2016年12月12日 12:00
ちょうど11年前の2005年12月8日。“歓楽街を舞台にした大人向けのエンターテイメントを作る”という変わったコンセプトを持つゲームが発売された。
主人公、桐生一馬を取り巻く暴力と金の世界、人間ドラマ。夜の街で楽しめる大人なエンターテイメントの数々という、これまでのゲームにはないテイストを持つ「龍が如く」はヒット作となり、シリーズ作がこれまでナンバリング6作品、スピンオフ3作品、他にも外伝作品やリマスターなどが登場して世界を広げてきた。
そうして10周年も越えて、ついに登場する最新作。描かれる物語は長年ナンバリング作品の主人公だった「桐生一馬」の最終章となる。
セガゲームスより12月8日に発売されたプレイステーション 4用アクションアドベンチャー「龍が如く6 命の詩。」のゲームレビューをお伝えする。
シリーズで初めてのPS4専用タイトルであり、PS4用のゲーム制作エンジン「ドラゴンエンジン」を使ってゲーム全体のベースも一新した。そのモデルチェンジの一方で、物語としては「桐生一馬」の最終章を描くという本作。どんなゲームに仕上がっているかをお伝えしていこう。
歓楽街「神室町」と田舎町「尾道仁涯町」の2面性で描く、“桐生一馬伝説、最終章”
物語は、前作「龍が如く5」のラストシーンから始まっていく。アイドルになるという夢を叶えたが、それよりも大切な夢のために、突然の引退を宣言した遥。して桐生一馬は、その夢のために自ら服役の道を選び、身を洗う決意をする。
それから4年。刑務所を出所した桐生を待っていたのは、失踪して行方の知れない遥、大きく勢力図が変わった神室町。そして、遥が交通事故にあい、意識不明の重体だという知らせだった。
病院に駆けつけた桐生にはさらに衝撃が待っていた。あどけなく笑う赤ん坊。名前は「サワムラ ハルト」。桐生が家族として大切にしてきた遥の……子供。遥に一体何があったのか、ハルトの父親は誰なのか。少ない手がかりから桐生は広島「尾道仁涯町」へと向かう。ハルトを抱きかかえながら。
あまりにも衝撃的なことだらけのなかから始まっていく今作のストーリーだが、その先も非常に独特な展開を見せる。不意に泣き出す赤ん坊の子守りをしつつ、広島の尾道仁涯町というのどかな田舎町を歩く桐生の姿には、不思議な感覚に陥るファンの方も多いだろう。
「龍が如く0」で若かりし頃の桐生をみていると、なおのことそのギャップが効いてくる。筆者としても「あの桐生ちゃんがまさかこんなことをするようになるなんて……」と思わずにはいられないものがあった。だが、それがまた面白い。
一方で、神室町では中国系マフィア「祭汪会」と、桐生が去ったあとの「東城会」の熾烈な抗争が繰り広げられている。桐生はそれとは関わらずに父親探しをしていくのだが……。
今作の物語は、二転三転どころか四転五転……いや、七転八転するほど、複雑かつめまぐるしく展開していく。予想外な方向にも展開する、意外性と捻りが効いた物語だ。
また、物語に関わる勢力も多く、そこに登場するキャラクターもそのほとんどが新キャラクターとなっていて、作中の時代の変化や世代交代を感じさせる。カタギとして生きようとする桐生だが、積み重ねられたシリーズ、彼の過去はそれを許さない。
物語全体から感じられるのは“時代の流れ”であり、そして“現実的な生々しさ”だ。リアルなわけではなくエンターテイメントとして、むしろとんでもなくダイナミックだったりするのだが、作中で語られるキャラクターたちの心理描写や行動原理には現実的な生々しさがあった。リアルではなくエンタメだが、リアリティがそれを支えている。物語にはこれまでの作品とはまた質の異なるシビアさ、そしてえぐさも感じられる。これだけ大きなシリーズになってもなお、攻めに攻めている物語だ。
