毎年この時期にリリースされるスポーツゲーム。1年ごとの定番ということもあり、毎作の進化は微々たるもので、見られるものはせいぜいゲームバランスの調整と移籍情報の反映、そしてたまに新リーグの追加収録と、ひとつかふたつの新機能。
そんな考えを本作に当てはめようなどと考えたら大間違いだ。「FIFA 12」は前作までの蓄積から大部分を捨て、全く新しいものに置き換える。抜本的なレベルでサッカーゲームのプレイ内容を変えうる革命的なタイトルとなっている。
数年越しで開発された新システム「インパクトエンジン」を実装し、それを基板として新たなゲーム性を提案する。実現されたプレイ感覚は、前作までよりも遥かに強く、サッカーのリアリズムをプレヤーの脳裏に呼び起こす。史上最も高く完成されたリアル系サッカーゲームとして、「FIFA」シリーズは新たなデビューを果たした。
すでに100時間以上プレイした経験から言うと、本作の面白さは前作をも超えており歴代最高の出来である。豊富な選択肢があるオフェンス、頭を使うディフェンスの双方が奥深く、夢中になってプレイしてしまう。特に対人戦にはかつてない深みがある。うまくいかない時に大きなストレスがたまることもあるが、それを乗り越えてより良いプレーに開眼する楽しさは輪をかけて大きい。本稿ではまず、その面白さの秘密に迫ってみたい。
なお、本作にはPS3、Xbox 360版のほか、PC版でも同等の内容が提供されている。ただしPC版はOriginで購入できるものの、提供されるのは英語版のみで、エレクトロニック・アーツ(日本法人)によるサポートは受けられない。また、簡易版としてPSP版が存在するので、スキマ時間で遊ぶならそちらもオススメだ。
CSKAモスクワの本田圭佑選手、ヴォルフスブルクの長谷部誠選手をイメージキャラクターとして起用し、ゲーム内でもそっくりに描かれている |
■ ディフェンスを見直し、劇的に進化した試合内容
本作では球際の競り合いにより高いインテリジェンスが求められる |
「インパクトエンジン」による説得力のあるぶつかり合い |
「プレシジョンドリブル」でプレッシャーをかわす |
サッカーはオフェンスとディフェンスからできているスポーツだ。これまでのサッカーゲームはオフェンスをいかに自在に組み立てられるかを主要なテーマとして進化してきている。しかしその一方で、サッカーのもう半分を占めるはずのディフェンスは長年の間おざなりにされ続けていた。「FIFA 12」における試合内容の根本的変化はこの点に着目した結果生まれている。
前作「FIFA 11」以前のシリーズでは、ライバルの「ウイニングイレブン」シリーズと同様に、ディフェンスは主に“プレスボタン”と“セカンドプレスボタン”の2ボタンを使って行なうものだった。プレスボタンを押すと選択選手がボールホルダーに突っ込んで行き自動的にタックルをしかけるアレである。
確かに操作は簡便で、初心者でも簡単にそれなりのディフェンスができた。しかし、現実のサッカーと見比べてみると、そこに現実性はまったくない。ミサイルよろしくホーミングしながら突っ込んで体ごとぶつかり、互いに体の各パーツをすり抜けさせながらボールをもぎり取る。そんなシーンを現実のサッカーで見たことがあるだろうか。実際にやったら1試合でチームが野戦病院と化すのがオチだ。
体のぶつかり合いには大きなリスクがある。激しく接触しながらボールをコントロールできる選手などいない。その現実に立ち返るとき、サッカーゲームにおけるディフェンスのあるべき姿が見えてくる。その実現のためには従来のアニメーションシステムでは限界があることもわかる。
そこで本作では、2年をかけて開発された新システム「インパクトエンジン」を導入。物理処理とアニメーションの融合により、選手同士のぶつかり合いを説得力のあるものとした。それを基板としてディレイディフェンスを基調とした「タクティカルディフェンス」という新操作系統を導入し、また、それへの対抗手段として「プレシジョンドリブル」を導入した。
