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【ホビー特別企画】ミニ四駆、小さなボディに込められた技術と理論

“安定性”の壁。強化したパワーをいかにスムーズな走りに変えるか

“安定性”の壁。強化したパワーをいかにスムーズな走りに変えるか

前後のローラーを交換。タイヤも替えた。「俺のマシン」という思い入れが強くなる

 さて、気合いを入れたはいいが、どこをどう直せばコースアウトせず高速で走れるようになるのかさっぱりわからない。そこで丸投げというのが情けないが、店員に相談してみた。提案としては「ローラーをきちんと金属のものにするべきではないか」ということだった。確かに、大会に出すような人達のマシンの多くは、今僕が使っているようなプラスチックのローラーは使っていない。金属の軸にベアリングを入れたパーツならば、安定性が増すという。また、大型のベアリングをつけるとグッと“本物”っぽくなる。

 後ろのローラーももっと本格的なものにしなければならない。後ろは左右2つずつ、計4つのローラーが必要となるのだ。これらのローラーは「ファーストトライパーツセット」で拡張した部分に取り付ける。ファーストトライパーツセットはシャーシの前後に強化プラスチックの板を取り付け、この板が様々なパーツのプラットフォームになる。まだまだ拡張はできそうだ。

 さらにタイヤも前を細いタイヤにしてみた。こうするとさらに安定性も増すらしい。組み込み作業はコース周辺の作業台で行なう。この日は休日と言うこともあり、コースにも作業台にもたくさんの人がいた。周りの人達は、ある人達は仲間と話し合いながら、ある人は1人で黙々と自分のミニ四駆を調整し、コースを走らせ自分のマシンの走る姿を一生懸命観察している。そうした人達を見ながら、僕の中で納得するものがあった。今僕が直面しているのは「スタート地点の壁」なのだ。

 まず、きちんとした走る車を作り、それからコースに合わせたセッティングを行なっていく。基幹パーツの変更で変わったバランスをその他のパーツで補強し、そこからさらに部品を買いたし、その上で色々工夫してより速いマシンを作っていくのではないか。1つ、2つのパーツでミニ四駆は強くならない。全身にパーツを装着し、バランスを取った後、さらにパーツの取捨選択して、調整を行なっていく。

 ツールボックスにふんだんにパーツを入れている周りの人達は、僕が直面している課題のそこから先の「さらなる走り」を求めている人達なのだ。なかなかすごい世界に踏み込んでしまったぞ、僕はそう思った。時間そのものはかかったが、取り付けはドライバー1本でできる。スパナが必要なところもあるのだが、パーツセットに専用のスパナがついているのだ。今でもスケールプラモデルは接着剤が必要だったり、ボディの塗装に塗料が必要だったりするが、ミニ四駆は用意しなくても組めるし、シールでボディを飾り立てられる。ミニ四駆は子供のホビーなのでそれで当然だ。

 ローラーを付け替え走らせると、びっくりするほど安定して周回するようになった。大きな達成感がこみ上げた。「これでいける!」そう思った。結局ボディとシャーシ以外、ほとんど全てのパーツを交換・アップグレードして“コースを走る”マシンを作ることができたのだ。全身にベアリングを組み込んだ僕のマシンはずしりと重く、高性能なマシンを手に持っている実感をもたらしてくれた。

 特別なマシンを手に持っているうれしさを感じた。ただし、ちょっと気になったのは、「バーニングブリッジ」という急角度で上昇するカーブに、どうしても引っかかってしまうところだった。しかし“走れた”という喜びの方が大きかった。

 この時感じたのはミニ四駆というホビーの間口の広さだ。僕がやった改造といえば、パーツを買いそろえただけだ。それで快適な走りができるマシンが組める。これはパーツそのものに様々な技術的な蓄積があるからだ。拡張パーツに開いている穴に部品を組み込むだけでコースに触れ車体を安定させられる場所にローラーを組み込める。価格もローラー全部で2,000円以下だ。ミニ四駆は“高級なパーツ”を買いそろえれば終わりではなく、“最適なパーツ”を探すところに楽しさがある。1度走れるマシンを作れば、そこからさらに速く走るための道が広がっていく。

 「このマシンをパワーアップして、安定して走らせたい」という僕の相談に、パーツの細かい性能を解説してくれてアドバイスしてくれた店員の存在はありがたく、頼もしかった。初心者の僕に親身になって色々なことを教えてもらえた。また店員と話している時、パーツを見ていた客がアドバイスしてくれたこともあった。店には親子や、会社員も来ていて相談しながらパーツを選んでいる。コミュニティ空間としてもとても楽しい場所だと感じた。

 コースに来る人達の多くは、新しいパーツを買ってきていた。小さな袋を手に持っている姿はうれしそうで、パーツに対する期待感を感じた。それを組み込み、走らせそれからツールボックスを開けてパーツを交換していく。また、さらなるパーツを買いに行く場合もある。ちょっとずつお金を使いながら試していく。パーツによっては思った結果が出せない場合もあるが、そのパーツは他のコースを攻略する資産となるだろう。ツールボックスいっぱいに色々なパーツがあったら楽しいだろうなと、思わず想像してしまった。

コースをマシンが周回できるようになった。右の写真が「バーニングブリッジ」。ここで車が引っかかってしまうが、この時点でどうしてかわからなかった

(勝田哲也)