インタビュー

「World of Tanks」サウンドプロデューサーAleksey Tomanov氏インタビュー

リアリティと聞き心地の良さの間で、戦車戦らしい重厚感と緊張感を表現!

7月4日収録

会場:ベラルーシ ミンスクオフィス

 「World of Tanks」の特徴のひとつに、マッチングスタイルのオンラインシューターとしては非常にリッチなサウンドが挙げられる。BGMにはオーケストラを活用し、パーカッションを主体とした重厚で緊張感のあるサウンドでタンクバトルを盛り上げてくれる。

 今回のWargaming.netのミンスクオフィス訪問では、「World of Tanks」のサウンドを統括するサウンドプロデューサーのAleksey Tomanov氏に、日本のメディアとして初めてインタビューすることができた。メインの内容は、現在グラフィックスのHD化と対で進められているサウンドのHD化だが、それ以外にもどのようなポリシーで「World of Tanks」のサウンドが生み出されているのかたっぷり聞くことができたのでご紹介したい。

「World of Tanks」の“Music 2.0”プロジェクトとは?

「World of Tanks」サウンドプロデューサーのAleksey Tomanov氏
サウンドチームのメンバーたち
Tomanov氏が実際に作業している環境
スウェーデンのウォーメタルバンド「サバトン」とのコラボも“Music 2.0”の一環となる

――「World of Tanks」で新たに進められている“Music 2.0”プロジェクトについて教えてください。

Aleksey Tomanov氏:私たちが今考えているものとしては、現在使用しているマップについて、モチーフとなっている地域に合った音楽に差し替えていきたいと考えています。例えばフランスのマップであればフランスの音楽であったり、そういった戦場に適したものを、別々に用意したいと考えています。私たちのプロダクトはAAAだと自負しておりますので、音楽もAAAであるべきです。我々はAAAの音楽をゲームに提供していきたいと考えております。

――現在「World of Tanks」ではマップのHD化が順次進められていますが、既存BGMのHD化というアプローチはないのでしょうか?

Tomanov氏:それはまさに今回お話ししたかった内容の1つであり、私たちはいまグラフィックスのチームと共同で動いており、ビジュアルを強化するのであれば、もちろんそれに合わせて音楽も強化しないと、どちらかが見劣りしてしまうということになります。今までは私たちは独自に部署ごとに動いていましたが、これからは新しい試みとしてビジュアルのチームとオーディオのチームが協力しあいながら、同レベルの高いクオリティを誇ったものを作成していくように考えています。

――オーディオのHD化についてもう少し詳しく教えてください。オーディオの進化は、例えば音質の向上、マルチチャンネル化、新たなオーディオコーデックの採用など、いろいろなアプローチがありますが、今はWargamingが進めているアプローチはどういうものなのでしょうか?

Tomanov氏:今現在私たちとしては、よりクオリティの高い音楽や音を作るようにしておりまして、その中でも今使っているツールの中ではネイティブ5.1chに対応しているものなどもありますので、そういったものを使用し、よりクオリティの高い音や音楽をゲーム内に取り込もうとしております。

――戦闘曲はマップにマッチしたものをということですが、戦場ごとに曲が違うと「WoT」らしさはどこで出していくつもりですか?

Tomanov氏:私たちとしては「WoT」らしさを出すために、いろいろなテクニックを使っています。その中でもわかりやすいものでいうと、パーカッションなどで「WoT」らしさを出す要素を追加しています。その例としては、例えばドラムの音を「WoT」で代表的な車輌の履帯音などに変更したり、エンスクなどのマップでは、もともと鉄道があるマップなので、そこで使用されるBGMでは鉄道の音をくっつけたりすることで、「WoT」らしさを音楽内で表現できるようにしています。

 また、音楽そのものに、私たちのゲーム内の様式が非常に多く組み込まれています。そのいくつかが爆発であったり、砲弾の発射音であったり、そういったゲームに直接かかわる音を音楽に組み込むことによって、より重厚感のあるバトルの雰囲気を醸し出した音楽を作成しております。

――「WoT」にはたくさんの国が出てきますが、その中で戦場になっていない国もあります。そういった国の音楽は出てこないということですか?

Tomanov氏:今現在、今後登場するマップであったり、そういったものに関する提供できる情報がないので、そういう音楽が今後出る出ないという話はできないのですが、もしゲーム内にそういうある特定地域をベースにしたマップが登場すれば、当然その地域にあった新しい音楽が作成されます。またその地域の音楽作成に関しては、ちゃんとその地域のローカルの作曲家や演奏家の方々と一緒に音楽を制作するので、ちゃんとそのマップにあった、正しい知識で作られた音楽が必ず作られるように動いています。

【Inspired by Metal】

「World of Tanks」の曲作りのコンセプトとは?

「World of Tanks」のサントラは、公式ページで無料で聴くことができる
「World of Tanks」で採用しているオーケストラの編成
M4シャーマンとT-72。実際に戦車が出す音は深いなものも混じっている

――「WoT」ではユーザーフィードバックを非常に重視していますが、新しい音楽を追加した後のフィードバックはどのように集め、改善に繋げていますか?

