SCEJ、PSP「俺の屍を越えてゆけ」ゲームデザイナーの桝田省治氏インタビュー
いつまでも遊んでくれるファンをもう1度喜ばせたかった
本日11月10日に株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEJ)からついに発売されたPSPソフト「俺の屍を越えてゆけ」(以下、「俺屍」)。本タイトルは1999年にプレイステーション版として発売された同名タイトルのリメイク版となる。このオリジナル版は、発売直後のプレス数は少なめでスタートしたのだが、おもしろいとの反響が次第に広がり、現在では累計出荷42万本以上の実績を残し、発売から12年たった現在でも熱烈なファンがその人気を支えているタイトルだ。
今回のリメイク版では、グラフィックスが一新されたのはもちろんだが、PSPならではの機能であるアドホック通信でのデータのやりとりなど、オリジナル版に加えられたポイントも存在する。そこで、PSP版の発売に先立ち、本作ゲームデザイナーである有限会社マーズの桝田省治氏に、オリジナル版との変更点などについてインタビューしたので、ここにお届けする。
■ 本当に作りたいのは続編なんです
今回インタビューに応じてくれたプロデューサーの桝田省治氏。Twitterがマーケティングの側面からも面白いとか |
桝田省治氏: 簡単に言うと、作りたいのは続編なんです。その足がかりが欲しかった、ということですね。僕だけでなく、SCEJの方もいろいろ考えていたと思うのですが、制作されてから12年もたったゲームの続編を作るということは、ビジネス的にも慎重にならざるを得ないわけです。「本当に売れるのか?」と。このため、「リメイクでもこれだけ販売できました」という数字が出れば、SCEJとしてもゴーサインを出しやすいわけです。
これに加えて、今年はPlayStation Vita(PS Vita)が発売されますし、これから続編を作るとなると、PSPなのかPS Vitaなのか? どちらに向けてソフトを作るのか、難しいところです。加えて制作期間の問題もあります。しかしリメイク版であれば1年程度で作ることができます。また、続編に盛り込みたい新しいシステムや要素の一部をリメイク版に盛り込むことで、それがいまのユーザーに受け入れてもらえるかどうか、推し量ることができます。つまり、リメイクが作りたいというわけではなく、続編を作るための足がかりにするためにリメイク版を作った、というのが正直なところです。
編:「ゲームアーカイブス」では、いまでもオリジナル版が発売されていますが、そのデータを元に続編を作る、ということにはならなかったのでしょうか。桝田省治氏: アーカイブスでも売れてるから続編を、という流れではなかったですね。僕も「売れてはいます、けど……」というニュアンスでしか言えませんし。確かに、ゲームアーカイブスを含めて12年で40万本以上売れていますが、こういう“訳のわからない売れ方”をしたゲームがほかにないので、いきなり続編を出して売れる、と言いきるのは“勘”でしかないんですよね。データとしてほかにサンプルがないので。
となると、慎重になるのは当然です。そこで、リメイク版で既存のタイトルより上回る、あるいは一定の販売本数が出れば「これは続編作っても大丈夫だね」という判断ができます。
おかげさまで、限定版が誰も予想しなかったほど大人気で(笑)。予想してたらもっと作っておけばよかったという感じなのですが。僕が「これくらいは何とか売れるだろう」と考えたラインがあるのですが、SCEJはそれを上回る本数を作って。しかし市場のニーズはもっと上のところにあったわけです。「ここまでくればOKだよね」ということで、東京ゲームショウ2011で続編制作を発表した、というところです。
編:リメイク版では新要素を入れたとのことですが、それはどのようなもので、どう続編につながるのでしょうか。桝田省治氏: リメイク版として制作するわけですから、オリジナル版と大きく変えるのは、あり得ないですよね。「同質の楽しさ」を保証しなければいけません。とはいえ、続編を視野に入れてリメイク版を作っている訳なので、やりたいことの一部をプレーヤーに提示してみて、どういう反応が返ってくるのかということは続編を作るためのデータになりますから。
加えたシステムは大きくいうと3つです。1つはオリジナルの剣を作って、世代を超えて強くしていけること。それと、神様との「交神」を重ねると神様自体のパラメーターが上がっていくことです。この2つは、プレーヤーが「俺屍」世界のいろいろな出来事に干渉するとか影響を与えるという、続編に向けて構想しているシステムのわかりやすい一部です。この評判が良いのであれば、もっといろいろな要素に関してプレーヤーが干渉していくようにしたい。これによって、同じゲームなのに、プレーヤーそれぞれに違う「俺屍」世界ができあがっていく。そういうことができるんじゃないかなと思いますね。
