「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ

ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第31幕】

イタヲタのレトロなゲームライフ~ジョン・カミナリのハプニング満載オタク人生~

僕のゲーマーとしての人生を懐かしさたっぷりで語っていきたい。毎回、特定の時代をセレクトして、自分の記憶への冒険をしたいと思う。最終的には1つのストーリーになる。僕というオタクのストーリー。僕という和ゲー好きゲーマーのストーリー。文章だけでなく、クライマックスのシーンをもっとダイレクトに伝えるために漫画も使うことにした。とにかく、日本ではありえないシチュエーションについてたっぷり語っていくぞ!

今回の時代設定:
1987年
イベント:
ローマの近くの海の町で、夢のようなゲームセンターを発見!
ハプニング:
そこでフェラーリを思わせる大型筐体と出会う!

 11歳の頃の思い出。クリスマスプレゼントとしてお父さんが買ってくれたファミリーコンピュータ、Commodore 64で、幼なじみのクリスティアーノと毎日楽しく遊んでいた。

 ある時は、テキストアドベンチャーで「Go North」をキーボードで打ちながら最初の英語を学び、またある時は、インベーダーゲームやプラットホームゲームでスコアを競っていた。宿題の後、お母さんに「ゲームで遊んでいい?」と訊くのが日課で、許可をもらったら、クリスティアーノに「遊びに来ない?」と電話で誘っていた。

 当時のローマのあらゆるバール(コーヒーやカプチーノなどの飲食類を注文できるイタリアの喫茶店)にはアーケードゲームが設置されており、ゲームを愛していた僕達にとってはとても魅力的な場所だった。お母さんに「ミルクを買ってきて」と頼まれる時は、すごく喜んでいた。

 何故なら、おつりを使って家の近くのバールに届いた筐体で遊べたからだ。逆に、「ミルクはまだある?」とお母さんにわざわざ訊きに行く日もあった。バールにミルクを買いに行く度に、新しいゲームが届いているかなと、いつも期待感があった。

 つまり、牛乳のおかげで1つまた1つと、新しいゲームを遊ぶことができた。当時、日本の存在もあまり知らず、ゲームの生産国を気にすることなく遊んでいた。しかし、知らないうちに自然に、日本のゲームに興味を持っていった。独特なゲーム性や可愛いらしいドットキャラクターが僕の心を独占していった。

 当時の僕は、日曜日になると必ずと言っていいほど、お父さんにこう懇願していた。「お願い! 遊園地に連れて行って!」。おそらく、世界中の子供の誰もが、父親にその願い事をしたのだろう。ローマにあった唯一の大型遊園地には最大のゲームセンターがあり、そこには世界中の話題の新作アーケードゲームがどこよりも早く届いていたのだ。お化け屋敷やジェットコースターにはあまり興味が無く、僕の目当てはゲームセンターだけだった。

「ダメ!この日曜日は家で休む!」

 お父さんにきっぱり断られた。その返事を聞いたお母さんが、怒った顔でやって来る。

「また1日中テレビを観る気? この日曜日はローマの近くの素敵な町で散歩しよう!」

 世界のどの家庭でも、お母さん(奥さん)の言うことは絶対的だ。結局、僕のお父さんはお母さんの勢いに負け、「はいはい」と頷くしか選択肢はなかった……(笑)。

 ローマから50キロ離れた海の町。春だから、気持ちいい太陽と温かい空気が僕達を迎えた。遠足が嫌いな訳ではなかったが、1日ゲームから離れることはちょっと辛かった。当時、携帯ゲーム機が発売されるとは夢にも思わなかった。ゲームはゲームセンターで遊ぶものか、あるいはゲームセンターの素晴らしいグラフィックスを羨ましく思いつつ、ファミリーコンピュータの移植版で我慢するしかなかった。

 海に面したレストランでランチを食べ終えたカミナリ家の面々が、海沿いの散歩を始める。お母さんは海のほうを眺めているが、お父さんはテレビで観る予定だったサッカーの試合をラジオで聴いている。僕は歩きながら海と向かい側の建物に視線を向けていた。連なるこの建物の中に、きっと、ゲームセンターもあるだろうと信じつつ進んだ。するとゲームセンターを発見! ローマの大型遊園地のものにはかなわないが、確かにゲームセンターだ。しかも、結構大きそうだった。

「お母さん、あれ、ちょっと寄って来るね」

 向かい側のゲーセンを指差しながら言った。お母さんは僕の手を目でたどっていくと、「しょうがないね」と言わんばかりの表情を返してくる。「いいってこと? ありがとう、マンマ!」。お父さんは隣にいるが、相変わらずラジオの実況に集中しており、別の世界に住んでいるようだった。

 初めてのゲーセンに入る瞬間は格別だった。どんなゲームがあるのかなと、クリスマスプレゼントの包装紙をはがすことよりも大きな喜びを与えてくれた。入り口近くの筐体は知っている。あれも知っているな。家の近くのバールで何回も遊んだことがある。あれ? あそこに車のようなデカい筐体があるな。何だろう!

