インタビュー

「野狗子: Slitterhead」インタビュー。参考にしたのは青年向けバトル漫画!外山氏「僕の中では『ヤングジャンプ』的なものに」

【野狗子: Slitterhead】

11月8日 発売予定

価格:4,661円〜

 Bokeh Game Studioは、11月8日にプレイステーション 5/プレイステーション 4/Xbox Series X|S/PC用アクションアドベンチャー「野狗子: Slitterhead(やくし)」を発売する。

 「SILENT HILL」、「SIREN」、「GRAVITY DAZE」を手がけた外山圭一郎氏が独立後におくる第1作目「野狗子: Slitterhead」。作中のキャラクターデザインには「ブレス オブ ファイア」、「デビルメイクライ」シリーズで知られる吉川達哉氏、コンポーザーは「SILENT HILL」で外山氏と古くからの親交がある山岡晃氏が参画している。

 先日、そんな「野狗子: Slitterhead」を先行体験できる国内メディア向け試遊イベントが、Bokeh Game Studio本社にて開かれた。その中では外山氏らクリエイター陣によるトークセッションとメディアインタビューも同時に行なわれていたので、その様子をお届けしていきたい。

株式会社ボーカゲームスタジオ代表取締役 CEO/クリエイター:外山圭一郎氏
作曲家、音響監督、ゲームデザイナー:山岡晃氏
キャラクターデザイナー:吉川達哉氏
【Slitterhead - Gameplay Trailer - SGF 2024】

外山圭一郎×山岡晃×吉川達哉らで語るトークイベント。3人が揃った経緯や本作でチャレンジしたこととは?

――「Summer Game Fest」でトレーラーと発売日の情報解禁がありました。外山さんは現地に行かれたと思いますが、そのときの反響とか手応えはどうですか?

外山氏:そうですね。やはり“このゲームは普通とちょっと違うな”みたいな見方をされていた感覚があって「実際に見てプレイして確かめたいんだけども」といった、予定外の飛び込みがいっぱいあったりして、その辺りは本当に有難い話です。

 でも感触で言うと昨今のゲームってどうしても予算が多くかかったりするので、保守的にならざるを得ないっていうかね……。「ちょっと得体がしれない昔のゲームみたいで気になる」みたいな反応を色んな方面からいただいた気がしますね。好印象だった。

――山岡さんと吉川さんは日本でご覧になってたと思いますが、どんな印象でしたか?

山岡氏:やっぱりトレーラーでしたね。独自性というかさすが外山圭一郎というか、Bokeh Game Studioらしいというか。オリジナリティの尖った作品というかね。そうした部分は凄く感じましたよね。

吉川氏:僕はX(旧:Twitter)だったり、YouTubeで見た人の意見がバーって並んでいるのを見て、凄く待望されている人たちの“期待度”というか反応を見ていました。僕自身は今回の作品に好きな映画だったりドラマだったり、昔の作品と印象が被ることが多く、そこに通じる期待が感じられて、中々素晴らしい反応だなって思いました。

――3人が一緒に組んで製作しようとなった経緯についてお聞かせください

外山氏:まず山岡さんとは、私がゲームディレクターとしてデビューしたときに一緒に仕事をしていた経緯があります。その後も一緒にお酒を飲んだりしているときに「また一緒にやりたいね」なんて話をしていたのですが、色々タイミングが合わないってところでようやく実現したのが今作ですね。いやぁ、こんなに空くとは思ってなかったですね正直(笑)

山岡氏:30年くらいですか?(笑)

外山氏:(笑)。吉川さんは「GRAVITY DAZE 2」DLCのゲストキャラクターデザインで参加していただいた経緯があります。

 今回のプロジェクトでは設定上、街の中にキャラクターが紛れ込んでもそんなに違和感のないキャラクターでなければいけない。でも、“ヒーロー”としてもキャラが立っていなければならない。そういう難しいことができる方っていうと、吉川さんしかいないなと思い、それからオファーしました。今のアウトプットでいうと、本当に本当に頼んでよかったなと思っていますね。

――製作を持ちかけられたとき、山岡さんと吉川さんはどのように受け取られたのでしょうか?

