【CEDEC 2010特別企画】CEDECフェロー松原健二氏インタビュー
ついに3度目の基調講演。CEDECに賭ける想いとは!?


8月3日収録

会場:コーエーテクモ会議室


 国内最大規模のゲーム開発者向けのカンファレンス「CEDEC(CESA Developers Conference)2010」がいよいよ来週8月31日から3日間の日程でパシフィコ横浜を会場に開催される。

 CEDECのハイライトとなる基調講演は今年も3名だが、今年は基調講演に準ずる扱いの特別セッションが3件、さらに各プログラム委員会推薦が推薦するハイライトセッションが12件と、例年に以上に見所が多い。そのほかにも20分刻みのポスターセッションやより充実した海外トラック、受講者参加型企画「CEDEC CHALLENGE」の実施など、様々な新機軸をどん欲に取り入れており、過去最多だった昨年の参加者数を更新しそうだ。

 今回は、CEDEC 2010特別企画として、CEDECの開幕となる初日の基調講演を務めるコーエーテクモゲームス代表取締役社長の松原健二氏にインタビューを行なった。松原氏は、コーエー執行役員時代からCEDECに積極的に参画し、現在の形を作り上げた中興の祖とも言える人物である。現在は、本業に集中するためにCEDEC組織委員長の立場を離れ、CEDECフェローという相談役のような立場からCEDEC組織委員会にアドバイスを与えている。




■ 史上最多の3度目の基調講演。CEDECは「オールジャパン体制が取れているのが強み」

コーエーテクモゲームス代表取締役社長松原健二氏。今回はCEDECフェローという立場から基調講演を行なう
2007年の基調講演の模様。東京大学の安田講堂で行なわれた

編: 今回CEDECフェローという新たな肩書きで基調講演を行ないますが、このCEDECフェローとは何なのですか?

松原氏: 今年CESAの副会長を辞めて、技術委員長も務めをひと段落しました。コーエーテクモゲームスからは新たに会長の伊従が副会長に就任しました。CEDECの運営は組織委員会が行なっていますが、組織委員会から意見を求められたときにお答えするような形で引き続きCEDECに関わってもらいたいというありがたいお言葉をいただきました。これまでCEDECを3年やってきまして、できれば今後もある程度の関わりを持ち続けたいという私の希望もありました。そこでどういった名前が良いかということになった際にフェローという名前になりました。

編: 現場から一歩引かれたのは、やはり本業(コーエーテクモ代表取締役社長)をしっかりやりましょうということですか。

松原氏: そういうことですね。昨年一昨年と色々CEDEC組織を変えてきました。吉岡さん、斉藤さんという委員長、副委員長にある程度お任せできたのは、組織的にはだいぶ力がついてきたと思ったので、良いタイミングだったと思っています。現在のような業績ですから、本業にもちろん集中しなければいけない。

編: これで松原さんの基調講演は史上最多の3度目ということになります。

松原氏: 最初の基調講演は、私が社長になった最初の年だったので、コーエーはこういう風にしていく考えですよという所信表明的な講演を東京大学の安田講堂でやりました。あの時はまだ技術委員会の活動は始めてなく、私もCEDECには直接関わっていませんでした。技術委員会を翌年2月から立ち上げて、よりCEDECを今まで以上にしっかり運営していくことを目指しました。

 一昨年CEDECが10周年を迎えた際にも基調講演をやらせて頂きましたが、あれから2年経ってゲーム業界は大きく変わったと思うのです。2年前にお伝えしたCEDECをこう変えるというイメージが皆さんにどこまで伝わっているかはわかりませんが、CEDECがどういった価値を皆さんにお伝えできるのか、こういう方向にCEDECが進歩していくということをお伝えできればなと考えています。フェローという立場からアドバイザリー的な指針をお話できればなと思います。

編: CEDECの相談役のような立場として、現在のCEDECをどう評価されていますか。

松原氏: 良いところといえば、大手に限らずオールジャパンの様々な企業から、中小やベンチャーを含め、色々な開発者が運営の活動に入っています。プラットフォーマーの任天堂さん、Microsoftさん、SCEさんもスポンサーとして入っていただいている。もちろん大手と呼ばれているメーカーも全て入っている。オールジャパンの体制が取れているのは世界には無い特徴だと思います。

