6月16日、任天堂株式会社からアクションアドベンチャー「ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D」が発売された。開発は石井浩一氏が代表取締役を務める株式会社グレッゾ。同社は2006年に設立され、人が連なりラインを形成し、戦うラインアクション「ラインアタックヒーローズ」(Wiiウェア)などを手がけている。
本作のセーブスロットは3つ。オートセーブ機能はないが、任意のタイミングでセーブできる。セーブできるのは所持品、パラメーター、進行状況だけで、セーブした地点からそのまま再開できるわけではない。これはシリーズのプレーヤーなら特に違和感はないだろう。3DSを閉じてスリープモードにしておけば、すぐに続きからプレイできるので便利だ。ゲームオーバー時は、セーブしていなくても続きからプレイできるが、クリア後にセーブする機会はないので、クリア後にサブイベントをこなしたいと考えているなら、こまめにセーブしておくことを推奨する。
ニンテンドウ64、ニンテンドーゲームキューブ(『ゼルダの伝説 風のタクト』の予約特典など)、Wii(バーチャルコンソール)と様々なプラットフォームでリリースされている「ゼルダの伝説 時のオカリナ」の3DS版ならではの要素を中心に紹介していきたい。
■ 「時のオカリナ」から始まった3Dの「ゼルダ」。これまでのシリーズにはない新たな要素が多く盛り込まれている
ここで「時のオカリナ」を知らない方に向けて、1998年11月21日にニンテンドウ64でリリースされた、「ゼルダ」シリーズで初めて3Dポリゴン化を果たした記念すべきタイトルである本作とを簡単に紹介しておきたい。オリジナルをプレイしたことのある方は、本項を飛ばして次項へと進んでいただければと思う。
ある日、神々の子孫が住むと言われる地――ハイラルにあるコキリの森に住む少年リンクの元にナビィと名乗る妖精が訪れる。ナビィに導かれ、コキリ族の守護神デクの樹の元へ辿り着いたリンクは、デクの樹が怪しげな魔物たちにより瀕死の状態にさらされていると知り、デクの樹を助けるべく、ナビィと協力し、魔物を打ち倒す。だが、デクの樹は「ガノンドロフにトライフォースを渡してはならぬ……勇気ある者よ、この精霊石とともにハイリアの知恵ある者を探せ……」と遺言を残して朽ち果ててしまう。リンクはデクの樹が残した森の精霊石を手に、神に選ばれし姫がいるというハイラル城へと旅立つ。ハイラル城に着いたリンクは王女・ゼルダ姫と出会い、トライフォースが眠る聖地に入るために必要な精霊石を探すよう頼まれる。残る2つの精霊石を求め、さらなる冒険の旅が始まる。
リンクはデクの樹が残した森の精霊石を手に、ガノンドロフがいるというハイラル城へと旅立つ。ハイラル城に着いたリンクは王女・ゼルダ姫と出会う。トライフォースがあるという聖地への入口を知っている彼女から、聖地に入るには3つの精霊石を神殿の石版にはめ込み、時のオカリナであるメロディーを奏でなければならないと教えられたリンクは残る2つの精霊石を探すべく、さらなる冒険の旅へ出る。このように「時のオカリナ」では、勇者リンクと神々の遺産トライフォースを手に入れ、世界を混沌に落とさんとする盗賊王ガノンドロフとの時を越えた闘いが描かれている。
物語を進めていくと、様々なダンジョンに挑むことになる。ダンジョンでは新しいアイテムが入手でき、新たなアクションが追加されていく。手に入れたアイテムを何度も使わせることで、プレーヤーに使い方を習得させるという「ゼルダ」らしい流れは本作でも健在。適度に歯ごたえがあり、解けた時に達成感の得られるダンジョンの謎も絶妙のバランス。単に難しいのではなく、自然と習得したアクションを使って解いていくため、どうやって謎を解けばいいのか閃きやすくなっている点も見事だ。
ここまでは過去シリーズでも同様だが、3Dポリゴン化により、ダンジョンの仕組みにバリエーションが増えている点も見逃せない。これまでのシリーズでも段差などはあったが、立体の表現には限度があった。本作ではカメラを上に向けると仕掛けを起動するスイッチが見つかったり、構造物の裏側にいかないと発見できないものがあったりする。これらは3Dポリゴン化した本作ならではといえるだろう。