山岡氏:僕は元々「SILENT HILL」がきっかけで一緒にチームを組み、音楽を作る立場でした。外山さんがディレクターを務めた作品だったので、どういった音楽とかどういった作品にすればいいのかっていうのは凄く考えさせられています。自分にはなかったアイディアとか作風とか“これから”というものを出していただけていたんですね。

 ある種「恩人」というか。僕にとってゲーム音楽をやっていく上での恩人でもあり、彼の作品も凄く大好きです。他に交わらないところもそうですし、独自性を持って色んなユーザーさんに応えていける作品性が格好良くてリスペクトしています。だから、またいつか一緒にやりたいなって……。そんなに人生も長くないので(笑)

 どこかでまた一緒に作品をつくって、この世界に何か届けられたらいいなっていうのをずっと思っていました。だからお話が来たときはもうそれはねぇ……。なんだろうがやりますよ(笑)

 また僕の中から新しいものを引っ張ってきて貰えるのかな? なんていう期待もあって、作品に参加させていただいた感じですね。

吉川氏:僕は最初作品の雰囲気を聞いたとき、一番お役に立てるのはクリーチャーじゃないかなと……(笑) 一瞬そう思ったんですけど、実はキャラクターの方をやってほしい、と。僕の中で言うと“プレイヤー=主人公”というのが最大級のプレッシャーになるので。

 当時のスケジュール感だったりとか、精神状態だったりとかどれくらい受け入れられるかなといった不安もありましたが、「GRAVITY DAZE 2」に参加させていただいたり、普段から一緒にお酒を飲みに行ってることもあったので(笑)

 僕にとっては相性の良いディレクターさんにもなるので「全然僕で大丈夫だったのならやります!」という感じで、喜んでお受けさせていただきました。

外山氏:ありがとうございます(笑)

――3人が「野狗子: Slitterhead」で表現したかったものや課題だったこと、チャレンジしたことがあればお聞かせください

外山氏:チャレンジで言うと「キャラクター」の部分です。街の中で歩いていても誰も気にしないけど、誰が見てもこの人は特別なヒーローであるという二律背反する要素を実現してもらわなければならない。それが本当に大変で。並列に立っていてあり得るデザインだけど、存在感が違うところは本当に素晴らしく、吉川さんに依頼して良かったなと。

山岡氏:ゲームのサウンドデザインを40年もやっているので、今回新しい音楽を作りましたっていうのもなくてですね(笑)

 ゲームをやっているときの音の感じ方ってゲームならではで、独特なんですよね。だからどうしたらゲームが面白くなるかっていう部分を考えて、こういうときにこういう音を立てたらユーザーさんがこう感じるかもしれない。そういうところをベースに音を組み立てていったら面白いのかなっていうのは1つの特徴……じゃないですけども。

 単に音楽とかサウンドデザインだけじゃないゲームに寄り添えることって何だろうみたいなのは、「SILENT HILL」の頃からずっと外山さんと話していました。さらにそのもっと先というか、そういう部分を今回の「野狗子: Slitterhead」で実現できたらなっていうのは、最初の方から考えていたところではありますよね。

吉川氏:キャラクターが多種多様で、かつヒーロー過ぎず街の人過ぎずというのは凄く難しかったです。でも長いことキャラクターデザインに携わってきたおかげというか、これまでの経験値が凄い活かされた感じがしていて楽しかったですね。

――外山さんが改めておふたりと仕事して刺激を受けたことがあれば教えてください

外山氏:めちゃめちゃあって、まずは吉川さんにとって「OK」というのは何か、というところです。

 ウチのキャラチームも凄く優秀でその時の最適解を出しているけど、吉川さんにとってはもっと上があると思ってます。これは途中で気が付いたけど、本当の正解は吉川さん自身にもキャッチできないもっと上にあるんだなっていう……。本当のプロのこだわりというものを痛感しましたね。

 山岡さんはね。天才過ぎてここをあーだこーだって言う余地がないんですよね。山岡さんは本当にゲームをずっと見ていて、コッチから言うのではなく、逆にここはこうでしょって言われる。僕はもう黙るしかない。山岡さんが一番いいものを作ってくれるというか……(笑)

 ちょっとね、プロの中でも極まり過ぎている人たちと一緒に仕事をして大変でした(笑)

――また一緒にプロジェクトを進めることになった場合「こういうことをしたい」、「こういう作品作りをしたい」というのはありますか?

