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【ホビー特別企画】ミニ四駆、小さなボディに込められた技術と理論

パーツの善し悪しが如実に走りに反映される“史上最小のモータースポーツ”に密着

【エアロ マンタレイ(ARシャーシ)】

2013年3月2日発売

価格:945円

 GAME Watchの読者にご好評いただいているホビー記事だが、今回は「特別企画」として「ミニ四駆」を取り上げたい。いきなりぶっちゃけてしまうが、筆者・勝田哲也はミニ四駆をやったことがない。というのもミニ四駆の第1次ブームが40過ぎの筆者の世代より後に来ていて、僕らの世代は“ラジコン”だったからだ。きっかけは、タミヤ主催の「ミニ四駆メディア対抗レース」だった。レースというのも参加するのははじめてだったが、ミニ四駆はドライビングテクニックや、反射神経も必要がない。だったらできないことはないだろう、やってやろうじゃないか、と思ったのである。

 ミニ四駆に関しては、以前はそれほど興味はなかったが、はじめて取材した「ミニ四駆全日本選手権“ジャパンカップ2012”東京大会」では、とても多くの人がミニ四駆というホビーを楽しんでいるのがわかったし、彼らの“理論”が面白かったので、何かの機会があればぜひやってみたい、という気持ちが芽生えていた。

 彼らは絶壁のような下り坂「ナイアガラスロープ」を攻略するのに、実際に車を持ち上げて同じ高さから落とし、衝撃をどう分散するか研究した上でレースに臨んでいる。蝶番と重りを組み合わせた“ダンパー”を車体に取り付け着地と同時に車体を床に押しつけるようにしたり、車の前に樹脂を張りダウンフォースで車体前方が下がった時、床とこすれて減速する“ブレーキ”まであり、感心した。「よくわからないけど奥が深い世界」として取材していて楽しかった。

 “改造”という響きにも強く惹かれた。例えば自作PCの改造は機能を増やすだけではなく、メモリを足すとか、良いビデオカードを積んでパワーアップするのが楽しい。それと同じだ。ガンプラなどのロボットのプラモデルでは、色々なパーツをつけて自分なりのMSを追求するのもいい。改造は自分だけのマシンを作り出すロマンたっぷりな世界だ。パーツの交換・追加が直接走りに繋がるというミニ四駆で、この機会に「自分のミニ四駆マシン」を持ってみたかったのだ。

 そして実際にやってみると、その“小ささ”の中に込められたこれまでのタミヤの研究がもたらす進化、パーツに込められた理論と、それがダイレクトに走りに影響する面白さを感じることができた。子供はもちろん、大人が本気になって楽しめるホビーであることも実感できた。子供の時に少しだけミニ四駆をやった、という人も読んでもらいたい。筆者は入り口に立っただけだが、奥深い世界の一端を感じてもらえると思う。

ミニ四駆に挑む! 様々なパーツを交換する“改造”の楽しさ

今回ベースとなった「エアロ マンタレイ (ARシャーシ)」。マシンを路面に押しつけるウイングや、パーツを冷やすことを考えた設計もなされている
「タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店」地下のミニ四駆コーナー。様々なパーツがある
シャーシは拡張性・メンテナンス性を考えてあり、ミニ四駆の技術の蓄積、進化を実感させられる
この日のコースはアップダウンも少なく難易度も低かったのだが、それでも飛び出してしまった

 今回、ベースとしたキットは「エアロ マンタレイ (ARシャーシ)」。3月2日に発売されたばかりの最新ミニ四駆だ。マンタレイとは「オニイトマキエイ」のこと。ミニ四駆はモーターや電池シャフトやギアなど走行機構を一体化した「シャーシ」と、その上にかぶせる様々なデザインの「ボディ」にわかれる。「エアロ マンタレイ (ARシャーシ)」はその名の通りエイのようななめらかな曲線を持ったボディとなっている。大きなウィングと、エアロインテイクが目を引く。このエアロインテイクは走行中モーター部分に風を送り込み、冷却効果をもたらす。

 土台となるシャーシは「ARシャーシ」。底面にスジ彫りがしてあって空気抵抗を考えているのがわかる。モーター部分だけ取り外せたり、ギアボックスや前のシャフト部分にもハッチが用意されていたりと、メンテナンス性に優れている。部品は必要最低限に抑えられており、かなり技術的に練り込まれている。使われているプラスチック素材もかなり耐久力を感じさせるもので、実際に作ってみると、手のひらサイズのマシンに様々な技術が込められているのが実感できるのだ。

 組み立てそのものは簡単だが、いつものプラモデル以上に丁寧に作った。部品を支えるランナーから切り離す時くっつく“バリ”を丁寧に取る。ねじ止めはしっかり隙間や部品の緩みがなく固定する。なんといっても、「速く走るマシン」なのだ。部品のバリや取り付け時の緩みがあれば、走りにどのような影響を及ぼすかわからない。組み終えてみるとそれなりの達成感を感じたが、レースに出るような人達のマシンと比べるとやはり物足りない。色々なパーツがつき、ノーマルではないモーターを積んでこそ「本物のミニ四駆」じゃないのか?

