iOS/Androidゲームレビュー
ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君
青春時代の名作が手のひらで遊べる時代に!
気になる操作感やオリジナルからの改良点をレポート
- ジャンル:
- RPG
- 発売元:
- 価格:
- 2,800円
- 発売日:
- 2013年12月12日
- プレイ人数:
- 1人
(2013/12/27 00:00)
国民的RPGのナンバリングタイトルとして2004年にスクウェア・エニックスが発売した「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」(以下「DQVIII」)が、iOS/Android用にリメイクされて12月12日より配信された。価格は2,800円。対応機種はiOS6.0以上、iPhone 4S以降、iPad 2以降、Android4.0以上。
さて、ひとくちにリメイクというが、ちょっと待ってほしい。本作はそんじょそこらのリメイクとは違うと、まず申し上げておきたい。「DQVIII」は、アニメを思わせるトゥーンレンダリングを採用し、シリーズで初めて見下ろし視点から主人公の背後視点へ移行したという点で、それまでとは技術的には最も飛躍的な進化を遂げたタイトル。発売当時、生みの親である堀井雄二氏をして「ようやく構想どおりのものが作れた」と言わしめたタイトルなのである。
それほどの最先端技術の結晶が、10年も経たないうちに、手のひらサイズの端末で、電車の中や喫茶店内、もしくは会社のトイレでこっそり遊べてしまうというのだから、長生きはしてみるものだと思う。ついでにこっそり言うと、上の見出しに「青春時代の名作が」などと書いてしまったが、筆者は当時からすでにもうそこそこのオッサンでした。こういうのも若作りというのだろうか。とにかくごめんなさい。あ、でも、当時、本作のテレビCMに出演していたSMAPは、アラフォーながらいまだにトップアイドルである。それはそれですごい。
見た目はオリジナルとどれくらい違うのか?
プレイステーション 2版の「DQVIII」は当時エンディングまでプレイ済みなのだが、それなりに時間が経っていることもあり、記憶もおぼろげである。このレビューを執筆するにあたって、クローゼットの奥に眠っていたPS2を引っ張り出して、PS2版も同時にプレイしながら比較してみた。
最初の名前入力の段階で気になったのは、ウインドウの動きが少々カクカクしていたことだ。筆者のレビュー用端末が本作の対応機種としてギリギリのiPad2ということもあってか、他のアプリを全部終了させてプレイしてもヌルヌルサクサクとまではいかないようだ。ただしそれでも動きが止まってしまうようなことはなく、オープニングは快適に進んでいく。
PS2版と比べてまずハッキリ違うのは解像度である。プレイする端末によって多少の違いはあるだろうが、SD画質だったPS2に比べれば、キャラクター、背景、文字と、すべてがくっきりとして非常に見やすい。当時もPS2版をプレイしながら綺麗なグラフィックスだと感動したはずだが、リメイク版の画質を見ちゃったらもうあの時代には戻れない。
それにしても、こうして改めて見るとヤンガスは本当に悪役(下っ端)の顔である。マンガとかでよく主人公にやられて「覚えてろよ!」と言いながら逃げていくザコそのものである。そんな小物顔を、あえて頼れる相棒役に据えた鳥山明氏のセンスに今さらながら脱帽する。そうこうしているうちに、オープニングが終わり、主人公たちは最初の町に入っていく。
マップ機能の充実と、縦画面でのメリット・デメリット
最初の町であるトラペッタは、上層と下層に分かれる立体的なつくりになっている。地図で見ればそれほど複雑ではないものの、主人公の背後視点ということもあり、自分がどこにいるのかが把握しづらく、PS2版では迷いやすかった。しかしリメイク版では、常に画面の隅にミニマップが表示されるようになった。主人公の向きもミニマップ上に表示されているので、格段に探索しやすい。
さらにミニマップをタップするとマップ表示画面が開き、ここでその場所の全体マップをいつでも確認することができる。逆にミニマップが邪魔なら、右上の×印をタップするだけで非表示にできる。ちなみにPS2版では別画面でマップ表示はできるものの、ミニマップがない。代わりに東西南北を示すコンパスが表示されるが、それもフィールド上だけで、町の中では表示されない。ここはリメイク版でだいぶ便利になった点だ。