「インパクトエンジン」、「タクティカルディフェンス」、「プレシジョンドリブル」という3つの互いに関連する新機軸が導入されたことで、本作で展開するプレイのバランスは現実のサッカーにぐっと近いものになった。半分はオフェンス、半分はディフェンスと、バランスよく脳を使うゲームになったのである。サッカーはオフェンスとディフェンスが一対となって無限の風景を創りだすスポーツ。サッカーを愛する人であるほど、そこに果てしない深みと面白みを見出すことができるだろう。
一方で、それほどコアでないプレーヤーにとって本作は非常に難しいゲームになっている。前作や他のサッカーゲームででそこそこの成績を収めることができていたとしても、本作では同等の難易度で好き放題にボールを回され、崩され、ゴールを決められて惨敗を喫することになるだろう。その上まったく敵を崩せずに無得点試合が続き、イライラしてコントローラーを投げてしまうかもしれない。もちろん、難易度を下げれば(セミプロ以下)お手軽に勝つこともできるが。
その意味で言うと本作はサッカーに対してハードコアすぎるきらいがあり、万人向けとは言えないかもしれない。もちろん、サッカーの知識抜きに純粋にテレビゲーム的なやりこみによって本作をマスターすることも可能だが、その結果としてプレーヤーは現実のサッカーにも通ずるノウハウを頭の中に構築することになるはずだ(特に守り方、崩し方)。それほど本作の試合内容はリアルなものになっている。
多彩なカメラ視点。バランスのよい「テレ」視点、ピッチ全体が把握しやすい「協力」視点のほか、臨場感たっぷりの「プロ」視点、状況に応じてズームレベルが変わる「ダイナミック」など、好みの設定でプレイできる |
演出も強化。試合前には各チームの選手がクローズアップされ、格好良いハイライトが再生される。専用のリプレイデータを元にして作られる映像であるため、エディットされた架空選手を含め、全てのチームで機能する |
■ 3つの新システムが産み出した劇的な効果
本作がスゴイのは、「インパクトエンジン」、「タクティカルディフェンス」、「プレシジョンドリブル」の3システムがシームレスに連動していることだ。全てが相互補完的に働いていて、サッカーゲームにおける試合内容全体を別次元のものに変貌させるという、大きなひとつの役割を果たしている。
エレクトロニック・アーツの公式なセールスコメントによれば、本作にはもうひとつ「プロ プレーヤーインテリジェンス」という、4つめの新機能がある。AIプレーヤーが周りの選手の個性や動きを踏まえて次の動作を決めるというものだが、確かにCPU戦では効果を感じ、よりバリエーション豊かな試合を実現してくれている。だが、対人のオンラインプレイも考えるとそこはあまり本質的ではないのでスルーし、前掲の3つについて詳しく見てみたい。
・インパクトエンジン(と選手の動き全般)
「すり抜け」が完全に無くなった |
激しいタックルには大きなリスクがある |
アニメーションシステムと物理エンジンを融合し、選手同士のぶつかり合いを「物理的に正しい」ものにするのがこの新要素だ。本作の試合内容を支配する根本である。まず、選手の体のパーツ同士のすり抜けが根本的に起こらなくなっているので、前作以前で見られたような“相手の胴体を突き抜けながらボレーシュートする”ような理不尽な動きが根絶されている。
これに伴って接触がシビアに判定されるため、選手は基本的に無茶な接触を避けようとする。それでも実際に激しく接触すると、たいていは妥当な姿勢変化を伴って転げたり、倒れたりする。そうでなくても、想定した位置に足が届かなくなりボールコントロールに失敗したりする。時に計算が不正確になるためかおかしな吹っ飛び方などをすることもあるが、そういった例外は数十試合で1回あるかどうかであり許容範囲だ。全く新しいシステムにして驚きの完成度と言っていい。
選手の動きの質も変わり、全体的に慣性の影響が強く出るようになっている。例えば、程度の差こそあれ、態勢が整わない状態で切り返しや緩急の変動を行なうと、自分で動かしたボールに体がついていかないという感じでもたつき、甚だしくはボールコントロールに失敗する。一方、しっかりとした態勢をとっての切り返しや緩急はこれまで以上の鋭さを見せる。
