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【GTMF2013】コンソールを制覇したAMD、次の一手はクラウドゲーム

低遅延・高品質を実現するサーバー向けGPU「Radeon Sky」とは何か?

7月23日開催

会場:秋葉原UDX

受講料:無料

 7月23日、秋葉原にて行なわれたミドルウェア業界のカンファレンス「Game Tools & Middleware Forum 2013」にて、日本AMDによるプレゼンテーションが行なわれた。

 この講演「AMD クラウド・ソリューション Radeon Sky」では、AMDによるクラウドゲーム向けサーバーGPUである「Radeon Sky」シリーズの紹介や、同社のクラウドゲーム時代に向けての戦略思想が語られた。

クラウドゲームの基盤技術となるべく登場する「Radeon Sky」

日本AMDの森本竜英氏
AMDが掲げる戦略における4つの柱
AMDの技術でクラウドゲーム全体をカバーできる
そこで「Radeon Sky」が登場

 PC向けGPU市場ではNVIDIAに苦戦を強いられているAMDだが、Wii Uを始めとする今世代のゲーム機や、プレイステーション 4、Xbox Oneといった次世代ゲーム機に軒並みRadeonベースのGPUが採用されるなどコンソールゲーム市場を総なめにし、独自のアドバンテージを確保している。

 その中で、本公演を行なった日本AMDの森本竜英氏は、AMDではRadeonの普及戦略としてPC、コンソール、コンテンツ、そしてクラウドに注力するという4つの柱を掲げていることを紹介した。

 中でも次世代への投資と位置づけられるクラウドゲーミングについては、今後数年のうちに最も急拡大する市場分野と見ている。そこにAMDのCPU・GPU技術をもってすればサーバーから端末まで高度なトータルソリューションを用意することが可能である、というのが「Radeon Sky」登場の背景だ。

 クラウドゲームはAMDが主張する通り、近年になり注目が高まっている分野だ。原理としてはサーバー上でゲームを実行、グラフィックスの描画とエンコードを行ない、クライアント側では表示・操作のみを行なうというもの。どのような端末でも高品質ゲームを遊べるメリットがあり、ゲーム市場を別次元の大きさに拡大するものと期待されている分野だ。

 その一方で、クラウドゲームの実現にはサーバーからゲーム映像を高品質・低遅延に送信する必要があることから安定的な高速通信環境が必要であり、実用化のため通信インフラの発達を待つ必要があった。デスクトップ環境には光回線、モバイルにはLTE/4Gといった高速回線が普及する今、ついにその時期がやってきたというのが多くの業者による観測といえよう。

 その原理上、クラウドゲームのテクノロジーは、ほぼイコールでサーバーのテクノロジーだ。快適なゲームを安価に提供するため、サーバーにはゲームグラフィックスを高速で生成できる能力、映像を低遅延でエンコードする能力が求められる。そこでGPUメーカーによるクラウドサーバー向けGPUの出番となる。

 特にエンコードにまつわる遅延に関してはクラウドサーバー向けGPUによる根本的な改善が得られる部分だ。「Radeon Sky」シリーズは“VCE”と呼ばれるエンコードエンジンが搭載されており、HD映像(1,280×720、30fps)を6ストリーム同時にリアルタイムエンコードできる。もちろんこれに対応してGPU側でも6つのゲームを同時実行できる。品質の調整によって同時実行数を増減させることも可能だ。

 しかもエンコードエンジンはGPUがレンダリングしたグラフィックスが格納されたフレームバッファに直接アクセスできるオンダイ実装のため、いったんメインメモリに転送する必要のあるCPUエンコーディングに比べてエンコード遅延が劇的に低下する。

 AMDでは、このエンコードエンジン、フレームバッファへの直接アクセス機能(FrameGrab)、そして最新のRadeonシリーズのプロセッサーアーキテクチャであるGCN等をまとめて、「RapidFire Technology」と称する。「Radeon Sky」シリーズはRapidFire Technologyを備える始めてのサーバー向けGPUとなるわけだ。

「Radeon Sky」が提供するRapid Fire Technology。レンダリングとエンコードがオンダイで完結する技術を軸に、低遅延・効率的なクラウドゲームを実現するための技術総称となっている

エンタープライズ品質+コンシューマレベルの価格で普及を狙う

「Radeon Sky」シリーズは3製品を用意
今年6月から出荷開始、3年のライフサイクルを予定
サポートOSは多岐にわたる。Ubuntuもカバーされており安価なサーバーが実現できそう
AMDと協業するクラウドゲーム事業者

 ハードウェア的には、「Radeon Sky」シリーズは最新デスクトップ向けGPUであるRadeon 7000シリーズのハイエンド品をベースとするサーバー向けのビデオカードだ。最上位の「Radeon Sky 900」はTahitiコアのデュアル実装、「Radeon Sky 700」はTahitiシングルコア、「Radeon Sky 500」はPitcairnコアのシングル実装となる。実装メモリはそれぞれDDR5 6GB/6GB/4GBと、サーバー向けとあって余裕の容量だ。

 従来、Radeonベースのサーバーおよびエンタープライズ向けのGPU製品としては「FirePro」シリーズが存在したが、今回のクラウドゲーム向け製品がRadeonの名を冠することについては「Radeonなみの価格帯で提供する」ということにあるという。それでいながら、各ベンダーによる自由なボード設計が許されるRadeonシリーズとは異なり、「Radeon Sky」ではAMD自身のボード生産、品質管理が行なわれ、「FirePro」シリーズと同様のエンタープライズ品質が提供される。

 NVIDIAが展開し始めているクラウドサーバーの技術「GRID」に対するアドバンテージとして森本氏は、「全コンソールゲーム機と同じアーキテクチャ、同じハードウェア、同じドライバである」ことを筆頭に挙げた。つまり開発者にとって、ゲーム機向けの作品を「Radeon Sky」に持ち込むことが非常に容易であるだけでなく、最適化も簡単で、より品質を高めやすいということになる。

 実際、Radeon搭載のPC上で動作するゲームであれば、何もせずに「Radeon Sky」サーバーでそのまま動作してしまうという。

 実際の遅延がどのくらいになるかについては、森本氏によれば「同一ネットワーク上にサーバーがある環境では普通のゲームと違いが全くわからないほど」と語っている。具体的な数値は明かされなかったが、仕組み上「GRID」と同等レベルのものが提供されると考えて良いだろう。

 あとはこれをどう普及させていくかという点だが、現在AMDでは複数のクラウドゲーム事業者とのコラボレーションを進めているとのことだ。その中には、6月21日に国内のゲームサービス「G-cluster」をスタートさせたG-cluster Globalの名前も入っている。

 とはいえ現在のところは「Radeon Sky」を採用した実際のサービス例はなく、各社ともに検証を進めている段階にとどまっているようだ。「Radeon Sky」シリーズは今年6月に出荷可能状態となっているため、採用を決める事業者が現れればそう長い時間を置かずに実際のサービスを見ることができそうではある。

 いずれにしても、NVIDIAの「GRID」と同様に優れたハードウェアの準備は整いつつある。あとはクラウドゲームの事業者たちがどれほどの投資意欲を持つか。そのためには既存サービスを超える品質に意味を持たせられるタイトルの登場や、クラウドゲームに対する市場ニーズの高まりが求められる。何かが動き出すタイミングとしては、次世代コンソールが出揃う今年末がひとつの目安となるに違いない。

(佐藤カフジ)