インタビュー
【特別企画】当時の最先端、「バーチャファイター」をfigmaに!
“ポリゴン感”を思い入れを込めて再現した開発者インタビュー
(2016/3/11 16:50)
FREEingはアーケードゲームとして1993年に登場した「バーチャファイター」をアクションフィギュア「figma」にした、「figma 結城晶」、「figma サラ・ブライアント」を9月に発売する。それぞれの2Pカラーver.も同時発売となる。
「バーチャファイター」はキャラクターやステージを全て“ポリゴン”で表現した業界初の“3D対戦格闘ゲーム”である。「ストリートファイターII」から始まった2D格闘ゲームでは表現できなかった3D空間での新感覚の戦いはゲーマーを強く魅了した。そして、板を組み合わせて人体を無理矢理再現したようなその表現は、当時の技術の“最先端”でありゲーマーのみならず、新しい技術・文化として様々な人に強い衝撃を与えた。
その、当時のポリゴン表現のキャラクターをアクションフィギュア化するというのは非常に面白い試みである。何より当時の思い入れを持つ人にはグッとくる。繊細な美少女キャラクターに比べると表現はかなり楽なのか? それとも意外と難しいのか? という興味も惹かれるし、何よりこういったユニークな企画は応援したい、ということで、今回は試作品を前に、プロダクトプランナーの錦織敬樹氏に話を聞いた。
ゲーム内の9割の技を再現可能! 技のポーズに注力したアクションフィギュアに
今回見ることができたのはそれぞれの2Pカラーver.だ。晶は白い道着、サラはチューブタイプのセクシーなコスチュームにダメージジーンズ姿。1Pカラーとは印象が異なるが、晶はもちろん、サラも彩色での変化だという。チューブタイプの上半身の衣装も胸のブロックの塗装で再現している。
やはりこのfigmaの注目ポイントは板を貼り合わせたようなある意味“荒々しい”人体の表現である。木彫りの人形のような雰囲気もある。顔部分にベタリと貼り付けたような目や口は、子供の絵のような独特の味がある。晶のはちまきやサラのポニーテールもカクカクしていて楽しい。
「当時のポリゴン表現はこれが精一杯だったんだなあ」と感心させられ、そしてこのゲームに夢中になった当時を思い出す。サラの膝蹴りは痛かったなあとか、晶の技はどれも単発でコマンドが複雑で、主人公キャラなのにマニアックだよなとか、セガサターンで「バーチャファイター」が出たときは興奮したよね……等々、figmaを見ているだけで様々な思い出が浮かび上がってくる。フィギュアをいじりながら、思わず錦織氏と雑談したくなってしまう。「バーチャファイター」に夢中になっていた“あの頃”を語りたくなる。
実はこの造形はかなり苦労したと錦織氏は語った。「製作を決めた当初は、造形的にはシンプルだし、工場側も手間もかからないだろうと思っていたんです。しかし実際にやると全然違いましたね(笑)。“ポリゴン感”とも言うべき、シャッキリした感じ、独特の質感は、これまでのフィギュア造形とは全く違う技術を要求されたんです。少しでもだるいとポリゴンに見えないんです」。
そう言われてみてみると、確かにこの質感表現は素晴らしい。眺めてみるときの“影”の表現もいい。「バーチャファイター」は光源処理でポリゴンによる影を強めに表現していたが、その影を彩色で表現するかも苦労した部分だという。しかし実際に造形してみると、影の落ち方が原作に近く、改めて「バーチャファイター」の光源処理の“正しさ”が確認でき、錦織氏は感心したとのことだ。
そしてアクションポーズである。3Dグラフィックスのキャラクターのポーズは所々に“嘘”がある場合もある。関節を曲げるとパーツとパーツがめり込んだり、現実では不可能な処理ができてしまうのだ。しかし錦織氏は「できることならゲームの全ての技をfigmaで再現したい」という目標で設計した。そのため無彩色の試験用モデルを作り、軟質素材の使用、関節のすりあわせなどを試していったという。この試験用モデルは「バーチャファイター」のボス敵「デュラル」を思わせて面白い。
完成品は素材なども変わってくるが、80~90%の技を再現できるモデルになったとのこと。サラの膝や晶の肘を突き出したシャープな造形を再現するにはかなり深く関節を曲げなければならないが、そこもきちんと再現できる。鉄山靠の様な複雑な技のポーズも資料などを見てきちんと突き詰めて欲しいと錦織氏は語った。
