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モノビットが提示する「オンラインVR開発環境」の“明日”
通信負荷の低減から手軽な開発環境の提示、コスト計算まで!
2017年4月28日 01:29
モノビットは、IDC フロンティアと共に、ヤフージャパンの食堂室にて「ゲーム&VR 向けリアルタイム通信エンジンの新しい選択肢」をテーマに、VRゲーム、オンラインゲーム開発者向けのイベントを開催した。
このイベントでは、オンラインゲーム、VRゲームの開発やミドルウェアの開発を行なうモノビットと、サーバーなどネットワーク関連の管理・運営を行なうIDC フロンティアが、今後の「VR オンラインゲーム」でどのような役割を果たしていけるか、そのための準備をしているかが語られた。
今後さらに広がるVR空間を支える“通信環境”とは?
最初に登壇したのはIDC フロンティアのプロダクト企画部の金杉有見子氏。金杉氏は自社のアピールとして九州にあるサーバーセンターをVRで見ることができるコンテンツに関わったことを皮切りに、ゲーム体験にとどまらず、自分の披露宴も離れたところの祖母のためにVRコンテンツ化するなど、VRに関わっていったという。
FacebookのVR SNSなどの取り組みも紹介し、これまで以上に人々の距離を縮め、様々なリアルな体験により、娯楽だけでなく教育や、業務まで広がっていく未来を語り、様々な体験会なども積極的に行なわれていることを紹介した。一方で、現在大きくハードルを上げているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やPCの価格などの一般化への難しさも紹介した。
ここで話題を変え、金杉氏はIDC フロンティア(IDCF)のアドバンテージをアピール。ゲーム会社がこれまで自社で行なっていたサーバーの運営・管理などをIDCF クラウドで行なうことでゲーム会社のリソースが開発に集中できたことや、データセンターの設備を持ち、設計していることでの通信環境の良さ、さらにゲーム運用目的に合わせたサーバー構築や、機器の性能の高さ、それによるコストの低減化を紹介し、他社と比較してもデータセンター、サーバー管理運営の優秀さをアピールした。
その上で金杉氏は、これからVRはますます普及発展していく中で、データのやりとり、通信への負荷は増大していく傾向にあり、その中でIDCFがどういう役割を果たしていくか、そのことを金杉氏を初めとしたスタッフはきちんと考え、そしてメーカーと共に歩んでいきたいというビジョンを語った。
いつかは「VR MMO」を! 夢のために生み出されるミドルウェア
続いて登壇したのはモノビットの代表取締役を務める本城嘉太郎氏。本城氏はネットワークゲームに深く関わっている自身の経歴を語り、そしてモノビットがゲームとネットワークのテクノロジーベンチャーとして、ゲーム開発はもちろん、ミドルウェアの開発を行なっており、将来的にはVRでのMMO、「数万人規模でのVR空間の共有」をめざし、そのための基幹システムなども準備していると語った。まさにこの壮大なビジョンは、ネットワークゲームに関わり続けているモノビットでしかできないと本城氏は語った。
このビジョンの実現のためにモノビットが開発しているミドルウェアが「モノビットエンジン」だ。日々アップデートを繰り返しており、今回は2つの“新製品”を紹介した。「Monobit Revolution Sever(「MRS」)」は、MMOや多人数MOアクションにも対応できる処理速度とレスポンスを追求した通信エンジン。これまで以上の効率を追求しながら、開発の幅広い要求に応えるものとなっているという。
Unityに対応し、C#でもサーバーにコードがかける。またゲーム開発用フレームワーク「cocos2d-x」や、ゲームエンジン「Unreal Engine」などへの対応も予定しているという。対応プロトコルも広がり、今後はPS4や、Nintendo Switchへの対応も考えているとのこと。ゲーム開発者に使いやすく、かつ高速で処理を行なえるようにオンラインゲーム向け通信エンジンんため、サーバーのCPU使用料や、パケットのデータサイズを抑えるなど、ネットワークゲーム開発の強みを活かしたエンジンとなっているという。
もう1つが「Monobit Unity Networking 2.0」。ゲームプログラムを使う感覚で、簡単にマルチプレイが実現できる通信ミドルウェアだという。「MRS」のコアを使用しているため、通信の負荷を大幅に低減、さらに対応言語を増やしたうえで、ソースコードを簡単にカスタマイズすることが可能となり、使いやすく、ゲームを開発しやすい環境を作ったとのこと。今後は少人数、さらには個人のゲーム開発者に向けても支援や相談に乗っていくとのことだ。続く登壇者からは、製品のさらに細かいアピールポイントが語られた。
手軽に、そして奥深く作り込めるミドルウェア「Monobit Unity Networking 2.0」
「Monobit Unity Networking 2.0」でのゲーム開発の“イメージ”を紹介したのはモノビットミドルウェア事業部部長の安田京人氏。安田氏はシンプルなゲームを書いたコードを実際に提示、それがどのように「オンラインゲーム」になるかを紹介した。