 課題としては、CEDECの生い立ちとして「一部のプログラマーが集まって技術的な談義をする集まり」という色が抜けていない点です。CEDECはゲーム開発者の中のさらに一部の人のためのイベントという、あえて言えば偏見がまだ存在する。CEDECはゲーム開発に関わるあらゆる人に興味を持ってもらいたい。「あらゆる人のために」ということを掲げているのですが、テクニカル寄りのイメージがあって、ブラッシュアップがまだまだ必要です。

 また、国際化ももうひとつの課題です。規模的に見てもこれだけ海外市場が大きくなってきて、どこの会社も海外で勝負しなければやっていけない。そのために必要な海外市場の動向や海外の成功事例、海外へ行くためにはどうしたら良いのかといった情報が、まだ少ないかなと思います。一方、海外の開発者との交流も不足しています。今年は6件の海外セッションもありますし、同時通訳を入れたりしていますが、まだ途上かなという印象です。

編: 私は米国のGDCも日本のCEDECも両方毎年参加していますが、CEDECの特色としては産学連携型のアカデミック分野の講演が多い印象を持っています。これについてはどのように考えていますか。

松原氏: アカデミックセッションは過去2年間の取り組みで成果を挙げたと思います。アカデミック、産業の双方から運営に参加して、早い段階から議論を重ねました。アカデミックからは慶応大学の稲見先生が運営に参加しています。アカデミックで、これまでゲーム関連のイベントでは発表をしたことがなかった方が参加するようになっています。2009年12月のSIGGRAPH Asia に参加したのはCEDECの存在を学会にアピールする狙いもありました。今年3月に情報処理学会の50周年記念全国大会があったのですが、CEDECのセッションを行ない、アカデミックとゲーム業界の橋渡しをする機能がそこにあるというお話をさせていただきました。

編: 産学連携に関しては、松原さんご自身も、CEDECという枠組みに囚われない形でリーダーシップを取り組んでいる印象があります。産学連携を強める意図は何でしょうか?

松原氏: 1つは連携です。アカデミックには、すぐ応用に移るものではなくても、技術の種を追い続ける方がいます。アカデミックから情報や協力を得て、産業界での応用へ結びつけるという流れは、学会と業界の距離を離ればなれにせず、コミュニケーションを取ることによって円滑に進みやすくなります。また、ゲーム業界からニーズを発信することによって、研究テーマの対象として取り上げてくれる可能性があるというメリットがあります。

 2つ目は学生さんが興味を持ってくれて、優秀な学生さんがゲーム業界で働きたいと思っていただけるきっかけになる。3つ目はゲームというものに対する世の中の見方を改善することができる。まだまだゲームには「単なる遊びではないか」といった偏見が無いとは言えない。これは日本だけのことではありませんが、アカデミックがゲームを研究対象として取り上げることによって、ゲームは教育に効果があるとか、ゲームは技術の最先端を進める推進役になっているということが社会へと伝われば、世間のゲームに対するイメージやゲーム業界の発展に寄与すると思うのです。

編: 昨年から始まった「ゲームのお仕事」業界研究フェア、通称“学生版CEDEC”ですが、これについてはいかがですか?

松原氏: 去年初めて開催し、今年で2回目です。経済産業省さんからもご支援を頂いて実施することになり、学生さんはどういうニーズを持っているのかということと、どのようにお届けすれば良いのかなと、本当に手探りでしたね。結果として多くの学生さんに興味を持ってもらいました。ただ、これは就職フェアではなく、ゲームの仕事を知っていただくためのセミナーだよと言っていたのに、スーツを着てくる方もいらっしゃいました。これは伝え方が良くなかったかなと(笑)。

 昨年は1,000人以上来ていただいてとても盛況でした。運営側は大変でしたけど。今年シングルセッションで3日間やるのですが、学生さんにとって、どの日に来てもゲーム業界のお仕事がそれなりにわかって帰っていただけるわかりやすいセッションです。今年は新さん(清士氏、IGDA日本代表)がコーディネーターに入り、よりブラッシュアップしていますのでぜひ参加ください。

編: たとえばGDCでは直にリクルーティングが行なわれていますが、日本では法律的な縛りがあるとのことでそれができず、学生版CEDECはこの点で隔靴掻痒の感がぬぐえないと感じた学生さんも居たのかなという印象を持っています。

松原氏: 日本では就職活動は時期的な条件がありますので、CEDEC業界研究フェアでは、リクルーティング活動は含めていません。現時点では、学生さんにゲーム業界でのお仕事はどういうことか、どういう人が働いているのか、という情報をきちんと伝えることのプライオリティを高く考えています。