その根底に眠るテーマは、これまでの「龍が如く」シリーズにはなかった、非常に独特で、大きなものだ。それが何なのかはぜひプレイしてご自身なりの解釈を持ってもらいたい。それは多くを積み重ねてきた主人公、桐生一馬の物語だからこそ描けるもの、辿りつくもの。
本作の物語を受け止めたあとには、サブタイトルの「命の詩。」という言葉に様々な想いを抱くかもしれない。
出演キャストの豪華さも「龍が如く」シリーズの魅力だが、その魅力は今作が最高峰と言って良いだろう。
特にビートたけしさん、藤原竜也さん、宮迫博之さんらの演じるキャラクターが籍を置いている広島の組「広瀬一家」は、桐生が今作の物語で深く関わることになるため出番が非常に多いし、それぞれがものすごく魅力的なキャラクターとなっている。
その活躍のなかには「まさか、こんなことまで!?」と思わず驚かされるものもあり、まさに“ゲームだからできること、ゲームでしかできないこと”を存分に活かしている。まさに必見の内容だ。
ゲームプレイの手触りをみていくと、これまた大きな変化がある。初のPS4専用タイトルであり、制作にもPS4用ゲームの制作エンジンとして開発された「ドラゴンエンジン」を使って作り上げているというのは、冒頭に伝えたとおり。
このドラゴンエンジンで作られた神室町や尾道仁涯町は見事なクオリティだ。まず見た目の話をすれば、グラフィックスの高精細さや看板や街を歩く人などの物量といったところはシリーズ最高峰。
特に、夜の神室町の輝くネオンの光はまばゆさに目がくらむほど。より現実のイメージに近いきらびやかさを放っている。一方で田舎町の尾道仁涯町でも、陽の光がきらめく港町の美しい景色があり、夜には田舎町ならではの暗さの表現が目を引く。その闇のなかを電車が光を漏らしながら走っていく光景もまた、ノスタルジックな味わいのある光景だ。
だが、重要なのは見た目ではなく、プレイの手触りの変化だ。今作ではビルの中や屋上など、そのまま入れる箇所が圧倒的に増えていて、しかも読み込みや時間のかかる暗転切り替えがほとんどない。シームレスに行き来できるマップになった。
そこで変わるのが「ゲーム全体のテンポ」。これまでだとお店に入るときには短いながらもローディングや場面切り替えの暗転があったが、それもなくなって非常にスピーディーになっている。
食事を取るときでも、外から店内へと自然に歩いて入っていき、注文をして食べ、そしてそのまま外へと出て行ける。やっていること自体は今までのシリーズ同様でも、テンポが速いし操作する時間が常に続いているので、わずらわしさやプレイの流れを切ってしまうものがない。
そのテンポの良さは気軽にプレイスポットや食事のできるお店に立ち寄るという、ポジティブな気持ちも生んでくれる。これまでのシリーズ作以上に、ちょっと寄ってみよう、食べてみようという気持ちになりやすく、プレイ全体の楽しさが増している。
もうひとつシームレスになったことで大きな変化があるのが「バトル」だ。街のチンピラたちに絡まれてバトルになるのはシリーズ作同様だが、今作では、画面切り替え一切なしに、すぐにバトルへと入っていく。そして、バトルが終わるとそのまま切り替えなしに移動を再開できる。プレイを疲れさせてしまうような煩わしさがごっそり取り払われている。
バトルそのものも、今作ではベースから見直されたような新しい手触りがある。今作では主人公が桐生一馬に絞られているというところがあり、ここ数作での複数の主人公にいろいろなバトルスタイルが割り振られていた要素がない。そのぶん、桐生に集中して詰め込まれている。
それでいて、方向性としては原点回帰的な“バトルの手触りの見直し”が感じられる点も多い。一撃一撃のヒット感に適度な重量感があり、コンボからの溜め攻撃など、しっかり手応えを感じつつ放っていく気持ち良さがある。
その一方で、ヒートアクションの爽快感やダイナミックさはそのままの良さ。今作では地形を活かしたものも、前述のドラゴンエンジンによる一新によって実現していて、「えぇ、そんなことするの!?」と思わず笑ってしまうものも多い。