実はディフェンスも同様で、動き始めからトップスピードになるまでの時間がかなり長くなった。そのため「ヨーイ、ドン」で競争すると一瞬でも早くスタートした選手が先にトップスピードに到達し、大きく抜け出す。追いかける選手のスプリント力が高ければいずれ追いつけるが、抜けだされた一瞬のうちに勝負が決するのがサッカーだ。
カウンターなどで長い距離の競争になるときは純粋に足の速さがポイントとなるが、それ以外のほとんどのシチュエーションでは短い距離で走り勝つことが重要になる。それには何よりも直前の姿勢とタイミングの良し悪しが効く。したがって、オフェンスもディフェンスも、いかに逆を突くか、突かれないかが勝負の鍵だ。そこにリアルな駆け引きの面白さがある。
チーム全体でも同様だ。ブロックを崩そうとするならば、パスを左右に交換しながら揺さぶりをかけるといい。急に動く方向を変えざるを得ないDFがでてきて、マークのずれが生じたり、裏への思わぬ穴がぽっかりと開く瞬間が出てくる。こうして中盤でのパス交換の効果も高まり、ボールを大事にするポゼッションサッカーが強力なものになった。
・タクティカルディフェンス
ボールホルダーに対して一定距離を取るのが基本 |
逆にDFが充分に寄せてこないようなら思い切ってシュート |
選手のリアルな動き以上にサッカーのリアルを感じるのがこの部分だ。従来のようにホーミングミサイルよろしく体ごと突っ込んでボールをむしり取る大味なディフェンスはもはや通用しない。
今作でのデフォルト操作であるタクティカルディフェンスで自動化されるのは「囲い込み」。ボールホルダーと一定の距離を保ち、前へのスペースを潰す動きだ。これが効いている間、まずドリブルで抜かれることはない。前が詰まった相手はその場で立ち止まるか、横や背後のスペースに逃げざるを得なくなる。リアルサッカーと同じく、まず相手の自由度を制限し、攻撃を遅滞させることが本作のディフェンスの基本になっている。
「囲い込み」の状態からボールを奪うには、相手の足からボールが離れた瞬間を見計らってタイミング良くタックルする、手動操作に切り替えて突っ込む、パスを読んでカットする、あるいは狭い所に追い込んでボールコントロールのミスを誘う、といった選択肢がある。
これが本作のプレイ感覚を非常に良いものにしている。突撃するだけでそれなりのディフェンスできていた前作とはうってかわって、本作ではディフェンスでこそ戦術理解と駆け引き、味方と連動するセンスが要求されるのだ。チームとしてどう判断し、どう動くか。ボールの狩りどころを決め、敢えてそこに誘い込む。そこにスポーツゲームとしての深みと上達の余地があり、たまらなく面白い。
ちなみに従来タイプの誘導ミサイル風ディフェンスもオプション(レガシーディフェンス)で可能だが、今となっては非効率的だ。今作ではボールホルダーがより細かくボールを動かせるので交わされる確率が高いし、ボディパーツのすり抜けを根絶したインパクトエンジンの影響から、ぶつかりながらボールをむしりとることも難しくなっている。なにより、レガシーディフェンスは一種の初心者救済措置であり、オンラインのランクマッチやクラブマッチでは使用不可だ。
確かにタクティカルディフェンスは難しい。丁寧にボールを運ぼうとする相手からはなかなかボールが取れない。しかし、短気になって突撃したら十中八九かわされる。まずは相手にボールを持たせるくらいのつもりで、組織的に追い込むことを覚えよう。囲まれ、選択肢を次々に奪われた相手は、やがて苦し紛れの不正確なプレーをするはずだ。そこを狙う。それが難しい場合、自分では前線の選手だけを操作するようにして、ディフェンスはCPUに任せてしまうのも効果的だ。それ以上のことは試合を重ねて次第に上達していけばいい。
「囲い込み」ボタンを押すとDFの選手は一定の距離でボールホルダーのコースを切る。うかつなコントロールを見計らってボールカット |
