Game Developers Conference 2009現地レポート

Peter Molyneux氏が語るLionheadの実験模様
「Lionhead Experiments Revealed」

3月23~27日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center

 

 「ポピュラス」、「ダンジョンキーパー」そして「FABLE II」など、ゴッドゲームの雄 Peter Molyneux氏は、今も多くのファンを魅了する米国ゲームデザイナーだ。Game Developers Conference 2009年3月27日には「Lionhead Experiments Revealed」と題したセッションが行なわれ、同氏は所属する開発スタジオLionheadにて進めれている開発スキームの内容を語った。




■ 誰でもアイデアを形にできそれを共有できる「concrete」

 Molyneux氏によるとLionheadは非常にイノベーティブな会社であり、これはゲーム制作において必要不可欠なものだということを説明。同氏が過去に携わった「Black & White」は、30人余りのチームで構成されていたため、金銭的な意味も含めて比較的容易に様々なことにチャレンジできたと話し、現在のLionheadもまた、多くのスタッフが良いアイデアを持っているが、人数の肥大化とともにそれは容易でないと語っていた。

 では新しい試みを行なうことに対して、どのように助け合っているという点では、社内スタッフであれば、誰でも立案・実行ができるといったルールがあることを提示。その際、チームは1人から5人で構成されており、チームメンバーにはプロジェクトが一段落し、手の空いている人たちで作り上げられているという。実験をする期間はおよそ1~12週間で、平均的には4週間程度で行なわれているといった内容が語られた。

 実験を行ないたい場合には社内のシニアメンバーに協力を仰ぐ必要があり、協力者はできたアイデアをLionheadのクリエイティブボードに提出し、審議の後、通常のプロジェクト同様にスケジュールを設定していく。また、この実験に対してのコストはどのように捻出されていくかという点では「どのような用途で使うのか」、「どれくらいコストがかかるのか」、「ゲームではどのように実装するのか」、「プレーヤーにどのように訴求するのか」といった部分を明確に提示することで、制作中のタイトルからの予算ではなく、会社のR&Dから降りることもあるという。

 実験時に使われる素材としては、社内に用意されたプロトタイプエンジンを利用するとのこと。また「Fable II」や「Black & White」で使用された素材を共有化し、再利用するで迅速に行なうことができ、これらのことをLionheadでは「concrete」と呼んでいると語った。





■ 「Protdog」をはじめ多数のプロトタイプを紹介

講演終了後にファンに駆け寄られサインを頼まれるMolyneux氏、入場の拍手も含め同氏の人気の高さがわかる講演だった

 Molyneux氏は、プロトタイプで作成されたものをいくつか例にあげ、まず最初に「Protodog(プロトドッグ)」と呼ばれるものを紹介。このコンテンツのデータは「Fable II」の犬を使用したもので、ポインタを操作することで、犬を撫でてるように動かせば機嫌が良くなり、犬が反応できないほど高速にポインタを動かすような無茶をすると機嫌が悪くなるというもの。一見するとそれだけの単純なものだが、これは表示されていない背面に視点を切り替えると、機嫌が良い時などは尻尾を振っているアクションをするなど、細かいところにこだわりがある実験だった。

 次に紹介されたプロトタイプでは、ライティングに焦点をあてたもので、車に光を当て屈折した表現を行なうものや、球体や楕円の物体に光を当て表現をしたり、地面の模様の写り込みを表現するといったことを提示。そのほかにも多数のキャラクターを表示するといったものやシャドー(影)の表現の実験、3D格闘ゲームのようなものまで存在した。

 なお、いくつかのデモを公開した後、Molyneux氏はQ&Aのパートで、質問者に「まだ実行していないデモがそこにありますが」と言われ、あわてて起動しようとしたところメールアプリケーションを開いてしまい、会場内を爆笑させるというお茶目な部分を披露し講演は終了した。

プロトタイプで作成されたものには、様々なものが存在する



 これらのプロトタイプは、コンセプトにあったゲームに巡り合えば実装されるといった部分もあるが、それ以前に資産として共有しておくことで、必要な時にアイデアを引き出したり、流用したりできるほか、フルスクラッチからの制作よりも迅速に対処できることなどが利点としては明らかだろう。今回の講演では、この誰でもアイデアを提示でき、プロトタイプの作成もできるという現在のLionheadの体制が公開されたが、今後このプロトタイプから、新しいアイデアを模索することで、また新しいゲームの発明などが生まれてくるのかもしれない。


(2009年 3月 30日)

[Reported by 鬼頭世浪 ]