47都道府県のそれぞれの特色にこだわった「鬼武者Soul」
新作ブラウザゲームの狙いを杉浦一徳プロデューサーに聞く
株式会社カプコンは、ブラウザゲーム「鬼武者Soul」の「戦国体験 初陣」(期間限定のテストプレイ)を4月27日14時から5月1日14時まで実施する。なお4月23日14時までは、その参加者の募集が行なわれている。
「鬼武者Soul」は、カプコンのゲームポータルサイト「カプコンオンラインゲームズ」(COG)上でサービスされるブラウザゲーム。内容は箱庭シミュレーションと武将を使ったバトルを合わせたもので、プレーヤーはクエストをこなしながら、城下町の発展や、武将を合成させての強化によってより強い軍を作っていく。
本作の特徴は、プレーヤーが最初に拠点として全国47都道府県を選べ、都道府県それぞれに違った建物や武将が登場することにある。ゲームの雰囲気は「鬼武者」シリーズをベースにしているが、シリーズとはまた違った趣向を持ったゲームだ。
弊誌では今回、「戦国体験 初陣」の実施に先駆けて、本作のプロデューサーを務める杉浦一徳氏にインタビューをする機会を得た。
杉浦氏はXbox 360/Windows用オンラインハンティングアクション「モンスターハンター フロンティア オンライン」(MHF)のプロデューサーとして活躍するかたわら、最近ではカプコンの東京制作部長としてオンラインゲーム事業やソーシャルゲーム事業についても幅広く関わっている。
今回のインタビューでは、「鬼武者Soul」の狙いや、47都道府県ごとの特色を活かしてプレーヤー同士が争うという、ブラウザゲームとしてこれまでの規模に収まらないような展開、さらには海外展開までを視野に入れた構想などを伺えたので、その模様をお伝えする。
■ やりたかったのは、最初から全ての県を選べる「戦国モノ」
「鬼武者Soul」プロデューサーの杉浦一徳氏 |
ゲームのポイントの1つは戦国武将同士による「合戦」。戦国モノは、杉浦氏個人的にもやりたかったのだという |
もう1つの要素は成長していく町づくり。なおこの画像でも背景が異なることがわかり、細かい部分までのこだわりが伝わる |
――本作制作のきっかけを教えてください。
杉浦一徳氏: 企画そのものは2006年か2007年頃にはあったのですが、日程が合わずになかなか実現できませんでした。コンセプトは、ニーズの変化しない短期間で開発できるブラウザゲームにすることと、なおかつアジアで人気のあるブランドを使って制作することでした。そこで、アジアでも人気のあるタイトルとして「鬼武者」が採用されました。「鬼武者」については、私が単純に戦国モノがやりたかったということもあります(笑)。
――「鬼武者Soul」は、ジャンルとしては箱庭シミュレーション+戦国武将の戦いと思われます。ここまでだとよくあるゲームにも思えるのですが、他のゲームとの違いはどこにあるでしょうか?
杉浦氏: 戦国モノでどうしてもやりたかったのは、最初の国の選択で47都道府県を選べるようにしたいということでした。戦国を舞台にしたゲームはこれまでにもありましたが、国を最初に選ぶ時には東北や九州と大きくわけられていて、全都道府県を選べないのが嫌だなと感じていました。私は青森県出身ですが、東北を選ぶと武将は宮城県の「伊達政宗」になってしまって、ここに違和感がありました。
そこで、今回は最初に全部の都道府県を選べるようにしています。これは出身地に関係なく、好きな場所を最初に選べます。
――それは、ゲームの内容に都道府県ごとの特徴が出てくるということでしょうか?
