■佐藤カフジの「PCゲーミング道場」■
ゲーミングモニターの選び方 2010夏
新世代のモニター続々。「ゲーミング」ならではの機能を斬る!
色々な意味で業界の「最先端」を走る、PCゲーミングの世界。当連載では、「PCゲームをもっと楽しく!」をコンセプ トに、古今東西のPCゲームシーンを盛り上げてくれるデバイスや各種ソフトウェアに注目。単なる製品の紹介にとどまらず、競合製品との比較や、新たな活用法、果ては改造まで、 様々なアプローチでゲーマーの皆さんに有益な情報をご提供していきたい。 |
■ 今やモニター選びもすっかり「ゲーミンググレード」の時代に
今回の主役はゲーミングモニター! |
互いに発展を続けてきたPCとモニターの関係。PCが扱える解像度が上がり、それを表示するためにフルHDの高詳細フラットパネルが登場して、より美しく、より素晴らしい「動画表示性能」を追究するために日進月歩の進化を続けている。そして近年ではゲーミングマウスやゲーミングキーボードにならぶ「ゲーミンググレード」の製品として、ゲーミングモニターが脚光を浴びるようになってきた。
ゲーミングモニターとは何か? 安直ではあるがズバリと言うならば、それは「速い液晶モニター」と言える。なにしろ、液晶モニターを選ぶにあたって、長年ゲーマーを悩ませてきた第1の問題は「応答速度」だ。いかに素早く、即座に映像を表示できるか。“速くあらずんばゲーミングモニターにあらず”というわけである。
御存知の通り、液晶モニターはブラウン管に比べると遅い。映像信号に同期した電子ビームを飛ばして直接発色する、表示遅延が無いに等しいブラウン管と比べると、液晶素子に電圧をかけ分子運動を起こさせる必要のある液晶モニターは、TN、IPS、VAなど様々なパネル方式に共通して1~10ミリ秒オーダーの遅延がついてまわる。
さらに悩ましいのは、遅延が発生する理由がそれだけではないことだ。スケーリング、画質補正、ノイズキャンセリングなど、デジタルフラットパネルならではの画像処理のために映像信号をフレームバッファに溜めこんでしまう「高性能機種」では、パネルの遅延に加えて数フレーム分(最低でも16ミリ秒!)の遅延が追加されてしまうこともあるのだ。特にノイズキャンセリングなど、複数フレームを使う処理が鬼門であり、これらの遅延はゲーミングの利用では無視できない遅延となって現われてくる。
一般の液晶モニターの世界では「画質優先」の論理が強く働くためか、応答速度はあまり重視されないことが多い。結果として遅延が50ミリ秒もあるものを知らず知らずのうちに買ってしまうことがあるわけだ。50ミリ秒といえば60fpsのゲームで3フレーム強。伝統的な格闘ゲームで「小パンチを入力してモーションが出て相手に命中するまでの時間」より長いか、短いかというレベルだ。見てから反応していてはもう遅いというわけで、これではゲーム性まで変わってしまう。タイミング命の音ゲーならさらに致命的である。
ゲーマーにとって遅延は無い方がよい。だからこそゲーミングモニターは「速さ」にこだわる。例えばゲーミングモニター各機種で必ずといっていいほど搭載されている「スルーモード」の存在だ。これはフレーム遅延の原因となる各種の映像処理を「スルー」して可能な限り速く信号を表示に回すという機能で、遅延がゼロになるわけではないものの、最小限になることは保証される。こういった明確な基準が示されることがゲーミンググレードのモニターとして第1の条件だ。
そして2010年になり、ゲーミングモニターの世界はさらなる多様化の時代を迎えている。ナナオ、三菱、LG、DELLなど各社から新モデルのゲーミングモニターが登場し、いずれも高速応答性を基本に、ウリとなる機能は様々だ。今回は最新のゲーミングモニター各種を題材にして、自分にとって何がベストチョイスになるのか、答えを導きだすためのポイントを見ていきたい。
【今回のラインナップ】 | |
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EIZO「FX2301TV」 | 三菱「RDT232WM-Z」 |
LG「W2363D」 | DELL「OptX AW2310」 |
■ 「高速応答性」の新基準“120Hz”
まずは、ゲーミングモニターの血であり骨でもある「速さ」について。数年前から「スルーモード」を搭載して余分の遅延を発生させないことをウリにするモニターがチラホラ見られるようになっているが、ゲーミングモニターの進歩はそれだけに留まらない。すなわち、今年に入って新たな基準となりつつある「120Hz」というキーワードだ。