ベースとなる剣でのアクションも新しくなっている。特に大きな変更が、LボタンでのL注目。Lボタンを押しっぱなしにすると敵を注目し、注目している間はリンクを動かしても敵を見失うことはなく、注目した敵を軸にリンクが動く。敵を軸に移動できるので、2Dでの見下ろし視点よりも、スムーズなバトルを実現している。もちろんL注目を使わなければ従来通りにリンクを動かすこともできる。敵が近寄ってくる際の迫力も3Dポリゴン化によるもの。3DSの立体視機能を利用すれば、さらに迫力あるバトルが楽しめる。
子供と大人からなる2つの時代や朝・昼・夜といった“時間”に関わるものは本作ならでは要素。子供と大人で使えるアイテムが違ったり、時代により、起きていることも異なる。特定の時間帯でのみ発生するイベントも存在する。
物語に深く関わる時のオカリナは移動手段としても役立ってくれる。フィールドマップは広大で、徒歩で移動するとなるとかなりの時間を要するが、曲を習得すれば、オカリナを演奏して馬を呼んだり、特定のポイントにワープすることができる。任意で動かせる乗り物も本作で初めて追加されたものだ。
このように「時のオカリナ」には、これまでのシリーズにはない、新しい要素が意欲的に盛り込まれている。
シリーズで初めての3Dポリゴン化された「時のオカリナ」。子供、大人で使えるアイテム、発生するイベントが異なるなど、“時間”がゲームの鍵となっている |
■ 2画面・タッチパネルを活かし、より遊びやすく再設計されたインターフェイス
上画面がメイン画面、下画面はマップやアイテムと分かれたことで遊びやすさが大幅に向上している |
3DS版では、上画面がリンクが動くメイン画面、下画面がアイテム、マップ、ステータス確認用と分けられているため、わざわざメニューを開かずとも、下画面でマップを確認しながらプレイできるようになっている。なお、下画面操作中は、上画面はポーズ状態となる。状況を問わず、落ち着いてマップ確認、アイテム交換できる分、移動しながらのアイテム変更などはできない。
「時のオカリナ」では頻繁にアイテム切り替えを要求されるケースが多くあり、これまでのバージョンでは毎度メニューを開き、使用アイテムを決定し、元の画面に戻ることを繰り返さねばならなかった。だが、3DS版では、下画面のタッチスクリーン4隅にタッチできるボタンが4つ配置(左上がカメラ、左下がオカリナ、右上と右下は自由に設定可能)されている。X、Yボタン+画面右側2つのタッチボタンという即座に使用できるアイテムが4つになったことで、アイテム切り替えがやりやすくなり、遊びやすさが大幅に向上している。本作はアクションゲームなので、ボタンを中心に操作するほうが遊びやすく、タッチペンを持ちながら遊ぶよりは、タッチボタンは指で押すほうが楽だろう。指紋などが気になるなら、保護シートを張るなり、クリーナーなどを用意しておこう。
主観になり、視点を動かせるカメラボタン、注目対象がない場合にリンクの後方からの視点になるLボタンでは、ジャイロ機能により、3DS本体を動かすことで視点変更ができるようになっている。この機能はプレーヤーの姿勢などにより、意図せず視点が動いてしまうケースが考えられるが、オプションでジャイロ機能(モーション操作)をオフにできるので、プレーヤーの状況に合わせて選択が可能となっている。オフにした場合はスライドパッドのみで視点変更できるので安心だ。
主観視点ではカメラを動かして周囲を自由に見渡すことができる。エイミングの際にも便利だ。Lボタンを押せば主観視点をやめ、移動しながら弓矢などを使うこともできる |
楽譜を見ながらオカリナが演奏できるようになった。わざわざ覚えなくても演奏できるのが嬉しい |
謎解きや移動に活躍するオカリナの使い勝手も向上している。オカリナは、タッチパネル左下からアクセスし、A、B、X、Yボタンで演奏するが、楽譜を見ながら演奏できるようになった。これまでは楽譜を確認、記憶して演奏しなければならなかったので、この機能により、覚えることなく演奏できるようになっている。
インターフェイス以外に、ワイド画面になり周囲を確認しやすくなった点、フレームレートの向上、秒間の当たり判定増加により動きが滑らかになっている点でもこれまでの中で最も遊びやすい「時のオカリナ」になっていると言えるだろう。