 赤い車がコントローラーになっているレースゲーム? 何これ? タイトルは……「アウトラン」。日本の有名なメーカー、セガの新作のようだ。画面を観ると、奥行きのあるリアルなグラフィックスが展開していた。車道の両側にある木々や看板がスムーズに手前に近づいて来る。何、この疾走感!? 画面に完全に見入っている状態だ。こういうゲームは初めてだ。「まるでレースゲームの革命だ!」、その瞬間、強く感じた。

 ポケットの中にある小銭を確認する。極めて少ない! 1回プレイするのに必要なお金はほかのゲームよりずっと高く設定されている。筐体が車の動きに合わせて左右に傾くから、消費電力が通常より多いのだろう。仕方が無い! でも100%遊ぶ価値はある。いや、今、遊ばなければ、ずっと後悔するだろうと直感した。

 早速、硬貨を投入して着席! 子供だから本物の車を運転する機会はなかったが、このゲームならフェラーリを運転するかのようなバーチャルな体験ができそうだ! なんて貴重な体験だろう……。ラジオに夢中のお父さんもきっとこのゲームを見ていたら、遊びたかったんだろうなその時思った。

 運転に集中できないほど、3Dグラフィックスが美麗すぎる! しかも速すぎる! 結局、あっという間にプレイ終了。小銭も終わり! ゲームオーバー! ゲームが終わっても、しばらく座ったまま、画面の映像を眺めた。「いいな、このグラフィックスのゲーム、家でも遊べたらいいな」と、想像が膨らんでいく。

「あの、遊んでいいかな?」

 後ろの声が、妄想の世界にふけっていた僕の目を覚ます。僕より年上のお兄さんが遊びたいらしい。「すみません、つい……」と言って、最愛の人に別れを告げるかのように「アウトラン」という大型筐体を心に焼き付けてから、ゲームセンターを後にした。そして、向かい側のバールで待っていた両親と合流した。

「で、ジョンちゃん、面白いの見つけたの?」
「すごいゲームを見つけたよ、マンマ! ずっと待っててくれてありがとうね!」

 その瞬間、お父さんは空に向かって、「ゴーーーーーーール」と叫んだ。どうやらローマがゴールを入れたようだった……(笑)。

 午後5時。ローマに帰るため、お父さんの車に乗り高速道路を移動している。僕の目は両側の看板や木々に向けられていた。あのゲームには、本当の車で疾走するリアルさがあったな。一瞬、目の前の光景が「アウトラン」のグラフィックスかのように見えた。

 家に帰ったら、普通のグラフィックスで我慢しなければならない。あの「アウトラン」の忠実な移植版は、今のハードでは無理だろうと確信しつつ、心のどこかでその未来がくることを願っていた。あの時、グラフィックスがフォトリアルになることを知るすべが無かったのだ……。

アウトラン

プラットフォーム:
アーケード
発売元:
セガ
発売時期:
1986年
ジャンル:
レースゲーム

 当時のファミリーコンピュータ用の移植版が多く発売されたが、ゲームセンターで遊んだ「アウトラン」の、あの独特な魅力に匹敵するバージョンは見られなかった。いつも「ちょっと違うな」と思わせるような違和感があった。1986年には既に疑似3Dを実現させた体感型アーケードゲームが存在していたが、僕にとって「アウトラン」は最も印象的だった。

 まず、フェラーリを模した可動式筐体が大きな魅力だった。その後、「アフターバーナー」や「ギャラクシーフォース」など、360度回転する筐体も見られ、もう単なるゲームではなく、遊園地のアトラクションの1つとして考えてもいいようなインパクトがあった。

 フェラーリテスタロッサを連想させる車に乗って、素敵な曲を楽しみながら様々な分岐を見せるコースを高速で走行することが、絶好の幸せ感を生み出していた。決してレースゲームが上手なほうではなかったが、試行錯誤しながら少しずつテクニックが上達していくことを毎回実感していたので、ゲーセンで「アウトラン」を発見したら、必ず、ポケットの中の“全財産”を投入していた。

 「アウトラン」の爽快感や疾走感の源は、車道の両脇にある看板、木々、建物などのスプライトの滑らかな拡大縮小エフェクトにあったと思う。当時の家庭用ゲーム機やファミリーコンピュータでは、スプライトが近づくにつれ、唐突にサイズが変わるというのが主流だった。

 しかしアーケード版の「アウトラン」では、滑らかに小さいサイズから大きいサイズへと拡大していたので、とてもリアルに、そして、自然に感じていた。向かい風が伝わるほどの、速い処理の疑似3Dグラフィックスこそが、本作の1番の長所だったと思う。

 言うまでもなく、現代のレースゲームは家庭用ゲーム機の高性能化で実写そのものに見えるが、「アウトラン」は当時のゲーム機では到底実現できなかった滑らかなグラフィックス、そして、本物の車を運転しているかのように思わせる可動式の筐体で、ユニークな世界を形作っていた。PS2用「SEGA AGES 2500 シリーズ Vol.13」のポリゴンでリファインされたバージョンもおススメだが、「スペースハリアー」のように、裸眼立体視を活用した3DS用の移植版が早くやって来ることを願っている。

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