・プレシジョンドリブル
狭いスペースでボールをキープ。幅広い選択肢を与えてくれる |
従来の「FIFA」シリーズにはドリブル時に使える3つのペースコントロール操作があった。早いダッシュドリブル、ゆっくりとしたスロードリブル、右スティックによるノックオン&ダッシュである。プレシジョンドリブルは、これらに加わる第4のペースコントロール操作だ。スロードリブルよりも遅く、細かく、数十センチ単位でのボールコントロールを可能にする。
はじめてプレシジョンドリブルを使用するとあまりにも動きが小さいので「何に使えるんだろう?」と思ってしまうものだが、やりこんでいくうち、実は本作のオフェンスを組み立てる上で欠かせないほど重要な要素であることがわかる。
プレシジョンドリブルは、DFに詰められた際などスペースのない状況で効果を発揮する。例えばバルセロナのMFチャビ選手がよくやるような、体軸を中心としてボールを動かしながらクルクルと回転し、プレッシャーを交わす動きを再現可能(カラコーレス)。ボールを奪おうと詰め寄ってきた相手のリズムを一瞬で失わせ、自由に使える大きなスペースを生み出す。
「タクティカルディフェンス」による囲い込みを受けている状況でボールを動かすためにも使える。従来のペースドリブルでは足を出されて一発で取られてしまうような状況でも、大きなリスクを抱えることなくボールタッチすることができ、わずかなスキマを作ることに貢献。その後のパス、シュート、あるいはドリブル突破につなげることができる。
この「プレシジョンドリブル」によるオフェンスの動きと、「タクティカルディフェンス」によるディフェンスの動きの両方が協奏曲を奏でることで、本作の試合展開は真に迫ったものとなっている。もちろん、パス&ゴーを多用してアメフトライクなスピーディなサッカーを展開することも依然として可能だが、どちらが効率的かはプレーヤー自身の腕前や使用チームの特性に大きく依存する。
その意味で言うと、本作ではプレースタイルの選択肢がテクニカル寄りに広がった、と考えていい。ひとつ確実に言えるのは、前作ではフィジカルエリート揃いのチームを相手にするとたいそう弱かったテクニック系のチームが、本作では滅法強くなったということだ。ペナルティエリア前の狭いスペースでプレシジョンドリブルを使ってDFのリズムを崩し、そこから展開する正確無比なワンツーは特に効果的である。
プレシジョンドリブルの使用例。相手DFを引きつけてからボールを守るように素早くターン。最小のボールコントロールで次の選択肢につなげることができる |
■ ゲームモードも大きく拡張され、楽しみの幅が広がる
対戦シーズン。オンライン対戦にディビジョン制が付加された。残留・昇格を目指して戦おう |
定期的にカップ戦も開催される。近いディビジョンが複数参加するので格上のプレーヤーと当たることも |
リアリティに溢れ、多くの選択肢が選べ、プレーヤーの発想をそのまま形にできる試合のシステムを実現したことで、本作のプレイはこれまでになく楽しい。そして本作では、その楽しい試合をさらに意義深いものにする各種のゲームモードが追加されている。
ひとつは「対戦シーズン」。これは従来の1on1ランクマッチにディビジョン制を取り入れたもので、プレーヤーは常に10段階のディビジョンのどこかに属してプレイすることになる。はじめはディビジョン10からのスタート。試合に勝利すれば勝ち点3を獲得。1シーズン10試合のうちに規定ポイントを上回れば残留・昇格が決定する仕組みだ。
下の方のディビジョンは昇格基準が甘いため、上手いプレーヤーなら3~4試合もプレイすればサクッと上位のディビジョンに上がっていくことができる。昇格後も勝率5割を維持できるならディビジョン5まではスムーズに上がれるはずだ。
このような仕組みによって、各ディビジョンにはそれ相応の腕前を持つプレーヤーが集まるようになっている。実力相応のディビジョンに上がれば、あとは互角かそれ以上の相手とばかり対戦することになるのだ。そして残留か、降格か、あるいは昇格を掛けたスリリングな戦いが連続することになる。
