バンダイナムコ、DS「Solatorobo それからCODAへ」インタビュー後編
「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2」との意外な関係
無事発売となったDS「Solatorobo それからCODAへ」。前編に引き続き、インタビューの後編となる今回は、「Solatorobo それからCODAへ」と「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2」の意外な関係、10回も行なわれたモニター会や、100タイプのTVCMを作った理由など、少し踏み込んだ内容をお届けする。
■ どこか懐かい感じのする、しっかりとした物語のあるアクションRPGで、続編ではなくオリジナルのタイトルをニンテンドーDSに
株式会社バンダイナムコゲームス 中田理生プロデューサー |
株式会社サイバーコネクトツー代表取締役 松山洋エグゼクティブディレクター |
―― プラットフォームにニンテンドーDSを選んだ理由は?
松山洋氏: 決まったのは2007年です。当時、全世界で7,000万台普及していたニンテンドーDS(以下、DS)の市場は、脳を鍛えるものなど、学習ソフトやカジュアルソフトと呼ばれるものが多くなっていました。いわゆる王道のRPGというタイトルが少なかったんです。お客さんも、ゲーム機を買った以上、「次のゲームソフトは何にしようかな」と考えるはずです。
そんな時、どこか懐かしい感じのする、しっかりとした物語のあるアクションRPGで、続編ではなくオリジナルのタイトルがあれば、お客さんに喜んでもらえるのではないだろうか、と考えたんです。サイバーコネクトツーは、「.hack」シリーズや「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズを開発していることから、プレイステーションのゲームを作る会社のイメージが強かった。そこで新しいハードでやろうと思いDSを選びました。個人的にDSでゲームらしいゲームを作りたかったということもありますね。
中田理生氏: 2007年当時、バンダイナムコゲームスは最も普及しているハードであるDSのタイトルを増やそうとしていました。松山さんがおっしゃる通り、10代前半、それ以下の年齢向けのタイトルは数タイトルしかない状態であり、正統派のファミコン時代からのゲームらしいゲームといえるアクションRPGが少なかった。そんな流れの中で、本作はDS向けだと判断しました。
■ ルーツはフランス。スイーツや調味料をキャラクターの名前に
―― ショコラ・ジェラート、グレン・ザッハーなど、登場人物に食べ物の名前が入っているんですね。
松山氏: 名前には食材、調味料、スイーツが入っています。本作のルーツはフランスなんです。フランスといえばフレンチ。フレンチといえば、スイーツが美味しいイメージが浮かびました。最初はデザートだけで攻めようとしたのですが、思ったより数がなくて、スイーツに使われる原材料まで範囲を広げました。最終的には粉みたいなものまで入りました(笑)。この命名規則は企画初期に決めましたね。いい加減は絶対に許されないので。
―― 登場人物には思い入れがあると思いますが、1番好きな人物は誰ですか?
松山氏: メルヴェーユ・ミリオンです。何故なら鼻口部が長く、尖っているからです。ここがポイントです(笑)。
■ 「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2」にも採用された表現技法
パースマップが採用された街の風景 |
―― 2Dと3Dの中間のような映像表現がとても特徴的ですね。
松山氏: ニンテンドーDSで、ロボとヒトのダブルアクション、壮大なドラマを2部構成でやることは決まっていました。プレーヤーは大空を自由に飛び回る船で生活し、その船に乗って目的の島に行く。島にはホームタウンとなる町があって、町の中でクエストを受けたり、町の中からダンジョンに向かったりする。各シチュエーションで差別化して、アーティスティックに表現したいし、見下ろしはアクションRPGには合わない。
そこで、アニメで使われる手法である「パースマップ」(パースや奥行きのある状態でテクスチャを作成し、マッピングする手法)を今回やろうぜと開発スタッフに指示したんです。これを用いれば、全てを3Dで作らずとも奥行きが感じられるし、DSでアーティスティックに表現ができることを伝えられると考えました。
余談ですが、「Solatorobo」開発中にプレイステーション 3/Xbox 360「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2」(以下、ナルティメットストーム2)の開発がスタートしました。前作「NARUTO -ナルト- ナルティメットストーム」では街をフルポリゴンで作っていたため、戻る度にそれなりのロード時間が必要だった。ロード待ちはストレスになってしまうので、そうならないように「ナルティメットストーム2」では、「Solatorobo」でも用いていた「パースマップ」を採用したんです。「Solatorobo」では1ドットずつを大切にした職人技ですが、PS3やXbox 360のHDでやってもインパクトがあるというのも採用に至った理由です。
「この2つのタイトルが同じ技術で作られている!」というと結果は全然違うように見えるかもしれませんが、根っこは同じなんです。「ナルティメットストーム2」の開発を始めるより先に「Solatorobo」がやっていた技術だったので、「ナルティメットストーム2」チームのスタッフはパースマップを勉強するために、開発初期に「Solatorobo」チームに来ていました。ある意味、「ナルティメットストーム2」の根っこを作ったのは、「Solatorobo」と言えるかもしれないですね。奇しくも「ナルティメットストーム2」の方が先に発売されてしまいましたが(笑)。
中田氏: 「Solatorobo」の目標の1つに、「DSでここまでできるのか?」という絵作りがあったんです。サイバーコネクトツーはグラフィックスが得意な会社なので、この目標についてはこちらから何も言わずともいいものができてくる気はしていました。予想通り、「パースマップ」や「モーションイラストデモ」(元となる2Dのキャラクターイラスト原画からパーツをテクスチャとしてばらし、ポリゴンに貼り付ける手法)によって、この目標は達せられました。
■ 遊びやすさを追求するため、通常2~3回のモニター会を10回開催
―― DSで開発するにあたり、どんな努力や苦労がありましたか?
