インタビュー
「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」開発者インタビュー
“アニメ版マジンガー”を再現した、超合金の新たなる挑戦!
2016年8月23日 16:11
バンダイは「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」を2017年1月28日に発売する。「超合金魂」とは、“大人向け超合金”として、1997年12月に「超合金魂GX-01 マジンガーZ」から始まった。この商品のヒットが、“バンダイ コレクターズ事業部”の方向性を決めたと言っても過言ではないだろう。
「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」は2017年で「超合金魂」発売20周年記念商品として、新しい“マジンガーZの超合金”を提示するという。「D.C.」は「ダイナミッククラッシックスシリーズ」の略で、その方向性は「原点回帰」となる。アニメーターの越智一裕氏が監修を行ない、“アニメ版マジンガーZ”のスタイリングを再現、新たな“超合金化”の方向性を提示する。
この「新たな超合金マジンガーZ」の企画を担当したのが弊誌でもおなじみのバンダイコレクターズ事業部の寺野彰氏である。寺野氏自身は子供の頃に超合金が大ヒットした世代でも、マジンガーに夢中になった世代でもない。その寺野氏が“超合金の原点”ともいえる「マジンガーZ」を手がけるというのはプレッシャーもあったという。今回は寺野氏へのインタビューを通じ、寺野氏が本商品にどう想いを込めたのか、越智氏がどこをこだわったのかを聞いた。
アニメーター越智一裕氏が思い描いた“マジンガーZの正解”を立体化
「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」の最大の特徴はそのスタイリングである。手足が細く長く、肩の位置が低いため、なで肩のような印象を受ける。これまでの「マジンガーZ」の商品を見てきた人には“細い”と感じさせられるバランスだ。寺野氏はこのバランスの秘密を明かす前に、まず、「なぜ今新たな『超合金魂 マジンガーZ』を作るのか」を語った。
「『超合金でマジンガーZはさんざん商品化しているのでは』という印象を持つ方もいるかもしれないのですが、実は“超合金魂”では、リペイントやリニューアルはあったものの、新作としては2009年に発売された『超合金魂 GX-45 マジンガーZ』以来となります。それから新規造形の超合金魂は出ていない。超合金魂20周年を記念する商品としては、やはりマジンガーZは欠かせないという想いがありました」。
そして“現在だからできること”を寺野氏は説明した。1997年はもちろん、2009年と比べて大きく進化しているのが「3Dデザイン技術」だ。CADの精度も3Dに完全に移行しコンピューター上で精密な試作モデルを作ることができ、そして3Dプリンターで早ければ1日もあれば試作品を打ち出せてしまう。樹脂を削りだして試作品を作っていた時代とはスピードが雲泥の差の上、関節構造や強度なども様々な組み合わせ、機構が試せる。もちろん精度も大きく上がっている。2009年ではできなかったこと、検討が足りなかったことを、より踏み込んだ形で実現できるようになっているのだ。
そしてきっかけは「DX超合金魂 マジンガーZ」を手がけたとき、マジンガーZには原作版、アニメ版など様々なデザインの変化があることに改めて気がついた。マジンガーZはアニメでもTV版での担当するアニメーターによっても変わる。寺野氏は「『DX超合金魂 マジンガーZ』は何版のマジンガーなのか?」ということに改めて疑問を持ったという。
考えてみれば、「超合金魂GX-01 マジンガーZ」も純粋なアニメ版マジンガーでも、もちろん原作版でもない。幅広い可動範囲を持つ関節構造、様々な秘密兵器を再現できるギミック、力強くメカの質感が感じられるデザイン……それは「理想の超合金玩具」を再現したものではないだろうか? 寺野氏は筆者の質問に頷いた。「そういえばアニメ版のマジンガーZをそのまま再現させた超合金ってないのではないか。僕らはそう思い今回の企画に繋がったんです」と寺野氏は語った。
「『超合金魂GX-01 マジンガーZ』は、当時の野中さんの“理想のマジンガーZ”だったんじゃないかと思うんです。胸が厚くて、手足が太くて、頭が小さくて力強い。これはこれで“超合金の正解”だと思うんです。だから、今回はあえて最新造形の技術により“フィギュア的”な解釈と、超合金としての良さを融合させた、違うアプローチでの商品を作っていこうということになったんです」。
3Dデザインの進化、作業行程の高度なシステム化により、「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」はフィギュアとしてアニメ版マジンガーZの造型を再現した上で、関節やギミックを盛り込んでいくようにしたという。ちなみに今回再現されたのはジェットパイルダーに後期ジェットスクランダーを装備した“後期型”といわれるマジンガーZだ。特に大きな話題を呼んだアニメ映画「マジンガーZ対暗黒大将軍」のマジンガーZをモデルとしているという。