見事勝ち点を積み上げて上のディビジョンに上がれば自分の腕が上がったことを実感でき、たまらなく面白い。逆に降格を喫すれば、自分の何が悪かったのかを反省する強いきっかけにもなる。そこにスポーツゲームとしての大きな魅力がある。
・じっくり派のためのモードも充実
キャリアモード。選手、監督、あるいは選手兼監督として複数シーズンをプレイ |
スカウト網から若手を見つけ出し、ユースチームで育成。将来の戦力に |
アルティメットチーム。選手カードを集めて最強チームを目指す |
ひとりプレイ派がじっくり遊べる「キャリアモード」も程よく拡張され、より遊びごたえのあるものになった。今作では各チームにユースアカデミーが追加され、移籍市場から出来上がった選手を買ってくるだけでなく、若手を青田買いして見込のある選手を育て、トップチームに召集するということもできる。
このおかげで、5年~10年といった長きにわたるシーズンを続けてプレイし、チームを自分色に構築していく楽しみがぐっと増している。特に、弱小チームを世界トップレベルに育て上げるプレイを志すなら、本作は非常に大きな手応えを提供してくれるはずだ。
また、前作では追加機能としての対応だった「アルティメットチーム」モードが本作では標準装備となった。トレーディングカードゲームの要領で選手を集め、理想のチームを作りあげるという趣旨のゲームモードだ。選手カードはゲーム内コインもしくはリアルマネーで購入のほか他のプレーヤーとの取引も可能で、レアカードには非常に高い値段が付いていることもある。
そして創り上げたチームを使ってCPUチームや他のプレーヤーと対戦して、コインを稼ぐ。稼いだコインで選手カードや各種の消費アイテムカードをゲットして……というプロセスが理想を実現するまで続いていく。
ちなみに、チームの強さを図るバロメーターとして何よりも重要なのが連携力を示す「ケミストリー」というパラメーターだ。これを高めるためには強い選手を集めるだけではだめで、採用システムとの相性の良い選手・監督カードを揃える必要がある。こういったチームいじり要素も相まって、「アルティメット・チーム」にはいちどやりだすと止め時が見つからないような面白さがある。
このように本作では個々の試合の面白さをベースに、様々なタイプの面白さが楽しめるように工夫されている。どんな種類のゲーマーでも、ひとつやふたつのピッタリくる遊びが見つけられるはずだ。かくいう筆者は11対11でプレイするオンラインクラブマッチに夢中である。自分の分身となるバーチャルプロ選手の育成要素が前作とまるで変わらない内容だったのは少々がっかりではあったが、試合が面白いのでついつい時間を忘れてプレイしてしまう……。
キャリアモードはインターフェイスが整理され、前作よりも遊びやすくなった。強化されたスカウト網構築要素など遊びの幅も広い。移籍期間最終日には分単位のカウントダウンがあるなど、プロサッカー独特の山場も演出される |
アルティメットチームはじっくり派のプレーヤーなら止め時が見つからなくなるほどのゲームモードだ。選手カードを集め、「ケミストリー」の高いチームを編成して各種の試合にチャレンジ。リワードのコインを貯めてレアカードを手に入れ、さらに強いチームを構築していく。ちなみに選手カードは手っ取り早くリアルマネーで買うことも可能 |
自分の分身となる選手を育成し、「BE A PRO」やクラブマッチでの活躍を目指す「バーチャルプロ」。これは前作と全く代わり映えせずちょっと残念。最終的には皆似たような超人選手に育つ |
■ ツメの甘さも残るが、リアル系サッカーゲームは新次元へ
格好良くなったメインメニュー |
メインインターフェイスに統合された「EA SPORTS フットボールクラブ」。フレンドのニュースフィード、ランキング、各種チャレンジなどにアクセス |
