PS Vitaレビュー

TEARAWAY(テラウェイ)~はがれた世界の大冒険~

紙の質感を再現したグラフィックに注目!
適度なパズル性が楽しい極上アクション

ジャンル:
  • アクション・アドベンチャー
発売元:
開発元:
  • ソニー・コンピュータエンタテインメント
プラットフォーム:
  • PS Vita
価格:
4,980円(PS Vitaカード版)、3,900円(ダウンロード版)
発売日:
2013年12月5日

 ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアは、PlayStation Vita用アクション・アドベンチャー「Tearaway(テラウェイ) ~はがれた世界の大冒険~」を12月5日に発売した。価格は、PS Vitaカード版が4,980円、ダウンロード版が3,900円。CEROレーティングはA(全年齢対象)。

 「リトルビッグプラネット」シリーズを手がけた、英Media Moleculeが世に送り出す最新作。ファンの間では注目度が高かった作品ながら、発売日が二転三転したこともあり「えっ、これもう発売されていたの!?」と知らなかった人もなかにはいるはず。“紙”をモチーフにした独特のグラフィック表現とPS Vitaの機能をフル活用した演出の数々は、アクションゲーマーならずとも見逃せないハイクオリティなものに仕上がっている。知らなかった人はもちろん、気になっていた方々は、この機会に改めてチェックしていただきたい。

【イメージイラスト】

紙の世界の大冒険 ~プレーヤーは主人公を助ける“かみサマ”~

 本作は、古い伝承や昔話など、古来よりいく千と語り継がれてきた、さまざまな物語が集まった“紙の世界”が舞台。

 ある日突然、どこからともなく現われた小さな髪の封筒。なかには特別なメッセージが託されているという。プレーヤーは紙の主人公「イオタ」と「アトイ」どちらか一方を選んで、大切なメッセージを“かみサマ”に届けるため冒険の旅に出る。

 PS Vita内蔵カメラで、ゲーム中にときどき顔を出す“かみサマ”。お察しのとおり、これはプレーヤー自身。初回プレイ時、プレーヤーはまず「手の大きさ(大小2通り)」、「肌の色(カメラの映り具合)」、「性別」を問われる。カメラや性別はともかく、手の大きさはプレイ中のタッチ操作に直接影響するためマジメに選んだほうがいい。

初回プレイ時は“かみサマ”ことプレーヤーのデータを入力。少なくとも手の大きさだけは(?)マジメに決めよう

 操作キャラクターを決めたら、早速“紙の世界”を冒険。まずは小手調べに、謎の存在(恐らくは紙の世界の創造主たち)が「スクラッピー」と呼ぶ敵キャラクターに襲われている主人公を救助。PS Vita本体背面のタッチパッドを長押しして、紙状のフィールドを指で突き破りスクラッピーを画面から追い落とす。直後、おひさま……にあいた穴から覗き込むプレーヤーの存在に気づく主人公。紙の世界の住人たちに“かみサマ”と呼ばれる主人公のもとに、前述の大切な手紙を届けるのがゲームの目的となっている。

続いては操作する主人公キャラクター「イオタ」と「アトイ」のいずれか一方を選択。能力はどちらも一緒。外観は後々カスタマイズできるようになる
スクラーピーは“かみサマ”の世界からやってきた敵キャラクター。ここで後述する本作の特徴のひとつ、PS Vitaの本体機能を使ったインタラクティブ要素が早速登場

おひサンから覗き込む“かみサマ”の存在に気づいた主人公。大切な手紙を届けるべく、おひサンに向かって冒険の旅が始まる(この“かみサマ”は顔のデザインが不自由なのでモザイク処理してあります)

Media Moleculeが誇る卓越したグラフィック評言にス注目!

 プレイしてまず驚かされるのは、紙をモチーフにした統一感のあるグラフィックス表現。配慮の行き届いた色使いもさることながら、その“質感”はMedia Moleculeが誇るセンスと技術力の賜物。キャラクターが接触したときの動きはもちろん、風で動く草花が奏でる「カサカサッ」といったSEも、プレーヤーの耳を心地よく刺激してくれる。

 最初のうちは「どこに何があるんだろう……」と慎重になりがちだが、慣れてくるとステージ造形から「あっ、ここには○×がありそうだ!」など、さまざまなフックが配置されていることに気づく。対象年齢を広くとっているのか、いわゆる「こんなのできるか!」といった極端に難しいフィーチャーはないが、さりとて全般にぬるいわけではない。「なるほど、こうきたか!」とニヤリとさせられるものが要所に配置されており、適度なテンポでサクサクと進めるのがいい。

 全体にパズル要素に重きをおいているため、1ステージの行程は「広すぎず、それでいて狭すぎず」といった印象。通常、こうした特定モチーフのグラフィックス表現は“単調”もしくは“詰め込みすぎ”になるケースが少なからず見受けられるが、本作はそのあたりが絶妙というか「これはもう卓越した職人芸の領域だなぁ」と、ただただ感心させられる。

 各ステージごとに「ここは○×風なんだな」と初見で伝わる雰囲気作りと、先に進むごとに適度な刺激をもたらしてくれるペーパークラフト的な造形の妙味。変化のつけかたもステージごとに工夫が凝らされており、アーティスティックな要素を内包した作品にありがちな押し付けがましさが微塵もない。これに後述するPS Vitaの機能が織り交ぜられることで、本作ならではの“独自のプレイ体験”を生み出すことに成功している。