Tomanov氏:まずどのようにプレーヤーさんたちの評価やフィードバックを得るかですが、まず新しい機能やサウンドを出した後には、1カ月ほど時間を置きます。出してすぐに反応が返ってくるわけではなく、実際に皆様に体験していただかないといけないからです。1カ月ほど経った後に、アンケートを出します。このアンケートというのもランダムで送っているわけではなくて、ゲーム内で特定の機能を体験した方や設定を変更した方々に対するアンケートになっていて、たとえばマップの新しいミュージックを出した場合、その新しいミュージックを体験した方でちゃんと音楽の設定を「ON」にしている方、そういった方向けにアンケートを出したりして、回答の結果によってどういった評価を受けているかが分かるようになっています。

 改善についてはこれらの結果を見て、解析した後に、例えば利用者がずっと減少傾向にある場合や、例えばネガティブな発言が多かったりした場合にはどういったことを変えなければいけないのかというところをチーム内で話し合って、様々な改善や改良を加えるように考えています。ただ、逆に一時的なものであったり、最初だけネガティブな反応があってもすぐに止まったりした場合には、それはあくまでもいわゆる変更が入ってしまったがために嫌がる人もいるので、それは条件反射的なものということもあるので、そういった場合にはすぐに変更を考えないようにしています。

――音楽を使ってプレーヤーの感情をコントロールするという点において、気を付けていることはありますか?

Tomanov氏:私たちが音楽を作るうえで、とても大事に考えているのは、シチュエーションと音楽がミスマッチしないようにすることです。その上でこのゲームにおいて最も重要視していることは、いかに緊張感を保つかということです。このゲームでは、常にプレーヤーの方々に緊張感を持っていただき、敵が来ることに対して警戒心を持ってプレイしていただきたいと考えておりますので、いかに警戒心を煽るかということをコンセプトに音楽を作っております。

――曲作りのコンセプトについて、共通したレギュレーションはありますか? 例えばオーケストラがメインであるとか、BPMがいくつまでとか、明確な指針があれば教えて下さい。

Tomanov氏:まず戦闘のミュージックを製作するにあたって、絶対に90BPM以下のテンポにならないようにしています。なぜかというと、90BPM以下になってしまうと、その音楽を聴いている人に対してリラックスする効果が出てしまうからです。私たちとしては常に戦闘に集中して、警戒心や緊張感を持っておいていただきたいので、基本90以上をベースに作るようにしています。

 オーケストラ系の音楽を製作するときには、1つ大きなルールがあります。必ずブラス系の楽器を入れるということです。これには理由がありまして、ブラス楽器から出る音というのは、非常に緊張感を高め、メタリックな音というのは戦闘、特に私たちの「WoT」の戦車をイメージさせるのに強い効果を持っています。

――「WoT」は通常のBGMに加えて、戦車の駆動音や発射音などのエフェクト、それから搭乗員のボイスであったり、自然から発せられる音とか、様々な音が発生するゲームですが、その中でバランスをうまくとるためにはどういうところを注意していますか?

Tomanov氏:まず気を付けていることとしては、そういったゲーム内の音を調整するときには、サウンドのコンポーネントを2つに分けています。1つがアーティスティックなコンポーネントで、もう1つが情報を司るインフォメーション系のコンポーネントになります。このバランスをどうとっているかというと、戦闘が開始したときに、いわゆる試合開始直後というのはまだ実際に戦車同士が撃ちあいをしている状況にはなっていませんので、そこは皆さんが配置に付くまではできるだけアーティスティックなコンポーネントを重視して音量を調整しています。

 逆にゲームの中盤、索敵をしたり戦闘を開始したり、より情報としての音が重要になってくる局面ではアーティスティックなコンポーネントはボリュームを下げるようにし、逆に情報を持っているインフォメーション系のコンポーネントを大きくするように調整して、その都度のシチュエーションにできるだけあったものを提供できるように調整しています。

 またこういったときに私たちがよく使うのは、“ピンクノイズ”と呼ばれる人の耳に一番反応がいい音というのを極力入れるようにしています。そうすることによって、より迫力ある音を皆様にお届けできるようになっています。

――チーム内で、音に対するイメージの相違など、意見の対立があったときにはどのような調整をかけているのですか?

Tomanov氏:まずサウンドデザイナーがサウンドを作成した場合、そのドラフトを全チームメンバーで共有します。メンバーはその音を聞いて、これでOKか、どこかをエディットする必要があるかの提案をします。提案をしたときにそれをチームで投票を行ない、もしエディットをするという投票が過半数を占めるのであれば、サウンドデザイナーはそこを修正しますし、逆にどこもエディットするところがなければ、私がポストプロダクションをします。いずれにしても、マスタリングをする前に私が最終判断を下し、OKであればそのまま採用という形になっております。

――6月にボービントンのタンクフェスに行きましたが、やはり実在の車輌というのは凄く迫力があって、様々な音を立てているのだなと感じたのですが、その実際の音をゲーム内に再現する点において、サウンドチームはどのような判断で、どのように実践しているのか聞かせてください。