外山氏:まず「誰かと一緒にやるありき」なのは違うなと思っていて、何かをやるときに最適解であればもちろんお願いする、と。この3人の特質でいうと同じようなことをやるのはあまり気分がアガらないのかな。今までとは全然違う何かをやるんだけど、どう?って聞くときっとノってきてくれると思っているから、もしそういうことがあったらもちろんお声がけして、やらせていただけたら本当に幸せだと思うし。この2人が乗ってきてくれるものってなんやろなーって考えたりします(笑)

山岡氏:この人たちスゲーなっていうのは感じたんですね。次回やるのであれば、そういう人たちとも、もっと密に仕事を進めたいというのはあります。背景もキャラデザもアニメーションもそうですし、スタジオ何にまだ喋ったことがない人たちもいるので、もっとこう密に肩を組んで(笑)

外山氏:山岡さんってイメージ的に「フィーリングで〜」、「音楽性で〜」みたいなタイプとは違うんですよ。実はゲームとして一番ユーザーさんにいい届け方をするのはどう?っていうのを無茶苦茶聞かれる方っていうか。ゲームのコンポーザーとして超一流です。ユーザーのことを本当に気にしてるんです。

山岡氏:やっぱりまずはゲームが面白いってことが一番なわけで。別にどんないい音楽を作ろうが効果音を取ろうがどこで取ろうがそんなの関係なく。「野狗子: Slitterhead」は特にどこにも馴染まないし、どうやったら多くの人に届けられるんだろうってとこなので。

吉川氏:外山さんは色んな作品を作られる方なので、外山さんが必要としているのであれば、楽しく仕事ができるので。モチベーションが上がる環境を提供してくれるディレクターさんだと思うので、ぜひそういった機会があればこちらかも(笑)

外山氏:よっぽどイヤなことが……(笑)

吉川氏:これだけ長いこと作っていると、そういうこともあるので(笑)やっぱりワクワクする環境で仕事をするっていうのは、しんどさを乗り越える理由になるので。

外山氏:そうですよね。僕ら年寄りなんで我慢するより面白いことだけやって余生を生きたい(笑)

――最後にゲームの発売を待つユーザーにメッセージをお願いします

山岡氏:こんなゲームないなっていうのは凄く感じていますし、「これどうやってやったんだろう」っていう他社にはできないアイディアも技術もふんだんに盛り込まれていて、スゲェ作品だなっていうのは参加させていただいた身でも感じるんですよね。より多くの人にこの独特の感触を、コントローラー越しに体験してほしいと思います。音楽はどうでも良いです本当に(笑)

 このチームが作ったならではのものがどうやったら世界中の1人でも多くの人に届けられるのかなっていうのは考えたいですよね。こんな感触の良いものはないので。今後も何かしらの形で発信できたらなぁと思っています。

吉川氏:外山さんの作る作品って非常にドラマチックというか映画チックというか。その世界に初めて行ってみた、みたいな感覚を凄い思い起こさせる作品づくりがされています。

 今回の作品も初めての感じを味わいつつ、どこか僕が好きな昔の映画の雰囲気を感じられました。そういったものが合わさって、新しいものが出来上がっているなと思ったので、ぜひその機会が来たら皆さんにも手に取って遊んでみてほしいです。もしかしたら、映画になったりするんじゃないかなって期待も込めて、触ってほしいなと思います。

外山氏:自分もかなり長い期間ゲームディレクターとしてやってこれて、本当に感謝しかないけど、ヒット作を連発したとは言い難いところもあるというか。自分を振り返ると何か新しいものはないか、唯一無二のものはないかというところにはこだわってきたと思います。独立した今もそこは変わらず、それしかやりたくないと思っております。

 そういう気分のようなものに賛同していただける御二方もスタッフもそうですけど、本当にありがたいと思っています。こういうスタンスでゲームを作り続けて、将来的には次の世代にも託したいです。まずはきちんとゲームを受け入れていただく必要がありますので、ぜひぜひよろしくお願いいたします!

外山氏×山岡氏×吉川氏インタビュー。リファレンスは日本の青年向けバトル漫画から

――早速ですが、ホラーが苦手でも戦闘主体な要素が色濃くて楽しめました。一見するとホラーテイスト寄りですが、こうした世界観に至った経緯はありますか?

外山氏:ホラーとの向き合い方は昔から考えていました。その中でもちょっと問題だと感じているのが、ホラーファンの方が注目してくれる反面、「あ、これホラーゲームなのね、じゃあ僕違うわ」と、ジャンルとして敬遠されること。それはあんまりよろしいことではないと思っていて、その辺をどう落とし込むかというと、自分としては日本のコミック「青年誌」などから影響を受けました。

 あの辺りは脅威に立ち向かっていくけど、いつ誰が死んでしまうかわからないハラハラする感覚がありつつも、バトルアクションエンタメという魅力がある。そこのエッセンスを踏襲して、ゲームにドラマ的な要素を織り交ぜつつ、バトルアクションエンタメとして“楽しい”と思えるような作品の切り口が、意外にないと思ったんです。

 特に海外はそういう日本の青年向けコミックみたいな文化が少年誌よりないので、これは新鮮に受け取っていただけるんじゃないかなと思って、こういうゲーム性になっています。

――普段からそういう青年向けコミックからの影響を受けているんでしょうか?