■ 注目はソーシャルゲーム。コーエーテクモも「100万人の信長の野望」で市場参入

厳しい観測を示す中で、ソーシャルゲームに対して大きな興味と関心を示していたのが印象的だった
2010年2月に正式発表された「100万人の信長の野望」。DeNAのモバゲータウンに提供するソーシャルシミュレーションゲーム

編: 今回はCEDEC事前インタビューということで、基調講演の題材になりそうなゲーム産業の事象についていくつか伺います。まず、前回の基調講演から2年経ちますが、ゲーム産業の2年間の動きを振り返っていかがでしょうか。

松原氏: 現世代機の登場以降において、この2年間は欧米市場の拡大がより顕著に出たと思います。日本市場はこの10年あまり、ゲームソフト史上の規模はほとんど伸びていません。市場においても開発会社としてのプレゼンスにおいても海外が大きく力をつけてきている。

 エンターテインメントは不況に強いと言われますが、リーマンショックは消費者の支出行動に影響し、ゲーム業界も影響を受けているので日本のゲーム業界には厳しい状況だと思います。「なかなか海外で成功するタイトルが生まれない」みたいに書かれた記事を見ると、経営者として「うーん」となる(笑)。

 ソーシャルゲームはここ1年で大きく伸びていて、実際にそれだけ市場ができているのは見過ごせません。国内ではGREEさん、mixiさん、DeNAさんといったゲーム会社ではない企業が大活躍している。どちらかといえばITサービス会社です。そういう方達が市場を大きく伸ばしているというのはゲーム業界から見ればなぜ自分たちができなかったのかなという悔しいところであり、一方でしっかりキャッチアップしなければならないところでもあります。

 ただ、ソーシャルゲームの伸びはずっと続くわけではなく、一定の段階である程度飽和状態になる。それなりの市場ができ上がった後は、激しい競争が始まる。いや、もう既に始まっているでしょう。それはプレーヤーにとってスイッチングコストがそれほど高くないから、つまりこのタイトルを辞めて別のタイトルに移ることがオンラインの特性として比較的容易です。基本プレイ無料というビジネスモデルは、初めての人にとって参加の障壁を下げる一方で、既存プレーヤーにとっても他タイトルへの移動がしやすい。こういう環境で、開発費を投じて利益を上げる構造を作るのは各社さん大変なのではないか。ごく一部のタイトルが支配的な地位を占める傾向にあるのではと思います。

 ゲーム業界にとって、かつてないほど多様なプラットフォームに直面しているといえるでしょう。据え置き機ばかりでなく、携帯機でもDSやPSPがあって、スマートフォンがあって、PC上のブラウザがあります。プレーヤーの遊ぶスタイル、ビジネスモデルも変わる。これをすべて網羅するのか、あるいは得意な分野に絞り込んでやっていくのか、そういった選択をゲーム開発会社は迫られています。これは大変な状況でもあり、チャンスでもありますね。

編: コーエーテクモさんはどちらの方向に進もうとしていますか。

松原氏: 根っこはゲームらしいゲームを好む人が作っている会社ですし、市場規模から見て据え置き機がビジネスの中心になるのはここ数年では変わらないでしょう。一方でオンラインゲームや携帯電話向けのゲームの経験を活かしてソーシャルゲームやブラウザゲームでもちゃんとゲームらしいゲームを提供してお客さんに楽しんでもらいたい。ゲーム会社のストラテジーとしてはまっとうな形を考えています。

編: SIGGRAPH Asiaで松原さんに取材した際、国内ではPSPが伸びている一方で、国外ではPSPは非常に厳しい。一方、海外ではXbox 360向けが望まれるものの、日本ではなかなか厳しいという現状があり、このギャップをどう埋めるかが日本のゲームメーカーの課題だとおっしゃっていました。そういった点は解消されつつあるのでしょうか。

松原氏: 市場の状況はあまり変わらないと思います。PSPは海外では台数は結構出ていますけれども、相変わらずゲーム販売のシェアという点ではそれほど大きくない。DSはタイトルはすごく多いけれども、価格帯が据え置き機に比べるとずいぶん低い。タイトル数も多いので、サードパーティーにとっては競争が激しい。プラットフォームの違い、市場におけるゲームの嗜好の違いを意識しながら取捨選択しなければならないという状況が、引き続き起きていると思います。

