インタビュー
「namcoアーケードゲームマシンコレクション」開発者インタビュー
秘蔵の資料をもとにした、妥協なしの1/12筐体フィギュアが完成
2016年10月13日 00:00
FREEingから2017年1月に発売が予定されている「namcoアーケードゲームマシンコレクション」。バンダイナムコエンターテイメント(以下、BNE)がかつてナムコだった1980年代にリリースされた人気アーケードゲームのアップライト筐体を、1/12スケールで忠実に再現したミニチュアフィギュアで、今年2月のワンダーフェスティバルなどで試作品がお披露目されて以降、レトロゲームファンなどを中心に話題を集める新製品だ。
ゲームの筐体ミニチュアは、近年では各社から発売されていて、それほど珍しいアイテムではなくなったが、そのほとんどが最近のゲーム筐体をモチーフとしていた。その中でこの製品は1980年代のゲームというレトロなチョイスで、さらに形としてはかなりマニアックな日本国内向けのアップライトタイプのデザインで立体化されている。
本製品を企画したのは、「シューティングゲームヒストリカ」シリーズや「メガドライブメガトロン」などのゲーム関連製品を手掛け、現在はFREEingに所属する依田智雄氏。本製品と並行してfigmaの「アイアンフォスル」を企画するなど、FREEing移籍後もゲームキャラクターの立体化に精力的だ。
そしてBNEで本製品を監修しているのは、系列会社のバンダイナムコスタジオ(以下、BNS)に所属する指田稔氏。ヘッドアートディレクターとして「百獣大戦アニマルカイザー」、デザイナーとして「タイムクライシス5」「ポッ拳」など、同社の人気ゲーム作品を手がけるかたわら、ナムコブランドにおける過去コンテンツの資料や素材などの発掘、保存作業を行なっている人物である。
今回この2人にインタビューを敢行し、1980年代アーケードゲーム筐体をフィギュア化するに至るまでの経緯や開発秘話を、指田氏がこの企画のために用意した1980年代ナムコゲームの貴重な資料とともにお届けしたい。
テレビゲーム黎明期を経験したゲームファンの心に残る作品をチョイス
――まずは、この「namcoアーケードゲームマシンコレクション」という、1980年代アーケードゲームの筐体をミニチュアフィギュア化するという企画の経緯からお聞かせいただけますか。
依田氏: 新しい企画を考えたときに、現在のホビーのメインストリームとして1/12フィギュアが大きく地位を占めているわけですが、単純にキャラクターのフィギュアを作るだけならどこでもやっているので、最近各社が力を入れている、1/12フィギュアの周りで楽しめるアイテムを作れないかと考えたんです。
そこで思いついたのが、過去に手掛けたことのあるゲーム機のミニチュアだったんですが、1/12スケールならばアーケードゲームの筐体がサイズ的にも面白そうだと思ったんです。
――数あるアーケードゲーム筐体の中で、なぜこのアップライトタイプの形状で、さらにナムコさんの作品を選んだのでしょうか?
依田氏: 筐体のミニチュアは他社さんからもいくつか発売されていますが、そこでまだやられていなくて、ビジュアル的に面白いというのが理由でしたね。1980年代のアップライト筐体って、国内外の製品とも凄くグラフィカルで見栄えがするんです。構造自体はそれほど複雑ではないので立体化がしやすく、さらにナムコさんの筐体は複数のバリエーション展開ができるということもありましたね。
この年代のナムコさんのゲームって、1番最初にテレビゲームを遊んだ世代の人達の心に残っている作品が揃っていて、「ギャラガ」などは今年35周年ですから、それを盛り上げる意味も込めて、BNEさんに許諾をいただいたというわけです。
――そこで指田さんはこの企画には、どのような経緯で関わることになったんでしょう?