松山氏: 今回、DSの開発は初めてだったんです。ハードによってお客さんの年齢層は違うし、DSでは若い世代が多いことがわかっていたので、学校のない土日にゲームユーザーにプレイしてもらうモニター会を開きました。
若い人達は、「好き」、「怖い」、「嫌い」など、ストレートに言ってくれる。途中でプレーヤーの年齢層は変えましたが、3年間でモニター会を10回もやったんです。注意して作っていたにも関わらず、プレイしてもらった結果、伝えたいことがよく伝わっていないことがわかりました。この結果を受けて、ネットや本に頼ることなく、ゲームの中で解決できるよう丁寧な作りにするべく、開発を行ないました。そのおかげで触り心地のいい、良質のアクションRPGに仕上げることができました。
―― 難易度もモニター会での意見を元に調整されたのでしょうか?
松山氏: アクションRPGなので、時間をかければレベルは上がるし、カスタムでも強くできるので難易度についてはそれほど問題視していませんでした。それよりも何をするのかわからなくなることだけはないように徹底しました。進めなくなるのは致命的ですから。テキストに関してもそうです。うちはすぐに難しい漢字や言葉を選んだりするので。
中田氏: 全体のメッセージ分量は半分にしてもらいました。ページをめくる回数もありますが、輸出前提で考えた場合、ローカライズすると文字量が3倍程度のボリュームになることもありますから。
松山氏: モニター会で見ていると、会話シーンが始まった瞬間にボタンを全力で連打するんです(笑)。これも会話のラリーを減らすことになった大きな要因ですね。もちろん、分量を減らしても、ドラマ性を損なうわけにはいかないので、テキストの密度を上げて、分量を減らしました。
―― 他のタイトルではどれくらいモニター会を開催するものなんですか?
松山氏: これまででも多くて3回でした。これらは基本的に、簡単すぎる、難しすぎる、中盤でお金が余るなど、パラメーター調整を目的としたものです。1回目の意見を受けて調整し、2回目に快適な遊びやすさに調整されたものをプレイしてもらうという、2回程度が普通なんです。「Solatorobo」の10回はさすがに多かったですね(笑)。
―― 要望を取り入れると自分たちがやりたかったことが薄まってしまったりはしませんでしたか?
松山氏: そういうことはなかったです。あくまで、より遊びやすくという手触り感の部分だけなので。
―― 章立てで構成されているのも遊びやすさを感じる点でした。1章1時間かからないものも多く、アニメを見ているような印象で。
松山氏: 1クール、2クールのようにテレビアニメの構成を意識して作りました。オープニングも変わりますよ。この章立てに関しては、こうすることで遊びやすいと思ったんです。メインシナリオの間にサブシナリオをやるのもお客さんの自由。そういうのが僕は好きなんです。
開発初期にはイベントをひとつなぎにして、シナリオをRPGのようにしたい、という意見があった。でも本作はアクションRPGなので、行く先々でアクションが違う。島単位で違うので、エピソードも島単位で分けました。この辺は優劣があるわけではないし、好き嫌いにもよります。誰かが線を引かないといけないので、僕が好きだからこうする! と決めました。
■ 開発途中に組み込まれたDSiのカメラを使った遊びやクエスト配信
―― DSiに向けた遊びを開発途中に組み込んだそうですね。
中田氏: そうです。DSiで楽しめる要素としてカメラを使った遊びを入れました。正直、当時はDSiの登場は完全に想定外でしたね。「Solatorobo」はDSiでもDS Liteでも遊べるボリュームは変わらないですが、カメラで撮影したものが使えるのでDSiがオススメです。
クエスト配信やレースも開発途中で入れた要素です。クエスト配信で長く遊べるように、通信プレイで友達と遊べるようにするべきだと判断し、実装しました。
■ 長期開発ながら、プロジェクトを愛するメンバーだからこそ維持できたモチベーション
―― 長期開発となるとモチベーションの維持が難しそうですね。
松山氏: 普通は下がりますし、疲れてしまいます。サイバーコネクトツーでは、そうならないように同じチームで開発を続けないんですよ。「Solatorobo」では最初3人、ピーク時には15~16人、そして7人になり、最後はまた3人です。デバッグは3人でやりましたから。途中で入ってきたメンバーから新しいアイデアが出てくるし、人間関係を作りながら開発するので、ダラダラしないんです。
それにしても3年間モチベーションを維持できたのは、開発メンバーが「Solatorobo」が好きだからですね。役目を終えると別のチームでの仕事が待っているのですが、「行きたくない! 何かやることないですか?」と言うメンバーがいたほどです。どれだけ「Solatorobo」好きなんだと(笑)。
■ ギネスの新記録となる100タイプのCMを制作した理由
―― 公式ホームページでも公開されているソラジオ。放映のきっかけは?