御存知の通り、現在の一般的なモニターはリフレッシュレート60Hzで動作するように造られている。この周波数、元はというと「人間が光源の点滅を感じない周波数」ということで、家電の代表格が電灯だった時代にアメリカで採用された60Hz交流電源の規格に由来する。これがベースとなって北米発のテレビ規格NTSCとなり、その規格を採用した日本でも映像装置は60Hzが基本となったわけだ。そこから発展した映像信号規格であるDVI-DやHDMIも60Hzの映像を出すために設計されている。
ところが、近年になって従来の60Hzでは足りないという機能上の理由がいくつか現われてきた。ひとつは、液晶モニターの弱点である残像感を減らすために、通常の2倍もしくはそれ以上の速度で映像を更新するという機能を実現するため。もうひとつは「3D立体視」。主流であるアクティブシャッター方式の3D立体視では、通常の倍の表示周波数である120Hzが必要となる。
このような時代の要請が現われたことで、ゲーミングモニターの最新トレンドに「リフレッシュレートの向上」というキーワードが追加された。リフレッシュレートが高まった結果何が起こるかというと、表示遅延のさらなる軽減だ。遅延発生の時間的な「刻み」がさらに小さくなるのだから、これは当然のことと言える。
その効果をご紹介するため、ここででは今年の春から夏にかけて発売された2種類のゲーミングモニターを例として取り上げてみたい。LGエレクトロニクスの「FLATRON W2363D」と、ナナオの「FORIS FX2301TV」だ。この2機種は、それぞれ異なる形で「120Hz」を実現している。そのいずれを体験しても、60Hzモニターでは物足りなくなること請け合いだ。
・ある意味究極の仕様、「ネイティブ120Hz」
ネイティブ120Hzに対応したLG「W2363D」 |
フルHD環境で120Hzを出せるのは今のところPCのみのようだ |
今年の4月末に発売されたLGエレクトロニクスの「W2363D」は、「ネイティブ120Hz対応」を謳うゲーミングモニターだ。「ネイティブ」というのは、映像信号の入力とパネルへの映像出力の両方が120Hzであるという意味。高性能液晶テレビに採用されている「倍速表示」とは異なり、120Hzの映像を出力するために120Hzの映像信号を必要とする。
そしてPCこそ120Hzの映像を出力できる機械だ。通常の倍の速度で映像信号を送り出す必要があるため、「W2363D」のような120Hzモニターでは映像信号ケーブルとして「デュアルリンクDVI」が必要となる(製品に付属しているので心配ご無用)。その効果は絶大。
ゲーマーならずとも、マウスカーソルを動かした瞬間に、その違いがわかる。ぬるりと動く。高性能PCであれば、各種のゲームを120fps以上のフレームレートで動かすことも可能だが、それがまさに表示に反映される。FPSが、レースゲームが、ぬるぬる動く。もうビックリである。スルーモード対応で表示遅延は理論上求めうる最低値に近く(表示回路で発生する遅延はリフレッシュ待ちのみ、せいぜい8ミリ秒!)、ついでに気が向けば3D立体視も利用できるという素晴らしさだ。
ちなみに「W2363D」はバッファリングが必要となるスケーリング機能を利用する際はスルーモード非対応となるが、その際バッファリングされるフレーム数はわずか1であり、追加される遅延は8ミリ秒ほどにとどまる。つまり60Hzモニターにおけるスルーモード時とほぼかわらないレベルの応答速度が確保されている。ネイティブリフレッシュレートが倍になるということは、こういったメリットにもつながるわけだ。滑らかでしかも高速応答。ネイティブ120Hzはまさに究極の仕様と言えよう。
ゲーミングモニターの必須装備「スルーモード」 | 120Hzで利用するためにはデュアルリンクDVI接続が必須となる |
・高い汎用性が生み出す面白さ「倍速120Hz」
ゲームにおあつらえ向きの倍速モードを搭載する「FX2301TV」で「Fortza 3」(マイクロソフト)をプレイ。無茶苦茶スムーズ |
倍速モード「強調」にすると、30fps固定のゲームですら「ぬるぬる」になる |
一方、ナナオが6月末に発売した最新ゲーミングモニター「FORIS FX2301TV」は異なる形で120Hzを実現している。入力信号は60Hz、モニターからの表示は120Hzという、いわゆる倍速120Hzだ。ネイティブ120Hzとは異なり、PC以外のゲーム機やAV機器でも使える機能である。
「FX2301TV」に搭載された倍速モードには、ゲーミングモデルらしい複数の動作モードがある。大別すると「遅延軽減」と「補完表示」だ。前者の「遅延軽減」モードはモニター側を120Hzで駆動させ、60Hzで入力される映像信号を「可能な限り速いタイミングで表示する」というもの。スルーモードの1変種といえるが、入力された映像が表示に回されるタイミングが60Hz時の倍になることで、通常以上の効果を挙げている。