指田氏: 今回の企画の場合、BNEの通常のIPにおける監修とは若干性質が異なるんです。「1980年代当時の筐体を精密に再現する」というコンセプトでしたので、キャラクターがイメージ通りに作られているかどうかの、一定クオリティのクリア型の監修とは違って、オリジナルと寸分違わないような正確な監修が求められるんです
当時の開発資料はBNSで現在アーカイブ化を進めていて、なるべくオリジナルに近い開発資料、または現物が残っていればそれをこちらで用意しつつ、デザイン面や色の指定などの細部の監修を私が担当させていただくことになりました。
――そこで用意されたのが、(目の前に広げられた資料を見て)これらの資料なんですね。
指田氏: はい。例えばこれですと(図面を広げて)、当時の図面の青焼きですね。現在図面は全てCADで作っていますが、当時は全て手書きの紙の図面なんです。ここにある形やサイズ、色指定などをもとに、製品を設計していただくわけです。
――図面があればかなり正確なものが作れますね。
指田氏: 図面から製品化されるまでに、細かな仕様変更があったりするんですが、基本的には正確なものが作れると思います。汎用筐体の場合、基板とマーキー(筐体上部の看板部分)、コントロールパネル、ステッカーなどをセットにした「改造キット」として新しいゲームを販売していたこともあって、現存するもので確認したりすると、コイン装置やモール(筐体左右の板の断面に施される塗装)の色などが前のゲームのものだったりするので、そうするとそれぞれのゲームの「初期出荷状態」とは違うものになってしまいますから、図面の指定があれば、正確な形や色が再現できるはずですね。
――初期出荷状態の完全再現にこだわられたんですね。
依田氏: 公式に監修をしていただくわけですから、そこはできる限りプレーンな初期出荷状態にはこだわりたかったんです。それによって資料的な価値も上がりますからね。
筐体の実物が現存しない「ギャラガ」は、再現までには特に苦労した
――この5タイトルというのは、どのようにして決まったんですか?
依田氏: 企画にあたって事前に調べてみて、実機で存在することが確認できて、なおかつ資料が集められそうなタイトルを選びました。実はこの他にも「マッピー」など、新たに存在が確認された筐体もあったんですが、資料が見つからなさそうなタイトルは省いたんです。
指田氏: 今回のタイトルの中でも、「ギャラガ」は特に難儀をしたんですよね。図面の指定を見てみるとモールの色は「ギャラクシアン」と同じ緑で指定されているんですが、チラシを見てみるとオレンジなんですよね。「ギャラガ」の筐体自体も、調べた範囲では国内に初期出荷状態と断定できる物は現存していなくて、誰も色についての仕様は記憶していませんでした。さらにこのこのチラシに写っているのは、実機ではなく模型なんですよ。
――ええっ、そうなんですか!? 実機にしか見えませんが……。
指田氏: (かたわらのダンボールを開けて)その実物がこれなんです。デザインの検討用に、開発前にこういうミニチュアを作って社長承認を受けたりしていたんです。結局「ギャラガ」については、どれが正解なのかわからずじまいだったのですが、世に1番知られているのは「ギャラガ」の筐体はこの色だろうと判断して、モールはオレンジ、コイン装置は紫色に決まりました。
依田氏: バリエーションとして「ギャラガ」と「ギャラクシアン」は別の色のほうがいいという、商品的な判断もありましたね。
指田氏: でも最近海外のマニアの人から「ギャラガのコイン装置はベージュ色だ」なんていう連絡もあったんですよ(笑)。海外の方でも、日本版の筐体をコレクションしていたりするので、意外に情報は侮れないんですけどね。
――コイン装置周りの色がタイトルによって違ったというのは、当時も気付かなかったです。
指田氏: 普通はなかなか意識しないですからね。その横のスピーカーの位置などもゲームによって違いますので、それも反映していただきました。
BNEは単純な「監修」だけでなく「協力」に近い密なやりとりを行なった
――FREEingさんとBNEさんの監修のやりとりは、どのような手順で行なわれたんでしょうか?
依田氏: こちらとしては企画の申請と並行して、BNEさんから資料を提供いただく前に、「パックマン」を作った岩谷徹先生に協力いただいて、先生の研究室に置かれているアップライト筐体を採寸させていただいて、見積もり用のサンプルを制作したんです。それを後に指田さんからご提供いただいた図面と比較してみると、細かな部分で形が結構違っていたので、図面に合わせて作り直すことで、今の形に近いものになりました。
指田氏: 各種資料に関してはこちらでアーカイブ化しているんですが、図面は筐体を設計する部署が管理しているので、あるかどうかも分からなかったのですが、捜索してもらってなんとか見つけてもらいました。
依田氏: そうしてご用意いただいた図面をCADで新たに起こし直したり、ロゴやイラストなどの資料をトレスしたりするという流れですね。
――公式許諾された商品とはいえ、ホビーメーカーとゲームメーカーがそこまで密にやりとりするような機会は、あまり例がないのでは?