しかし、こうしたことって、本当にプレーヤーが望んでいることなのかわからないんですよね。要素が多すぎるとプレーヤーがついてこれなくなる可能性もある。それよりは、わかりやすいところを絞り込んで提示した方がいいですし。世界のいろいろなことにプレーヤーが干渉できるということの一例として、剣と神様の要素は試しに入れてみました。
2つめは「結魂(けっこん)」ですね。「俺屍」っていうのは1人でこつこつと作り上げていく、言ってしまえば「自己満足」を形にするというか、そういうゲームです。ですので、他人のデータを自分の世界に入れるというのは、どうプレーヤーに受け入れられるのか、あるいは受け入れられないのかなと。
僕が考えているMaxの状態は、街や神様、アイテム、一族のキャラクターデータ、あるいはモンスターなど、こういったデータ自体を他のプレーヤーと入れ替えるとか混ぜるとか共有するとかいったことで、他人と自分が協力したり、競ったり、あるいは混ざったりするのはおもしろいんじゃないかなと。これらの中で、わかりやすいシステムとして、キャラクター同士で子供を作るというシステムを試しに入れたというわけです。僕はおもしろいと思ったけど、一般の、お金を出して買ってくれたプレーヤーが、おもしろいと思うかは別ですし。あるいは僕が思っているのと違う使い方をするかもしれないし。いずれにしても反応次第ですよね。このため、わかりやすいシステムを入れてみた、ということです。
3つめとしては「奥義」や「術」の併せ技における倍率アップですね。奥義を併せるためには、戦闘時にキャラクターが操作できる4キャラのうち、2キャラが同じ職業で、そして親子でなければならない。そうすると、1人のキャラクターは若い、もう1人のキャラクターは親ですから、年をとっているということになる。となると、両方とも1番油が乗り切った状況ではないわけです。
こういう2人を4人の中に入れるわけですから、残りの2人は相当しっかりとサポートができるキャラクターでなければいけない。こういったパーティ構成を常に維持しようとすると、相当計画的にキャラクターを作っていかなければならないわけです。その“計画的”な部分を、おもしろいと感じる人もいると思うんですよ。スケジュールを考えるのが好きという人がいますから。その反面、「こいつはこの顔だから壊し屋だよね」という、その場その場の感覚、ひらめきで、失敗も含めて、自分で好きなようにやっている人にとっては、奥義を親子2人で常に使える状態を維持するというプレイは難しいし、性に合わないでしょう。ですので、どの程度の人がこのシステムを喜ぶのか、そして使いこなせるのかが、僕にはわからないんですよね。
というのも、「俺屍」のプレーヤーってかなり幅が広いんですよ。女性も多いですし。12年間支えてくれたプレーヤーと“さよなら”する訳にはいかないですし。でも、これまで支えてくれたプレーヤーがいやがることをやらないにしても、「こういう楽しさがあるよ」というのは常に提示したいですし。ですのでこのあたりは探り探りですね。こういうところからも、リメイク版には続編に向けての試金石というか布石という形で入っているんです。
【武器製作と形見の継承】 | ||
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街の鍛冶屋へ刀を発注し、自分だけの刀を作る事ができる。作られたオリジナルの刀には好きな言葉を入れることが可能。さらに、刀は子孫へ代々「形見」として継承していくことができる。形見は、強い子孫へ継承してゆくごとに成長していき、長く受け継がれるほどに「家宝」としての存在価値を高めていく |
【神様成長システム】 | ||
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神様と交神を重ねることで「階位」が上がり、遺伝情報が上昇していく。これにより、同じ神様と何度も交神することで神様を育てることが可能となっている |
【結魂】 | ||
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一族は「種絶(しゅぜつ)の呪い」により、人同士で子孫を残すことができない。だが、PSP版では同様に呪われた他家の一族と「結魂」を行う事で子をなすことが可能となった。神様と違い、奉納点を消費しないのでお得 |
【奥義の併せ】 | ||
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奥義の併せは“術の併せ”同様に奥義に関しても同じ奥義を所持している一族同士で発動することができる |
編:「結魂」ですが、リメイク版ではアドホックモードを利用したピアツーピアでの通信だけですが、たとえばサーバーを立てて、日本中、いや世界中の人が集まって「結魂」ができるといった案はなかったのでしょうか?