 Media Moleculeが誇るデジタル技術の粋といってもいい傑出したグラフィックス表現。自然物、人工物、人物、動物、すべてから伝わる“染み渡るようなアナログ感”が、ただひたすら目に心地いい。

「百聞は一見にしかず」ということで、主だったステージの一部を紹介。この質感とクオリティの高さは驚異的ですらある

PS Vitaの本体機能をフル活用したインタラクティブフィーチャー

 本作には、PS Vita本体機能を使ったさまざまなアクション要素が盛り込まれている。もっとも多用されるのが、本体背面のタッチパッド。薄い紙のようなフィールドでタッチパッドを長押しすると“指”が突き出て敵を押し出したり、オブジェクトやスイッチを動かすことが可能。ジャンプ用に敷かれている場所では、軽くタップするとのっていた主人公が大きくジャンプする。

 次に多いのがタッチスクリーン。特定のスクラッピーを踏んづけたあとタップして潰す、足場をタッチしたまま動かしたり、丸まった紙をタッチ後にスライドさせて伸ばすなど、直感的でわかりやすく見た目にも楽しいものが多い。また、ゲーム中で必要とされるオブジェクトを紙から切り出す際は、そのラインを指で描く操作が登場。実例としては「カボチャが欲しい」といわれ「……こんな感じかな?」とフリーラインで描いて切り出すのだが、かなりアバウトでもカボチャと認知され、嬉しいやら悲しいやらといった感じではある。

 他機能に比べると登場頻度は少ないが、「ややきつめかな?」といった難所でよく使われるのがモーションセンサー。乗っている足場を動かしたり、フィールドにあるボールを転がして何かを作動させる「ピタゴラスイッチ」的な用途もアリ。終盤にはジャンプアクションとあわせ技になっているところもあり、これがなかなか楽しませてくれる。

 主に演出面で活躍するのが、本体裏表にあるカメラ機能。プレイ中おりおりでプレーヤーこと“かみサマ”の顔が映し出されるのはもちろん(これが地味につらい……)、ゲーム中の依頼で主人公や特定オブジェクトを撮影したり、ときにはお色直しで撮影した画像が対象キャラクターのテクスチャに早変わり! といったファンキーな演出まで用意されている。撮影データがフィールドのテクスチャの一部にされていることもあり、これがなかなかシュール。いずれも極端にひねることなく、楽しさとわかりやすさを重視した使われ方がポイントといえる。

背面タッチパッドの使用例。オブジェクトを動かしたことで主人公が先に進めるようになった

こちらはドラムスキンのときに使う背面タッチパッド。主人公がのっている状態で軽く叩くと大きくジャンプできる

スクラッピーにとられたというリスの冠をペーパークラフトで作成。タッチスクリーンでなぞるように描いたラインはハサミアイコンでオートカット。ゲーム中随所で登場する、なかなか刺激的なフィーチャーだ

「カボチャの形を描いてみて」といわれ……。思わず「よくこれでわかったな!?」とひとりツッコミ
描くだけでなくアンロックしたパーツで自身や他キャラクターをデコレートするシーンもある

モーションセンサーを使うパズル要素は主にゲーム終盤に登場。最初は難しいかもしれないけど慣れれば大丈夫!

演出だけでなく謎解き要素としても使われるカメラ機能。レンズとフィルターをアンロックしていくとさまざまな撮影効果が得られ、友だち同士でベストショットを見せ合うのも楽しそう

コンパクトなボリュームと満足感 ~心地よい達成感が味わえるステキな1本~

 オリジナリティあふれるグラフィックス表現と世界観、要所に配置されたパズル要素、弱点の違いなどツボを押さえたスクラッピーとの戦い。PS Vitaの本体機能をフィーチャーした作品は、やもすれば「えっ、またそれをやらされるのかよ!」となりがちだが、本作では皆無。通常アクションとインタラクティブパートのバランスと配置が絶妙で、ついつい“その先”が見たくなり、ふと気づけば最後まで一気にプレイしてしまった。

 隠しアイテムや達成率などやりこみ要素はあるが、クリアするだけなら1日あれば十分。人によっては「もうちょっとボリュームがあればよかったかな」と感じるかもしれないが、筆者個人としては、ストーリー含め適度なボリュームでまとめられた“完成度の高さ”を評価したい。ボリュームを出そうとして“蛇足”や“冗長感”が生じるよりは、クリア後の“心地よさ”や“達成感”をしみじみ味わえるトータルバランス重視のほうが好印象。

 近年は総プレイ時間が短いというだけで敬遠する人もいるようだが、水で薄めすぎたカルピスがおいしくないのと一緒で、アクションゲームは“質”を前提とした“分量”も大切。質を損なう分量では本末転倒も甚だしく、ゆえに本作は“完成度”の点で素晴らしいディレクションが達成されている。適度なパズル要素とアクション性がハイレベルで融合したまぎれもない良作だけに、なるべく多くの人に触れていただければと思う。

クリアするだけなら1日あれば十分だが、やりこみ要素もきちんと用意されている。全体の完成度はとても高く、クリア後の心地よい達成感がたまらない。気になる人はぜひプレイしていただきたい良作だ
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(豊臣孝和)