編: いずれにしても純粋なゲームコンソールだけに展開していてはビジネスにならない時代が来つつあると考えているわけですね。

松原氏: そうですね。ゲームはお客さんの余暇の奪い合いではないですか。これだけソーシャルゲームが流行っているということは、今までゲームを触らなかった人たちがたくさん来ている。これはありがたいことなのです。一方でゲームをしている人たちもこんな簡単にゲームができるのならソーシャルに行こうとする人たちもいるわけです。それは企業として対応しないわけにはいかないですよね。

 コンソールゲームも大事ですが、このソーシャルゲームの流れも無視できない。でも一部のメディアは、コンソールゲームを“時代の変化に対応できない巨象”みたいに見て、ソーシャルがコンソールを駆逐するかのような話をしています。そこまで極端に収斂することは、まず無いでしょう。操作系を考えてみても、すべてのゲームがタッチスクリーンに移行するとは思えない。3Dやアクションといった技術的な表現を高いビジュアルを求める人はやはりブラウザ上では納得できない。そういう点で今後も据え置き機がゲーム市場である程度の役割を担うだろうと思います。

編: ソーシャルゲームに関しては、今議論が2つありますよね。1つはソーシャルゲームはまだまだ成長し、最終的にはすべてのゲームがソーシャルゲーム化する。だから積極的に参入すべき。もう1つはすでに“ATARIショック”化していて、粗製濫造が続きユーザーが逃げ出している。だから大手が参入するようなまともな市場ではない。松原さんはどうご覧になっていますか。

松原氏: ATARIショックかどうかはともかくとして、既にたくさん出ていますし、クオリティも様々だと思います。それはどんな市場でも成長する局面にあるときには、ここは美味しいかもしれないと多くの参入者が現われるのは当然だと思うのです。まだ落ち着く段階まで来ていない。もうすぐある程度飽和するだろうとみんな思っているけれどもその途中段階でしょうね。

編: 日本でもようやく世界最大手のZyngaが本格参入してきそうです。その受け皿のひとつであるFacebookの人口もどんどん増えているという状況がありますが、コーエーテクモさんがFacebookや他のソーシャルゲームにタイトルを供給することがあるのでしょうか。

松原氏: 例えばDeNAさんには「100万人の信長の野望」などを提供する予定があります。まだ具体的な情報は発表していませんが、他にもそういうことを進めています。

編: 「100万人の信長の野望」は、今のところネームバリューを活かしてタイトル先行で押し出している印象ですが、これはコーエーテクモとしてはトライアルではなくて大きな事業になることを期待した真面目なタイトルだと考えていいのでしょうか?

松原氏: 当然です。弊社には真面目ではないタイトルなんてありません(笑)。事業体としての売り上げも期待しています。内容は完全にソーシャルゲームです。他の人とチームも組めますし、対戦もできます。



■ 新インターフェイスはまずは普及ありき。英語は公用語にはしないが必須のスキル

松原氏は、新たなインターフェイスについては、予想通りというべきか、かなり慎重な見方をしている
コーエーテクモゲームスのヨーロッパ子会社TECMO KOEI EuropeではFacebook内に公式ページを設けている

編: さらに話を広げますが、今年のE3では、3D立体視やKinect、PlayStation Moveのようなジェスチャーコントローラー、それからAR(拡張現実)系のエンターテインメントなども含めて、従来とは明らかに毛並みの異なるエンターテインメントが続々と提示されました。こちらの可能性についてはどのように考えていますか?

松原氏: 一般論としてお話ししますが、ニンテンドー3DSは、3D立体視の機能だけでなく、アナログスティックが搭載されるなどゲーム機としての性能も高めており、市場を広げてくれると思います。DSよりも高機能でしかも裸眼で3Dが楽しめるということは大きな魅力でしょう。

 それからKinectやPlayStation Move、ARといった分野に関してはユーザーインターフェイスの広がりという点では大きなインパクトがあると思います。最初の段階ではカジュアル性の高いコンテンツが主流になるでしょう。サードパーティーにとっては、Kinect、PlayStation Moveがどれだけ普及するかが気になるところです。標準装備されていないインターフェイスを、お客さんがどれだけ購入するかということです。インターフェイスを活かしたコンテンツが無ければお客さんも動かないでしょう。プラットフォーマーも相当コミットされているので、普及が進むことを期待しています。

編: いわゆる次世代機が現世代機になって早5年というところですが、当時と今とではローンチタイトルに対する考え方がまったく変わりましたよね。当時と比べると、メーカーは格段に消極的になった。これは経済状況だけで片付く話なのでしょうか?