桝田省治氏: サーバーを維持しようとすると大変ですけど、次世代のゲーム機、たとえばPS Vitaでは割と遠くの人とつながることも可能ですから、いろいろな人とデータを交換するのは簡単でしょうね。
編:では基本的に次世代のゲーム機を見据えて続編を作るのでしょうか? リメイク版をプレイしたのですが、アナログパッドを使うことでキャラクター移動もわかりやすくなっていて、随分とリファインされているという感じはしました。桝田省治氏: やはり12年間で「俺屍」をプレイした人がたくさんいて、その中で「ここはもうちょっとこうならないか」とか「ここはゆるすぎる」とかいろいろな意見をいただいたので改善しました。もちろん、予算とスケジュールの問題がありますから、プレーヤーの要望に100%応えられたわけではないのですが、できる範囲でなるべくたくさん応えたつもりです。
たとえば、「自分で家系図を書いているのだが、それをもうちょっと見やすくしてほしい」とか、「方向キーで移動するのは指が痛い」といった要望がありましたので、アナログスティックでの移動のほか、家系図をズームアウトして深く見られるようにしたりとか。「俺屍」を作り始めた頃はゲームコントローラにアナログスティックが標準装備ではなかったんです。ですので、アナログスティックのみのプレイにしてしまうと、多くのユーザーが困ってしまうので、方向キーにしたんです。でも今だったらアナログパッドの方が動かしやすいですよね。
神様は「交神の儀」の前に、一族に一言声を掛けてくれる |
桝田省治氏: 音声データは100パーセントすべて録り直しています。ただ、名前があるようなメインキャラクター以外は、、声優さんを変えてます。一族の遺言とか、神様との交神などのシーンでは「もっとたくさんの声優を使ってほしい」、「一部キャラクターで声が一緒じゃないか!」というプレーヤーの意見もあったので、今回は声優さんを増やしました。
ただし、オリジナル版の時にお願いしていた声優さんたちは皆さん、この12年でベテランさんになられてギャラが高くなってしまったんです(笑)。なので、その人たちをすべて呼ぶとなると予算がきつくなってしまうので勘弁してもらって、まだ新人さんかも知れないけど「結構上手じゃない?」という人を一生懸命集めて収録しました。
編:特に声への思い入れというか、絶対ここでは喋るべきだ、というシーンはありますでしょうか。桝田省治氏: 遺言に関しては思い入れがありますね。交神についてもそうかな。今回は100パーセント字幕に対応しているんですけど、前は動画のところと交神のところがナレーションだけだったんですけど、字幕に対応させました。
編:次に世界観についてお伺いしたいのですが、リメイク版とオリジナル版は平安時代の京の都ですが、その時代に何か思い入れがあるのでしょうか。桝田省治氏: 特にこだわりはないんです。1つは、その世界設定以前に「世代交代」をテーマにしているので、人間は普通、20年~30年で子供ができて、世代交代するわけじゃないですか。それをまともにゲームにすると、たとえば30時間やって2回世代交代する、という形になってしまうので、世代交代のゲームとか言いながら2回しか交代していないというのは面白くないというか。そこで考えたのが「短命の呪い」なんです。
そして、神様とか妖怪とか、「呪い」というキーワードがまだ成立している時代を考えていくと……江戸時代ではなく、戦国時代でもない。室町時代でギリギリ。つまり、室町時代や鎌倉時代より以前なんです。酒呑童子の話が書かれたのもその時代ですよね。ということは、まぁ平安の末期から室町、鎌倉、そのあたりが時代構成としてギリギリなのかなと。平安時代より前になると、今からかけ離れすぎててよくわからないんですよ。教科書で習うような有名人も少ないですしね。
ですので、「世代交代」というテーマから「短命の呪い」が出てきて、その「短命の呪い」が成立する世界というところから考えていくと、中世の前、となったわけです。
【家系図】 | ||
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家系図も見やすくなっている |
