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【特別企画】シンラ・テクノロジーが目指す“スーパーコンピューターゲーミング”とは何か?

究極のクラウドゲームを実現する独自技術と、和田社長のビジョンを徹底解説!

シンラ・テクノロジー・インク 会社ロゴ
設立発表会に登壇した和田洋一氏らシンラ・テクノロジーの主要メンバー

 去る9月19日、スクウェア・エニックスの和田洋一氏が率いる新会社シンラ・テクノロジー・インク(Shinra Technologies, Inc.)の設立が発表された(
関連記事:和田洋一氏率いるクラウドゲーミング企業シンラ・テクノロジーが設立!

 社名は「ファイナルファンタジー VII」に登場した“神羅カンパニー”が由来ということで、ゲームファンの間ではそのネーミングが話題の中心になったようだ。“和田さんがプレジデント神羅になったぞ”と。

 それはそれで面白いのだが、シンラ・テクノロジーの本当に面白いのは、彼らが提供しようとしているサービスと、そのビジョンだ。設立発表会では、シンラ・テクノロジーは“クラウドゲームのプラットフォーマー”となることを宣言した。

 クラウドゲームといえば、OnLive、G-cluster、PlayStation Nowなどなど、2010年ごろから現在まで、様々な形態のサービスが登場してきている。それらでは、既存ゲームのクラウド版を様々な端末で、あるいは規定の端末で手軽に遊べることがウリになっている。

 シンラ・テクノロジーはその中のひとつになるのだろうか。いや、同社が独自の技術を開発してやろうとしていることは、既存のクラウドゲームサービスとは一線を画する、突き詰めればSFの世界に片足を突っ込むようなビジョンだ。

 今回、筆者は設立発表を終えたばかりのシンラ・テクノロジーへ取材を行ない、同社で技術担当シニア・バイス・プレジデントを務める岩崎哲史氏を中心に技術的バックグラウンドと実現可能なゲームコンテンツのビジョンを詳しく聞くことができた。そこから見えてきた、シンラ・テクノロジーが目指す驚くべき“スーパーコンピューターゲーミング”の将来像をご紹介しよう。

今回、単独取材に応えて頂いたシンラ・テクノロジー プレジデント 和田洋一氏(中央)、技術担当シニア・バイス・プレジデント 岩崎哲史氏(右)、ビジネス担当シニア・バイス・プレジデント ジェイコブ・ナボク氏(左)

そもそも“クラウドゲーム”とは何か?

クラウドゲームの代表格、OnLiveのPC用画面
最近ではゲーム以外の一般PCアプリをクラウドストリーミングで使えるサービスもある。仕組みは同じ

 現在のところ、クラウドゲーミングサービスとしてよく知られているのは2010年ごろから米国で展開しているPC向けのOnLive、2013年より国内サービスをスタートした専用端末向けのG-cluster(NTTぷらら/ブロードメディア)、8月に北米でβテストが開始されたPS4向けのPlayStation Nowなどが挙げられる。スクウェア・エニックスも、スマホ/タブレットで利用できるDIVE INというクラウドゲーミングサービスを準備中だ。

 これらクラウドゲーミングサービスについては、以前OnLiveを中心とした解説記事をお届けしている(関連記事:佐藤カフジの「PCゲーミング道場」:PCゲームの未来はクラウドゲーミングにあり!? )。サービスの形態やシステム、品質等は2011年当時から現在までほとんど変わっていない。

 上記それぞれのサービスで遊べるゲームタイトルは様々だが、仕組みは共通だ。ゲーム本体はクラウドサーバー上で動作しており、ゲーム画面はストリーミングビデオの形にエンコードされ、ユーザーの端末に表示される。ユーザーの端末からは操作情報をサーバーに送信することで、ゲームを進行させる。

 基本的な発想は、もともとストリーミングビデオが“ビデオ・オン・デマンド”などと呼ばれていた1990年代からあるもので、その歴史は意外と古い。にもかかわらず具体的なサービスの提供開始が近年に集中しているのは、クラウドゲーミングサービスが膨大なインターネット帯域を必要とするためだ。

 例えば北米で数年のサービス実績があるOnLiveでは、720p/60fpsのゲーム映像をユーザーに送信するため、5Mbps前後の下り帯域(サーバーからユーザー方向)を常時使用する。1,000人が同時プレイすれば5Gbpsだ。