松原氏: 確かにリーマンショックの影響等があるかもしれませんが、それは大きな要因ではないと思います。ゲーム業界、特に大手と呼ばれるところは、キャッシュ自体は持っているのです。ですから財務体質が極端に弱くなっているということはありません。メーカーの問題と言うよりも、お客様の遊び方が多様化していると言うことだと思います。お客さんの時間の奪い合いですから、結局お客さんはどれか選んでどれかを選ばない。すると我々はお客さんが選ぶものに付かないと、お客さんがいないプラットフォームにいくらゲームを提供しても魚のいない池にどんどん餌を入れるのと同じことです。そこは戦略で絞らなければならない。とりあえずXbox 360とWiiとPS3だけに提供しましょうというレベルではないですよね、今の広がり方は。技術的に見ても異なります。ゲーム性が違う、ビジネスモデルが違う。これに対応するためにはゲームデザインはやはり変える必要がある。それに対して1社であまねく埋めるかどうかがメーカーにとって課題となります。

編: SNSとしては世界規模で見た場合Facebookが大きな存在として浮かび上がってきます。欧米アジアでは、メーカーやゲームに特化したアカウントをFacebookに作るケースが多く、実際海外にはコーエーのFacebookアカウントがありますよね。こうした展開については日本ではどのように考えていますか。

松原氏: 広報活動の一環として捉えるかどうかですね。Facebookに関して日本以外も発展していますよね。数か月前まではFacebookは海外のSNSで、日本でFacebookをやっている人は少ないねといわれていたのに、いまは日本でも流行ってきているという感じがします。FacebookはTwitterと連携できるようになっていて、どんどんシームレスになってきました。Facebookの友達承認メールがやたら来るようになったなと思います。Facebookという特定のプラットフォームだけではなくて、DeNAさんミクシィさんGREEさんの連携の中で考えていますけれども。ソーシャル性のある集まりの中に私たちのコンテンツやサービスをどのように伝えていくかについて大枠で考えています。コンテンツという形でもやっていかなければならないし、ある面公式Twitterアカウントなども本格的に取り組まなければならないのでしょうね。

編: ソーシャルゲームはまだまだ日本では発展途上の分野だと思います。ゲーム産業としてはどう取り組むべきだと考えていますか。

松原氏: そこは各社さんの判断ですが、取り組んでいく方が時代の流れだと思います。FacebookのアクセスがGoogleを上回ったというニュースを目にしましたが、凄い勢いですよね。ただ日本については、Facebookさんよりも国内のSNSがとても健闘している。GREEさん、mixiさん、DeNAさんも含め、Facebookオンリーではなくて全体として考えたいです。

編: “英語公用語論”が最近のトピックとしてありますが、社内で英語を使うかどうかはともかくとして、英語の習得は日本のゲームメーカーにとっても真面目に考えなければいけない部分です。松原さんは英語公用語論についてどのような考えをお持ちですか。

松原氏: もっとも効率の良い言語を使うのが良いと思っている。それが英語なら英語でも良い。個人的には社内を英語にしたいと思わなくも無いですが、そんなことをしたら国内では会社中が静かになりますよね。仕事にならない。今すぐそれはないだろうなと思います。後はケースバイケースですよね。私みたいに海外に出張に行ってパートナーと話しをするなら、英語は必須ですよね。中村さんもそうではないですか? 海外に行って仕事をするということになったら英語を話そうよというのは自然な流れだと思います。大人になってから言語を身につけるのはそうやすやすといくものではないと思いますので、少なくとも共通語をしゃべれるようになるのは仕事の内容によると思います。今国内だけで市場を見てそこだけで勝負していけるということは皆さん思っていないと思うのです。だったら海外に目を向けなければならない。

 もっとも、英語をどこまで学ぶべきかというとこれはまた別問題です。英語を喋れるよになったからといって、海外のゲームデザインの中身がわかって、アメリカでトリプルAタイトルが作れるようなセンスが身につくかといったら、それはとても困難です。結論としては、必要な英語は勉強しようよということです。会社として公用語にするかどうかはその会社のご判断で(笑)。