■ いつまでも遊んでくれるファンをもう1度喜ばせたかった
編:続編についてですが、ツイッターで東北を舞台にすると書かれていましたが……。桝田省治氏: 東北にするかはまだ決めていないんです。というのはやっぱり3月の東日本大震災の事を思っていて。ゲームの技とはいえ「地震」や「津波」を想起させる表現があったとしたら、考えてしまいますよね。藤原の三代とか歴史の話は結構好きで、反朝廷のような形で「俺屍」を描くのは面白いだろうなと作りかけたんですけども、やっぱりどうかなって。
編:では、舞台などはまっさらな感じということでしょうか。桝田省治氏: そうですね。もちろんそういったことを全然気にしない人もいるし、でも気にする人もいるかなぁと思って。現実でもしんどいし、ゲームでもしんどいし、と思う人もいるだろうなと。
続編についてですが、オリジナル版の発売当時、マーズでサイトを持っていて、掲示板がいくつかあったんですけど、異様な盛り上がり方だったんです。1年たっても2年経っても。合同でネット上の葬儀をやりましょうとか、プレーヤー同士で楽しそうに、うちの子はこんな死に方をしたとか、かっこよかったとかいう話を延々とやっていました。こういう方たちはありがたいなあと。この人たちをもう1回おもしろがらせようというのが、続編を作るにあたっての1番の動機ですね。
こうしたプレーヤーの方たちは、僕が思っていたよりもっと、次元が上っていうか、違うところで楽しんでる人が多かったんです。つまり、ゲームが外に広がっちゃっている。
たとえばこんな話がありました。東京で大学生活を送っていた人が、田舎の実家に帰ったらプレイステーションが置いてある。「なんだろうこれ?」と思ってフタを開けたら「俺屍」が入っていたそうです。久しぶりに親と一緒に酒を飲んで、「俺屍」の話をして、ついでにその次の日は2人で墓参りに行きました、という話を聞くと、「作ってよかったな!」とすごく思ったんです。こうしたユーザーってなんか、有り難いというか、いとおしいというか、この人たちの子供をもう1回喜ばせてあげたいな、というのが1番です。
編:ネットワークゲームなどでは、コミュニティを作ってユーザー間の交流を深めるという手法もありますが、コミュニティを対象にしたゲームを次は作りたいとお考えなのでしょうか。桝田省治氏: 必ずしもそうではないですね。楽しませ方はほかにもありますから。コミュニティはそ手段の1つですね。実際には、1人でちまちま遊ぶのが好きな人もいれば、それをネタに話すのが好きな人もいますし、あるいは同人誌のように自分が考えたストーリーを見せるのが好きな人もいるし。いろいろですよね。
ゲームアーカイブスで配信されている、オリジナル版。PSP版では画面サイズが16:9になっているのと同時に、グラフィックスなども描き直され、きれいに仕上げられている |
桝田省治氏: してほしいというか、優秀な材料でありたいですよね。コミュニティ作りを前提としたゲームを作るということではなくて、その材料をきちんと作っていきたいです。コミュニティを盛り上げるような元となるアイデアをたくさん盛り込みたい。
東京ゲームショウで「PS Vitaはどんなイメージですか」と聞かれたときに、「子供にとっての棒きれであり、石ころだ」みたいな、結構失礼なことを言ってたんですけど(笑)。そういうプリミティブな創造性があれば、色んな遊び方ができる。そういう作品でありたいんです。ネタにしてくれ、っていう感じでしょうか。そうすると遊んだ人の数だけ「俺屍」があって、あるいは遊んだ人同士の間にも違う「俺屍」がたぶんあるんですよね。そう思うと楽しいですよね。
編:いまはいわゆる「ソーシャルゲーム」と呼ばれるものが流行っていて、ライトで、ちょこちょこっと携帯でやって済んで、というゲームをプレイする人が多いようです。どちらかというと、「俺屍」は対局に位置していると思うのですが。桝田省治氏: そんなことはないです。むしろ近いと思いますよ。だって「俺屍」のコンセプトは「大人向け」なんです。10年前でいうと、ゲームはまだ“子どもたちの物”という感じがありました。しかしこれからは、子供も減ってくるし、今ゲームをプレイしている人も大人になって、通勤の時間とか、家に帰って30分だけ、みたいなゲーマーも増えてくると思いました。
