃を出やすくした代わりに、被ダメージが大きいというキャラクターとして実装しました。
――ネットではアスカも「ドスコイ状態」になると話題になっていましたね
篠崎氏:それに関しては、開発の中でも意見が分かれ、最後まで議論になった部分です。ただ、やはり本作の攻略法の1つである「ドスコイ」をプレーヤーから奪ってしまうのはもったいないと思い、決断に至りました。
櫻井氏:アスカはおならの効果を入れるかどうかでもかなり揉めました(笑)そっちの方が揉めた気がしますね。
PC版はSteam Deckに対応。開発を一通り終えての苦労も
――PC版発売に至った経緯を簡単に教えてください
篠崎氏:元々Switch版の制作と並行してPC版の制作も行なっていましたが、先に完成したSwitch版が好評だったこともあり、無料追加コンテンツやDLCの開発作業を優先したので、このタイミングでのリリースとなりました。
――PC版ならではのこだわりの部分は何でしょうか?
篠崎氏:Steam Deckに対応できたことが大きいと思います。本作はPCで腰を据えてプレイするのはもちろんですが、携帯機で好きな時間に遊べることも大きなメリットになるので、Steam Deckへの対応に関してはかなり気をつけて制作しました。
――Steam Deckの対応はありがたいですね。PC版では様々なデバイスを使ってプレイできるようになりますが、オススメのデバイスはなにかありますか?
篠崎氏:私はコントローラーが好きなんですが、キーボードでも問題なくプレイできるように、キーのカスタマイズはしっかり実装しています。ですので、自分の好きなデバイスと操作法でプレイしていただければと思います。
櫻井氏:キーボードモードでは斜め入力を1つのキーに割り当てられるようになっています。斜めが押しづらいということはないので、好きな形で遊んでいただければと思います。
――改めてSwitchからPC版と一通りの開発を終えて、苦労したことはなんでしたか?
篠崎氏:やはり、Switchでほぼロードがなく、処理落ちもしないように快適に動作させることが一番大変でした。開発当初は3Dにすることで動きがもっさりするといった声もありましたし、そうなるとグラフィックスもある程度は抑えないといけなくなります。こうした線引きも難しかったです。「シレン」は何度も倒れて繰り返しプレイするゲームなので、ロード時間の短さや快適にプレイできることは、どうしても譲れないポイントだと思っていました。こだわった結果、ユーザーの方の体験がよりよいものになったと感じています。
櫻井氏:シナリオの3つ目のダンジョンでは、シレンが変身した姿で攻略することになるのですが、それが受け入れられるのかは不安でした。でも、新しい遊びとして変身したシレンでのプレイを提案したかったので、そのパートの調整には難儀しました。
――長く愛されるシリーズならではの不安や苦労ですね
篠崎氏:そうですね。新しく機能追加した部分についてはどうしても気になるユーザーさんは一定数いるかと思いますので。「シレン」の場合、例えば草を飲んだときの満腹回復量が従来の5から2に減っています。ドスコイ状態の強さを踏まえてこの数値に変更したのですが、満腹度の回復量一つでもプレイが変化するゲームなので、こういう小さな変更でも受け入れられるかは凄く不安ですし悩みますね。
――今後の「シレン」シリーズの展開について言える範囲で教えていただきたいです。
篠崎氏:まだ何も決まっていませんが、「シレン6」が予想以上の反響をいただいたので、私個人は今後も続けていけたらと思っています。「シレン」以外にも色々な作品と「不思議ダンジョン」はコラボしてきたので、そうした作品も新たに出せたらいいですね。
――楽しみにしています! 最後にファンの方にメッセージをお願いします。
篠崎氏:PC版のリリースに向け、長らくお待たせしてしまって申し訳ございません。多くのプレーヤーさんに「風来のシレン」という作品を楽しんでいただけて嬉しく思っています。公式パラレルプレイなど今後も楽しめる要素を展開していきたいと思っておりますので、これからもよろしくお願いいたします。
櫻井氏:多くの反響をいただき、大型アップデート、DLC、そしてPC版まで漕ぎ着けることができました。本当にありがとうございます!
――今回はありがとうございました!
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