編: SIGGRAPH等の技術論文もそうですし、世界で取り扱われているゲーム関連情報の多くは英語ですよね。ゲーム開発者に、英語のスキルが求められる時代が来ていますよね。

松原氏: 弊社でも新卒採用の時は英語について尋ねます。多くは入社してから勉強していますね。社内的にも必須のスキルだという意識付けはしています。みんなが日々英語を使う仕事ではないと思いますが、意識は持って欲しい。コーエーテクモは海外拠点が10箇所もありますから、海外の人間と社内で仕事をする可能性はみんなが持っている。そういう点で英語に関心を持ってもらって身に付けて欲しいなと。ビジネスパーソンとしてプレゼン能力や文章力と同じような感じである程度使えたほうがよいと思います。



■ CEDECの未来について提言を行なう基調講演

基調講演ではCEDECの中期的なゴールを話すという松原氏。非営利組織がゆえの限界についても認識しており、これについてもアイデアがあるようだ
「CEDEC AWARDS 2009」授賞式の模様。特別賞は「ドラクエ」シリーズの生みの親である堀井雄二氏に贈られた。3回目となる今年は中村雅哉氏(ナムコ創業者)に贈られる予定となっている

編: CEDECに話を戻します。今回「CEDECとは?」という重いタイトルを付けられています。今回改めて3回目の基調講演についてCEDECそのものを語ろうと思った動機は何でしょうか。

松原氏: CEDECのフェローに就任したので、高所的、アドバイザー的な立場からお伝えしたいと思ったのです。組織委員会はしっかり運営されていますので、その中で将来への話は検討すると思いますが、フェローという立場でお話しできれば。

 自分が委員長の時には今のCEDECというものを考える必要があった。会場を大きくする、色々なイベントを行ない、参加者へのメリットを増やそうとしました。これはある程度実現できたのではないかと思います。今年はポスターセッションあり、招待セッションもあり、Photoshopのペイントマスターであったりとか、そういうのも今年の組織委員長が非常に頑張って実現してくれた。では私はもう一歩先の将来CEDECというものがどういう価値を皆さんに提供するものなのかなという中期的なゴールのイメージを今回お話したいと思います。

編: 吉岡さんは委員長として「お互いが高めあう場」という見解をCEDECの公式サイトに寄せていますが、松原さんはCEDECはどのような存在だと捉えていますか。

松原氏: CEDECはゲーム開発に関わる皆さんが参加するイベントです。多くの時間は講演という時間で、話す方と聞く方という風になっています。これだけを捉えると教える側と教えられる側という図に映りますが、それだけではないと思います。参加する側が自分の経験や意見を持っていて、講演者の話を聞くことによって新しい発見だったり新しい仕事に活かせる場だと思うのです。講師とインタラクティブに対話できるラウンドテーブルだったりパネルで質問やったりという道もあります。参加する側の人たちが、「こういう風に役立てることができた」という話が聞こえてくるような場が増えればよいなと思います。

 CEDECは時間軸では3日間だけのイベントです。でも準備はものすごくかかっています。組織委員会はCEDECが終わってホッとしたらまたすぐ次の準備に取りかかるので、年がら年中CEDECでした。皆さんにとっては365分の3です。これをちょっと広げたい。参加するほうも365分の365にするのにはどうしたらよいか。ただ何が何でもやれということになると、運営側もリソースは少ないしお金も無い。

編: CEDECの分科会を作るという流れですか?

松原氏: それも1つの可能性かもしれません。まだまだ議論しなければならない。GDCとの明確な違いは、GDCは企業が運営を行なっている。CEDECは業界団体のCESAが主催しているということです。お金も人もないところをなんとかやっている。組織委員会、アドバイザリーの皆さんは、会社の仕事が終わってから活動に参加しています。

 参加費も3日間で会員は2万円で非会員は3万円です。GDCは1,000ドルを超えます。それに比べるととても安価ですが、学生さんなどは高いなと思うかもしれない。プロフェッショナルとしてゲーム業界で働く人たちやゲームを目指す人には、ある程度応分のお金は払って頂きたい。懐事情からすると、大変に厳しい、赤字にならないかハラハラしています。赤字ではCEDECを継続していけないので、費用的なものや人的なものに対して限界があるのです。

編: 手弁当で運営されているというのは素晴らしいことではありますが、入場者数が3,000人規模のイベントを手弁当でやるのは無理がありませんか。メディアスポンサーという視点からいうと、プロモーションの部分でもったいないなと思うことが多い。手弁当でやることに何かこだわりがあるのですか?