一定時間、さらに強力な技が放てる「アルティメットヒートモード」は、ケンカバトルの熱さを集約したような要素だ。敵の攻撃にひるまずボタン連打して殴りまくり、そのまま連打していくか、□>△>○とリズミカルに繰り出すかのどちらかに派生する。最初はリズミカルに繰り出す方に戸惑うかもしれないが、慣れると、ひたすら□ボタン連打しているところから、ポンポンポンとリズミカルに押していけばいいというのが掴めてくるはず。
高まったテンションをぶつけるような、手触り重視の熱い技になっている。
今作のバトルは、敵も味方もたくさん入り乱れる多人数対多人数のシチュエーションが豊富なのもポイント。敵の数がなにしろ多く、さすがの桐生でも周囲を囲まれてしまうと厳しいところが、現実的。そういう時には、相手を掴んでからの投げなど周囲を巻き込む技をしっかり活かすのがポイントで、慣れてくるとわらわらと群がる的を一気になぎ倒すのが気持ちよくなっていく。ダッシュからのドロップキックで大胆に突っ込んでみたりするのも気持ちいい。
一方、仲間と一緒に行動し一緒に戦えるというシチュエーションが多いのも嬉しいところ。共闘感があるのはやはり楽しいし、仲間と連携するヒートアクションも見所。積極的に狙いたくなる。
「龍が如く」の魅力として外せない「サブストーリーの面白さ」も、もちろん健在だ。ちょっとアレな時事ネタのパロディにもがっつり斬り込んでいく。
今作だと、神室町では最新の時事ネタを取り込んだ刺激的なサブストーリーがある一方で、尾道仁涯町では幽霊的なものだったり、夢を持って都会へと向かうもの、逆に都会からの出戻り、さらには怪しげなエピソードまで、その土地を活かした棲み分けがされている。
刺激的な歓楽街と、味わいのある田舎町の2面性を上手く活かしたものになっている。
歓楽街と田舎町の2面性を活かしているのは、プレイスポットも同様だ。都会的かつ大人なお店が並ぶ一方で、田舎町では「草野球」や「素潜り漁」など、歓楽街ではちょっとできないものが揃っている。
自分のチームというか組を作り上げていく「クランクリエイター」や、ネコカフェ経営など、これまでのシリーズとまたちょっと毛色の異なるスポットもあり、バラエティ感たっぷりの仕上がりだ。
描き続けた桐生一馬の物語。その生き様、たどり着いたもの。攻めの姿勢をし続けた渾身の一作
PS4専用タイトルとなってハードウェアのスペックを存分に活かしていると共に、ドラゴンエンジンによってマップも一新。「龍が如く」のプレイスポットや食事スポットなどのあらゆるものをストレスなしに楽しめるようになった。
“シリーズ作で最も快適に楽しめる「龍が如く」”と言える仕上がりで、グラフィックスのクオリティを引き上げるのとともに、プレイ体験や手触りを良くする方向性が感じられる。それが成功しているのが、プレーヤーにとってなにより嬉しいところだ。
そうした一新によってゲームプレイの魅力を増した一方で、本作は物語としては桐生一馬の最終章となる(あくまで桐生一馬という人物の最終章であり、シリーズの今後はまだわからない)。
その物語は11年での6作品のなかで、ゲーム中のキャラクターにも年齢を重ねさせつつ描き続けたからこその、奥深く味のある物語だ。若かりし頃から48歳となった今作までの桐生一馬の積み重ねがあってこそ、描けるもの、描くべきものと思えた。
このように書くと「おとなしい話なのかな?」と思う人もいるかもしれないが、それは誤解だ。かなりダイナミックに、激しく。それこそ賛否両論も恐れない姿勢を感じるほどに、攻めに攻めた内容となっている。
誰もが知る俳優陣の名演を、まさに“ゲームでしかできない”形で活かし、ゲームプレイでも大きな進化を見せ、ボリュームも充実しきった渾身の一作となっている。長年追い続けたファンの方は噛みしめるように、じっくりと味わって頂きたい。桐生一馬という男の生き様、たどり着いたものがここにある。
©SEGA