インタビュー

映画公開記念「グランツーリスモ」クリエイター山内一典氏インタビュー

山内氏「選手たちはみな、自分の子供のような存在」

【映画「グランツーリスモ」】

9月15日公開

 いよいよ9月15日に公開となる映画「グランツーリスモ」。先に公開された海外のレビューを覗くと、「ゲームのプロモーションに過ぎない」という、いかにもありがちな底の浅い批判が散見されるが、ゲームファンなら、ゲームへの誘導を狙いとした映画ではないことはすぐにわかるはずだ。

 映画は、名前こそ「GT」を冠しているが、実際に描かれているのは劇場版「GT」ではなく、「GT」の枠を大幅にはみ出したプロジェクト「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」(以下「GTアカデミー」)だ。ゲーマーは果たして本物のレーサーになれるのか。その壮大な取り組みの結末をぜひ劇場で見届けて欲しい。

 本稿では、映画公開を記念し、「グランツーリスモ」クリエイター山内一典氏にインタビューを実施した。山内氏は、エグゼクティブプロデューサーとして映画制作に携わっており、当然、劇中にも関係者として登場する。そして「GTアカデミー」の仕掛け人の1人でもある。映画の感想や「GTアカデミー」の想い出などについて話を伺ってみた。若干のネタバレも含んでいるので、気になる方は、映画を観たあとに一読することをお勧めする。

映画「グランツーリスモ」について

――生みの親として、映画「グランツーリスモ」を視聴された感想を聞かせて下さい。

山内氏: 見た人をポジティブな気持ちにさせる、素敵な映画ですね。本当に良かった。「グランツーリスモ」の映画化への道のりは長い長い歴史がある一方、良い映画が出来るかどうかは、脚本や監督、カメラ、キャストなど、様々な要素が関係してくるので、ある意味で運次第なところがありますが、とても良い映画に仕上がっていて良かったです。エンターテイメント映画のお手本、教科書のような作品ですね。

――山内さんから出したオーダー、監修した部分はどのあたりですか?

山内氏: 私自身は、脚本の第一稿までを確認しただけで、基本的にはニールをはじめとする彼らの作品です。脚本家の方とお会いする機会があって、「最後のクライマックスで、演出上、どうやって主人公が勝ったらよいだろう」と相談を受けたので、そのときに、私が申し上げたアイディアは、ル・マンのような年に1度しか走れないコースの場合、長い歴史の中で、「このコーナーはここを通れ」とか「ここには行くな」とか、そういう定石、アドバイスを、レースチームの監督やエンジニア、ベテランドライバーから受けることが多いんですが、何千ラップも走っている「グランツーリスモ」のドライバーにしかわからない(本来禁じ手とされている)走行ラインがあるので、それを最後の最後に使う、っていうのはどうかな? と申し上げました。

――ポルシェが重要な場面で登場するのは、山内さんの希望なんですか?

山内氏: いえ、私は関係していません。

――山内さんがカメオ出演されていますが、出演経緯を教えて下さい。

山内氏: 主人公のヤン・マーデンボローと彼女が東京でデートするシーンがあるのですが、そのシーンで登場してはどうだろう、と提案しました。

――ゲームとの挙動の違いから、実車のフェードの発生を確信するエピソードはおもしろかったです。ゲーム制作側から見て、ああいう事はありうるのでしょうか?

山内氏: 「GT」の製品版では、ブレーキフェードは発生しないようにしています。内部的な処理はありますが、減速Gの変化表現が困難なためOFFになっています。
ただ、GTをプレイしているということは、クルマの応答や、その背後にある自動車のメカニズムを完全に理解している、ということでもありますから、その結論に辿り着くのは自然なことのように思います。

――映画のどのあたりに注目して貰いたいと考えていますか?

山内氏: この映画はとても緻密に、丁寧に作られたエンターテイメントなので、その完成度を楽しんで欲しいです。

モチーフの「GTアカデミー」について

――ポリフォニー側、山内さん側から見た「GTアカデミー」の経緯を教えて下さい。

山内氏: 当時、日産のグローバル・マーケティング・ダイレクターだった、ダレン・コックスに会いました。確か、2004年のニュルブルクリンクだったと思います。そこで「グランツーリスモのプレーヤーはレーシングドライバーになれるだろうか?」という質問をされたので「なれると思うよ。それは全く問題ない」という会話から、日産の「GTアカデミー」プロジェクトがスタートしたと記憶しています。

――なぜ9年間もの長期間にわたって続けることができたのでしょうか? レーサー育成事業としての「GTアカデミー」の評価も聞かせて下さい。

山内氏: 9年間続けられた理由は、日産の方に尋ねたほうが良いと思いますが、レーシングドライバーの育成という意味では、今でこそ当たり前になっている、シミュレーターでのドライバー育成が実際に可能だ、ということを世界で初めて証明できたのは良かったのではないかと思っています。

――“レーサー山内一典”として、「GTアカデミー」卒業生たちの評価、凄さを教えてください。単なるシムレーサーで終わる人と、リアルレーサーまでジャンプアップできる人は何が違うのでしょうか?