ところで、人間の目は横に並んでいるので上下よりも左右に視界が広い。なので写真や映像も横長のほうが人間の視界に近くて臨場感が出る。映画やテレビが横長なのもそれが理由なのだが、このリメイク版の画面は縦長になっている。操作用のバーチャルスティックを画面に配置しなければならない関係上やむないこととはいえ、主人公背後視点で臨場感を重視した作品としては少々残念である。移動シーンもパノラマ感に欠け、少々窮屈な印象を受ける。
ただ、「おやっ」と思ったのは、トラペッタに住む占い師ライラスの娘・ユリマが登場したときであった。縦長の画面いっぱいに彼女の肢体が表示され、鳥山明氏の原画により忠実に、細密に表現されている。視界の話とは逆になるが、縦長の人間をより大きく見せるには、横長よりも縦長画面のほうが適していると言えるだろう。このことはオープニングでヤンガスの立ち姿を見た時点で気づくべきだったのかもしれないが、あのときは彼のザコ顔ばかりが目について見落としてしまった。すまぬ、ヤンガス。だが言い訳をさせてもらうなら、キミはそれほど縦長体型ではない。
その点で、先ほど指摘した縦長画面によるパノラマ感の欠如は、人物をより大きく見せるという別の利点によって補われており、総合的には決して迫力不足と断じることはできない。
バーチャルスティックとタップの操作感は良好
ここで、リメイク版で一新された操作方法について説明しておきたい。
まず主人公の移動は、画面下部に表示されるバーチャルスティックによっておこなう。これは先立って配信された「ドラゴンクエストI」(以下「DQI」)でも採用された操作方法だが、実際の操作感はまったく異なっている。「DQI」では縦横方向への直角移動しかできないが、「DQVIII」では、アナログスティックのような感覚で、キャラクターをぐりんぐりんと自由に動かすことができる。
さらに、バーチャルスティックの中央部からどれだけ指をスライドさせたかによって歩行速度が変わる。小さく動かせば歩き、大きく動かせば走る。こうした差はけっこう大きく、正直「DQI」はお世辞にも快適とは言えない操作性なのだが、「DQVIII」は打って変わって、移動によるストレスをほとんど感じない。
そしてこれは大半のiOS/Android用アプリに言えることだが、このリメイク版では、基本的に左手で本体を持ち、右手の人差し指で操作することになる(右利きの場合)。これはゲームのコントローラというよりはマウスの操作感覚に近い。そうなると、マウスのように自由にクリック(タップ)してみたくなるのが人情というものである。
実は、このリメイク版が優れているのはタップ操作にある。主人公の周囲にいる人をタップすると、目の前まで歩いていかなくても会話できる。扉をタップすれば開き、ツボをタップすれば持ち上げて割り、タンスをタップすれば自動的にそこまで歩いていって中を調べることができる。わざわざ対象物に近接しなくていい、というのは「ドラゴンクエストV」から導入されて有名になった「便利ボタン」以上に便利な操作である。プレーヤーはとにかく、周囲の気になるものに片っ端からタップするだけいい。これはまるで優秀な秘書に「細かいことはこちらでやりますので、センセイは指示だけお願いします」って言われてるようで気分がいい。わっはっは、それじゃ頼んだよ、キミ。
さらに町の人々とは、ただぶつかるだけでも会話できるようになっている。そして、たとえ会話の途中でも、離れるだけで会話を中止することができる。間違えて接触してしまった場合などには助かるシステムだ。
同様に、扉もタップせずにただぶつかるだけで開けることができる。ただしこちらは人物との会話と違ってキャンセルが効かないため、入る必要のない店の扉に間違えて接触してしまうと、マップ切り替えにかかる無駄なロード時間に少々イラっとさせられる。便利な機能ではあるのだが、これは痛し痒しといったところだ。
フィールドとダンジョンで活躍する「AUTO」