安田氏が最初に提示したのはかわいらしい女の子「ユニティちゃん」が走り回り、フィールド上のオブジェクトを拾っていくゲーム。「Monobit Unity Networking 2.0」を使えば、このプログラムを多重起動し、片方を“ホスト”に設定すれば簡単にオンラインゲームとなってしまう。各プレーヤーがユニティちゃんを操作し、ポイントを取って、一定時間で勝敗が決まるゲームとなる。
しかし、この状態ではホストがチートし放題だ。ホスト側のプログラムに手を入れれば、自分だけ制限を伸ばしたり、相手の当たり判定を機能しなくもできる。公平な勝負を行なうためには参加者がプログラムを触れない、サーバー側でのプログラムが求められる。
この場合でも「Monobit Unity Networking 2.0」なら簡単にできるという。まず、既存のサーバプログラムをベースに、得点計算や、オブジェクトとの当たり判定等といったサーバ側で行なった方が良いロジックをクライアントプログラムからサーバプログラムに移植する。
一方クライアント側はサーバーに移植した処理を削り、最低限の情報のみをサーバーに送信するように改造する。これらは一例で、逆に知識のある人はどこまでもこだわれる、そういう間口の広さと深さを「Monobit Unity Networking 2.0」は兼ね備えていると安田氏は語った
対戦人数が減ればコストが100万円変わる!? ネットワークコスト計算プログラム
モノビットCTOの中嶋謙互氏は、「Monobit Unity Networking 2.0」に添付予定の「インフラコスト予測プログラム」を紹介。「コストを考えたゲーム開発」という、かなり視点の異なった、しかしオンラインゲーム開発メーカーでしかできないアイディアを紹介した。これはエクセルで作られており、プログラマーだけでなく、プログラムを知らないゲームの企画者など、多くの人が見て、コスト計算ができるプログラムだという。
例えば1サーバー当たりの同時接続者数は何人か? これで絶対的な通信コストが変わる。MOタイプなら何人でプレイできるか? 平均データサイズはいくつか? データサイズは座標が重要なFPSなら大きくかかるが、カードゲームなら少ない。ボイスチャットも通信量を増やす。信号を暗号化すればCPUの負荷は高くなるし、使用言語でもCPUの作業量は違ってくる。
「インフラコスト予測プログラム」の面白いのは項目を変えると如実にコストが変化するところだ。CPUの負荷の少ない言語で開発すると200万コストが変わる、「同時プレイ人数を4人から3人にすると劇的にコストが下がるから、ゲームの仕様を考え直そう」と言った相談も可能なのである。
各項目はかなり細かいが、ゲーム開発者ならばわかるものばかりな上、コストという一見わかりにくいものをプログラム化し、項目を動かすだけではっきりと金額が上下するというのはゲーム開発者、経営者に求められるプログラムだと感じた。項目のカスタマイズももちろん可能だという。
「VR玉入れ」で出会った傍若無人なプレーヤー。これこそがオンラインゲーム!
今回のイベントではさらに懇親会と、10台のHTC Viveを使ったオンラインゲームの体験会が行なわれた。モノビットがこのイベントのために作った「VR 玉入れ」だ。赤と青2チームにわかれ、縦横無尽に動くかごに向かって玉を投げ入れるのだ。
シンプルなゲームだが、これは本当にMMOならではの“つらさ”があった。今回はプレーヤーがものすごく密集したところに立たされていたのだが、人が持っている玉をやたらめったら奪う人がいたのだ。傍若無人に玉を奪っていく人に本当に怒りがわいた。
オンラインゲームではこういう風に、まるで他人がいないかのように振る舞う人に会うことがある。この遠慮のなさは、他の人とプレイしていると言うことが全くわかってないオンラインゲーム初心者そのままで、そう言う人と出会ったとき感じる“いやな感じ”がきちんと感じられ、こういう感覚をきちんとVRでやろうとするモノビットは、やっぱり正しいし、すごいと感じた。
現在のVRコンテンツでこういう体験は少ない。「オンラインコミュニケーション」にこだわるモノビットならではの体験に、非常に感心させられた。相手が人間だから感情がわき上がるし、面白い。これこそがモノビットが目指すところであり、楽しさだと感じた。VRと一口に言っても、モノビットは他のメーカーと違うところを見ていると思う。モノビットへの期待が今回さらに膨らんだ。
今回は、かなり開発者寄りのイベントだったため、モノビットのツールの凄さを、筆者は完全には理解できたとは言いがたい。しかし、自分たちの特性を活かし、間口が広く、どこまでも深くゲーム開発ができるツール(ミドルウェア)を作り、より楽しいコンテンツを生み出していこうというモノビットの“気合い”は強く感じた。
VRだけでなく、コミュニケーションの面白さを追い続けているところにも好感が持てるし、コスト計算という「プログラマーと企画者がもっと幅広い視点を協力してビジョンを持てる仕組み」を提示しているところも面白かった。今後も注目し、応援したいところだ。