山内氏: 歴代の「GTアカデミー」ウィナーや、現在の「グランツーリスモ ワールドシリーズ(GTWS)」の選手たちと出会って気づくのは、いずれも、大変な努力家で、頭が良くて、人間的にも魅力的だ、ということです。彼らはおそらく、何をやっても成功する人たちです。

【グランツーリスモ ワールドシリーズ】

 以前から不思議に思っていたのは、例えばオリンピックでティーンエイジャーの選手が金メダルを取ったりすると、メディア・トレーニングを受けているわけでもないのに、実に堂々と立派な言葉を発しますよね。なぜ、ああいうことが可能なんだろう、と思っていたんですが、それが正にスポーツ、勝負の世界の機能なんだな、ということです。真剣勝負の世界で、勝ち続ける経験は、自然と人を成長させるんでしょう。

 その上で、リアルなレーシングドライバーになれるか、なれないか、というのは、本人の目指す方向や、様々な環境、運も関係してくるのだと思います。プロフェッショナルになるには、幸運な出会いが必要ですね。

【レーサー山内一典】
山内氏はクルマ好き、レース好きが高じてレーサーとしてのキャリアも存在する

――「GTアカデミー」を通じて選手、レースについて想い出に残っていることを聞かせて下さい。

山内氏: 選手たちはみな、自分の子供のような存在ですから、私はただただ、心配していました。もちろん、良い成績を残してくれるのは嬉しいですが、それ以上に、危険な目にあったらどうしようとか、この先のキャリアをどうしようとか、そんなことばかり考えていました。

【GTアカデミー】
GTアカデミーの公式サイトでは、2008年から2016年までの取り組みが紹介されている

――本映画の主役であるヤン・マーデンボロー選手の思い出や、個人的なエピソードを教えて下さい。

山内氏: ヤンはまだ幼さがある時点から、独特のオーラがありました。ドライビングスタイルも、すごくアグレッシブ。レースに参戦するようになってからは、それに磨きがかかっていきましたね。東京のPDIスタジオにたまたまヤンが来ていたとき、別件で、レーシングドライバーの中谷明彦さんがいらっしゃったんですが、ヤンを見るなり、「彼は大物になるね。そういうオーラがある」と言っていたのを思い出しました。

【ヤン・マーデンボロー選手】
【GT Academy 2012 Jann Mardenborough】

――マツダの「MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2023」は、「GTアカデミー」の精神的後継事業なのか? こちらの取り組みについて経緯と協力体制について教えて下さい。

山内氏: 「MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2023」は、マツダのプロジェクトですね。バーチャルとリアルを繋げるという意味では、「GTアカデミー」と似た部分があると思いますが、マツダのみなさんは、誰でも楽しめるような、カジュアルなリアルレーシングと、「グランツーリスモ」とを繋げたいのだと思います。

 ぼくらとしての「第二期」は、いま開催している「GTWS」です。直接、リアルモータースポーツが関係しているわけではないですが、「世界のトップが集い、そのスゴい連中が出会ってポジティブな時空を作っていく」という意味での精神的な後継プロジェクトです。思えば、GTアカデミーが残したものも、結果的には、そういった「人間」の「出会い」の魅力だったと、後から思います。

【MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2023】

――「グランツーリスモ」からレーサーを目指した多くのGTレーサーに対してコメントを

山内氏: 1人のドライバーがレースを走るためには、チームやスポンサーなど、膨大な数の人々が強力なバックアップをする必要があります。ドライバーは、速く走るのは当然として、コース内外で起きる、複雑で過酷な状況の中で、様々なことを冷静に考え、答えを出す頭の良さ、スポンサーを集めるために必要な人間的な魅力、すべてが求められます。

 レーシングドライバーって、ある意味で人間の総合格闘技のようなところがあるんです。それらは大変ですが、だからレースは面白い、とも言えるんです。運も必要ですが、そうした機会に恵まれたのだとしたら、その、それぞれの人生のステージの瞬間を楽しんで欲しいですね。苦労も含めて、レースは楽しいですから。

――すべてのGTファンに向けてメッセージを

山内氏: 今回、私は映画を観ることで、これまで自分でさえ忘れていた、15年前の「グランツーリスモ」の世界を思い出して、とても懐かしい気持ちになりました。GTファンのみなさんも、この映画を観ることで、それぞれのみなさんの「グランツーリスモの思い出」を思い出してくれたら良いなと思っています。

――ありがとうございました。