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シンラ、“スーパーコンピューターゲーミング”最新デモがスゴすぎる!

βテストの手応えは如何に? シンラ・テクノロジーの最新情報をレポート

3月2日~6日開催(現地時間)



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 シンラ・テクノロジーは、GDC 2015開催中の3月5日、クラウドゲーミングプラットフォーム「シンラ・クラウドゲーム」の最新技術デモをサンフランシスコ市内で披露し、同社が実現を目指す“スーパーコンピューターゲーミング”の世界を欧米のゲーム開発者にアピールした。

 シンラ・テクノロジーが開発しているクラウドゲームのシステムは、昨年の記事「シンラ・テクノロジーが目指す“スーパーコンピューターゲーミング”とは何か?」にて詳しくお伝えしたとおり、スーパーコンピューター並のサーバーで新しいゲーム体験を創りだそうというもの。既存のゲームをクラウド化することに主眼を置いた他のクラウドゲーミングサービスとは一線を画するものだ。

 本稿ではこのGDC 2015のタイミングで新たに明らかになったことを中心に、シンラ・テクノロジーの“今”をレポートしよう。

遅延目標値は90ms。好感触を得た国内のテクニカルβテスト

シンラ・テクノロジー、技術担当シニア・バイス・プレジデント岩崎哲史氏(2014年10月撮影)。今回はメールを通じて最新状況を伝えていただいた

 本レポートに先立ち、日本国内では2月17日よりテクニカルβテストが実施されている。シンラ・テクノロジーの技術担当シニア・バイス・プレジデントの岩崎哲史氏によれば、この数週間で検証に十分なデータが集まり、システムのパフォーマンスの上限に余裕があることもわかったという。テストの手応えはかなり良好であるようだ。

 また岩崎氏によれば、現在のところは入力→表示までの遅延を90ms以下に抑えることをもっぱらの目標にチューニングを続けているという。この90msという数字は30fps動作の家庭用ゲームにおける標準的な遅延の上限に相当する。βテストに先立って行なわれたαテストでのアンケート結果においても、サービス品質の評価の良し悪しに変化が見られるしきい値が90msであったそうだだ。

 90msといえば、つい先日発表されたNVIDIAのクラウドゲーミングサービス「NVIDIA GRID GAME-STREAMING SERVICE」で目標値とされている150msを大きく下回る、野心的な目標値である。とはいえNTTの次世代ネットワーク(NGN)上で提供されている今回のテクニカルβでは十分な割合のユーザーがこの条件をクリアできており、快適なクラウドゲーム体験を提供できているとのことだ。

 ちなみにNGNというのは、動画・音声のストリーミングや、その他のマルチメディアサービスを円滑化するために様々な面が改良されたネットワークのこと。国内ではNTTグループが「フレッツ光ネクスト」のIPv6専用サービスとして展開している。今回国内で実施されているβテストではシンラのサーバーとユーザーの端末がこのNGN内で完結する形となっており、これが日本国内において最もクラウドゲームの品質が高まる方法だと岩崎氏は説明している。

 その上で岩崎氏からは「品質面において決して満足せず、少しでも改善をすすめていく」とのコメントを頂いた。フレームレートが微妙に上下動するといったマイナーな問題にも取り組んでいるということで、今後の開発は細かいチューニングが中心になってくという。このように「シンラ・クラウドゲーム」における基本システムの完成度は既にかなりの水準まで高まっているようである。

最新デモで見えてきた“スーパーコンピューターゲーミング”の凄さ

サンフランシスコ市内のホテルで開催された技術デモと説明会
32×32kmの空間をオンメモリで処理する「The Living World」デモ
1つのゲーム機に複数のコントローラをつなぐのと同じノリで、クラウド越しに64人が参加できる

 そして今回、GDCの開催に合わせて披露された新バージョンの技術デモも大きな進化を遂げていた。その主眼となっているのは、強力なサーバー上で実行される巨大なゲーム世界に、複数ユーザーが参加する方式のクラウドゲーム。以前の記事でもご紹介した「The Living World」技術デモなのだが、それが更に凄いことになっていたのだ。