なんだかんだあって、主人公たちは町の南にある洞くつに向かうことになる。これが最初のダンジョンとなるわけだが、ナメてかかるとあっさりと全滅が待っている。町の周囲でしっかりレベルアップとお金稼ぎをして、町で買える最強装備か、それに近い状態で固めてから向かわないとまず突破できない。このゲームバランスは当時も多少物議をかもしたように記憶しているが、リメイク版でもこのバランスはしっかり踏襲されていた。スタート時の所持金はPS2版より多くなっているのだが、トラペッタの最強装備で向かってもボスに勝てず、1回全滅してしまった。装備だけでなくレベルアップが必要なので、結局はPS2版と同じくらいの戦闘回数をこなさないと先に進めないことになる。
このあたりからよく使うようになるAUTOという移動方法について触れておこう。「AUTO」と書かれたアイコンをタップすると、主人公の正面方向に向かってえんえんと走ることができる。フィールドのような広い場所を移動するときは、一度AUTOで走りだしたら、あとは道のカーブに合わせてたまにカメラを操作するだけでいいので非常に楽である。フィールドだけでなく最初のダンジョンも、わりと長い道をひたすら進む場所が多く、AUTOが活躍してくれた。
一方、建物が入り組んでいる町の中では、AUTOだとすぐに壁などにぶつかってしまい、かえって面倒で使いにくい。しかし多少の障害物なら自動的によけてくれるので、AUTOの操作に慣れてしまえば、入り組んだ町の中でも使える場面が多いのかもしれない。
ついでにここで、ちょっとダンジョンに関するうれしい話を。PS2版では、ダンジョン内でそのダンジョンの地図を入手しないと、マップを見ることができなかった。しかしリメイク版では、町やフィールドと同じように最初からミニマップが表示されている。もちろんミニマップをタップすれば全体マップも確認可能。これはダンジョンを攻略するうえでかなり楽になったといえる。ちなみにPS2版で地図が手に入る宝箱は、リメイク版では100ゴールドが入っていた。これでヤンガスに皮の盾を買ってあげられる。
ほとんどオートでも可能な戦闘がスゴイ
モンスターとの戦闘についても操作面での改良がなされている。PS2版では、仲間の行動は「さくせん」で指示できたが、主人公のコマンドだけはきちんと入力しなければならなかった。しかしリメイク版では、主人公自身の行動も「さくせん」で設定できる。もちろん手ごわい敵に対しては個別のコマンド入力も必要になるが、楽に勝てる敵であれば、画面下の「これで戦う」を1回タップするだけでいい。
「さくせん」の利点は、単にコマンド入力の手間が省けるというだけではない。たとえば「いのちだいじに」と指示して戦うと、そのターンで食らった毒をそのターンのうちに回復してくれることがある。これは「さくせん」ならではの戦い方だ。
そのターン中に毒を食らうと予想して、現状では健康体の仲間にキアリー(解毒の呪文)をかけておくなんてことは、空振りで終わる可能性を考えると、手動のコマンド入力ではまずやらない行動である。そんな優れた臨機応変ぶりを見せる「さくせん」を、主人公自身の行動にも適用できるというメリットは、けっこう大きいのではないだろうか。とにかく、わずらわしいことはできるだけ少ないほうがいいに決まっている。それは実生活であろうとゲームであろうと、同じことである。仕事もこんなふうにオートでサクっと終わらせられる時代を、筆者は鼻血が出そうな勢いで切望しています。
やりやすくお手軽になった鉄板の大作!
なんとか最初のボスも倒し、次の村を目指すことになった主人公たち。序盤中の序盤ともいえるここまでのプレイでも、操作やシステム面での改良点などをいくつも見つけることができ、筆者はPS2でクリア済みにもかかわらず、かなり新鮮な気分でプレイすることができた。
本レビューはここでおしまいとなるが、プレイ自体はこのままエンディングまで続けていこうと思っている。それだけの没入感のあるタイトルだというのもあるし、ユーザーのストレス軽減に対して、かなりアイデアが尽くされているのも続行したくなる理由だ。
あ、そうそう。PS2版とは違って本体をスリープさせるだけでプレイを一時中断できちゃうので、セーブできる教会が近くになくても、ダンジョンの途中だろうと、やめたくなったらすぐにやめられるのもいい。
エンディングに達するまでの数十時間の濃密な体験を思えば、このリメイク版に2,800円の価値は十分にあると感じた。1GBをゆうに超える大ボリュームで、しかも追加の課金は一切なし。初プレイの人はもちろん、PS2でクリア済みの人にもぜひ遊んでもらいたい名作である。
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