 しかもこれは瞬間最大風速ではなくて、常時垂れ流しとなる帯域だ。事業者が負担する回線コストは非常に巨大なものになる。ただし、インターネット上の帯域は開闢以来ムーアの法則に似たペースで増大しており、サービスの品質が一定なら、回線コストは時を追う毎に低減する。OnLiveが始まった2010年以降、様々なクラウドゲーミングサービスが登場するようになった背景には、回線コストが現実的な範疇に入ってきた、という事情があるのだろう。

クラウドゲーミングサービスの仕組み。ゲーム本体はサーバーで動作し、端末は映像を受け取って表示する。ストリーミング映像を受信・表示できる環境があればどんな端末でも利用でき、ゲームの品質はサーバーの能力やビジネスモデル次第で、プラットフォームに依存しない

「NVIDIA GRID GPU」のイメージ

 ここ数年で事情が変わってきたものとしては、帯域コストのほかに、サーバーの性能がある。クラウドゲームではゲーム映像をサーバー側でリアルタイムエンコードする必要があるが、GPU内でレンダリングされるデータをCPU側に引っ張ってきて処理するのは効率が悪い。そこで、GPUとビデオエンコードエンジンをセットにしたサーバー向けハードウェアが2012年より相次いで登場してきている。

 代表的なのがNVIDIA GRID(関連記事:【GDC 2013】NVIDIAのゲーム機「Project SHIELD」を試遊してみた)と、AMD Radeon Sky(関連記事:【GTMF2013】コンソールを制覇したAMD、次の一手はクラウドゲーム)の2系統だ。

 それぞれベースにしているGPUは異なるが、やっていることは同じだ。GPU上にビデオエンコーダがハードウェア実装されており、レンダリングした映像をダイレクトに(メインメモリ等に転送することなく)リアルタイムエンコードするというものだ。レンダリングとエンコードがGPU側のオンダイで完結するため遅延が少なく、電力的に効率的で、ランニングコストも低減できる。

GPUエンコーディングの概要。フレームバッファからGPU内で直接エンコードするため遅延が少なく、ハードウェアエンコードであるため効率も高い。処理がGPU内で完結するためCPUに負荷をかけない

Amazon GameStreamによるハイブリッド型クラウドゲームのイメージ。画面奥の風景はクラウドサーバー側の生成で、手前の投石機まわりはクライアント側での描画となっている

 このようにサーバー側の技術が成熟してきたことに加えて、ユーザー側でも光ファイバーや4G/LTEの一般化が進み、環境を問わず充分な帯域を利用できるようになった。これを受けてスマホやタブレットといったモバイル環境向けにクラウドゲームを提供しようという動きも活発になってきており、クラウドサーバーソリューションを展開するAmazonではNVIDIA GRIDを採用して独自のハイブリッド型クラウドゲームシステムを構築している(関連記事:【GDC 2014】モバイル端末でハイエンドゲームをノーラグで実現?!)。

 ここまで例に上げたクラウドゲームの利点はおおよそ3つに分類できる。ゲームを実行するためにユーザー側の端末性能を使わないため幅広い端末で利用できる(可能性がある)こと、ゲームのインストールやセットアップといった面倒がユーザー側にないこと、オンデマンド方式であるため料金体系が柔軟に設定でき不正コピー/海賊版といった問題が無いこと。

 上記3つのメリットを合わせると、特定のハードウェアプラットフォームに縛られたコンソールゲームやPCゲームが抱える問題を一挙に解決することができる。特に事業者にとっては、サービス対象端末を何億台という単位で抱えることができるし、流通やアップデートの作業はサーバー側だけで完結。しかも不正利用は根絶となり、コストさえなんとかなれば非常に魅力的だ。少なくともコア層からライト層のユーザーに向けて、クラウドゲームが今後支配的になっていくことは時代の趨勢と言える。

 シンラ・テクノロジーの設立発表会に登場した同社プレジデントの和田洋一氏は、「クラウドゲームの市場は2016年頃、本格的に立ち上がる」との見込みを語った。だから今、クラウドゲームの会社を設立する。ただし、先行する他社が持っていない新技術を引っさげて……。

(佐藤カフジ)