松原氏: みんなそう思っているのではないですか(笑)。これからどうやって運営していくか、CEDECの内容もそうですが、これからの大きな課題だと思います。

編: 2年前から始まったCEDEC AWARDSですが、業界からの反応はいかがですか?

松原氏: ノミネーションから、受賞者決定のプロセスが定着してきました。参加者の増加に伴い、AWARDSへの関心も高まると思います。実施して2回目ですから、ゲーム業界全体への浸透ももっと進めないと。継続は力なりだと思います。CEDECの価値の向上と共にAWARDの価値も上がるのではないでしょうか。賞金を差し上げるわけでもなく、その方の功績に対して差し上げますので、CEDEC AWARDSという名誉を浸透させていかなければならない。過去2年間の特別賞の宮本さん、堀井さんを初め、これまでの受賞者が業界に貢献したことは明らかでしょう。これからもゲーム開発に貢献する技術へ賞を送り届け続けることが必要だと思います。

編: 東京ゲームショウの日本ゲーム大賞と並んで価値ある賞として育てていきたいということですね。

松原氏: はい。CEDEC AWARDSを立ち上げる時に、ゲーム大賞との話はありました。ゲーム大賞はゲームタイトルへの表彰ですね、一方、CEDEC AWARDSはゲームを開発する技術に貢献された方々を表彰する賞です。作った人たちもしくは組織です。ゲームタイトルそのものではなく、そこでのゲーム開発の仕事に対する賞なのだということを分けています。ですから今年1年に限らずある程度さかのぼって表彰することもあります。技術的には積み重ねが必要です。

編: 去年ようやく発表できた「ゲーム開発技術ロードマップ」についてですが、これは今後どのような展開を見せるのでしょうか?

松原氏: これもぜひ継続して発表していかなければと思います。アップデートして毎年出していきます。今年は「ゲーム開発技術ロードマップ」のセッションを設けました。技術ロードマップは数年先を見越した内容です。今の技術に続くもので何をキャッチアップしておけば良いのかテーマを出そうと。「端的にわかりやすく」をロードマップのコンセプトとしているので、コンパクトな形でお伝えしています。それを見て、ゲーム開発に関わる方が自身で調べ、身につけて欲しいと思います。

編: 将来CEDECはどのようになれば良いなと思いますか。

松原氏: 理想論ですが、ゲーム開発者が情報を求めたり知識を求めたり交流することというのが、いつでもどこでも実現できるようになれば良いですね。そういうことを提供することがゲーム開発者の実力を高めることに繋がるのではないか。CEDECは3日間のカンファレンスですが、それを広げることによって、ゲーム開発者が必要なときに必要な情報を、人とゲーム会社同士を結びつけることができる場になればいいと思います。

編: 最後にCEDECに参加されようとしているデベロッパーの皆さんと、業界を支えているゲームファンの皆さんに一言お願いします。

松原氏: ゲーム開発者の皆さんにお伝えします。3年間CEDECはさまざまな検討を加えて形を変えてきました。これからも形を変えていきますけれども、あらゆるゲーム開発者の方が集って、必要な情報や必要な知識をお互いに交流して、人間関係を作って、より良いゲーム開発ができるような場所を目指して頑張っていきたいと思っています。横浜でお会いしましょう。

 そしてゲームをプレイして楽しんでいただいているファンの皆様へお伝えします。CEDECがファンの皆様に直接何か届けることはあまり多くないと思いますが、開発者は日々頑張っているんだということをぜひ知っておいて頂きたい。変わっていく環境の中でどうすればもっと新しい楽しみを提供できるか、お客様のニーズに応えられるかを常に頭の中で考えています。それをもっと発展させるためにはゲーム開発者が抱えている課題や想いをお互い出して、そこに対して意見を言い合ったり議論をしたり切磋琢磨するのが1番解決に結びつくことだと開発者は考えてこのようなカンファレンスを実施しているのです。ここで培われたことが皆様が遊んでいるコンテンツの中に集約されていくものだと思ってください。そういう場が活発に行なわれている、日本のゲーム産業がますます元気になるよということでコンテンツを楽しみに待っていてください。

編: ありがとうございました。


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(2010年 8月 25日)

[Reported by 中村聖司]