インタビュー

新たな動画配信サービス「&CAST!!!」は「IP創出の起点」に!?

バンダイナムコエンターテインメントの桝井氏、大森氏にインタビュー!

2018年春 配信予定

 バンダイナムコエンターテインメントは、キャストと遊べる新動画配信サービス「&CAST!!!(アンドキャスト)」を、スマートフォン向けアプリとして2018年春に配信する。利用は無料で、ビジネスモデルはアイテム課金制。

 「&CAST!!!」はライブストリーミングにゲーム要素を加えた動画配信サービスで、ユーザーはアバターを通してキャスト(配信者)や他の視聴者とリアルタイムでゲームや会話を楽しむことができる。アバターは着せ替えが可能なほか、ローンチ段階では既に公開されている通り「テイルズ オブ アンバサダーチャンネル」、「みきみこちゃんねる(以下、みきみこ)」、「シェアハウCHU!チャンネル」、「学園執事チャンネル」、「エイトレイドチャンネル」、の5チャンネルが配信予定となっている。

 ローンチを間近に控え、弊誌では「&CAST!!!」について担当者にインタビューを行ない、「&CAST!!!」が「動画+ゲーム」という形式を取ることになった理由や、新規IPの立ち上げに対する展望などを聞くことができた。本稿ではこの模様をお伝えしたい。

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「&CAST!!!」はバンダイナムコエンターテインメントの強み、「IP」を軸に展開

 今回「&CAST!!!」についてお話を伺ったのはバンダイナムコエンターテインメントNE事業部第3プロダクションゼネラルマネージャーの桝井大輔氏と、NE事業部第3プロダクションプロデュース3課アシスタントマネージャーの大森大将氏。

バンダイナムコエンターテインメントNE事業部第3プロダクションゼネラルマネージャーの桝井大輔氏
NE事業部第3プロダクションプロデュース3課アシスタントマネージャーの大森大将氏

 まず気になるのは、そもそもなぜ今バンダイナムコエンターテインメントが動画配信サービスに参入したのか?というところ。これは桝井氏によると、スマホアプリゲームのユーザー調査において得られた、「ゲームを遊ぶ時間よりも動画配信などを観る時間が増えている」という結果が背景となっているのだという。

 同社は「バンダイチャンネル」にて既にアニメなどの「動画コンテンツ」の配信を行なっているほか、ゲームのプロモーションとしての動画を数多く展開してきた。ある意味ではパッケージングされ、"完結した"コンテンツの配信は長らく手掛けてきたものの、その場その場でのライブ感を楽しめる「生配信」などについては事業として取り組んではこなかった。そこで、こうした「生配信」を主軸に据え、改めて事業として捉えなおした成果が「&CAST!!!」という新たなプラットフォームなのだという。

 動画配信、とひとくちにいっても、その動画コンテンツやビジネスモデルはプラットフォームによって様々だ。同社の「バンダイチャンネル」のように月額で定額見放題のサービスもあれば、利用自体は無料で広告で収益を得るモデルもあり、最近ではライブコマース(コマース=商品の売買など)などのように「動画+コマース」や「動画+ギフティング(ギフティング=配信者に対する"投げ銭")」といった配信モデルも現われている。

 バンダイナムコエンターテインメントがそんな動画サービス業界に新規参入するには、他サービスとの差別化が必要だった。そこで、「&CAST!!!」ではその軸を同社の強みである「IP」に設定したのだという。また、IPの強みを生かすためにコンセプトを「動画+ゲーム」と設定し、キャストとして登場する声優、そしてキャラクター達とライブで相互にコミュニケーションをとりながら楽しめるプラットフォームを目指していくのだという。

 「動画+ゲーム」という形態をとるのにあわせて、ビジネスモデルも基本無料のスマホアプリのような体裁になっている。「&CAST!!!」では動画配信のコンテンツ自体は無料で視聴することができるが、アバターの着せ替えや、ゲーム部分で使えるアイテムの購入などが課金要素になる。衣装には「テイルズ オブ」シリーズのキャラクターや「みきみこ」など、各IPにちなんだものが用意されるという。

アバターは「テイルズ」などIPにちなんだものをはじめ、様々なものが部位ごとに用意される

 配信のレイアウトとして、画面上部には動画、画面下部は参加したユーザーが集うゲーム画面となっており、ゲーム画面ではモンスターなどの対象物に向かってアイテムを投げてリアクションをするというのが基本的な遊び方となる。こうしたアクションによって「貢献度」を獲得することができ、着用しているアバターや投げるアイテムによって獲得量が向上するとのこと。

 ゲームに参加しているユーザーの「貢献度」はランキング形式で表示されるほか、「貢献度」が高いほど前(画面左側)に出る=目立つことができる。さらにランキングの順位に応じて自分の部屋となる「ルーム」に設置できるアイテムが手に入るとのことで、これにはIPにちなんだアイテムのほか、声優が配信中に描いたイラストや、キャストのお気に入りの家具アイテムなどが用意される予定だという。こうした設置アイテムは課金要素ではなく、ゲームに参加してランキング競争を勝ち抜くことでしか入手できないという点が面白い。

配信画面
自分の部屋となる「ルーム」

ローンチ当初は新規IPを含む5チャンネルで展開!