Tomanov氏:まずは、私たちとしてこういったリアルな迫力のある音をお届けするうえで、実は非常に大事な部分があります。ますは人間が耳で聞いて不快にならないように調整することが、本当に大事な作業の1つであります。

 これまで20車輌以上の車輌を、8つのマイクを使ってサウンドを収録しました。その際に、明らかに不快だと思えるような音は私たちの方で削除しましたが、そうでないものについては、人の耳で聞いた時により不快にならないように編集した上で収録しています。そういった音を、実車のような大迫力で皆さんにお届けするには、先ほどもいったピンクノイズやピンクサウンドをうまく使って、より耳にインパクトのある音で、何より聞いていて不快にならないようなものを。より実射に近い音だけれど、聞いていて不快にならないようにというレベルをキープできるように作曲しています。

――サウンドエフェクトの方針は、実際の音をリアルに再現するという方向性よりは、迫力を大事にしながら聞いていて心地よいサウンドに修正し、ユーザーエクスペリエンスも重視しながら、バランスを取ってちょうどいいところを取るという認識でよろしいですか?

Tomanov氏:もちろんそれがキーの1つになっています。やはり実際に戦車を見たり聞いたりされた方ならわかると思いますが、戦車というものは非常に大きな騒音をまき散らす乗り物であり、また、その車体の重量から多くのきしみ音など不快な音を多く持った車輌でもあります。これをゲーム内で長時間聞くとなった場合、おそらくプレーヤーの方にかかる負担はとても大きくなると思っています。ですので、その不快感を極力抑えながら、ただ実機に近い音をゲーム内でお届けできるようにバランスをとっています。

 また付け加えますと、爆発音などは基本的にラップトップPCやヘッドフォンイヤホンなどといったものに使用した場合、ほとんど場合、実際の爆発音を使用した場合迫力のある音にならなかったり、まったく違う音として表現されることがあります。ですので、そういった機材の違いによって迫力などが失われることがないように、できるだけワイドレンジの機材、スピーカーであったりヘッドフォンであったり、イヤホンであったり、またラップトップのスピーカーであったり、そういったものでも迫力のある音を提供できるように調整しております。ダイナミックレンジが違い過ぎる音については、ゲームをプレイするときと実際の音を聞くときで大きな差が出てしまうので、そういったところは重要なポイントとして考えています。これが私たちが常に考えているリアリスティックな音と、聞いていて不快でない音のバランスを考えて作らなければならない重要な部分になります。

【Tankfest 2017 チーフテン走行展示】
チーフテンの走行展示シーン(参考記事)。金属のきしむ音が断続的に聞こえるが、ゲームでは収録されていない

――現実では、発砲音は、届くまでにラグがありますよね。そのほか、障害物があったら遮蔽されたりとか、反響したりとか、そういうのを突き詰めるとゲーム性に影響が出てくると思いますが、そのあたりのバランスはどうとっているのですか?

Tomanov氏:もちろんゲーム内でもそういった環境音はサポートしています。爆発音に発砲音、また弾を弾いた時の音などです。そういったものはできるだけリアルに近づけるようにバランスを取っております。

 ただ、砲撃音に関しては、発砲した音が後から聞こえてくるようなことは敢えてカットしています。その理由としては、このゲームでは様々な方向から、間断なく砲撃が降り注ぐゲームなので、そういった時間差で音が届くという機能を砲撃音に組み込んでしまうと、プレイしているプレーヤーが自分がどこからどういうふうに撃たれているか混乱してしまい、ゲームのプレイの快適性や楽しい部分が損なわれてしまうと考えられるためです。

 このゲームにおいては「カウンターストライク」のような狭いマップで戦うゲームとは違いますので、全部の敵や味方の位置を共有してしまうと、ゲーム性として成り立たなくなってしまいます。そういった意味で音の調整も加えています。一部ではディレイなども加えたりして、そういった音を使用しての情報というのも様々なバランスを調整したうえで実装しております。

――サウンドチームが最高だと思っているマップのサウンドを教えてください。

Tomanov氏:1つを選ぶのは非常に難しいので、2つ選ばせていただきますが、マリノフカとヒメルズドルフのマップ曲が一番だと私たちは考えています。どういうところがというのは難しいのですが、メロディのテーマがこの2つのマップは非常に素晴らしい出来だと考えていますので、ぜひこの2つを音楽的な面で聴いていただきたいなと思っています。

――サウンドに関して貴重なお話をありがとうございました。「World of Tanks」サウンド担当者として日本の「WoT」ファンに対してメッセージをお願いします。

Tomanov氏:まず私たちとしては日本のプレーヤーコミュニティは非常に重要だと考えています。そういったファンの方にスペシャルなコンテンツをお届けできるように、コラボレーションであったりといったものをさせていただいておりますので、こちらの新たな展開をお待ちいただければと思っています。また、これは私の個人的な希望なのですが、いつか日本に行って日本の戦車の特有な音をぜひ収録したいと思っています。そしてぜひそれをゲーム内に登場させたいと思っております。

【「World of Tanks」ランク戦のテーマ】
インタビュー後に、もっとも新しいBGMとなるランク戦のテーマを、実際に制作された環境で聞くことができた