セガの担当者からは外見の監修よりも、技のポーズの監修の方が厳しく、その分ポーズ再現に注力したフィギュアになっているとのことだ。現在の試作品は“デコマス”と呼ばれる硬質のPVCに彩色を施したものだが、実際のfigmaは軟質部分が多くなり、より柔軟な可動を実現できるとのことだ。
オプションパーツとしてはいくつかの手首と、表情を変えた頭部が付属する。実は初代「バーチャファイター」のキャラクターは手はほとんどが“拳”だったのだが、実際にポーズをとらせたときのユーザーのイメージを優先して、平手パーツも用意した。さらにプレイバリューも考え、武器などが持てる“握り手”も同梱される。
直立ポーズはゲームの中では見られない姿だ。ゲームを超えたポーズができるのはfigmaの楽しさである。ポリゴンのキャラクターはゲーム世界に自分が迷い込んだような独特の“異世界感”を感じさせる。「バーチャファイター」が流行ったとき、様々なキャラクターが“生ポリゴン”になってしまうコミックやイラストが流行ったような記憶もある。本商品がヒットすれば、今後様々なキャラクターをポリゴン化させてしまうような展開も生まれるかもしれない。
「figma 結城晶」、「figma サラ・ブライアント」の商品見本写真で特に面白かったのがウェーブのゲーム筐体のミニチュアとのセットの写真だ。サラの大きく開いた口がゲームにエキサイティングしてるようにも見えて、現実とゲーム空間が混じり合うメタ的な面白さもある。美少女キャラと絡ませたり、他のゲームキャラをボコボコにしたりと、プレイバリューも大きく広がるのではないだろうか。
個人的に面白かったのは晶のはちまき部分の処理である。一部はちまきから髪の毛部分が飛び出しているのだ。コレは設定状の正確な表現のようなのだが、ちょっと「ポリゴン欠け」のようにも見えるのだ。3Dグラフィックス自体が珍しく、ポリゴンの描画が追いつかないこともあった。こういった不安定な部分も感じさせるのも味わいとして楽しい。
何よりも、「figma 結城晶」、「figma サラ・ブライアント」はやはりポーズをとらせるのが楽しいアクションフィギュアだ。筆者の家の本棚には探せば当時の技が描かれたゲーメストのムックもある。これらを引っ張り出して技を再現するのも楽しそうだ。小さな技から派手な技まで、色々な技を試したくなるし、どの技で飾っておくか迷う。頻繁にポーズを変えたくなる商品だと感じた。
当時の資料も集め、デジタルと手によるハイブリットな手法で造形・質感を追求
この企画は実は様々な苦労があったという。この企画は、錦織氏とセガの担当の間で「そういえば『バーチャファイター』やってないね」という話で盛り上がったのがスタートだという。「アニバーサリーとか、記念しては実はここ数年間の話で、そういう機会を活かしたんではないんですね。ただ、僕らと同じようなゲームに思い入れを持つ世代の方には受けるかな、という手応えはありました」と錦織氏は語った。
製作にあたり錦織氏達は様々なデータを集めた。そしてそれらの資料を参考にモデリングを行なっていった。デジタルデータを作り込むと共に、手作業でも磨き込んでいった。フィギュアは「デジタル造形」と手で作る「手原型」といわれるものがあるが、本商品はどちらの手法も盛り込んだハイブリッド的な手法による原型になったという。
また、できるだけデータの質感、デザインを活かしながらも“完全再現”ではなく、アレンジした部分もある。特にサラはオリジナルそのままではゴツ過ぎてしまい、女性らしくすらりとした足にしたり、肩幅なども調整しているという。顔に関してはオリジナルは平面にテクスチャーではなく、ポリゴンを貼り付けて再現している。これもオリジナルはシンプルすぎて少し“怖かった”ので、調整を加えているとのことだ。
「開いた手の付属もそうなんですが、当時のデータそのままがユーザーさんが持っている『バーチャファイター』じゃないんですね。アーケードとサターン版では違うし、人によっては『2』と混同している人もいる。私自身晶の1Pカラーが黒い道着なのを確認して驚きました。はっきり覚えているようで、以外と記憶があやふやな部分もある。その中で、『バーチャファイターらしさってどこだろう』という想いを追求して作りました」と錦織氏は語った。
キャラクターの選択も悩んだ部分だという。主人公キャラクターとしては晶だが、女性キャラクターはパイも有力だった。その中で錦織氏は周りの人に話を聞いてサラに決定した。女性らしいデザインに、シャープな技、動きが出せるポニーテールなどお気に入りポイントが多いとのことだ。