 チャンネルのラインナップとしてはお馴染みの「テイルズ」のチャンネルをはじめ様々な新規IPを投入しているのに加え、番組内容はコンセプト通り双方向のコミュニケーションを意識したものが用意されている。配信には各チャンネルごとに大きく分けて「公式配信」と「キャスト配信」の2つが用意されるが、「公式配信」はどちらかというと公式主導の情報発信を担い、「キャスト配信」は声優がキャラクターとして、あるいは素の個人として出演するもので、こちらはキャストとの相互コミュニケーションが楽しめるものになるそうだ。

 大森氏によれば新規IPではユーザーとのコミュニケーションを図ることで、IPをユーザーの望むものに育てていくことができるのではないかという期待を抱いているという。また、既存の世界観などに縛られることもないため、キャスト自身の色をキャラクターに反映しやすいという側面もあり、自由な世界観を構築していけるのではないかと語っていた。

 実際、新アニメ「刹界エイトレイド」のチャンネルではアニメの制作工程を配信で公開、ユーザーからのフィードバックをダイレクトに受け、意見をアニメ制作に盛り込んでいくという試みも行なわれる。

 また、どちらかというと女性向けにはなるが、「みきみこちゃんねる」や「学園執事チャンネル」、「シェアハウCHU!チャンネル」の取り組みも面白い。「みきみこちゃんねる」は日本酒の酒蔵と協力して、実在の酒造の銘柄の名前を冠したイケメンキャラクターが登場するというもので、もちろん(?)お酒にまつわる番組だけあってキャラクターの"中の人"、声優も飲みながら配信することもあるとのこと。ここには皆でワイワイ晩酌をする、というコミュニケーションの場になればという意図があるという。

 一方「学園執事チャンネル」では池袋の執事喫茶「地下宮殿」とタイアップしており、実在の執事喫茶のスタッフをキャラクターの声優として起用している。キャラクターのビジュアルも声を担当するスタッフに寄せているとのことで、キャラクターによる配信を楽しむだけでなく、"中の人"に実際に会いに行くといった楽しみ方もできるという仕掛けになっている。

 「シェアハウCHU!チャンネル」はIPというよりもコンセプトからして斬新なもので、なんと12人の若手俳優を都内某所に住まわせ、日常生活をカメラで24時間"覗き見る"ことができるチャンネルになるという。実際に2件の一軒家を用意して6人ずつに分かれて配信を行ない、ユーザーからのリアクションなどを人気投票のような形で集計し、その数を競うというようなシステムになるとのことだ。

 ローンチ当初はイケメンが揃う、どちらかというと女性向けのチャンネルが多い印象を受けるが、「&CAST!!!」においては特に対象の性別や年齢、属性を限定する意図はなく、幅広いチャンネルを今後も継続して増やしていく予定だという。

「&CAST!!!」ではローコストかつユーザーの声を取り入れたIPの育成が可能に

 「&CAST!!!」では立ち上げに合わせて「エイトレイドチャンネル」や「みきみこちゃんねる」、「学園執事チャンネル」などの新規IPが展開されるが、これにはビジネス上の目論見もある。通常、新規IPの立ち上げには当然莫大な予算がかかるほか、IPに対してメーカーの意思が強く反映されるため、意図せずユーザーの望むものと乖離してしまうことがあるのだという。

 このあたりはメーカーとしても毎度悩むところだということだが、「&CAST!!!」での番組配信といった形でIPの新規立ち上げを行なえば、メーカーとしてはコストが割安で済むほか、立ち上げたIPに対するユーザーからのフィードバックをいち早く得て、IPの育成に生かすことができる。そのため、「&CAST!!!」には「IP創出の起点」としての側面もあるという。

 大森氏はゲームやアニメなどのメディアミックスにおいても起こりうる、蓋をあけてみたらユーザーが望んだものとは全く違ったものになっていた、という「ユーザーさんにとってもわれわれメーカーにとっても不幸な事態」を「&CAST!!!」上でのIP立ち上げにより回避することができるのでは、と期待を覗かせていた。

バンダイナムコエンターテインメントも手探り。今後はユーザーの声に耳を傾けて「変化していく」

 「&CAST!!!」はバンダイナムコエンターテインメントのIPという強み、そしてスマホゲームのノウハウを詰め込んで作られた新しい動画配信プラットフォームだ。とはいえ全く新しい試みということもあり、日々手探りの状態が続いているとのこと。

 桝井氏は最後に「数カ月、数年と色々と試行錯誤していく中で、新しいエンターテイメント、新しい動画サービスを作っていきたい」、そしてサービスの開始後もユーザーの声に耳を傾け、プラットフォームとIPの両方を育てていくことで「『&CAST!!!』ならではの文化を作っていきたい」と語った。