中田氏: スタッフがWebラジオをやりたかったからというのが1番の理由ですね(笑)。プロモーション展開案の1つにWEBラジオがあったんですが、突き詰めていくと今の形態が1番やりやすかったんです。
―― 反響はいかがですか?
中田氏: アンケートが返ってこないとなんとも言えませんが、「YouTubeブランドチャンネル」での再生回数がほかのコンテンツより圧倒的に多かったです。
―― 公式ホームページではギネスの新記録となる100タイプのCMが公開されています。何故100タイプものCMを作ろうと思われたのでしょうか?
中田氏: これまでのギネス記録が48タイプだったので、50でもよかったのですが、100の方がインパクトがありますし、キリが良かったので100タイプ作ることにしました。
松山氏: 普通の商品だと100タイプは難しいと思うんです。これだけ作れるということは、設定を含め、要素がたくさんあることの証明になります。
中田氏: 幸いにも拾ってくるソースとなるネタが沢山ありましたから。
松山氏: たしかにいじりやすい設定もあったと思うんですが、まさかトイレが採用されるとは(笑)。
中田氏: (前編でのエピソードで)トイレが必要だったというスタッフの意見は正しかったわけです(笑)。
松山氏: ゲームの中では出てこないですけどね(笑)。今の市場って、特に「日本は閉塞感がある」などと言われてますが、ゼロからスタートしたオリジナルのIPで、しっかりと自信を持って送り出せるものが売れてほしいと思っています。
CMを100タイプ作るのって簡単じゃないですよ。中田プロデューサーは、ずっとスタジオにいましたからね。スタジオの人じゃないかと思えるほどでしたよ(笑)。それだけの意気込みを感じるじゃないですか。別にギネスブックに載りたいからやっているわけじゃないですし。バンダイナムコゲームスさんは覚悟を持って仕事をしてくれていると、皆さんにも感じてもらえたのではないでしょうか。
中田氏: ゲームは間違いなく面白いです。ただ、プレイしてもらわないとわからないし、クリアまでプレイしないと最終的な評価を下せない。その前に買ってもらわないといけない。モニター会でヒキが強かったのが、ストーリーと世界観だったので、それを伝えるために、「ソラトロボ大百科」という本の体で、100種類のCMを公開し、膨大で、壮大な物語を伝えることにしたんです。これらが全てこの1本に入っているんですよと。
■ 最後に
発売後、中田氏、松山氏に改めてコメントをいただいたので紹介したい。
中田氏: プレイした感想が何よりも欲しいです。良いことも悪いことも素直にWEBアンケートに書いてください。そのアンケートが、本作の続編を問わず、次回作に活かされます。ちなみに感想を書く前に絶対忘れちゃいけないのが、隣のお友達に「Solatorobo」の面白さを伝えることですので、お忘れなく(笑)。
松山氏: そろそろ、中にはクリアしている方もいらっしゃるでしょう。発売後だから言えることですが、2周目、3周目の遊びも入っています。クリアしたから後も、友達と通信プレイでレースを楽しむこともできるし、クエストダウンロードを楽しみに待ってもらいたいと思います。配信されるクエストは、キャラクターにスポットを当てたドラマを重視したものになっています。
これにて、前後編に渡るインタビューは終了となる。2人の「Solatorobo」への強い情熱を感じていただけただろうか。興味があれば、本作をぜひチェックしていただきたい。
(C)2010 NBGI
http://www.bandainamcogames.co.jp/
□ サイバーコネクトツーのホームページ
http://www.cc2.co.jp/
□ 「Solatorobo それからCODAへ」のページ
http://www.solarobo.channel.or.jp/
(2010年 11月 1日)