杉浦氏: 箱庭要素となる城下町は、プレーヤーの好きなようにカスタマイズできます。神奈川県なら鎌倉の大仏、京都府なら清水寺といったように各地限定の建物も登場します。またこの城下町の画面では背景にもこだわっていて、静岡なら富士山がありますし、滋賀県なら琵琶湖が描かれます。
サーバーリセットはしないので、「鬼武者Soul」は城下町を作り込み続けられます。この箱庭の領地は一定範囲以上には拡大しませんが、“面”は追加アップデートで増やせるので、ある面は城下町、ある面は農地に特化させる、といった遊び方もできるようにします。
武将についても、都道府県それぞれの出身武将が登場します。武将は400名以上登場し、強化するにつれイラストが4段階進化します。またご当地武将というのも1都道府県につき5名、計235名入れようと考えており、地元の人や相当な戦国好きしか知らないような武将をここに入れる予定です。
――47の都道府県全てがはっきりと区別されているというのは珍しいですね。
杉浦氏: プレーヤーそれぞれが地元を感じられるようにしています。そのため、最初にどの県を選ぶかが重要になりますよ。
ちなみに、沖縄県は少しだけ優遇されています。沖縄県は、戦国時代には琉球王国でしたから、建物の雰囲気も服装も他の県とは異なります。建物には首里城を用意していて、ゲーム開始時にはナビゲーターが選べるのですが、沖縄県のナビゲーターだけは服装が琉球王国らしい特別仕様で登場します。
こだわりは47都道府県を網羅。あえて出身とは違う都道府県を選ぶものアリだ |
それぞれの土地特有の武将がオリジナルイラストで登場するのも目玉の1つ。ちなみにこちらは上杉謙信 |
――本当に全ての都道府県をフォローしているようですね。
杉浦氏: 折角ですからここまでやらないと。他にも、北海道にはアイヌ民族の武将が登場したり、新潟県では佐渡島の金山が獲得できたりします。スタッフには、最終的には「日本の名城100選」の天守閣はイメージイラストを起こしてでもぜひ全て実装してくれと話しています(笑)。グラフィックスは3Dを贅沢に使っていて表現にもこだわっているので、建物のできあがりも楽しみにしてほしいですね。
――全く知らない土地を選んでも、プレイする過程でその地域の名所と有名武将を知っていけるという楽しみも生まれそうですね。
杉浦氏: そういった楽しみ方もできると思います。
――こうして聞いていると、過去の「鬼武者」シリーズとは全く違うゲームになっているように感じます。「鬼武者」シリーズとの関連性はどの辺りにあるのでしょうか?
杉浦氏: 今回は、「鬼武者」シリーズの第1作のストーリーから派生させたオリジナルストーリーにしました。ただゲームシステムが違うからといって、異なるイメージにはしていません。「鬼武者」は豊臣秀吉や織田信長といった悪役の印象が強かったので、悪役は同じような雰囲気を持たせています。クエストでは「鬼武者」らしいストーリーが楽しめますし、ここで登場する幻魔や背景にも「鬼武者」のグラフィックスを活用しています。
――“あの”織田信長も登場するのですね?
杉浦氏: 織田信長は強いですよ。みなさんを蹂躙しに来ます(笑)。織田信長は、主軸となるストーリーで最大の障害になるかと思います。
■ 基本的なバトルは隣の県のプレーヤーのみ。最初の選択がゲームプレイに大きく影響
クエストを進めれば新たな武将やアイテムが手に入る。クエストでは、ストーリーやバトルが楽しめる。プレーヤー同士の合戦は基本的に隣国としか対戦できないというのも本作の大きな特徴 |
――バトルシステムやオンライン機能についてはいかがでしょうか?