アニメ版のマジンガーZのデザインに関しては、越智一裕氏の強いこだわりがたっぷりと活かされている。ちょっとなで肩風の“人間”の体型を感じさせるバランスは、これまでなかった。様々なマジンガーZの商品が出てくる中で、越智氏自身のこだわり、自分なりのマジンガーZ像を考えていたとのことで、今回は非常に積極的に商品企画に関わってもらえたという。越智氏のこだわりは彩色、顔のバランスなど、多岐にわたった。
「今回越智さんに監修していただいたことで、改めてマジンガーZの設定の細かさがわかりました。例えば作中ドリルミサイルが追加されると、通常の見えないところでもきちんと肘部分のデザインが変わっている。今回は後期型なので、ドリルミサイルが追加されたデザインを採用しています」と、寺野氏は語った。
越智氏は、アニメーターが手がけていったマジンガーZをチェックし、形状を確認しながら自分の中でのマジンガーZを練り上げていった。今回の「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」は、その越智氏の経験と思い入れを活かした、越智氏の“正解”を立体化したものだという。
寺野氏によれば、越智氏は自分の中のマジンガーZを立体化するということにものすごい気合いを持って臨み、本当に最後の最後まで「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」へのアイディアを提示し続けたという。寺野氏も製造工程ぎりぎりまで越智氏のこだわりをできるだけ活かす方向で進めていった。「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」は越智氏のマジンガーZへの想いを結晶化した商品なのだ。
新挑戦盛りだくさん。「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」のポテンシャル
今回は「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」の試作品を見ることができた。試作品は2タイプあり、すべて樹脂製の彩色モデルと、金属を使った無塗装のもの。無塗装モデルは、ここまで金属を使っているのか、と驚かされるボリュームで、足はまるまる金属パーツ。腰と胸パーツも金属だ。そして前腕部分も金属となっている。超合金魂で前腕部が金属パーツになっているのは初だという。
シリーズ第1弾である「超合金魂GX-01 マジンガーZ」は頭部分は軟質のPVCを使っていた。安全規格に合わせてとがった部分が多いところは軟質素材を使っていたが、安全性と使用素材の兼ね合いもより技術を蓄積し、耳のとがったところまで硬質の素材を使うことができるようになった。デザインのシャープさをより細かく再現できるようになったという。頭部に関しては、パイルダーと頭のフチ部分などバランスもこれまでのものとは違う。後頭部が青いのもこの時期の作画通りだ。よりアニメ版に近い顔と頭はぜひチェックして欲しいポイントとのことだ。
「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」の大きなウリが腰装甲部分の交換パーツだ。付け根部分の装甲が切り抜かれ足の可動範囲を増やすパーツが付属している。さらに腰も大きく曲がるので、より自然でダイナミックなポージングを可能にしている。アニメのマジンガーZは背中を丸めた“猫背”風のポーズを取ることも多い。首の可動と腰のバランスで自然な背中のラインも実現している。
ちなみに今回の商品ではスプリングで飛ぶ「ロケットパンチ発射ギミック」は搭載されていない。もちろん前腕部を取り外したロケットパンチの発射ポーズを取らせることは可能だ。また“ねじ穴隠し”のパーツも大きな特徴といえる。“超合金”としての特徴を前面に押し出すのではなく、アニメ版マジンガーZのイメージを優先させる。こういったところも“フィギュア的アプローチ”といえるだろう。
ジェットスクランダーはベルトパーツでしっかりはまる。デザインの関係上腰の前後の動きは制限されてしまうが、非常にかっちりと決まる。今回のこだわりポイントとしては、スクランダーの羽の裏と表で色が違うところ。マジンガー側が赤く、裏側が暗くなっている。この色はアニメの設定通りとのことだ。翼を付け替えることで翼を前進翼から後退翼に変えることができる。
可動上でのこだわりのポイントは「飛行ポーズ」の再現。マジンガーZは指を揃えた形で空を飛ぶことがあった。「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」は専用の手首パーツを使い、首を上に向け、肩を入れた形でアニメの飛行ポーズを再現可能となっている。