そこで大人向けの市場開拓をしようと考えました。「俺屍」というのはダンジョンに行って帰ってくるのが30分でおさまるようにデザインしましたし、あるいはゲームスタート時に「忙しい方は20時間でクリアできる」というクリア時間の目安を変えられるモードなどを搭載したので、ある意味プレイする人の生活をイメージして、そこに入り込めるような形でデザインしました。もちろんその頃はソーシャルゲームなんてなかったんですが、根本の考え方は同じだと思います。
編:話は変わりますが、お子さんがお生まれになったから、「俺屍」を作ろうと考えたとお聞きしていますが。桝田省治氏: 1番最初のとっかかりとしてはそうですね。でもそれより前に、さっき述べたような「大人向けのゲーム」がこれからウケるんじゃないか、と考えたこともあります。「俺屍」の前、「天外魔境II」の後くらいに長男が生まれたんですが、いわゆる王道のRPGじゃなくて、同じRPGでもちょっと外れたところというかマニアックな方向性というのも、これだけ市場が大きいんだからアリなのかなと。この方向性に合うネタを探していたんですね。そこで、世代交代というのがネタというかモチーフとしてあるな、と思いついたんです。
編:TVCMでも、オリジナル版で小学生であった人が大学生になっていたり、岸部一徳さんも老けていたり……。世代交代を感じますね。桝田省治氏: 岸部さんですが、CMを収録していたときは別の作品を撮られていて、金髪だったそうです。でも絵コンテを見て、ご自分で白髪風にあえて染められたそうです。岸部さんは役者さんなので、そこはこだわっていただいたようですね。それが逆にはまったというか、本当に白髪なのかわからないんですけど、老けメイクのような感じになっていて。皆さんに見ていただいて、「岸部一徳も老けたな」とか言われると、ご本人的には「してやったり!」なのかもしれません(笑)。
■ 失敗も受け止めてプレイして欲しい。1度失敗したら次は無茶しないのが大人
桝田省治氏: プレイしていますよ。おそらく日本で「俺屍」をやりこんでる人間の10人のうちの2人はうちの息子です。見ているとびっくりするようなことをやってます。
編:それは、たとえば?桝田省治氏: 「反魂の儀」というシステムがあります。キャラクターの親やおじいちゃんが生きている場合、もしそのキャラクターが死んでしまったとき、上の世代が「その子の命を助けよう」と言って、上の世代は死んで本来死ぬはずの子供が生き残るというシステムがあるんです。その実態を知っている人があまりいないと思うのですが、このシステム自体を戦術的に使うんです。息子達は、かなりむちゃくちゃなパラメータで進めてるんですよ。3世代目のキャラクターですから、まだ育てが足りず、やっぱりボスクラスになると勝てない。でも1人犠牲にすると、あと1ターン保つから勝てる、という時に「こいつは死んでも家に帰ったときに反魂の儀をやってくれる親が生き残っているから大丈夫」というところまで戦術に組み込んで戦闘するんですよ。
編:反魂の儀をシステムとして組み込んだのは、やっぱりプレーヤーの感情に訴えかける、ということが目的だったのでしょうか。桝田省治氏: そうですね。でも息子達は、それを割り切って使っている。「なるほどね」と思いました。このシステムだったらそういう使い方ができるなと。息子たちのプレイを見ていると、反魂の儀をするための準備をするんですよ。何度もプレイしているから、敵のパラメーターは知りつくしているんです。そうすると、「このメンツだとボスの攻略まで一手足りない」というのが家を出る段階でわかっているんですね。そこで「こいつだったら死んでも反魂の儀で生き返るから大丈夫」という形で準備して戦いに行くんです。
編:親御さんとしてはどう思われますか?桝田省治氏: まあ、ありですね。何でもありですよ。所詮はゲームですから。出しちゃったら僕の物じゃないですし。
ところで、リメイク版をプレイしてみてどうでした?