杉浦氏: バトルは、クエストを中心に進みます。先ほども少しだけ触れましたが、クエストではアドベンチャーゲームのようにストーリーとバトルを楽しめます。5人の武将を1組として戦っていき、クエストをこなす過程で新たな武将やアイテムを入手できます。
クエストの最後にはボスが待っていますが、中には突如として登場するボスもいます。また城下町で生産できるアイテムに「兵法書」というものがあります。これは攻撃の際に武将1人につき1つだけ付与できる1回使い切りのアイテムで、合戦でボーナス修正が付与されるようになるものです。「兵法書」は合戦の勝敗に影響する、大きなポイントの1つになります。
それと他のプレーヤーとの合戦ですが、これは隣接する国のプレーヤーとしか対戦できないようになっています。隣の県のランキングや比較もちらちらと表示されるようになっているので、プレイ中はどうしても隣の県を意識せざるを得ません(笑)。最初に選択する国が重要というのは、こういう意味もあります。また他の県のプレーヤーと対戦して勝った場合には、その土地限定の建物が手に入る場合もあるので、切磋琢磨していただきたいと思います。
――そうなると、例えば東京都を選択したプレーヤーが、京都府の清水寺を狙いたい場合はどうすればいいのでしょうか?
杉浦氏: 大きなイベントとして、全ての都道府県を東軍と西軍にランダムにわけて行なう「天下分け目戦」を用意しているのですが、ここで敵対する国と好きに戦えます。建物がほしい場合は、このタイミングで集中的に戦ってください。「天下分け目戦」は、1カ月に1回の開催を予定しています。
――コミュニティとしては、ギルドも登場するようですね。
杉浦氏: ギルドは「一門」と呼び、同じ国に所属するプレーヤー同士で組めます。一門を組むとその一門専用の町が別で与えられて、これを成長させることで報酬が手に入るようになります。ただ本タイトルはカジュアルに楽しんでほしいので、空いた時間に一門専用の町を育てたり、気軽に交流できるようなシステムにしようと考えています。
ですから、メインとなるコミュニティは一門よりも、それを包括する国になります。同じ国の中ではランキングが表示されるので、国の中でランキングを競ったり、隣国同士で合戦したりというようになります。人気のある国はプレーヤー人数も多いのでランキング争いは熾烈になりますが、人数のいない国をあえて選択することで上位を目指しやすくなります。ちなみに“亡命システム”も用意しているので、最初に選択した国が永久にそのままというわけではありませんよ。
■ カジュアルさがウリ。いずれは海外プラットフォームへも
――ゲーム周りのことについて伺っていきたいと思います。本作はカジュアルに楽しんでほしいというお話がありましたが、ターゲットとして想定しているのはどのようなユーザーでしょうか?
杉浦氏: まずは戦国が好きな方ですね。そうでなくても、ハードルを低くするよう、ある程度操作手順を簡単にしています。プレイ時間についても、画面に張り付くようなプレイをする必要はありません。ただやることは多く用意しているので、多少長めの時間のプレイもできると思います。
――スマートフォンでのサービスも予定されていますが、ブラウザとスマートフォンでのプレイの区別はありますか?
杉浦氏: これは全く一緒のものが遊べます。サーバーも同じものを使用します。状況に合わせて使い分けていただきたいと思います。
――今回は、ゲームエンジンに「Unity 3D」を使用していることも特徴の1つです。これを選択したのはなぜでしょうか?
杉浦氏: 「Unity 3D」は、ブラウザとスマートフォン用のアプリの両方に対応できるエンジンということと、少しリッチなグラフィックで城下町を作りたいな、という考えで採用しました。「Unity 3D」を使ったのは初めてでしたが、3Dグラフィックスを贅沢に使えた点はよかったと思います。合戦画面や演出もリッチにできていますよ。
――ビジネスモデルについてはいかがでしょうか?
杉浦氏: アイテム課金の部分をどうしようか悩んでいる所です。今のところ完全ランダムの“ガチャ”は考えていません。現在想定しているのは、何枚かの武将をセットにして販売する「MHF」で言うところの「ブースターパック」のようなものを考えています。あとは武将の成長を促進させるような消費アイテムの販売ですね。
ただ、これについては決定というわけではありません。今後、お客様が遊んでいる様子を見ながら考えていきたいと思います。
――海外展開は何か考えていますか?