「figma 結城晶」、「figma サラ・ブライアント」は現在の試作品から軟質素材の活用でさらに磨き込まれていく。セガの担当者と話をしていく中で、技へのこだわりは深くなり、錦織氏は試作品の展示の際、回を重ねるごとに技の再現がうまくなっていったという。「鉄山靠のポーズの付け方」などを公式ページで紹介するのも良いかもしれない。昔のゲーム誌のような“技表”も資料として公開して欲しいと感じた。
「サマーソルトが以外に難しいんですよ。figmaはデフォルトで台座が付属しているので空中でのポーズは再現できるんですが、1体だと盛大にずっこけている様にも見えてしまう。やはり“やられ役”があってこそビシリと決まる。……要するに『2体以上買ってくれた方が楽しいですよ』って事でして(笑)」と錦織氏はコメントした。
今回見ることができなかったが、「figma 結城晶」、「figma サラ・ブライアント」にはゲームのステージをイメージしたシートが付属し、台座とフィギュアの間に挟み込むことができる。これにより、ゲームのキャラクターがステージに立っている雰囲気を演出できる。また、ポスターを作った際は3Dの立体物なのに想像していた以上に「バーチャファイター」発表当時のゲームのポスターらしく仕上げられ、改めてポリゴンモデルの光源処理の正確さに驚かされたという。
「バーチャファイター」をfigma化するというのは、これまでありそうでなかったコンセプトである。弊誌のようなゲームがメインの媒体の読者は強い関心を示し、GAMEWatchでも本商品のニュースは「週間アクセスランキング」で上位になった。しかし錦織氏は誤算だった部分もあるという。
それは「原作を知らないユーザーの取り込み」だ。他のfigmaやフィギュアは原作となるキャラクターを知らなくても、かわいいから、カッコイイから、と手に取ってくれるユーザーがいる。しかし「バーチャファイター」のポリゴンそのままのモデルは、原作や背景を知らない人には、ちょっと不気味で、何を再現しているかわからないというのだ。もちろんこの商品が世に出なくては正確な評価はわからないが、現時点では「バーチャファイター」のシリーズは晶とサラのみで、今後の予定は白紙だという。本商品が好評を得て、ラウやウルフ、ジャッキーといった他のキャラクターの商品化の可能性も生まれるとのことだ。
ただし、“ポリゴン化”という手法を学んだことに錦織氏は手応えを感じているという。「これまでのゲーム化の商品はゲーム最初期のドット絵のシンプルなキャラクターやメカを“解像度を上げた”形で立体化したり、現在の優れたグラフィックス表現を凝った造形で再現するのが主流でした。『バーチャファイター』のような、若い人から見たらレトロなゲームはまだ立体化されていないことも多い。きれいなだけじゃない、リアルなだけじゃない、ドット絵をそのまま再現したフィギュアのように、荒いポリゴンそのままのキャラクター表現というのは、まだまだ可能性があると考えています。今回の商品で業界に何らかの波紋が与えられればとも思っています」と錦織氏は語った。
今回の取材ではやはり「バーチャファイター」の思い出話で盛り上がった。錦織氏にとって思いで深いのはセガサターン版で、高校生の時にサターンを買った友達の家に集まり、一晩中大戦大会をしたという。使用キャラはジャッキーと影丸で、サターンで力をつけたと思っても、ゲームセンターでは瞬殺されてしまっていた。他のゲーム以上に短い勝敗の時間に限られた小遣いが一瞬で消え去る悲しさと、だからこそ生まれる負けたくない気持ちで強い思い入れを持ったとのことだ。
錦織氏はクリエイターとしてユニークなモチーフに挑戦し続けている。最近の作品は「figma ミロのビーナス」、「figma ダビデ像」に挑戦している。石膏像を可動フィギュア化する独特のテクニックを積み重ねているという。アニメキャラクターや、ロボットなども手がけながら、1/4の大型フィギュアの企画も担当している。次回作としては映画のキャラクターのfigma化もしており、今後に期待して欲しいと錦織氏は語った。今回のポリゴン化のテクニックも今後の作品に活かされていくだろう。
最後にユーザーへのメッセージとして錦織氏は、「これを買いたいと思ってくださるのは僕と同世代の、アーケードやサターンで『バーチャファイター』に夢中になっていた方だと思います。手にとっていただければ、今後もこのラインが充実するかもしれません。購入した方はぜひ面白い遊び方をして、ネットにアップして話題にしていただければうれしいです」と語った。
(C)SEGA
※画像は試作品のため実際の商品とは異なります。