編:正直言いますと、アーカイブスでオリジナル版を落としてプレイた時は、最初の代のキャラクターが戦闘に行って帰ってきたあと、1カ月で死んじゃったんですよ。「うわあ、辛い……」と思ったんです。でも、リメイク版はもうさくさく行けて、しかも双子ができたりして。すごくテンポがいいと思ったんです。ちまちまとプレイするオリジナル版に比べて、リメイク版はテンポがよくて。昔のユーザーは、いろいろな要素があるのが許せたから、こうした“ハードプレイ”でも許せたんでしょうが、今の人ってそれを許せない人が結構いるのかなと。ですので、ボタン押したときのタイミングであるとか、そういう細かいところまで“今の人向け”の調整をされたのかな、と思いました。桝田省治氏: まあそうですね。もちろんハードの性能差もあると思いますけど。セーブ時間も、最初は本当に長かったんです。ですが、体験版が出たので掲示板などでの評価はどうだったかなと見てみたんですが、「セーブが早い。こんなの『俺屍』じゃない」っていう(笑)。
編:セーブをするときに「一日一回」というセリフがありますよね。ハードの性能でセーブ時間が短縮されたのに、あえてその台詞を変えなかったのはやっぱり狙いがあったんでしょうか。桝田省治氏: 失敗も含めて、受け止めて欲しいということでしょうか。「俺屍」って失敗したほうがいいんですよ。後々に「あのときは辛かった」とか「この子ひとりから再興したんだよね」みたいな。2、3年経ってちゃんと一族が元通りになると、それはそれで楽しいんです。家系図を見ながら。2、3年で結構ドキドキが来る。傍系だったところから来たとか、そうそう、ここ大変だったんだよみたいな。
でも失敗したところでリセットしてゲームをプレイしちゃうと、きれいな家系図になっちゃうんです。そういうのをやりたければそうすればいいと思うんですが、大人は多少の失敗は笑っておもしろがって遊んでくれたほうがいいいかなと。長く生きてれば失敗しますよ。ひどい目にも遭いますし。
桝田省治氏: 一族が1人だけになるとか、それは割と起きるんです。けど、全滅するっていうことはほぼないです。この点は、内部でパラメータをいろいろ細工して、人数が少なくなったら双子が生まれやすくしたり、全員で帰ってきたときには最後の1人は死んでても生き返らせるとか、結構無茶なプログラムを細かく組んでいるので、一族が絶えるということは、よっぽどなことがない限りありません。
まあもちろん、すごく運が悪いことが2つ3つ重なれば一族が絶えることはありますけど、普通にプレイしていれば絶えませんよ。1回そういう目にあうと、次から無茶しないのが大人です。
編:実際、一族のレベルじゃなくて、プレーヤーのレベルが上がってるんですよね。桝田省治氏: さくさくプレイできるという反響は聞いていまして、それはプレーヤー個々人のレベルが上がっているんですよ、ということは理解してもらえました。プレイの序盤はさくさく行けるようにしてあって、1番死ぬのは最初の1カ月なんです。そこでは死なないようにしないといけないなと調整してます。
編:あそこで死ぬと心が折れちゃいますよね。ところで戦闘に入ったとき、敵の大将が戦利品を持って逃げたりします。その確率は全体を通して一緒なんでしょうか? 戦利品を持って行かれることを考えると、先に大将をやっつけた方がいいかな? とか、全滅させたほうがいいかな、という選択をしなければならない。こうしたこともパラメータとして考えられたりされたんでしょうか。桝田省治氏: そうです。大将が逃げるからやっつけろとか、プレーヤーが迷う姿がまずイメージとしてあって。しかも選択肢は2つ以上あるじゃないですか。選択肢の1つがどう見ても得だったら、それはすでに選択肢とは言えないですよね。そうしたときに、先ほど言われたように、全員倒した方が経験値が入る、でも大将だけ先にやった方がアイテムが手に入るし……というように、2つのことをいっぺんにクリアしようとするとどっちかがダメだったり。たまたま運がよくてアイテムを取れたという経験をすると、次もいけそうな気がするみたいな。そのあたりのイメージを思い浮かべて、それが起きやすい確率の管理をしてるんです。実際に確率をいれてプレイしてみて、ちょっと高すぎるなとか、そのあたりを調整しています。
編:はじめは経験値がほしくて全部倒してたんですけど、こう、腹が立つんですよね。重要な戦利品が出ていたのに持ち逃げされた、とか。でも先に倒せばもらえるんだったら、あぁ、そんな選択肢もあるのか、と悩みます。桝田省治氏: うちの息子たち曰く、「選択肢は実際にはない」。なんでかと言うと、常に敵の大将を狙うんだそうです。ほかのザコ敵は、ついでに倒せるんだったらザコも1体2体倒す。で、1ターン以内に終わらせるのが基本だそうです。加えて、敵の後ろから当たること。