杉浦氏: 現在は海外の方はプレイできませんが、いずれ世界で楽しめるブラウザゲームのプラットフォームに移植しようと考えています。
――その場合は日本地図や武将などもそのまま使うのでしょうか?
杉浦氏: そのつもりです。このような歴史モノのゲームは、歴史やその世界が好きな方しか集まってこないと思いますから。例えば、三国志のゲームなども土地や名前をそのまま楽しんでいますよね。それと一緒です。
――遠く離れた海外のプレーヤーが地方の武将について熱くなっている姿を想像すると、面白いですね。
杉浦氏: 楽しいですよね。日本の正しい名所の知識も教えていきたいと思います(笑)。追加するプラットフォームでは日本と海外の方が混じるような選択肢もありえると思うので、その会話も見てみたいですね。
■ 物足りなさを感じさせないブラウザゲーム制作が課題と試練
杉浦氏は、登場する武将たちなどのイラスト資料などを紹介しながら「鬼武者Soul」の内容を説明してくれた |
――今回の体験テストは2回にわけて行なわれるそうですが、それぞれどういったテストを予定していますか?
杉浦氏: 1回目のテストでは、城下町を育てる部分、武将を育てる部分、クエストのストーリーを楽しんでもらえる部分の基本要素を3つを見ていただこうと考えています。
2回目のテストでは、大規模なコンテンツをチェックする予定です。ここでは、「天下分け目戦」を想定しています。
スタッフや東京制作部の様々な地方出身者を揃えて、地元ならではの感覚を取り入れたかったのですが、残念ながら一部の都道府県は出身者が少なかったので、ゲームにおいて「地元なんだけど、これは違うよ」という指摘や意見があればぜひ公式掲示板に書き込んでいただければと思います。
――正式サービス以後、予定している大きなイベントがあれば教えてください。
杉浦氏: これは正式サービスで導入するメインストーリーのその先の部分になりますが、現在考えているのは、大型アップデートごとに地域を巡って様々なクエストやコンテンツを体験していくようなものです。最初は東北地方で展開させて、アップデートを重ねる度にその時々の地方にスポットが当てられて、その場所ならではの新しい武将を登場させるようにします。
――ゲームとは言え、地方を回っていくというのは壮大な仕掛けですね。
杉浦氏: 現在ある戦国シミュレーションRPGというのは、箱庭を完成させたり、武将を育てきってしまうと飽きてしまう部分があります。そういった物足りなさを運営面やイベントで感じさせないようにするのが課題と試練だと思っています。箱庭は面を増やせるので拡張し続けられますし、新しい武将も登場していきます。イベントでは、過去の「鬼武者」シリーズに関連したストーリーも予定中です。
――コラボレーションなども予定されているのでしょうか?
杉浦氏: 現在はカプコンのキャラクターとのコラボを考えていて、例えば「ヴァンパイア」シリーズに登場する「モリガン」を和服で登場させる、といったカプコンキャラクターとの展開を複数企画しています。ただ、基本的には戦国風の雰囲気や鬼武者のテイストも大事にして登場させるようにしたいと思います。
――それでは最後にメッセージをお願いします。
杉浦氏: この「鬼武者Soul」もそうですが、カプコンは他にもブラウザゲームを用意しています。今年のカプコンは様々な形のゲームに挑戦していく年になりそうです。カプコンは他の企業に比べてオンラインゲームやソーシャルゲームへの参入がゆっくりしているかもしれませんが、その分市場や競合ゲームを研究して、お客様のニーズがどこにあるかを考え、よりいいものをお届けしています。お客様としっかりコミニュケーションするという「MHF」で培ったことを、「鬼武者Soul」でも活かしたいと思います。
――ありがとうございました。
【登場武将ラインナップ】 | |||
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武将のラインナップは今後も続々発表される予定。イラストレーターも多数参加し、見た目もタイプも多岐にわたる。これらのイラストは、杉浦氏が1つ1つ全てチェックしているそうだ |
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(2012年 4月 19日)