外山氏:めちゃくちゃ受けてる。僕は漫画からの影響が一番デカいくらい(笑)

――ゲームをプレイしていてキャラクターのアクションとかクリーチャーに「寄生獣」っぽさは感じました(笑)

外山氏:「寄生獣」にはもちろん影響を受けているけど、僕の中では「ヤングジャンプ」的なものに(笑)

 これ言っちゃって良いのか分からないんですが、「東京喰種トーキョーグール」とかあの辺のサバイバルホラーというか「いつ死ぬのかわからない」スリルと、超常能力を持ったバトルアクションの魅力をリファレンスしていたのかな今回は(笑)

――まるで肉体を使い捨てるような「憑依」のシステムがなかなかユニークでした。ゲーム冒頭では犬に憑依していましたが、人間と犬以外にも憑依できる対象は登場するのでしょうか?

外山氏:そこは誤解を生みたくないので言わせてもらいますが、基本的にはバトルアクションに注力していて、犬のような人間以外の対象はアクセントとして考えて貰えれば。そこに注力するのもどうなのかなって思っています。

――「希少体」と「一般人」を差別化しつつも、「希少体」のキャラクターをあまりヒロイック過ぎないようにするため、デザインで気をつけた部分はありますか?

吉川氏:「希少体」と「一般人」の差別化自体は実はそんなに難しくなくて、むしろ希少体をヒーローにし過ぎないところが難易度の高い部分でした。差は自ずと出るというか、物語の核になる役割を担っているので、それなりに役割がデザインに反映されていたりします。ですので、そこの差についてはそこまで難しくないかなっていうところですね。

 だからヒロイックにさせない感じに押さえ込むのが難しかったかなと思います。そういうのは自分で描いてても特徴を出し過ぎないよう、削ぎ落としていったりとか。例えば漫画のキャラクターでたまに見ますが、異様に目が尖ってたりとか、異様にどこかのパーツが大きかったりだとか。キャラクターの生活感や街に生きている人のことを考えてみると、そんなわけはないよなぁ、と(笑)

――楽曲やSEなど、サウンド面でプレイヤーに注目してもらいたい箇所があれば教えてください

山岡氏:そうですね……。僕は逆にあんまり音楽に気を遣ってもらいたくないと思っているので、注目してもらわなくてもゲームが遊べるものにできたかなと思っているんです。

 強いて言うなら広東語の歌モノが入っていて、広東語が普段耳にしない音楽ですから、そこはぜひ聞いてもらえたらなと思っています。

――Bokeh Game Studioとしての今後の展望、目指すモノづくりについてお聞かせください

外山氏:そこは明確で唯一無二。他所が作るものをウチが作る必要はない、といったところです。その理念を継続的に次の世代へ、脈々と引き継いでいけるようなモノづくりを目指しています。

――今はインディーゲームが次々と生まれる時代です。Bokeh Game Studioとしてもまずは「野狗子: Slitterhead」に注力するのが大切だと思いますが、これからゲーム業界を目指す次世代のクリエイターたちに伝えたいことがあればお願いします。

外山氏:山岡さん、どうぞ。

山岡氏:(笑)

 そうですね。今は日本国内で迷っているクリエイターさんたちが凄くいるんじゃないかと思っているので、技術も然りですけど、なるべく“グローバルな感性を磨き続けてゲームづくりに参加”して貰えたらと思っています。

吉川氏:僕も若い頃そうだったんですけど、ゲーム業界を目指す人はゲームが大好きな人たちだと思うので、ぜひ“自分が一番好きな作品を当然のように超える”ために頑張ってほしいかなと思います。超えないと無理だと思うので。僕らも粘ってますので(笑)

 外山さんだけじゃなくて色んな方と話をして「どこへ向かって行けばいいのか」を詰めていくことが、作品としても商品としても強くなるんじゃないかなと感じています。スタッフや外山さんたちを含めて、もっと知らない人たちと関わってやれたら良いなと思ってます(笑)

外山氏:共感できる要素を持って取り組めば必ず誰かが引っかかってくれると思います。まずはそこからだと思うんですよ。お金云々というより「自分の感覚は誰かに届くんだ」って感覚さえあれば、次に繋がっていくと思うので。まずはそういう体験をしていただけると。

――本日はありがとうございました!

試遊会で配られたクラフトビール。左は「野狗子: Slitterhead」作中にも登場。右はBokeh Game Studioオリジナルのもの
Bokeh Game Studioのショーケース内には、ホラー漫画家・伊藤潤二氏によるサイン色紙が飾られていた