■ 謎解きでゲームが進められなくなる問題を解消すべく搭載された動画でのヒント
「ゼルダの伝説」シリーズは、アクションの難易度は高くないものの、謎解きの難易度はそれなりに高い。必要最低限のヒントは得られるが、謎解きで詰まりがちだ。本作ではそのフォローとして、ヒント映像が用意されており、動画で謎解きのヒントが得られるようになっている。テキストや静止画ではなく、動画でヒントが提供されるので、とてもわかりやすい。謎解きが苦手なプレーヤーにとってはありがたいフォローといえるだろう。
ヒント映像は、リンクの家や時の神殿にあるシーカーストーンを調べたり、ゲームオーバー時に閲覧できる。「ダンジョンでヒントを見たい!」と思った場合、シーカーストーンのある場所に戻ったり、わざとやらたりしなければならない。苦労して謎を解いた達成感を重視しつつも、ゲームクリアまでのフォローを入れるということから、このような仕様になっているのだろう。
特定のポイントに設置されたシーカーストーンやゲームオーバー時にはヒント動画が閲覧できる。1つのダンジョン内のヒントであってもポイント毎に細かく分かれているため、ヒントが欲しいポイントの動画だけを閲覧できる |
■ やり応え抜群の「裏ゼルダ」
クリア後には「裏ゼルダ」がプレイ可能になる。「裏ゼルダ」は、「ゼルダの伝説 風のタクト」発売時に限定配布された限られた人だけがプレイできたもう1つの「時のオカリナ」だ。左右反転した世界、敵やアイテムの配置変更、謎解きの難易度アップ、敵から受けるダメージが2倍になるなど、高難易度で歯ごたえのあるプレイが楽しめる。シーカーストーンはなく、動画でのヒントも得られない。そんな「裏ゼルダ」が、誰でも遊べるようになったのは嬉しいところだ。なお、セーブスロットは専用に3つ確保されている。
やり応え抜群な分、クリア後の喜びは、通常の「時のオカリナ」よりも遥かに大きい。本作のファンなら、是非とも挑戦し、クリアしてもらいたい。
■ 最後に
シリーズ中、最高作との呼び声も高い「時のオカリナ」。そんな本作が最新機種で遊べるのは素直に嬉しいと感じる方も多いはず。注目度も高いのではないだろうか。その分、開発陣のプレッシャーや苦労は半端ではなかったと予想される。良い印象は時間を経ることで美化されていくだろうし、新たなパッケージとして売り出す限り、単なる移植では物足りない。かといって、オリジナルから大きく変えた場合は、その変更点が飛び抜けて良いものでない限り、原作ファンにとってはマイナスのイメージを持たれてしまうだろう。
本作は、オリジナルのイメージを大切にしつつも、グラフィックスや操作性の向上、ヒント映像の追加、限られた人しか遊べなかった「裏ゼルダ」の収録と、オリジナル版のプレーヤー、そして本作で初めて「時のオカリナ」をプレイする方のどちらにも受け入れられるように作られているといった印象だ。ボタン操作とタッチスクリーンの操作のバランスも、遊びやすいように配分されている点も評価したい。
筆者のクリアタイムは20時間ほど。本作にはサブイベント、黄金のスタルチュラのしるし集めなど、寄り道要素が多くあり、プレーヤーによってクリアタイムは大きく異なるだろう。寄り道要素はアイテムの所持数増加など、やればやるほど冒険が楽になり、より物語を楽しめるので、じっくり本作を堪能したいなら積極的に寄り道してもらいたい。なお、これらのイベントを飛ばしてもアクション自体の難易度は高くないので、攻略法さえわかればサクサクと進めることができる。
3DSでは、本作以外にもバーチャルコンソールとして「ゼルダの伝説 夢をみる島DX」(ゲームボーイカラー)が6月8日に配信されており、9月にはDSiウェアとして「ゼルダの伝説 4つの剣+」が無料配信される。また、2011年ホリデーシーズンにはWii「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」の発売も予定されている。今後、「ゼルダの伝説」がどのように進化・発展を遂げていくのかも注目していきたいところだ。
(C) 1998-2011 Nintendo
(2011年 6月 30日)