後者の「補完表示」モードは、入力された前後のフレームから中間の映像を生成して滑らかに表示する機能。表示遅延をむしろ増やしてしまう効果をもたらすが、用途によっては非常に面白い効果を発揮する。もともと60fpsで動作するゲームがより滑らかに見える(ネイティブ120Hzと同等に見える)のはもちろん、補完を強く掛けるモードにすると、ゲーム機に多い30fps固定のゲームでも補完が働いて、まるで60フレーム動作のゲームのようにみえてしまうのだ。
あまり画面要素が激しく動くゲームでは補完の計算ができないため効きが悪いものの、ほとんどの場面で画面奥行き方向に進むレースゲームではかなりの効果。さらに相性が良くて筆者が笑ってしまったのが、Xbox 360の「Shadow Complex」。このゲームは30fps固定の横スクロールアクションだが、「FX2301TV」の倍速補完を「強調」モードにすると、ほぼ完璧に補完が働いて、まるで元からそうであったかのように120Hzの滑らかさで動く。ゲームの印象がまるで違ってくるほどの効果があって面白いので、試せる環境の方がいたら是非やってみてほしい。
このように倍速タイプの120Hz表示は、汎用性に優れるのが大きなメリット。PCとゲーム機の両方でゲーミンググレードを実感できるだけでなく、高速応答性を優先するか、動きの滑らかさを優先するかをユーザー自身の手で選べるところがいい。このあたりがまさにゲーマーにとって優れた選択肢と言えそうだ。
「FX2301TV」の接続端子は非常に豊富。今回ご紹介する全モデル随一の端子数だ |
倍速補完「強調」にてかなりの効果があったゲーム例。左の「ライオットアクト2」(Ruffian Games)は遠景を中心に「ぬるぬる化」した。右の「Shadow Complex」(Epic Games)は思わず笑ってしまうくらいの補完ぶりで、超なめらかスクロールゲームに変貌 |
試しに実験を行なってみた。120Hz接続のLG「W2363D」と、60Hz接続で倍速120Hz遅延低減モードに設定したナナオ「FX2301TV」を並べ、同一マシンからクローン映像を出力してストップウォッチ映像を撮影。どちらのカウントがより進んでいるかで勝負。信号入力の刻みが速いぶん「W2363D」が若干有利に思われたが、ほとんど気のせいという差でほぼ互角だった |
■ まだまだある! 液晶モニターの「ゲーミンググレード」チェックリスト
先ほどから繰り返し述べているように、ゲーミングモニターでは高速応答性を実現することがまず大前提にあり、その上でさらにゲームを快適にプレイするための各種機能が備わっていることが当然となっている。こういった機能面については、現在発売されている最新のゲーミングモニターそれぞれに個性が出るところでもある。
ここでは、ゲーミングモニターが持つべき機能の中でも特に重要なポイントを挙げて、ユーザーが製品を選択するうえで鍵となるポイントを拾い上げてみよう。
・PCとゲーム機の両方に対応したカラーモード
ナナオ「FX2301TV」での例。ゲーム機では「RGBリミテッドレンジ」がしっくり来る |
PC用モニターをゲーム機につないで使う際に隠れた問題となるのが、色空間の違い。PCの映像信号では光の三原色(RGB)を各0~255の数値範囲で表現するフルレンジRGBがデフォルトとなっているが、AV機器ゆずりの信号規格を基本とするゲーム機では、信号範囲の上下が多少切り詰められた16~240の範囲で色を表現している。
このためPC用モニターでゲーム機の映像をそのまま表示すると、黒は純粋な黒でなく、白は純粋な白ではないというコントラスト比のやや低い映像を見ることになってしまいがちだ。正しい色空間で映像を見るためにはモニター側でコントラストを拡張するか、ゲーム機側で調整する必要が生ずる。
このとき、もしモニター側にあらかじめ、AV機器を前提とした適切なカラーモードが搭載されていれば、ユーザーの手と目で難しい調整をする必要もなく便利だ。前述のナナオ「FORIS FX2301TV」では色調整項目にそのまま「RGBフルレンジ」、「RGBリミテッドレンジ」という項目があり、簡単に正しい設定をすることができる。ゲーミングモニターにはこの手の機能の充実も求めたいところだ。
・ネイティブ解像度以外への対応
各種スケーリング等を利用したまま「スルーモード」が使えるか否か、多機種持ちのゲーマーには地味に重要ポイント |
ゲーム機などPC以外の機器を使う場合や、処理速度の問題からネイティブより低い解像度でPCゲームを遊ぶ場合、モニターが適切なスケーリング機能を持っているかどうかが重要になる。
