インタビュー
「World of Tanks」プロダクトディレクターThaine Lyman氏インタビュー
アップデート9.18は「大成功」。今後はランク戦やマップのHD化に注力
2017年6月2日 07:00
Wargaming.netエグゼクティブインタビュー最後の1人は、「World of Tanks」のエグゼクティブプロデューサー兼プロダクトディレクターのThaine Lyman氏。もともと米国を代表するゲームメーカーであるActivisionで「Call of Duty」シリーズ等のプロデューサーを務め、開発部隊を束ねるVPまで上り詰めた人物で、プロダクトとしては2014年の「Destiny」を最後にActivisionを離れ、2016年よりWargaming.netにジョインし、「World of Tanks」のエグゼクティブプロデューサーとして、同作の舵取りを担っている。
2017年1月からは「World of Tanks」プロダクトディレクターとして、引き続き開発トップを務めながら、各リージョンとの橋渡し役も担っており、「World of Tanks」ではもっとも重要な人物の1人と言っていい。
今回はLyman氏にプロダクトディレクター就任後初めてインタビューする機会に恵まれた。限られた時間だったため、あまり多くは聞けなかったが、過去最大規模のアップデートといわれるアップデート9.18を軟着陸させたことに手応えを感じ、ユーザーの意見と共に、データも重視する姿勢を明確にしていたのが印象的だった。
BONGFISHとのコラボレーションは大成功。今後も引き続き協業関係を維持
――Lymanさんとは初めてインタビューさせていただくが、「WoT」とのこれまでの関わりを教えて欲しい。
Thaine Lyman氏:今年の1月から現在まで「World of Tanks」のプロダクトディレクターを担当している。以前はエグゼクティブプロデューサーとして関わってきた。プロダクトディレクターはWargamingでも新しい役職だが、なぜ必要になったかというと、会社が大きくなって、グローバル規模になると様々な意見が出てくる。アップデートについて、地域によっては歓迎されたり、逆に一部の地域では賛同を得られなかったりする。開発と各リージョンとの間で意思疎通を図る必要が生じてきたので私のような役職の人間が生まれた。「WoT」には、社内に様々な役職のスタッフがいて、様々な意見が出てくるが、最後に問題を解決する役割。私の仕事は同じ方向を進んでいるということを示すことだ。
――現在「WoT」の開発はミンスクと、BONGFISHにわかれているが、どういう切り分けになっているのか?
Lyman氏:依然としてメインで開発しているのはミンスクだ。「WoT」はそこから始まっているので、引き続き様々なアップデートが企画されたり、開発計画が組まれている。BONGFISHとはミンスクの開発チームと密にやりとりしながら、アップデートの開発の一部を割り振る形で協力して開発に取り組んでいる。特定の何かを担当しているというわけではなく、2つで1つの開発チームとして動いている。この2つの会社については、非常に良いパートナーシップが結ばれていて、お互いがお互いのオフィスまで足を運んで打ち合わせすることもあるし、開発者同士のスキル交換が行なわれている。ミンスクオフィスでは「1ゲーム、1チーム」というフレーズを大事にしているが、現在はBONGFISHも含めて1つのチームとして一丸となれるよう心がけている。
――両社のコラボレーションは今後も続くと理解していいか?
Lyman氏:もちろんだ。現在、BONGFISHがメインで開発している「フロントライン」は非常に好評だし、その開発が終了した後も、彼らの助力が得られればと考えている。
――アップデート9.18の過去最大規模のアップデートだったということだが、実装してその手応えはどうか?