 「The Living World」はシンラ・システムの“スーパーコンピューターゲーミング”の側面をアピールするために開発中の技術デモだ。32km×32kmという巨大な土地に、100万本の樹木が生える広大な世界。これを完全にオンメモリー(100GB以上!)で処理しており、同時に複数のユーザーの接続も可能という、まさに家庭用ゲーム機やPCでは絶対に実現不可能な規模のゲームワールドを実現したシステムになっている。

 昨年披露されたバージョンでは、その世界で数千万の物理オブジェクトをリアルタイム処理していたが、今回新たに披露された最新版ではそのパワーをもっとビジュアルな表現に活用。32×32kmのシームレスな世界に64のクライアントが接続した上で、リアルタイムの地形変化や、水流のシミュレーションを空前の規模で実現しているのだ。

 数字や能書きを垂れるよりも、まずは動画を見ていただくのが良いだろう。

【The Living World - 水シミュレーション】
4プレーヤーの画面を抜き出した映像。皆ひとつの世界にいる
山の上に集まったキャラたちが謎の水を放出。流れが集まって滝のようになる
地面の形に合わせてリアルに流れる水の動き。非常に負荷の高い処理だ
サーバーの構成。ゲーム処理とレンダリングを分散している

 上記の動画は、今回披露されたデモのうち、水の動きをシミュレーションしている部分を抜き出したものだ。

 「The Living World」では水面だけでも8,192×8,192ものスプラットマップを使用してマップ全体をカバーしている。デモに使用されたサーバーではこれを16コア32スレッドのCPUと、物理シム専用に設定されたGeForce GTX TITAN BLACKのGPGPUでリアルタイム処理。地面の隆起に伴う水面の盛り上がりや、同心円上に広がっていく巨大な波といった大規模な水面のシミュレーションを実現している。

 水の動きは単に表面が波打つだけのようなものではなくて、斜面にそって流れ落ちていったり、複数の流れが合流して大きな流れになったり、はたまた窪地に溜まった水がその場に取り残されたりと、かなり真面目なシミュレーションになっている。大量のパーティクルを使った高度な処理をしていることは間違いない。

 このシステムではさらに、AI処理つきの16,000体のNPCキャラクターをリアルタイムで動かしているなど、何もかもが目眩がするような規模だ。このシステムなら、大半のオンラインマルチプレーヤーゲームがさらに規模や表現を拡大した上で実装できそうだ。

 たとえば、MMOゾンビサバイバルゲームという野心的な仕様を実現しようとしている「H1Z1」のようなゲームでは、サーバー上で数万体のゾンビの群れやプレーヤー端末への同期といった処理が必要となるが、そういった処理はまさにこのシンラ・システムの得意とするところ。またクラウドゲームとしての原理上、同期ずれやパケット工作によるチートといった問題も絶対に起こらない。

 これだけの処理を軽々とこなせるのは、ゲーム世界を実行しているマシンと、クライアント側に表示する映像を作り出すレンダリングマシンが物理的に別のものになっており、それぞれのマシンが得意な処理に集中できるサーバーシステムを構築しているためだ。

 今回披露されたデモにおいては、16コア32スレッドのCPU+GeForce TITAN BLACKを搭載したゲームマシンで世界を処理し、GeForce GTX 980を4枚搭載したレンダリング専用マシンで64人分の映像を作り出し、端末に送出している。GeForce GTX 980を1枚で16人分のレンダリングをしている計算になるが、映像の品質はかなり高い。非常に高度な最適化が行なわれていることは間違いなさそうだ。

 こうしてシンラ・テクノロジーが目指す“スーパーコンピューターゲーミング”の具体的な姿が見え始めた。この日終日繰り返し行なわれた技術デモには多くのゲーム開発者が訪れており、これらの技術デモを興味深く受け止めていたようだ。世界の中でもユニークなシンラ・テクノロジーの哲学は、いよいよ欧米のゲーム業界にも浸透を始めている。

今回の目玉となった水シミュレーションは既存のゲームのように範囲を区切っておらず、広大なマップ全体を同時にカバーできるように作られている

【スペーススウィーパー】
フリーランスゲームクリエイターの中嶋謙互氏がシンラ・システム用に開発中のMOシューティングゲーム「スペーススウィーパー」の最新版も披露されていた。常時8,000以上のオブジェクトが飛び交うという世界で、完全に同期したオンラインマルチプレイが楽しめることを実証するものだ。

(佐藤カフジ)