指田氏: 確かにそうですね。この商品のコンセプトからして、できあがったサンプルを見て「いいね」だけでは済みませんから(笑)。どちらかというと「監修」というよりは、「協力」に近かったのかもしれませんね。
ナムコブランド50年の歴史を切り取って世に残す、資料的価値も高いミニチュアに
――完成したこのサンプルをご覧になって指田さんはいかがでした?
指田氏: 想像以上に完成度が高かったです。特にこうして複数並べると凄くいいんです。この時代の素材をここまで情熱を持って追いかけられるのは、依田さんぐらいの世代のゲームファンじゃないと、恐らくできないですよね。
依田氏: 幸いなことに僕の周りに、指田さんも含めて当時の情報を持っている方がたくさんいらしたことも大きかったです。例えば「パックマン」のマーキー(筐体上部の看板)などは実物がBNEさんにもなくて、写真ではわからない部分が多かったんですが、たまたま知り合いに持っている方がいて、その方に写真を送っていただいたことで正しい形にすることができたんです。この機会を逃すと、もう立体化の機会はないかもしれないので、上手く形にできたのは本当によかったと思います。
指田氏: 言っても40年前のものですから、資料も今後散失していくでしょうし、こういう形でしっかり残すというのは大事ですよね。「この時代にこういうものがあった」という、当時の時代背景込みで興味を持ってもらえると、その記憶が受け継がれていくような気がするんです。だからこういう形で残るというのは、私としては凄く理想だと思っています。
依田氏: 日本のゲーム文化の中で、アップライト筐体はそれほど強く印象に残るものではなかったので、どんな反応があるかは発売してお客様に手にとってもらえるまではわからないんですが、こうやって形にできて、セールス的に何かしらの反響があれば、また次につながるかもしれませんからね。
――現在ショップなどで予約が始まっていますが、手応えはいかがですか?
依田氏: 国内では予想上の反響がありまして、受注も順調です。
――ちなみに現状で人気があるのはどれでしょう?
依田氏: やっぱり「パックマン」は人気が高いですね。それに続いて「ギャラクシアン」と「ギャラガ」です。
――パッケージはどのようになるんですか?
依田氏: ゲーム画面をイメージできるような黒色をベースにしたウィンドウボックスになる予定です。完成品ではありますが、横のステッカーはお客様に貼っていただく仕様になります。
――ユーザーさん独自の改造や、塗装なんかをする人も出てきそうですね。
依田氏: メーカーとしては推奨しませんが、いらっしゃるでしょうね。構造が比較的単純で、コントロールパネルやマーキーは透明なクリア素材だということを仕様としてお知らせしておきます(笑)。
――来年1月の発売までまだ少しありますが、本製品を楽しみに待っている方にメッセージをいただけますでしょうか。
指田氏: 遊び方としては、ただ置いておくだけでも格好いいんですが、イスやゴミ箱など、ゲームセンターにある小物と絡めると途端に引き立つんですよ。ここまで精密だと、情景的にも凄く楽しくなるんですよね。
弊社はVRをはじめ、最先端の技術を駆使したコンテンツの開発を手掛ける会社ですが、ナムコ時代からの50年にわたるゲーム開発の歴史をこれからも大切にしていきたいと考えています。そんな歴史の一部をこういった商品という形で残していただけるのは個人的にも非常に嬉しかったです。ぜひ全種類揃えていただいて、資料としての価値も含めて楽しんでいただきたいですね。
依田氏: 先ほどもお話ししましたが、メーカーとして協力いただいた指田さんをはじめ、多方面の方のご協力があって実現した企画であり、この場を借りてお礼を申し上げます。
指田さんが仰った資料的な価値とともに、インテリア的に部屋に置いておくだけでも楽しめる、おもちゃやフィギュアの枠を超えたデザインになっているので、普段フィギュアを買わないような方にも、ぜひ手にとっていただきたいと思っています。発売を楽しみにしていてください。
――ありがとうございました。
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.