リアルで奥深い試合内容と豊富なゲームモードでサッカー好きにとってはこれ以上なく面白いゲームとなった「FIFA 12」だが、ちょっと愚痴を言いたい部分もある。まず問題なのがインターフェイスだ。
アクセス可能な機能が増え、メニュー構成が整理され、提示される情報量も増えた。フレンドのプレイ結果はリアルタイムに報告されるし、世界中でどれだけの人々が試合しているかもわかる。ワクワクするような情報がメイン画面上に散りばめられ、うまくプレーヤーの意欲を盛り上げてくれる。この点は未来的で、非常に素晴らしい。
しかしインターフェイスのすべてが根本的に良くなったとは言えない。前作以前からの伝統的な、ストレスのたまる基本仕様も健在なのだ。例えば、ある場合はAボタンで決定/Bボタンでキャンセル、別の場合はAボタンでキャンセルといった、場面によってボタンの機能がコロコロ変わるという、ユーザーを混乱させる旧来の仕様がいまだに見受けられる。
これがどう影響するか。例えばオンラインマッチングを始める際、Aボタンで検索を開始した後、検索中はAボタンでキャンセルになるので、気がはやって連打していると検索開始・キャンセルを高速に繰り返すことになる。これはツメが甘いと言わざるを得ない。操作のキャンセルや前項目に戻る操作は他のいくつかの箇所と同じくBボタンに統一するべきだろう。
メニューの反応性も微妙だ。特に負荷のかかるらしい22人対戦の試合中はサクサク反応しないので本来必要な操作量の3倍はボタンやスティックを触ることになるし、メニュー内画面遷移の際の待ち時間が見た目よりずっと長いので、早く操作したいときは特にイライラする。
ついでに言うと、膨大な数のリーグ・チームを収録している一方で選択するためのインターフェイスの設計が追いついておらず、目当てのチームを選ぶために数十ステップもの操作が必要になることもある。「2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会」の時は大陸図から直感的に選べるインターフェイスになっていたおかげで楽だったが、そのフィードバックは本作に生かされていないようだ。
それぞれは小さいことかもしれないが随所でこの調子なので、本作のインターフェイスと付き合うためにはプレーヤー側に寛容さが必要だ。少しの開発努力でどうにかなりそうなものだが、長年改善されていないポイントなのでシリーズの弱点と言わざるを得ない。
次にバグ。特に筆者が気にしているのが、カメラのズーム・角度設定が22人対戦の試合開始時に必ずデフォルトに戻るという、ここ数年伝統となりつつある不具合だ。少し引いた視点でやりたいので、キックオフのたびにオプションメニューを開いてカメラ設定を触る行為を何千回繰り返したかわからないが(日本のクラブプレーヤーはそれをカメラタイムという)、もう飽き飽きなのでそろそろ直して欲しい。
そのほかにも、ファウルを犯した際の実況音声で、聞いたこともない選手の名前を突然コールするという、よくわからない不具合もある。おそらくデータ部分のバグだろうが、西岡明彦氏によるせっかくの日本語実況が残念な感じになってしまうので、パッチでもいいから直して欲しいところだ。
色々とネガティブな面も記したが、結論を言おう。かつて、「FIFA」シリーズのウリはFIFA公式ライセンスに基づく膨大な実名チーム・選手の収録にあった。乱暴に言うなら一時期はそれしかなかった。だが今、「FIFA」のウリはリアル志向サッカーゲームとしての圧倒的な完成度と面白さにある。
サッカーが好きで、実際のプレーあるいは観戦を楽しみ、またゲームでも真実味のあるサッカーを楽しみたいと思うなら、「FIFA12」を選んでみよう。この新次元の出来映えを多くのサッカーゲームファンに試して貰いたい。
グラフィックスはより自然な色合いになり、試合前の演出など見せ方も良くなった。次はインターフェイスの操作性向上や、全体のブラッシュアップに期待を寄せたい。とはいっても本シリーズのことだから、次回作ではまたユーザーには予想のつかないような斜め上の改革を計画しているのかもしれない |
(2011年 11月 4日)