2017年1月24日 00:00
クリエイティブメディア(グローバルブランド名「Creative」)といえば、Sound Blasterシリーズのサウンドカード、アンプ、ヘッドセット、スピーカー等で有名なPC用オーディオシステムの老舗だ。そのCreativeが12月下旬に、同社初となる本格ゲーミングスピーカーシステム「Sound BlasterX Katana」を発売した。本製品はクリエイティブメディアのオンラインストアや家電量販店等にて購入することができる。
Creativeは音にこだわりのあるゲーマーにはおなじみのブランドだが、意外にもこれまでゲーミングに特化したスピーカーシステムはあまり手がけていなかった。というのもSound BlasterシリーズのサウンドカードやUSBオーディオ自体がガッツリとゲーミング用途を意識したハードウェアが用意されていたため、ゲームオーディオの強化機能はスピーカー側には不要だったからだ。
しかし近年では、PCマザーボードへのサウンドチップの標準搭載や、ノートPCの普及やPCのコンパクト化、スマートフォン等を含むBluetooth などのワイヤレス化、ゲームにおけるマルチプラットホーム化など、サウンドに対するニーズも増えている。Creative では、そうしたユーザーニーズの多様性にも答えられるアイテムとして、自社のオーディオプロセッサや培ってきたノウハウをスピーカー側に搭載し、ゲームオーディオの強化にオールインワンで対応したスピーカーシステムを開発。それが今回発売された「Sound BlasterX Katana」である。
同時に、下位モデルとして、USB接続、最大24bit/94kHz ハイレゾ再生、最大出力120Wの2.1chスピーカーである、「Sound BlasterX Kratos S5 」、アナログ接続、最大出力92Wの2.1ch スピーカー「Sound BlasterX Kratos S3 」もラインナップされ、3製品で「Sound BlasterX」ブランドのゲーミングスピーカーシリーズを構成している。
今回、そのフラッグシップモデルであるアンダーモニター型オーディオシステム「Sound BlasterX Katana」を使用することができたので、Creative初の本格ゲーミングスピーカーがどのような機能やサウンド体験をもたらしてくれるか、ご報告したい。
マルチコアオーディオプロセッサー「SB-Axx1」搭載。コンパクトながら高性能なオーディオシステム
「Sound BlasterX Katana」は、左右のスピーカーがひとつのボディに一体化されたアンダーモニター型オーディオシステムだ。独特の形状は、ディスプレイ前にドンと置くだけで本格オーディオ環境を構築できる手軽さを意図したものだ。
スピーカー本体の寸法は幅600mm×高さ60mm×奥行き97mm(重量約1.5kg)で、ちょうど27インチディスプレイとぴったり同じ程度の幅だ。左右のスピーカーユニットが一体化しているためかなりコンパクトにまとまっているが、2.5インチの中音域ドライバー×2と1.34インチの高音域ドライバーx2を両脇に装備し、最大出力は90Wと非常にパワフル。
さらに別付けのサブウーファー(幅130×高さ333×奥行き299mm、約4kg)には5.25インチの重低音用大型ドライバーを搭載し、最大出力は60W。スピーカー本体とを合わせた総合出力は最大で150Wに達する。大きめのリビングルームでも十分期待に応えられる性能を備えている。
本製品最大の特徴と言えるのは、CreativeのハイエンドUSBオーディオ等にも搭載されているマルチコアオーディオプロセッサー「SB-Axx1」がスピーカー内部に搭載されていることだ。これによりSound Blasterシリーズのサウンドカードで提供されてきたような高度なサウンド処理をスピーカー側で直接行なえる構成となっており、PCがなくてもゲームオーディオの強化を効率的に行なえるようになっている。ただ、設定を変更するためにはPCが必要となるため、ベストな使用方法がPCとセットであることに変わりはない。
オーディオ入力端子はUSB接続をメインに、光デジタル端子、アナログ端子も備える。さらにBluetooth接続にも対応しているため、ノートPCやスマートデバイスからの無線利用も可能だ。USBフラッシュメモリー接続にも対応しており、USBメモリ内にあるMP3、WMA、FLAC、WAVといったファイルを直接再生できる。
また、ヘッドセット用接続端子およびマイク入力端子も装備しているため、ゲーミングヘッドセットを接続しての利用も可能。この際には独自機能であるマイクのノイズ低減機能やボイスチェンジャー機能を利用することが可能だ。
