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【GDC 2014】モバイル端末でハイエンドゲームをノーラグで実現?!

Amazonの新クラウドゲーミングシステムはモバイルとクラウドのいいとこ取りだった

3月17日~3月21日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

Amazon App Stream。クラウドゲーミングシステムなのだが、何か違う

 GDC 2014チュートリアルデイにおけるスポンサードトラックのひとつ、Amazon Dev Dayにて新しいクラウドゲーミングシステム「AppStream」の詳細が披露された。

 クラウドゲーミングといえば、クラウドサーバーでゲームグラフィックスをレンダリングして、クライアントがその映像を受け取りゲームをプレイするという方式のことで、端末の性能によらずハイエンドなゲームが遊べる、という特性がウリ。昨年はNVIDIAのGRIDやAMDのRapid Fireなどクラウド向けに最適化されたサーバーハードウェアが登場したものの、具体的なサービスが出てこないのがゲーマーにとっての懸念点だった。

 そこにきてひょっこりと顔を出したのがAmazonである。Amazonはウェブサービスや各種オンラインゲームサービスの構築に使えるクラウドサーバーシステムAmazon Web Servicesを精力的に拡張しており、今回発表されたAppStreamではNVIDIAのGRIDを採用、高品質なクラウドゲーミングシステムを全てのゲームデベロッパー向けに提供開始する。

 しかもこれはただのクラウドゲーミングにあらず。モバイル端末「Kindle Fire」シリーズを展開するAmazonらしいアプローチで、ハードを超えた“ハイブリッドなゲーム”を作れる仕組みとなっているのだ。その詳細を見てみよう。

AppStreamで実現するいいとこ取りの“ハイブリッドクライアント”

NVIDIA GRID K520を採用。次世代機並のゲームが実行可能に
モバイル端末でもハイエンドゲームをプレイ
通信プロトコルも専用のものを用意し最適化

 Amazon AppStreamは、昨年秋からのクローズテストを経て、このGDCに合わせて全デベロッパーに解放される新しいクラウドゲーミングシステムだ。各デベロッパーはこのシステムを使って、独自のゲームタイトルをEC2サーバー上で稼働させ、様々なクライアントデバイスに展開できる。

 ウリは低遅延と高品質。これに貢献しているのは、ひとつはサーバーサイドにNVIDIAのクラウドゲーミングサーバー向けGPU GRID K520を採用したこと。これはデスクトップ向けで言えばGeForce GTX 770が2個くっついたようなGPUで、高速にレンダリングできるだけでなく、フレームバッファを直接エンコードして送出できるため非常に低遅延のレスポンスが実現されるハードだ。

 これだけでなく、AmazonではAppStreamのために新しい通信プロトコルを設計。その名も「STX Protocol」。STreaming eXperienceの略称というストレートな名前だが、H.264の映像データをUDPで伝送、ユーザーのコントロール情報をTCPで伝送し、ネットワークの状況に応じて適応的な帯域コントロールを行えるという仕組みで、低遅延と高品質を両立させる設計の模様。

 しかもインフラとしてもAmazonが各地に用意したデータセンターを利用できるため、Amazon Web Servicesと同様に各地で高品質の通信環境が確保される、というのが彼らの主張だ。確かにこれまでもEC2サーバーで各種のゲームサーバーを立ててリアルタイムゲームを遊んでいる人も多く、実績は十分。ついでにサーバー側にはもれなくAmazon Web Servicesの各種サーバーサイドシステムがついてくるため、Webサービスとの連動なども大得意。

 対応デバイスは無制限だ。サーバー側はWindows 8サーバー版のみとなるが、クライアント側はWindowsでも、Macでも、Linuxでも、Androidでも、iOSでもなんでも好きなものが使える。まあ、これはクラウドゲーミングサービスとしては当然。ただ、その先があるのが面白い。

端末の種類を選ばず、ハードの制限もなく、操作性が良くて、リッチなゲームが提供できるという夢の様な本当の話
ハイブリッドクライアントのイメージ
クライアントからは操作情報を、サーバーからは映像とゲーム内の状況データを受け取れる仕組み

 というのも、AppStreamではSDKを通して、これまでにないスタイルのゲームが開発可能なのだ。クライアント側ではクラウドサーバーから送られてくる映像を受け取ってただ表示するだけでなく、部分的な使用もできるのがポイント。つまり、一部はクライアント側で処理し、一部はクラウド側で処理するというハイブリッド設計ができるのだ。

 そうすると、プレーヤーの入力に直結する部分はクライアントで先行描画することができるので、ローカル実行されているゲームと同様のレスポンスが得られるわけ。それでいて、プレイの結果としての映像はクラウドサーバーでレンダリングされたものが利用できるので、性能の低いモバイル端末上でも次世代マシンなみのグラフィックスを楽しめる。

 Amazonではこれを「Hybrid Client」と呼んでいる。そのサンプルとしてデモされたゲームでは、端末側で投石機のインターフェイスを描画し、敵が迫ってくる遠景をクラウドから表示するという仕組みを見ることができた。サーバー側では非常に高品質なグラフィックスを描画しているほか、大量の敵キャラクターのAIも処理。モバイル端末単体では到底実現不可能なゲームが、AppStreamを通じてさっくりと動いているというわけである。

【「AppStream デモゲーム」PV】

サーバー側ではゲームフィールドを描画
クライアント側ではUI要素と操作に関連する3Dグラフィックスをローカルで描画
サーバーでは映像を描くだけなく、高度なAIなど、様々な重いタスクを処理できる。本作では2,500体のNPCを制御

 動画をみていただければわかるとおり、これは面白い。高いレスポンスと贅沢な映像美を両立する、コロンブスの卵的な名案だ。やりようによっては、超大規模なマルチプレイゲームなど、従来の技術ではハイエンドPCでも到底無理だったようなゲームを実現するためにも使えるかもしれない。

 何しろ、クライアントが受け取るデータは、映像と、ゲーム状態を示す多少のデータのみ。相手プレーヤーが何千人いても各端末の通信量を増やさずに済むため、サーバーサイドの処理が間に合う限りはいくらでもスケールできる。その中で自分のキャラクターだけは先行表示する仕組みを入れ込めば、良好なレスポンスも両立できるので、リアルタイム性の高いゲームにも応用できそうだ。

 というわけで夢がいっぱいのAppStream。本やCDの通販からスタートした企業がいまや最先端のゲームシステムを提案しているわけである。ゲーム開発者も斜め上の発想で応えて、おもしろいコンテンツがたくさんでてくることを期待したい。

(佐藤カフジ)