また、この点で最もハイスペックを誇るのが三菱のマルチメディア液晶モニター「RDT232WM-Z」かもしれない。この機種では「ギガクリア・エンジン」と呼ばれる超解像技術を搭載しており、低解像度の映像をシャープ感を保ったまま高解像度化することができる。この機能は「スルーモード」時でも有効というのがポイントだ。「低遅延の超解像映像」というのは他にない強みである。このほかドット感を維持したままスケーリングするクラシックゲーム用の機能なども搭載している点がゲームファンに嬉しい。
ナナオ「FX2301TV」も多彩なスケーリング機能を誇る。しかも1画面分のデータをまとめて保持するフレームバッファではなく、数ラインのみのデータを保持するラインバッファを用いており、こちらもまたスルーモードと同居可能だ。反射やタイミングがキモになるクラシックゲームや音楽ゲームでは特に、スルーモードと併用できることがさらに「美味しい」のだ。
一方、LG「W2363D」はスケーリング処理とスルーモードの両立はできない。スルーモードが出始めた頃のゲーミングモニターでは、モニター側のネイティブ解像度ではない映像を表示する際、スケーリング処理とスルーモードが両立しない場合がほとんどだった。「アスペクト比を保ってスケーリングする場合はスルーモードがOFFになります」といった具合だ。現行機種ではLG「W2363D」がこのパターンにはまっている。ただ、この機種の場合、PCもしくはHDMI対応ゲーム機での利用が前提となる端子構成のため、ネイティブ解像度以外で使うことはほとんどないから、問題にはならなさそうだ。
・スピーカーで鳴らすか、ヘッドフォンか!?~実用レベル以上のサウンド機能
映像信号と音声信号を同時に伝送するHDMIケーブルが一般的になったことで、ゲーミングモニターにはサウンド機能も求められるようになっている。以前からスピーカーを内蔵するPCモニターは珍しいものではなかったが、いざゲーム用途となればただ「鳴るだけ」では寂しい。
ゲーミングモニターのサウンド機能について、最近の傾向を反映しているのはナナオ「FX2301TV」。内部にバーチャル5.1chサラウンドエンジンを搭載し、画面下部に各2Wのステレオフルレンジスピーカー、前面にヘッドフォン端子を実装。ゲームやオーディオ、映画などの音質モードを切り替えて好みのサウンドを聴くことができる。「外部スピーカーは不要!」と言わんばかりのスペックだ。
一方、LG「W2363D」とDELL「Alienware OptiX AW2310」はスピーカーを搭載せず、ヘッドフォン端子のみとなっている。そのかわり「W2363D」では独自のバーチャルサラウンドエンジン「SRC TRUSURROUND HD」を搭載。外付けのスピーカーシステムがない環境で利用するユーザーなら、このあたりもモニター選びのポイントになってくるだろう。
・リモコン付属は意外に大きい!~使いやすいインターフェイス
多機能なモニターなればこそ、リモコン付属は地味にありがたい |
多機能なモニターとなれば、各種設定を操作するOSD(オンスクリーンディスプレイ)周りも気になるところ。この点ではある程度値段の張る高級ゲーミングモニターは隙がない。例えば上述のナナオ「FX2301TV」や三菱「RDT232WM-Z」は操作性抜群のリモコンが付属しており、ポチポチと各種設定をいじることができる。
一方、ゲーミングモニターとして安価な価格帯に位置するLG「W2363D」はリモコンが付属しない。そのかわり、モニター前面にタッチパネル風のボタンを実装してインターフェイスはおしゃれにまとめているが、実際のところかなり使いにくく、押すべき場所や力加減がわかりにくい。操作系もイマイチで、別の項目を選ぼうとしてメニューを閉じてしまったり、触るつもりのない項目を触ってしまうようなことが頻発するのには頭を抱えた。ボタンの少なさゆえだ。
ゲームとデスクトップを行き来したり、PCとゲーム機を切り替えて遊ぶ際などに画面モードや画質の設定を切り替えることはよくあることなので、ゲーミングモニターはなるべく操作性の良いものであって欲しいものだ。
■ 2010夏・ゲーミングモニターカタログ
選択のポイントは高速応答性と各種機能の充実というわけで、本稿の中で触れてきた最新ゲーミングモニターを4種類、きちんとご紹介しよう。皆さんの食指が動くかもしれない素敵なモデルばかりだ。
いずれも本稿でご紹介した「ネイティブ120Hz」もしくは「倍速120Hz」への対応機種で、まさにゲーム用途を考えてデザインされた製品ばかり。また今回、それぞれの製品メーカーであるナナオ、三菱電機、LGエレクトロニクス、DELLの各社製品担当氏よりコメントも頂いた。各社の製品哲学に共通する点、異なる点が見受けられて興味深い。製品選択の参考になれば幸いだ。
(2010年 8月 2日)