Lyman氏:とてもいい。9.18はこれまでで史上最大のアップデートだったが、アップデートして多くの人からポジティブな声や意見を聞くことができた。特にマッチメイキングについては長年不満の声が挙がっていた要素だったので、アップデートした直後から、ポジティブなフィードバックをいただけた。大成功だと思っている。ただ、何事もそうだが、完璧なものはなく、常に改良、改善の余地があるので、今後も油断せずフィードバックに耳を傾けていきたい。
軽戦車については、実はテストの段階で若干オーバーパワー気味の調整で、ユーザーの間で実装が楽しみにされていたが、我々としては楽しみにしていただくのは喜ばしいことだが、バランスが崩れてしまうのは問題なので、実装時にはバランス調整させていただいた。結果としてテストの車輌とは別物になったため、困惑、不満の声があがってしまった(笑)。ただ、我々としては、だからといって導入直後からバンバン変更を加えるのではなく、TierX軽戦車の特徴や使い方、システムへの慣れも重要で、ユーザー自身もアップデートに馴染んでいくことで意見の信憑性が増すという側面もあるため、すぐさま変更を加えるつもりはない。フィードバックを元に、その戦車の成績やデータを見ながらじっくり調整を加えていきたいと考えている。
そして今回、もっともインパクトがあったのは自走砲だと考えている。以前から好きな人は好きだし、嫌いな人は嫌い。今回のアップデートも好印象の人もいれば、前に戻せという声もある。それから相変わらず「自走砲をまるごと削除しろ」と騒いでいる人もいるね(笑)。ただ、全体的にはかなりポジティブな改良になったと感じている。今後も30日単位で、よりよい調整をしていきたい。私としてはようやく9.18の実装が一段落ついてホッとしているところだが、9.19に向けてより多くの改良、修正、アップデートが予定されており、まだ気を抜けない。
――一部の課金戦車は、明らかにオーバーパワーのものが増えてきているように感じているが、プレミアム車輌のバランス調整はどのように考えているのか?
Lyman氏:もちろん、我々のほうでバランスを吟味して出しているか、それが意図したバランスになっているとは限らない。そういったズレをできるだけ減らすために、事前にコントリビューターやスーパーテスターに使用して貰いながら意見の交換をしている。原則として、一度販売したプレミアム車輌は、ユーザーはお金を払って購入したものなので、我々としてはできるだけ弱体化したくない。それはユーザーに対する裏切り行為だし、詐欺みたいな話なのでやりたくない。
大前提として、基本プレーヤーが積極的に自分の意見を言うのは問題ないと思っている。ただ、プレーヤーの意見がすべて正しいとは限らない。そこで我々として重要視しているのは、すぐ結論を下さないこと。事前のテストで分かることも多いが、テストは実際のサーバーとは環境が違うことも多いので、いつもとは違ったプレイをする人は多い。実装後に急いで修正はせず、ロングスパンで見て、確実性のある数字を元に修正を加えるようにしている。
その上で、現在は、プレミアム車輌の販売については、なぜ追加するのか、どういうものを追加するのかについて、プレーヤーの意見のもとに話し合いながら、ユーザーの考えを理解しながら作るようにしている。その上で、プレミアム車輌について我々の考え方を理解して貰いながら透明性の高い状態で出していきたいと思っている。
――9.19で実装が予定されているランクバトルについて、楽しみにしているコアユーザーも多いと思う。基本仕様を教えて欲しい
Lyman氏:シーズンに分けられており、1週間単位で実施され、週の終わりごとに報酬が用意されている。4週間連続で行なわれ、成績によってランクが上がったり下がったりする。6月に最初のシーズンが実施される予定で、6月はβシーズンで、ペースや経験値、通貨の量が適切かどうかをチェックしていく予定だ。
――ゲーム内容は現在の15対15のランダムバトルなのか?
Lyman氏:そのとおり。ただし、TierXになる。インチキが行なわれないように、1日のうちでピークアワーだけオープンする形になる。人が少ない時間帯もオープンにすると、そこを狙って意図的にマッチングが操作される可能性があるので、そのようなことがないように時間を限定したいと思う。過去にもクランウォーズ等のノウハウがあるので、それを活かしてよりよいものに実装したい。報酬として獲得できる新しい通貨「BONDS」は、新しい装備品とディレクティブに使用できるが、今後は使い道も増やして行きたいと考えている。