インタビュー

「World of Tanks」、「World of Tanks Blitz」開発チームインタビュー

ミンスクの開発拠点で明かされた知られざるエピソードを紹介

7月4日収録

会場:ベラルーシ ミンスクオフィス

 Wargaming.netのミンスクオフィスでは、PC版「World of Tanks」やモバイル版「World of Tanks Blitz」の開発者に直接取材する機会に恵まれた。

 タイミング的には、Wargaming.net League(WGL)のGrand Finalsを6月に終えたばかりで、来シーズンに向けて準備を進めている段階で、ゲームとしても同社が最大の発表の場として捉えているGamescomを8月に控えているタイミングということで、Grand FinalsTANKFESTで取材したThayne Lyman氏へのインタビュー以上の情報は一切出てこなかったものの、開発拠点ならではの現場の雰囲気を感じられる情報を数多く得られたのでご紹介したい。

新通貨「ボンズ」の調整とフロントラインに注力。10月には新モードも発表

インタビューは、周囲の壁をマリノフカイメージで埋め尽くした会議室で行なわれた
パブリッシングプロデューサーArtem Safronov氏
パブリッシングプロダクトマネージャーOlga Fadeeva氏

 まず、PC版「World of Tanks」は、パブリッシングプロデューサーArtem Safronov氏と
パブリッシングプロダクトマネージャーOlga Fadeeva氏に話を伺うことができた。

 現在、話せる範囲でもっともホットな開発案件は、ランク戦とフロントラインだ。ランク戦については、実装後のバランス調整と、TierX車輌を保有しておらずランク戦に参加できないユーザーの不満の種になっている新通貨「ボンズ」の入手手段を増やす準備を進めている。

 ボンズの新たな使い道についても検討課題のひとつということだが、ボンズは、ランク戦のみならず、ランダム戦でも使用可能だが、シルバーやゴールドとは独立した通貨として考えられており、シルバーやゴールドからボンズへのトレードが可能になることはないという。あくまでボンズは遊び込んだユーザーに対する特別報酬という扱いになるようだ。

 フロントラインについては、現在βテスト中ということで新情報は一切無し。次の発表はGamescomで行なうということで、正式実装はかなり先になりそうな雰囲気だ。

 それから、「まだ情報は一切出せない」ということだったが、ランク戦、フロントラインに続く、新たなインゲームアクティビティも準備しているという。こちらの発表は10月で、「今までにないユーザーが驚くものになる」ということで注目である。

 ところで「World of Tanks」では、サッカーやレースなど戦車を使った奇想天外な企画が生み出され、実装されてきた。過去に存在したモードとして「ヒストリカルバトル」があるが、これは人気とはならず、現在は削除されている。ここから得られた知見とは、「プレーヤー全員が関心を持って貰えるコンテンツでなければ成功しない」ということ。ヒストリカルバトルは、戦史や戦車史に興味のある人には楽しめるモードだったが、そうでない人に取っては単にバランスがいびつなモードと映ってしまったようだ。このため、新モードを検討する際は、全プレーヤーが楽しめるかどうかを最初に検討するようになったという。

 ボツになった企画は無数にあるということだが、一例として4月1日限定で、倒した木の数のランキングを公開するというものを紹介してくれた。サーバー負荷が高すぎるためか、そもそも倒木をカウントするシステムはないのか、企画段階でボツになったという。

 個人的に気になっていたのは、Thayne Lyman氏の存在だ。Activisionの元VPで、2016年にWargaming.netにジョインし、2017年1月から開発チームと、各リージョンのマーケティングチームの橋渡し役を担うプロダクトディレクターとして活動している。メディアインタビューに登場するのも彼で、「World of Tanks」の新たな顔といっても過言ではない。

 グローバルのマーケチームにとっては開発チームに意見をプッシュしてくれる救世主だが、開発チームにとってはゲームに口出しをする人間が1人増えたことになる。開発チームはLyman氏のことをどう思っているのか気になっていたのだ。

 Safronov氏は「経験豊富なLyman氏が参加してくれたことで、私たちとは違う視点、発想、経験、知識で、我々が考えつかないことや見逃していたこと、そして様々なアイデアを提供してくれる。彼が参加してくれたことはありがたい。彼の知識を活かすことでおもしろいゲームにできると思う」と即答してくれた。Lyman氏と開発チームの関係がうまくいかないと、それはユーザーにとっても不幸な結果になるが、実際はそういうことはなさそうで、今後のアップデートにも期待が持てそうだ。

