PCゲームレビュー「シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI」
シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI
2016年10月12日 11:16
総評:果たして「シヴィライゼーション」として面白いゲームになったのか!?
前述のとおり、本作は従来のシリーズに比べて、考えること、操作することが非常に多いゲームになっており、プレイに時間がかかる。「Civ4」や「Civ5」にあった占領地の傀儡都市化(自動管理化)というオプションがなくなり、全ての都市を自分で操作せねばなくなったというのもある。ついでに、労働者による改善の自動化オプションもなくなった(労働者は数回使うと消滅するため)。じっくりと長時間味わえると言えば聞こえはいいが、問題は、その時間が楽しく濃密な面白さに満ちているかどうかだ。
「Civ」シリーズの特に面白い面として、外交戦略の妙というものがある。例えば「Civ4」では多国間の技術交換をうまく活用して弱小国が一気に追いつくことが可能だったし、属国化等の外交オプションを駆使し、和戦両面で状況の突破口を開くことが可能だった。それがまた、現実的な地政学や歴史的な流れを象徴しているようで面白い部分だった。
本作にも外交要素はあるが、従来作に比べるとやや薄い印象がある。多国間の取引材料にできる項目は「Civ5」と変わらず、金銭・資源・都市・傑作など。他の要素もおよそ「Civ5」と同様で、ただし前作での重要要素だった研究協定は、前提技術が産業時代の「科学理論」となり、発動できるタイミングがかなり遅くなった。今回プレイした「王子」難易度ではこのタイミングで既に勝負が決まっているので活用できない。そもそも研究協定や同盟といった本作の数少ない外交オプションは、両国間でまず友好宣言をしないと発動できないが、プレーヤーが領土や科学力でトップを走っていると、ほぼ自動的にAIプレーヤーから嫌われる羽目になるので活用しようがない。より高い難易度では意味が出てくるかもしれないが。
それにしても、こちらに敵対的な文明が“どういう理由で敵対的なのか”を本作では知る方法がほぼないため、関係改善が難しいという面もある。「Civ5」では相手が苛立っている理由と、その影響ターン数などが表示されていたので対策も立てやすかったのだが。せめて戦争の実施による好戦性ペナルティがどの程度持続するかくらいは知りたい……(積極的防衛をしていたら全文明から好戦的と思われ続けて数千年)。
ちなみに今作で追加された各指導者のアジェンダに沿った行動をとると関係が改善されやすいという要素があるが、アジェンダは文明そのものの運営方針に関わるものが殆どで、地政学的・慣性的な理由で合わせられないことがほとんどだ。「同じ大陸に都市がある文明を好む」とか、「同じ宗教を信仰している文明を好む」とか、わりとどうしようもない。したがってここは変動要素というよりは、流れで好まれやすい/嫌われやすい文明が自動的に決まっていく感じだ。
また、外交アクションのひとつとして「議論」という項目が追加されている。例えば自国の近くに入植したり、宣教師で改宗させる、スパイ工作といった行為をやめるよう要請することができる。ルールとして事が起きた後にしか議論できないし、断れることも多い。たとえ承諾してくれたとしても守るかどうかは別問題なので、その効果は実際のところよくわからない。
他文明の動向を知る方法としては「ゴシップ」というシステムが追加された。これはその文明が行なった行為についてのニュースが飛び込んでくるという仕組みで、「アクセスレベル」を高めるほどに詳細な情報が得られるようになる。例えば最も低いアクセスレベルでは宣戦布告や都市占領といったマップレベルでの変化しか捉えられないが、最高のアクセスレベルになると、やっていることとやろうとしていることがほぼ全部筒抜けというレベルで知ることができるようになる。要素が増えたというよりは、前作におけるスパイの要素を一部再定義した形だ。
アクセスレベルを上げるには交易路を作る、大使館を作る、同盟する、スパイで情報収集する、一部偉人の能力を使うといった方法がとれる。基本的には直接役に立つ情報は少ないが、遺産の建設や宇宙プロジェクトの着手を知ることができれば、妨害行為に役立つ。ちなみに古代・古典時代に1番知りたい開拓者関連の情報を得るには非常に高いアクセスレベルが必要で、その時代にはまだスパイが生産できずアクセスレベルをあげにくいといったアンビバレンツがある。
また、本作では前作まで存在した国際連合等の国際会議のシステムが存在せず、したがって外交オプションがひとつ減り、外交勝利という勝利条件も存在しなくなっている。本作に存在する勝利条件は「科学(宇宙船を飛ばす)」、「文化(世界の多数の観光客を引きつける)」、「宗教(全文明で過半数の信者を獲得)」、「制覇(全文明の首都を占領)」の4つ。このうち、文化と宗教は各国の都市数や人口が大いに関係するので、軍事的に侵略して“自国民”にしてしまうのが実に効果的という塩梅。少なくとも「王子」難易度では、制覇勝利以外は趣味でやるもの、という感じになっている。果たして本作で非戦・小国プレイは可能なのか?
というわけで、今回プレイできた易しい難易度では本作のおもしろさを具体的に楽しむところまではいけなかった。どちらかというと操作量がやたら多くてゲームを進めるのが面倒だ、という印象だ。本作の真価は、国力が同等の文明がひしめき合い、ワンミスで滅亡への引き金を引いてしまうというようなピリピリとした状況が続くような難易度でないと、測りかねるようだ。
全体的に言うと、本作の各要素は、前作以前のシステムを置き換え、再定義して、より複雑化させたという傾向が強い。その点では、ゲームとして大事なシンプルさや適切な抽象度を欠いているということになり、筆者の個人的な好みとしては望ましくない方向に進んでしまったように感じる。「複雑なほどクール」というのは根本的に誤っている。本作のオリジナルクリエイターであるシド・マイヤー氏は、自身のゲームデザイン哲学として“意味のある、面白い選択肢が常に適切な数存在すること”ということを常に述べてきていたと記憶する。本作はその哲学から外れた部分が多い、というのが感想だ。特に「政策」の洪水にはめまいがする。一方で、本質的に新しい要素というのはあまりなく、特に外交関係は硬直化しやすくて、実際に取れる選択肢が少なすぎるように感じた。
また、ワンプレイに非常に時間がかかるゲームなので、マルチプレイゲームに挑戦する気力がわくプレーヤーがどれだけいるかにも不安が残る。多くの不安要素はあるが、前述したように、今回のプレイでは易しい「王子」難易度でしかさわれなかったせい、という部分も多い。高難度プレイも含め全ての要素が開放される製品バージョンではこのあたりの印象がガラリと変わるかもしれない、という点も付け加えておこう。