ザコ戦というのは、ノーダメージでクリアするものであると言うんです。全部の敵を倒そうと思ったら、2ターンから3ターンはかかります。けど1ターンだけで倒すなら、大将を倒して戦利品も手に入る。1ターンだけということは、ゲーム内の時間経過も1ターン分なんです。2ターン分で敵を全滅させるということは、自分もダメージを受けている。けど1ターンを2回やる分には、こちらもノーダメージだし、ゲーム内で進む時間も一緒。だったら1ターンをたくさんやった方がいい、というのが息子達の結論ですね。だから、全滅させようとかいうのはアイテムスロットがそろって経験値3倍が出たときだけなんだそうです。
こういった話は、チューニングが結構終わっていた時に出たんです。だから今回、「裏京都」で昼子と戦えるんですが、何ターン以内に倒したら重要なアイテムがもらえるとか、いくつか条件が設定されていて、だんだん難しくなっていくんです。デバッグチームが何人かいるのですが、その1番難しいのはおそらくうちの息子たちしかクリアしていない。うちの息子たちが、こうやれば40ターン未満で倒せる、という風にはじき出していて。でもそのやり方で倒した人はまだいない。相当難しいです。
ただし、息子たちやデバッグチームも含めて、所詮は何千時間しかプレイしていません。ですのでこれから何十万という人がプレイしたら、もしかしたら僕らが思いもつかない方法も出てくると思うので、それはそれで面白いです。おそらくは、戦闘に入る前の条件をどこまで詰められるかが鍵となってくるので、あれこれ解法があると言われても、普通の人はできないでしょうね。
うちの息子たちは、あっさりモードは10時間ぐらいでクリアするんです。その息子たちがさらに10時間かけないと、昼子は倒せないんです。3代くらい前の家系から調整していって、2年前の状態の家族を作っているというところから始めないと。で、それを作るために新たに氏神を作るんですよ。既存の神様では作れないので。このように、かなり遠大な計画を立ててやってみて、「あぁ、あと2ターン詰められない!」って悩むんです。うちの息子たちは。
そこまでやらないと、たぶんクリアできない。息子たちのレベルには対抗できない。僕もできない。実際には僕もできないなんて言いましたけど、息子たちが必死になって、デバッグモードを使わないでクリアしたデータを見せてもらうと「あ、本当だ。クリアできる」と確認してます。でも10時間もかけてますけどね。
【裏京都】 | ||
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かなり難しい「裏京都」。相当、頭を使わなければならないようだ |
【プレーヤーは戦闘でも選択を迫られる】 | |
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相手の隊長を倒すと経験値は少ないが、アイテムやお金は手に入る。アイテムを取るか、経験値を取るかプレーヤーは判断を迫られることになる |
編:その悩んでる姿を見てると、「してやったり」って感じですか?
桝田省治氏: その時点ではそこまでは考えていないです。というのは、クリアできるための適正な線引きを僕が決めなきゃならないので。それが38ターンだとか42ターンだとか、ここだったら普通の人もクリアできるというのを決める判断材料としてやらせているので、「してやったり」はないです。
編:「なるほど、そういう考えもあるな」みたいな方法があったときに、ゲーム制作者側として、負けた感はありますか?桝田省治氏: そういうことはないです。その判断ができるのは、本当に限られた人なので。だってそれをやったらゲームが面白くないんですもん。普通の人は、そう言われてもそれをやらないんです。やっぱり目の前に敵が何匹かいたら、全員倒したいのが普通の人ですから。あるいは何かいいアイテムが出たら焦るのが普通の人ですもの。だからそのマニアックなところに合わせたら、それこそ、その人たちしか遊べないゲームになっちゃうので。うちの息子たちは特殊です。
編:リメイク版だけでなく、次回作が一日も早く出ることを期待しています。ありがとうございました。
(C) Sony Computer Entertainment Inc.
(2011年 11月 10日)