これらの端子類はすべて本体背面底部にまとめられているため、設置状態では前面スッキリしてデザイン面で優れているが、頻繁にアクセスする可能性のあるヘッドセットおよびマイク入力端子については少々使いづらい。これらは前面もしくは上部に端子が配置されていたほうが使いやすくなったように思えるが、この点を除けばコンパクトで邪魔になりにくいデザインに好感が持てる。
さらに使用中は本体下部をカラフルなLEDライトが照らす1,680万色「Aurora Reactive ライティングシステム]と謳われるデコレーション機能つきだ。ライトの色や動きのパターンは選択したオーディオプロファイルによって変化するほか、後述する「Sound Blaster Connect」ドライバー&ソフトウェアを利用することでユーザー好みの設定にすることも可能。スピーカーとしてLEDライトが特に実用上の利益をもたらすわけではないが、見た目はクールだ。やはりゲーミングモデルは光らないといかん、ということだろうか。
ハイレゾ再生、バーチャル7.1chに対応。USB接続でゲーミング機能の真価が発揮される
まず、サウンド面の基本スペックだが、PCとのUSB接続時、最大24bit/96kHz 再生に対応、いわいる「ハイレゾ」での出力が可能である。また、後述するWindows 用のPCドライバー&ソフトウェアをインストールすることで、PCからは「バーチャル7.1ch スピーカー」として認識される。
気になる音質についてだが、このコンパクトなスピーカーから出ているとは思えないほどの厚みと深みのあるサウンドを楽しめる。
筆者は日頃、オンキョーのPC用スピーカー上位機種である「GX-100HD」(ウーファーなしで本製品とほぼ同価格)を使用しているが、「Sound BlasterX Katana」から出てくるサウンドの迫力はそれに匹敵するか、それを上回っている。とくに共振を発生しやすい中高音域の再現が極めて安定しており、ボリュームを大きく上げてもクリアなサウンドが持続する。音の粒もしっかりしており、ゲームでの発砲音、リロード音、爆発音といった効果音の聞き分けがしやすい。
ひとつ弱点があるとすれば、スピーカー全体が幅60cmの本体にまとまっているがゆえ、左右の音の分離感、定位感といった、音の広がりにやや物足りなさがあるところ。しかしこれを補う機能がきちんと搭載されているのが本製品の良いところだ。
本体上部の「SBX」ボタンを押すと「NATURAL」(デフォルト)、「GAMING」、「CONCERT」、「CINEMA」、「NIGHT」といったスピーカー内蔵のオーディオプロファイルを切り替えることができる。特に「GAMING」では音の広がりが圧倒的に増し、左右の分離感も明瞭化されたゲーム向きの音質が実現する。これは本体に内蔵されている オーディオプロセッサー「SB-Axx1」によって様々な信号処理が行なわれるおかげだ。
このオーディオ強化機能はUSB接続時に真価を発揮する。PCドライバーとソフトウェア「Sound Blaster Connect」との連携により、各オーディオプロファイルの細かな調整や、各ゲームに特化したプロファイルの適用が可能になるためだ。
「Sound BlasterX Katana」の本体機能をフルに活用するためのソフトウェアは、Creativeのサポートページからダウンロードすることができる。そのメインハブとなる「Sound Blaster Connect」は、Creative の対応するゲーミングスピーカー用のコントロールソフトウェアだ。これを導入するとUSB接続された本製品のさらなる機能コントロールが可能になる。
「Sound Blaster Connect」のダッシュボード画面では、上述したスピーカー内蔵のオーディオプロファイル(ゲーム、コンサート、シネマ、ナイト、ナチュラル)をマウス操作で切替可能なほか、より細かに調整されたゲーム独自のプロファイルのライブラリーを呼び出すことが可能となっている。標準では「Overwatch」、「Dota2」、「Battlefield 1」、「Counter-Strike: Global Offensive」といったゲームタイトルに最適化されたオーディオプロファイルが利用可能だ。
これらのオーディオプロファイルで具体的に何が調整されているかというと、大きくわけてイコライザーと「BlasterX Acoustic Engine」というオーディオ処理システムの2つだ。前者については、例えば「Overwatch」では250Hzおよび4KHzあたりの出力が抑えられ、それ以外の周波数帯が強調されるというエンベロープになっており、作中の足音や射撃音、セリフといった要素が聞き取りやすくなるよう調整されている。「Dota2」なら強調位置が少しずれて、各種スキルの音を聞き取りやすい設定となっている。