「Blitz」にもeスポーツの波! ランク戦やリーダーボードを実装へ

開発スタッフへのインタビューはすべてロシア語で行なわれた。「WoT」がロシア語圏のゲームだということを実感させられた
リードオブゲームデザインStepan Drozd氏
プログラムマネージャーStanislav Patskevich氏
マーケティングプロダクトマネージャーArina Lozyuk氏

 続いて「World of Tanks Blitz」では、ゲームデザインのリーダーを務めるStepan Drozd氏、プログラムマネージャーのStanislav Patskevich氏、マーケティングプロダクトマネージャーのArina Lozyuk氏の3人に話を伺うことができた。

 Wargaming.netは、タイトル毎に開発拠点が異なることで知られる。「World of Tanks」はミンスク、「World of Tanks Console」はシカゴ、「World of Warships」はサンクトペテルブルグという具合に。このため「World of Tanks Blitz」の開発もミンスク以外の別のところで行なわれているものだと勝手に理解していたが、PC版と同様にここミンスクで開発されている。

 サービス開始当初は、戦車やオブジェクト等のグラフィックスデータのみならず、サーバーそのものもPC版を間借りしていたそうで、想像以上にPC版との親和性が高いモバイルアプリになっている。2016年にモバイルアプリながら、Windows 10版やSteam版を相次いでリリースし、世間を驚かせたが、そういう経緯があったわけだ。

 ただ、開発初期は、PC版の開発チームと密接にやりとりがあったものの、現在は、同じ場所で開発しながらも、お互いの交流はほとんどないという。Drozd氏は「お互いにライバルとして認め合い、より良いものを作っていきたい」とライバル意識を隠さなかった。

 実際、PC版と「Blitz」は同じPC上で動作するオンラインタンクバトルという点では直接のライバルとなる。ただ、内部的には両者は明確にターゲットが異なり、ユーザーの取り合いは発生していないという。PCはランダム戦、ランク戦、WGL、CO-OPバトルなど、様々な要素を併せ持つ“タンクバトルの総合テーマパーク”として提供されているのに対して、「Blitz」は純粋に競争要素に特化したゲームで、PC版と比較すると架空の戦車を登場させることに抵抗感がなく、7対7の対戦を何度でも手軽に楽しめるように、戦闘サイクルを短くしている。Drozd氏は、「PC版がコカコーラだとすると、『Blitz』はコカコーラライト」と独特の表現でその違いを語り、近いようだが購買(ユーザー)層が違うことを強調していた。

 アップデート計画については、今後より競争要素を強化するために、ランク戦やユーザーランキングを表示するリーダーボードを実装する。また、過去に「ガールズ&パンツァー」とのコラボイベントとして実施されたミッションも今後も継続して行なっていくという。

 そのほかのアップデートについては、現在PC版で行なわれているグラフィックス/サウンドのHD化を「Blitz」でも行なう計画は「今のところない」という。理由は、比較的古い端末でも動作を保証し続けるためで、古いデバイスをどんどん切り捨てながら、新しい要素を取り入れるのではなく、常にクライアントの最適化を図りながら、できるだけ多くの端末で「Blitz」が動作することを目指していくという。

 「World of Tanks」と言えばロシア圏で国民的ゲームとして爆発的な人気を誇るタイトルだが、「Blitz」はモバイルアプリということもあり、ユーザーの構成状況に違いがある。といっても、1番人気が高いのはロシア、次にヨーロッパという順番は同じで、3番手に北米ではなくアジアが来るようだ。

 昨年、「Blitz」初の世界大会「Twister Cup」がニューヨークで行なわれたが、決勝で世界一を競ったのは、ロシアと韓国のチームだった。それぐらい「Blitz」はアジアで人気を集めており、その分だけPC版と比較して、アジアユーザーの声が通りやすい環境にあるという。実際、「ガールズ&パンツァー」や「戦場のヴァルキュリア」、そして「機動戦士ガンダム」で知られるイラストレーター大河原邦男氏とのコラボ「アーティストシグネチャープロジェクト」など、日本発の企画も多い。

 個人的に期待しているNintendo SwitchやPlayStation Vitaなど、ゲームコンソールへの展開については「将来的には対応する可能性はあるが、その話をするにはまだ早い。今はユーザーを満足させる施策に力を入れたい」と言下に否定された。モバイルとPCでの展開は今後もしばらくは続きそうだ。