塗装にもこだわりが込められている。太ももや上腕のシルバーは単純な銀色ではなく青みがかったものとなっており、アニメでの重厚な金属感をより強調したものになっている。ジェットスクランダーのベルト部分はパール塗装の光沢が入っており、凝った雰囲気をもたらしている。スクランダーの塗り分けなど、塗装に関しての最先端の技術もチェックして欲しいポイントだという。
また、寺野氏は越智氏から撮影の際、「あまりケレン味のあるポーズはつけないでほしい」といわれたとのこと。「真マジンガー衝撃!Z編」などの作品や、「スーパーロボット大戦」シリーズでのマジンガーZはロケットパンチは肩を入れ、腰を落としてヒーローの必殺技のような力の入ったポーズとなっている。
しかしアニメ版のマジンガーZは素立ちで手を前に向けたシンプルなポーズが多かったという。考えてみればその方が、腕が分離して飛んでいく、よりロボットらしい描写と言えるかもしれない。「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」ではポテンシャルとしてケレン味のあるポーズはもちろんとれるが、商品画像はあくまで越智氏のこだわりを活かしたものにするとのことだ。
これまでの「超合金マジンガーZ」の歴史は“ブラッシュアップの歴史”といっても過言ではないだろう。大ヒットした初代超合金「超合金マジンガーZ」から、マジンガーZの超合金は様々な方向性で進化していった。より整ったプロポーション、当時の最先端の技術を活かした関節設計、アニメの技を再現できる様々なギミック……しかしそれはあくまで“超合金としての進化”だった。そして「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」は技術的にはこの流れを受け継ぎながらも、「アニメ版のマジンガーZの再現」という新しい方向性を提示した商品だ。
「『超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C』はこれまでの超合金以上に、“アクションフィギュア”としての性格が強いと思います。ポーズをとらせて、色々な角度から眺めて、スマホで写真を撮ってもらうような楽しみ方ができる。アニメーターである越智さんにデザインしていただいてるので、どの角度でも“絵”として決まる。色々なポーズをとって、眺めて、写真を撮って欲しいと思います」と寺野氏は語った。
マジンガーZと並び立つ、アニメ版デビルマンが「S.H.Figuarts」に!
アニメ版の設定を活かした「超合金魂 GX-70 マジンガーZ D.C.」。この存在は、同時発売となる「S.H.Figuarts デビルマン D.C.」と並び立つことが可能となる。これまでの「最高の超合金」を目指していたマジンガーZではできなかった、アニメ版のマジンガーZが生まれたからこそ、ヒーロー・デビルマンのアクションフィギュアとの“競演”が可能になったと寺野氏は語った。
この「S.H.Figuarts デビルマン D.C.」も越智氏の監修を受けている。アニメ版デビルマンはこれまでもあまり立体化されていないキャラクターであり、特に“顔”の立体化は苦労したという。平面での表情、違う角度で見たときの矛盾のないバランスは試行錯誤を繰り返して実現したとのことだ。
「S.H.Figuarts デビルマン D.C.」は寺野氏が手がける「S.H.Figuarts キン肉マン」シリーズで生み出された「新・格闘素体」のノウハウが活かされているという。筋肉質のボディで、様々な“技”を再現するために開発された間接構造や、素体デザインを活用している。
寺野氏がこだわったのがアニメ版「デビルマン」のエンディング「今日もどこかでデビルマン」のポーズ。パロディ作品などでも有名だが、背中を丸め腕を組み、建設中のビルの鉄骨の上に座り、夕日を眺めている姿だ。デーモン族の裏切り者として孤独な戦いを繰り広げるデビルマンを象徴するポーズといえる。
「S.H.Figuarts デビルマン D.C.」では関節の可動でこのポーズが再現できる。さらに専用の“鉄骨パーツ”が用意され、台座の上にパーツを組むことで「今日もどこかでデビルマン」のシーンを再現できる。ファンはニヤリとさせられるこだわりだ。
寺野氏はユーザーへのメッセージとして「僕はマジンガー世代ではないし、子供時代に超合金が少なくなっていた時代の人間です。『お前わかってないんじゃないの?』と言われることもあります。確かに東映まんがまつりでのデビルマンとマジンガーの共演、グレートマジンガーの登場などの興奮と感動を、僕はリアルタイムでは体験していません。ですので、その時の子供達の感動を商品に盛り込むことは、僕自身はできない。だからこそこの商品に関しては僕はプロデュースに徹し、当時の“子供であったユーザー達”である越智さんにあふれんばかりの“マジンガーZへの愛情”を商品に込めていただきました。越智さんを信じて、当時の感動を蘇らせてください。ご期待下さい」と語った。
(C)ダイナミック企画・東映アニメーション