イコライザーに加えて、さらに音声の迫力や記号性をアップするために活躍しているのが「BlasterX Acoustic Engie」による音声処理だ。この機能はサラウンド効果を高める「Immersion」、ダイナミックレンジを調整する「Crystalizer」、音量レベルの急変化を抑える「Smart Volume」、音声部分を聞き取りやすくする「Dialog Plus」の4機能から構成されている。
ゲームオーディオの広がりを強化する「Immersion」はかなり強烈な効果だ。最大に調整すると、幅60cmのスピーカーから出ているとは信じられないほど、左右からのしっかりとした音圧を感じられるようになる。さらに音の定位感もかなり強調され、効果音の左右位置が極めてはっきりと捉えられるようになる。例えば「Overwatch」では各キャラのキメ台詞でアルティメットスキルの発動を認識できるようになっているが(マクリーなら『俺は速いぜ』など)、イコライザー設定のおかげで声がクッキリと聞こえる上、定位感も明確なため、その発声位置をすばやく認識できる。
もうひとつゲーム的に効果大なのは「Crystalizer」だ。この機能は各種効果音の“音の粒”をはっきりさせる効果があり、適度に設定すると足音、射撃音、リロード音、その他のゲーム的に重要な効果音が、その他の背景音からクッキリと独立して聞こえるようになる。これがオーディオの記号性を高めてくれて、ゲームプレイ中の状況把握に大きく役立つというわけだ。
特に「Battlefield 1」では「Crystalizer」の効果を強く感じられる。「BF1」では特徴的なHDRオーディオが実装されており、例えばすぐ近くで大きな爆発音がしていると、その音量レベルに合わせて音の“露出”が調整され、銃声や人の声といった小さめの音はより小さくなるという特徴がある。このため筆者が日頃使用しているナチュラルなスピーカーでは遠くからの銃声などを聞きこぼすことが多いのだが、「Sound BlasterX Katana」では遠くの音もハッキリ聞こえるのである。音の粒がしっかりしているだけでなく、小さな音素がより強く出力され、遠くの音がより近くにあるように聞こえるのだ。この効果による独特の距離感については少し慣れる必要があるが、近くであれ、遠くであれ、敵のアクションに素早く反応できるようになることは間違いない。
多彩な使用環境に対応する入力端子に加え、ヘッドセット利用でボイスチェンジも
PCとのUSB接続時に最大限の機能を引き出せる本製品だが、オーディオプロファイルの切り替えは本体側で行なえるため、PS4やXbox Oneのようなゲーム機をはじめ各種デバイスをオプティカル接続したり、Bluetoothやアナログ接続を利用するようなシチュエーションでもゲーミングや音楽・映画向けのオーディオエンハンスをしっかりと利用することができる。オーディオチャンネルは本体上部のボタンや付属リモコンで簡単に切り替え可能なので、多彩な機器を同時に使用することができる。
このため、PCからはUSBスピーカーとして利用しつつ、同時にゲーム機はオプティカル端子で接続し、スマートデバイスはBluetoothで、その他機器も接続したいならアナログ接続も平行して使用する、というスタイルがもっともオススメできる使い方になるだろう。
ゲーム機単体で利用する場合でも、先述したようにプリセットされたサウンド効果やライティング効果をスピーカー側で変更して活用することができるため、「PCがないので、USBオーディオはちょっと……」と考えていた人にもお勧めできるデバイスとなっている。なお、ドライバが対応していないため、PC以外のデバイスではUSB接続はできない点は留意しておきたい。
さらに本製品のヘッドセット用接続端子およびマイク入力端子にヘッドセットやマイクを接続することにもメリットがある。オーディオプロセッサーによるノイズキャンセラー機能が利用でき、よりクリアな音質を得られるほか、「Sound Blaster Connect」を通じて多彩なボイスチェンジャー機能も利用できるのだ。男声・女声・子供声といったものから、ロボットやモンスターといった多彩なボイスチェンジが可能な本機能を使えば、慣れないコミュニティでボイスチャットに参加するのも気が楽だ。
一部の高級ゲーミングヘッドセットには同様の機能を搭載した機種も存在するが、「Sound BlasterX Katana」ではスピーカーシステム自体がこのような機能を提供してくれるため、使用するヘッドセットを選ばないのが大きなメリットだ。
本製品はこのように、音声の出力から入力までゲーミングに必要な機能をオールインワンで備えた万能機だといえる。別途高機能なUSBオーディオを導入する必要もなく、これ1つで本格的なゲーミングオーディオ環境が成立するというのが最大の魅力と言えるだろう。
形状的にモニター前に据え置くスタイルとなるため、幅の狭いデスクやテレビ台の上といった場所への設置に最適である。そういった環境に対してコパクトながらパワフルなサウンドを提供するゲーミングオーディオシステムとして、面白い選択肢だ。