 改造の仕方をネットで調べるとモーターやギアの交換が“改造の最も初歩的な方法”のようだ。この時点では正直、軽く考えていたのだ。ちょっと改造の入り口に立ってみればいいだろう。モーターを現在ついているものよりちょっとだけいいものをつけ、いくつか最低限のパーツをつけるという手軽な改造をすればいい。そう思っていたのだ。しかし、部品を買っても走らせなくては意味がない。部品を買って、テスト走行をしたい。最適な場所がメディア対抗レースの行なわれる「タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店」である。

 タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店は2階に特設会場があり、普段はミニ四駆のコースが設置されている。そして地下1階はミニ四駆やラジコンの多彩なパーツが販売されており、店員に相談することができるのだ。僕はこのお店に行き、改造とコースを走らせてみることにした。ちなみに、コースを使用するためには、お店で3,000円以上購入することでもらえる「モデラーズスクエア パスポート」か、当日のみの場合は1,000円以上購入のレシートが必要となる。

 僕が求めた改造は“バランス重視のパワーアップ”である。きちんと完走することを目指したいと思った。ジャパンカップ2012で、ミニ四駆はとにかくコースアウトが多いというイメージを持っていた。安定性をぎりぎりまで削ってスピードを求める人達が多かったのである。僕はスピードを求めるよりも、きちんと完走する車を作りたかった。

 地下1階のミニ四駆のコーナーには様々なパーツが目移りするほど並んでいる。ここで僕は店員に話を聞きながら、パーツを選んでいった。まずはモーターだ。「アトミックチューンモーター」や「ハイパーダッシュ2モーター」など、なんだかすごい名前のモーターが並んでいる。モーターにはスピード重視のものとパワー重視のものがあり、パワー重視のものは加速が良いが最高速で劣る。“安定性”ということでトルク重視にしようかと思ったが、“扱いやすい”ということでちょうど中間くらいに位置するという「ライトダッシュモーター」にしてみた。

 これとギアの組み合わせで速度が変わる。ギアは初心者向けには速度重視と、トルク重視と、中間型がある。中間型の「ハイスピードEXカウンターギア」を買った。結果として、最初は低速度安定型にしようと思ったのだが、中速度の中間型という組み合わせになった。この時はほんとうに知識がないまま買った。結果としてこの時の選択が、ミニ四駆の改造にこだわっていくことになる。

 そして「改造」のスタート地点として欠かせないのが「ファーストトライパーツセット」だ。これはミニ四駆のベースである“シャーシ”の前後に取り付けるもので、このパーツをつけることで、シャーシをコースの衝撃から保護し、さらに“ローラー”の基部となる。ローラーは車体の前後左右につけることでよりスムーズにコースを進むことが可能になる。ファーストトライパーツセットについているローラーはプラスチックのものだったが、他にも重りがついており、いかにも走行が安定しそうだ。

 さらに「ベアリング」を買った。ベアリングは工業製品にも多用されている部品で、“軸受”とも呼ばれる。二重の金属の輪の間に金属の玉が入っているため、内側の輪がスムーズに回転する。ラジコンをやっている時、小さいのにやたらと高いこのパーツはあこがれだった。ミニ四駆ではさらに小さいベアリングを取り付けることができる。これらを買ってコース脇の作業コーナーで組み立てていった。

 これらのパーツを取り付けてみる「エアロ マンタレイ (ARシャーシ)」のARシャーシはモーターを車体後部に積んでいるタイプなのだが、その拡張のしやすさは驚いた。モーター部分やギア部分などはふたが簡単に外れ、パーツを交換しやすい。車体に刻まれている溝は空気抵抗を考えているのがわかる。

 今回ミニ四駆に触れるのも、改造するのもはじめてなのだが、キットを組み改造を行なうことで、ミニ四駆というホビーの“進化”を実感させられた。バンダイのガンプラは可動部分の素材の選択や、関節などの処理に進化が感じられたが、タミヤのミニ四駆も様々な試行錯誤を行なって、極限までパーツ数を削って組みやすく、頑強になっていながら、拡張とメンテナンスをしやすいものにしている。小さなマシンにあらん限りの技術が投入されていることがわかった。

 もう1つ感じたことはお手頃な価格だ。ファーストトライパーツセットが803円、モーターが339円、ベアリングが606円、ギアセットが285円。2,000円程度で、ノーマルのミニ四駆が立派な改造マシンに生まれ変わったのだ。全部一気にとなるとそれなりの値段になっても、パーツの1つ1つは子供のお小遣いで十分買える。この価格設定もミニ四駆の大きな魅力だろう。僕のマシンは、基幹パーツを交換したことに加え、4つのベアリングを装備している。手でタイヤを回すと軸受けにプラスチックをつけていた時と回転が段違いで、かなり速く走ってくれそうだ。

 立派な改造マシンが完成したことで、気分は大きく盛り上がった。色々なところで感心しながら組み上げた僕のミニ四駆には、強い愛着を感じた。どんな走りを見せてくれるのか……。しかし、コースに置いた瞬間、ミニ四駆はすぐにコースアウトしてしまった。何回か走らせてみたが、1周すらできずに必ずコースアウトしてしまう。モーターのパワーが強すぎて、コースを飛び出していってしまうのだ。安定重視のパーツを選択したと思ったのに、どうしてなんだ……。これが僕にとっての苦いミニ四駆デビューとなった。

 考えてみれば当たり前なのである。モーターを代え、車軸受けを交換した僕のマシンは、ノーマルのミニ四駆とはパワーにおいて別次元の存在なのだ。一部を交換してしまえば、それに見合うパーツが必要となる。ならばこのパワーに見合うパーツを揃えてやろうじゃないか! 気合いを入れて、僕はショップに向かった。

ノーマルな状態からパーツを購入、組み込んでみた
様々なパーツが販売されている。どれを選ぶかで走りは大きく変わってくる

(勝田哲也)